ロボマインド・プロジェクト、第476弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
橘玲の『テクノ・リバタリアン』をずっと読み解いていますけど、話が複雑になってきたので、ここらで整理したいと思います。
このシリーズの最初の第472回で取り上げたのは政治思想です。
政治思想はいろいろありますけど、どれも共通して求めているのは自由です。
誰しも、自由に生きれる社会が最も理想な社会です。
これを大前提として、まず、右と左に分かれます
右が右翼、保守で左が左翼、リベラルです。
左のリベラルが重要視するのは平等です。
富めるものも貧しい者も、富を平等に分配しようという考えです。
いわゆる共産主義、社会主義です。
右の保守が重要視するのは共同体です。
国民全体が参加する国民主権とか民主主義って考えです。
ただしどちらも問題があります。
共産主義は、共産党による一党独裁で権力が集中します。
その結果、最終的にソ連は崩壊してしまいました。
それに比べて国民から政治家を選ぶ議会制民主主義は理想に思えます。
ただ、必ずしも、有能な人が政治家に選ばれるとは限りません。
これは衆愚政治といわれ、古代ギリシャ時代から指摘されていました。
共産主義と民主主義の二つの政治思想で世界が分断されてたのが20世紀です。
さて、もう一回、この図を見てください。
中央に「自由」とあって、そこには「功利主義」とありますよね。
功利主義というのは、保守とか革新といった政治思想じゃなくて、結果として自由が得られるなら、右も左もどっちでもないってことで、政治思想というより戦略です。
だから、この図では、功利主義は、右派とも左派ともどっちとも距離を置いて描かれています。
これは、国家とか政府といったものから距離置くというか、国家や政府を否定する考えにもつながります。
それがリバタリアニズムです。
じゃぁ、国家や政府がなくなって、完全な自由になったらどんな世界になると思います?
それは、こんな世界です。
ヒャッホーって叫ぶ強い者だけが生き残る世界です。
これは嫌ですよねぇ。
それじゃぁ、もう一回、この図を見てください。
一番下に「安全」ってあって、右も左も安全の上にありますよね。
つまり、保守も革新も安全を重要視してるってことです。
そんな政府を否定して、自由だけ求めたら、安全からかけ離れたヒャッホーって世界になるってことです。
本書のテーマは、功利主義をテクノロジーで解決するテクノ・リバタリアンです。
そのうち、暗号によって国家や政府がない世界を目指すのがクリプト・アナキズムで、この話は、第473回で紹介しました。
クリプト・アナキズムの創始者、ティモシー・メイは、「この惑星の99%は役立たずのごくつぶしだ」と言い切ります。
そして、「クリプト・アナキズムは、残りの1%のための世界を作ろうとしてる」って言うんですよ。
つまり、こんな世界です。
いや、こんな無秩序な世界はいやですよね。
ちゃんと統治しないとこうなるんです。
かといって、共産主義も民主主義もうまく行きません。
一党独裁か衆愚政治になってしまいます。
安全で、個人が完全に自由で、それでいて秩序だった社会なんてありえるんでしょうか?
たしかに、今までなら絶対無理でした。
でも、今ならできます。
テクノロジーを使えば可能なんです。
これが今回のテーマです。
テクノロジーしか勝たん!
完璧な世界
それでは、始めましょう!
プロレスラー、ハルク・ホーガンのセックス・スキャンダルを掲載したメディア、ゴーカーは、ホーガンに提訴されて1億4000万ドルという巨額の賠償金を科されて破綻しました。
この訴訟で、ピーター・ティールはホーガンに1000万ドルの支援をしていたそうです。
ここから、ティールは個人のプライバシーを重要視してることがわかります。
一方、ティールは情報分析企業パランティアを設立しています。
パランティアは、国防省や国家安全保障局などの諜報機関に「社会を監視し、テロの徴候を捉える監視システム」を提供しています。
高度な監視システムって、こっちはプライバシー侵害ですよね。
しかも、ティールは、中央集権的な組織を否定するリバタリアンです。
それなのに、政府に監視システムを提供しているんです。
この二つの行動、矛盾していますよね。
このことに関してティールは、「プライバシーと治安はゼロサム・ゲームだ」といいます。
分かりやすい例で説明します。
街中を警察官が巡回して監視するとします。
監視するのは家の外だけで、家の中まで監視しません。
これは警察官を雇うコストの面から考えても、必要な線引きです。
だから、通りで喧嘩をしてたら止めに入りますけど、家の中で児童虐待がおこなわれていても見過ごされます。
そこで、警察官じゃなくて監視カメラで監視するとします。
これならコストを低くできるので、家の中まで監視して、児童虐待も防げます。
でも、家の中まで監視されるとなるとプライバシーがなくなりますよね。
これが、プライバシーと治安はゼロサムゲームという意味です。
これをテクノロジーで解決するわけです。
まず、AIで監視することで低コスト化が実現できます。
ただ、プライバシーの問題があります。
AIで監視したとしても、誰かに盗み見される可能性があるからです。
そこで、データを暗号化して盗み見されないようにします。
これでプライバシーの問題も解決します。
ねぇ、テクノロジーを使えば、プライバシーと治安の問題の両方を解決することができるでしょ。
これがティールが考える新しい世界です。
テクノロジーを使くことで、自由と安全が保証された世界です。
その上で、次は、理想的な社会とはどういうものか考えていきます。
まずは政治です。
政治は必ず間違います。
平等とか国民のためと言いながら、権力を手に入れたとたん、党のこととか、自分のことしか考えなくなります。
一党独裁か衆愚政治が始まるわけです。
原因は政治システムにあります。
そこで功利主義の登場です。
功利主義は、右か左かって政治政策にこだわらず、結果が最大となるようにルールを最適化します。
その時々に応じて最も合理的な手法を選ぶわけです。
でも、最適と思っても、人が行うと間違うことがあります。
なぜなら、人は感情を持つからです。
これは、たとえ、みんなのためと思って行動しても間違います。
第472回で、従業員のことを考えてリストラできずに買収されたシャープの話をしました。
買収したホンハイは大胆なリストラで見事、V字回復して黒字化にもっていきました。
ホンハイだけじゃありません。
スティーブ・ジョブズもジェフ・ベゾスも私情に流されず、合理的で大胆なリストラをします。
そして、感情に流されず、最も合理的で完璧な決定ができるのがAIです。
AIに統治を任すことで社会全体の幸福を最大にすることができるんです。
AIによる統治、これを橘玲は総督府とよびます。
これが総督府功利主義です。
個人の自由とプライバシーが保証され、しかも安全で社会全体が最も幸福となるように設計された社会です。
これが最も理想的な世界です。
それを実現するのが、ピーター・ティールなどのテクノ・リバタリアンです。
AIに統治させることで、完璧な理想社会が実現できますよね。
でも、面白くなってくるのはこっからなんです。
今までの話、出てきた社会政策は、共同体に重きを置く保守右派か、平等に重きを置くリベラル左派かの二つだけです。
でも、考えられる社会政策が二つだけってこと、あり得ないじゃないですか。
もっと他にも理想的な社会があるかもしれないじゃないですか。
たとえば、マサチューセッツ工科大学の教授のアレックス・ペンとランドはビッグデータを使って社会の流動性を分析、最適化する「社会物理学」というものを提唱しています。
これはなかなか面白いですよ。
まず、一人一人にモバイル端末を装着して、四六時中監視します。
何を監視してるかというと、その人がいつ、どこに行って、誰と会ったかとか記録します。
それだけじゃなくて、声の大きさはどのくらいか、笑ってた時間はどのくらいか、積極的に発言したか、黙って聞くだけかといったデータを集めます。
これによって仲間とどれだけ盛り上がったかとか、どれだけ満足したかってことを数値化できます。
これらのデータを解析してわかってきたのは、自分のグループ内のメンバーと交流するのと同じぐらい、グループ外のメンバーと頻繁に接触したとき、パフォーマンスが最大化することです。
そのようなグループは、優秀なメンバーだけ集めたグループよりずっとパフォーマンスが高かったそうです。
この結果には、納得しますよね。
グループ内でアイデアを突き詰めて煮詰まったとしても、全然関係のない外の人に話すことで、意外な解決方法が見つかるってことってあります。
ただ、理屈は分かりますけど、そんなにうまく行くんでしょうか?
かつて毛沢東は、「お前はこの村で農業をしろ」とかって、個人の行動を国が決定することで国全体を発展させようとしました。
結果がどうなったかというと、当然、大失敗しました。
失敗の原因は、全く個人の特性を考えず、国にとって都合のいいことしか考えていなかったからです。
でも、ビッグデータを解析することで個人の特性を考え、その人のパフォーマンスを最大に発揮でき、社会全体が良くなる個人の行動をプランニングすることはできます。
ただ、果たして、これもうまく行くでしょうか?
「お前はここで誰々と会え」とか、国から指示されて行動しても、新しいアイデアが生まれるとは思えません。
最大のパフォーマンスを発揮するのは、自主的に行動したときです。
でも、ただ単に自由に行動させると、人は、楽な方向に流れるだけです。
社会がよくなるように行動しようなんて考えません。
たとえば、駅のエスカレーターで考えてみましょう。
広い階段があっても誰も階段を利用しません。
階段を使った方が健康になりますし、せっかくある階段を使わないのは非効率です。
エスカレーターを使うのは、お年寄りとか足の不自由な人だけで十分だと思います。
でも、「健康のために階段をつかいましょう」ってスピーカーからいくら流しても、あまり変わりません。
ところが、この階段にちょっと工夫するとこうなりました。
誰もが階段を使うようになったんです。
お年寄りまでも、エスカレーターじゃなくて階段を使うんです。
じゃぁ、階段に何をしたと思います?
https://www.youtube.com/watch?v=2lXh2n0aPyw
0:23~0:30ぐらい。
それは、階段をピアノに加工したんです。
階段を踏むたび、ピアノの音がでるようにしたんです。
そうしたら、こうなりました。
0:37~0:55ぐらい。
エスカレータに乗ろうと思ったけど、階段にしてみようって。
みんな、実に楽しそうに階段を使います。
大人も跳びはねながら階段を上がりますよね。
これを行動経済学でナッジといいます。
強制するのでなく、本人の意志で社会的に最適な行動を取るように導くことです。
他にも紹介しましょう。
これ見てください。
これ、何かわかりますか?
映画ローマの休日で有名な「真実の口」ですよね。
じゃぁ、これ、何をするものかわかりますか?
じつは、これ、手を消毒する器械です。
コロナで、店の入り口には必ずありましたよね。
でも、面倒くさくて消毒しない人もいました。
でも、これを設置したら、みんな、喜んで消毒するんです。
これもナッジです。
つまり、ナッジを使えば、人を自主的に行動させて社会を最適化することができるんです。
理想の社会が見えてきましたよね。
まとめますよ。
まず、全員の行動を四六時中監視します。
ただし、データは暗号化され、他人に行動を知られることはありません。
プライバシーは徹底的に守られます。
個人の行動は、その人のパフォーマンスを最大に発揮して、社会全体がよくなるようにだけ利用されます。
そして、その人が、いつ、どこで、誰に会えばいいのかAIが計算します。
かといって、その人に命令して、強制的に行動させるようなことはしません。
あくまでも、その人が自主的に行動するようにすべてをAIがコントロールするんです。
たとえば、ちょうどいいタイミングで信号を青にするとか。
または、ポケモンGoみたいなARアプリで誘導したりしてもいいです。
または、いつもの電車が遅れて、偶然出会うとか。
クラス替えや、親の引っ越しで偶然出会うとか。
いや偶然じゃありません。
すべて、AIが設計した運命の出会いです。
それは、男と女の出会いかもしれません。
または、ジョン・レノンとポールマッカートニーのような音楽の出会いかもしれません。
はたまた、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの出会いかもしれません。
彼らが出会って、ビートルズもアップルも生まれたんです。
これを人工的に設計できるとしたら、この世界が、どれだけ急速に発展するかはかり知れません。
そして、これら全てを設計するのがAI総督府です。
でも、AIに指示された通りに動いて幸せになるのって、ちょっと思いますよね。
何か根本的なとこが間違っているような気がします。
でも、考えてみてください。
もしかしたら、僕らの人生も、神が設計した運命に従って行動してるのかもしれないんですよ。
だって、ジョン・レノンとポールマッカートニーって、同じ時代、同じ街で、歩いて数分の距離のとこに住んでいたんですよ。
それが偶然なんて考える方がおかしいじゃないですか。
神が介在したと考えた方が自然じゃないですか。
高度に発達したテクノロジー社会は、神が設計した世界と見分けがつかなくなるんです。
はい、今回はここまでです。
この動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第476回 『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』橘玲⑤ 〜テクノロジーしか勝たん! 完璧な世界
