第478回 『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』橘玲⑦ 〜人間であることを証明する唯一の方法


ロボマインド・プロジェクト、第478弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ワールドコインって仮想通貨知ってますか?
OpenAIのサム・アルトマンの掲げた壮大なプロジェクトです。
何が壮大かっていうと、ワールドコイン財団は、ユニバーサル・ベーシックインカムを目指してるんですよ。
ベーシックインカムというのは、年齢とか所得に関係なく国民全員に毎月、一定金額を支給して基本的な生活を保障するって制度です。
年金とか給付金って、不正受給が起こらないように行政がチェックしないといけなくて、その分、手間とコストがかかります。
それに対してベーシックインカムは、条件なしで一定金額を配るので、行政の手間が省けて、その分、多くお金を支給できます。
そして、ワールドコインは、どこの国民かにかかわらず、登録さえすれば、世界中の誰もが受け取ることができるベーシックインカムを目指します。

さすが、テクノ・リバタリアンです。
国家といった中央集権を使わず、暗号通貨を使ってベーシックインカムを実現しようとしてるわけです。
ただ、一つ問題があります。

もし登録さえしたら、誰でも給付できるとなったら、アカウントを複数作って人より多くコインをもらおうとする人が絶対でてきますよね。
銀行とかだったら、住民票とかマイナンバーで本人確認することで複数口座を持てないようにします。
でも、住民票とかマイナンバーって国が発行しますよね。
つまり、国家を前提としないと、個人を特定することすらできないんですよ。

でも、個人を特定する手法って、指紋認証とか顔認証とかの生体認証がありますよね。
でも、それはスマホと指紋とかを紐づけてるだけです。
必ずしも、本人を紐づけてるわけじゃないんですよ。
たとえば、ゴムで指紋付きの指を作ったらいくらでもアカウントを作れます。
つまり、その人がちゃんとした人間かどうかを確認する必要があるんです。

そこでワールドコインが採用したのが目の虹彩を使った認証装置、Orb(オーブ)です。

日本でも各地にOrbが設置されて、虹彩をスキャンして登録できるようになりました。
ネットを見ると、どこで登録できるとか、アプリのダウンロードの仕方とかいっぱい情報がでてきます。
でも、ワールドコインで一番重要な役目を果たしてるのは、実は、受付のお姉さんなんです。

なんで、わざわざ足を運んできてもらって生体認証してるかっていうと、ここで確認してるのは生身の人間かどうかです。
ここで思い出すのはSF映画、ブレードランナーです。

近未来、人間そっくりのアンドロイド、レプリカントが開発されました。
レプリカントは宇宙開拓の過酷な最前線で奴隷として働いています。
ところが、彼らは製造から数年経つと感情が芽生え、人間に反旗を翻すようになりました。
そこで、最新型のレプリカントは4年で停止させる寿命が与えられました。
すると、今度は脱走して人間社会に紛れ込むレプリカントが出てきたんです。
それを探し出して連れ戻すのがブレードランナーです。
ブレードランナーの重要な仕事の一つに、相手が人間かレプリカントか見抜く必要があります。
このとき使うのがVKテスト。
VKテストは、一種のチューリングテストとも言えます。
ハリソン・フォード扮するブレードランナーは、とある女性、レイチェルのVKテストを頼まれます。
1キャプチャ
レイチェルは、実は、人間の記憶を埋め込まれて、自分が人間だと思ってるレプリカントです。
レイチェルの反応や瞳孔を観察してブレードランナーデッカードはレイチェルはレプリカントだと見抜きます。

Orbの受付のお姉さんは、じつは、このブレードランナーと同じ役目を担ってるんです。

つまり、人間そっくりのアンドロイドが人間のふりをしてワールドコインを受け取らないか監視するためにいるんです。
幸い、今のところ、人間をダマしてワールドコインを受けとうろうとするアンドロイドはまだ現れていないそうです。
でも、これも時間の問題です。
これ、中国のアンドロイドの製造工場です。
https://www.youtube.com/watch?v=YfXiDwGckKU
(0:00~0:07 0:41~0:43 1:33~1:44 )
ねぇ、よくできてるでしょう。
アンドロイドか人間か区別つかなくなるの、時間の問題なんですよ。

見た目じゃ分からない、住民票もマイナンバーカードも使えないとします。
そんなとき、あなたが人間で、どこの誰かってどうやったら証明できるでしょう?
これが今回のテーマです。
人間であることを証明する唯一の方法
それでは、始めましょう!

今、橘玲の『テクノ・リバタリアン』を読んでいますけど、そこにこの問題が出てきます。

Orbの虹彩による認証について、暗号通貨イーサリアムの開発者、ヴィタリック・ブテリンはこういいます。
「特定の組織がOrbというデバイスを独占して生体認証するのは中央集権的だ」って。
クリプト・アナキストのブテリンにとっては、ワールドコインのやり方ですら中央集権にみえるわけです。
じゃぁ、それ以外に、あなたが人間で、どこの誰かって証明する方法はあるんでしょうか?

これに対して、ブテリンはソーシャル・グラフによる本人認証を提唱します。
ソーシャルグラフというのは、人間関係のことです。
たとえば、あなたのことを知ってる5人があなたが本人だと認めれば、あなたの存在が証明されたとするわけです。

なるほど、たしかにこのやり方なら、特定の組織が確認するわけじゃないので中央集権にならないです。
でも、その5人がアンドロイドだったらどうでしょう。
アンドロイド同士で、お互い人間だって認め合うんです。
そうしたら、簡単にアンドロイドが人間社会に紛れ込んでしまいます。
実は、あなたが誰かってことを証明するのって、意外と難しいんです。

この間、母が老人ホームを引っ越すということで、僕が母の転出、転入届、住民票の手続きをすることになったんですけど、これがかなり面倒でした。
母の実印を押した委任状をもって二つの役所を行き来しないといけません。
役所では、書類に間違いがないか、何人もの職員がチェックします。
住所を変えるだけで、何人もの職員が働かないといけないなんて、非効率極まりないです。
こんなとこに税金が無駄に使われてるって思っていました。
でも、そうじゃなかったんです。
これをしないと国民がどこで何をしてるのか把握できません。
それが分からないと、税金を払ったり、病気になったとき保険を使うこともできません。
つまり、本人確認って、国を運営するのに最も重要なことなんです。
だから、コストをかけてでも確実に行う必要があるんです。

テクノ・リバタリアンが目指すのは、中央委集権的な国家がなくても、自由で安全が保証された社会です。
でも、国家がないと、あなたがどこの誰かを証明することすらできないわけです。
改めて考えたら、国って、やっぱり必要だなぁって思います。

ここで国の役割を整理してみます。
国の役割は、大きく司法、立法、行政の三つですよね。

立法っていうのは法律を決めることです。
国民が法律違反してないか裁くのが司法です。
法律に従って国民にサービスを提供するのが行政です。
税金を取り立てたり、安全を監視する警察も行政です。
こうして見てみると、国は法律を中心に運営されています。
そして、その法律を決めるのが政治家です。
そう考えると、政治家ってものすごく重要な仕事ってのがわかります。
でも、政治家の仕事って難しいんでしょうか?

政治家の仕事って、要するに、国民からできるだけ不満がでないように、公平にサービスが行きわたるように法律を決めることです。
こういう最適化って、人間よりAIが得意です。

もし、これら国の役割をAIが完全に自動で行うことができれば、国家のような中央集権がなくても自由で安全な社会を実現できますよね。
これを目指してるのがテクノ・リバタリアンです。
でも、本当にそんな社会などできるんでしょうか?

この時、一番重要で、一番難しいのが、あなたがどこの誰かって証明することです。
どこで生まれて、お父さんは誰で、お母さんは誰で、今どこに住んでるとか。
国であれば、こういったことは行政が管理して、市役所に行けば住民票とかマイナンバーカードを交付してくれます。

でも、国家のような中央集権機関なしで、個人がその社会に属することを証明することなどできるんでしょうか?
じつは、テクノ・リバタリアンたちも、未だに、これを解決できないでいるんですよ。
ここが解決できない限り、中央集権でない自由な社会は作れません。

じつは、僕は、これを完璧に解決する方法を考えたんですよ。
こっからが本題です。
それでは、説明しますよ。

まず、脳にチップを埋め込むんですよ。
そして、チップのデータを電磁波で外から読み出すことで、その人を特定するんです。

でも、相手から無理やりチップを取り出して自分の脳に埋め込んだり、アンドロイドに埋め込んだらどうなるでしょう。
他人に成りすましたり、アンドロイドが人間のふりをすることができてしまいますよね。
でも、それができないようになってるんです。

ポイントは、チップに特定のデータを書き込むんじゃなくて、チップは脳の記憶からデータを生成させるんです。

参考にしたのはブロックチェーンです。
ブロックチェーンというのは、ビットコインなどの暗号通貨で使われている技術です。
取引履歴を過去から鎖のようにつなげてブロック単位で管理して、このブロックを参加者同士で共有します。
だから、もし誰かが暗号通貨を偽造したとしても、そのブロックを確認すると、他の暗号通貨と取引履歴が矛盾するので、偽物だとすぐにわかります。
ブロックチェーンの重要なことは、アルゴリズムだけで本物か偽物かを判定してるとこです。
つまり、中央で管理するシステムがなくても、安定して通貨システムを運用することができているんです。

僕が考えたのは、ブロックチェーンの取引履歴を個人の記憶に置き換えることです。
ある社会を作ったとします。
その社会では、生まれたらすぐに脳にチップが埋め込まれます。
そのチップは、脳の記憶領域にアクセスして、その人個人の記憶を読み出すことができます。

僕らはいろんな記憶をもってますよね。
家族で旅行に行った思い出とか。
どこの小学校に行って、遠足や修学旅行はどこに行ったとかって。
あの時は楽しかったねぇって思い出を語り合うことで、仲間であることを確認するわけです。
同じ思い出を共有することで、同じことを経験した仲間だって確認できます。
そんな仲間がつながって一つの社会となります。
記憶を共有しない人はよそ者ってわけです。
こうやって、同じ社会の仲間か、そうでないか区別できます。
これを人でなく、コンピュータで自動で実現するんです。

まず、脳に埋め込まれたチップは記憶にアクセスします。
自分を成り立たせてるもの、自分を作り上げてるものって、いってみれば、生まれてから今までの記憶ですよね。
どこで生まれて、どこの小学校に行って、どこの中学に行ったって経験が世界の唯一の自分を作り上げてます。
この自分の持つ記憶が、ブロックチェーンで言う取引履歴に当たるわけです。

社会で生きてる限り、家族や仲間と同じ経験をしてます。
だから、お互いの記憶を照合して矛盾がなければ、同じ仲間といえるわけです。
その人の人生の記憶が全て矛盾なくつながっていれば、生まれてから今までのあなたの人生を証明したことになります。
それが、この社会に間違いなく存在したって証しです。
もし、あなたにしか記憶がなくて、他に同じ記憶を誰も持っていなければ、あなたは社会的に存在しません。
おそらく、偽の記憶を植え付けられたアンドロイドです。
脳に埋め込んだチップが記憶を読み出して、ネットワークで計算して瞬時に矛盾がないか判断するわけです。
これで中央集権的な仕組みがなくても、アルゴリズムだけで個人がその社会に属するかどうか判定できます。

ただ、この仕組みで最も怖いのはプライバシーです。
個人的な思い出は、完全に個人のプライバシーです。
これだけは絶対に守らなければなりません。
だから、記憶は完全に暗号化して、他人は読み出せないようにしなければいけません。
ピーター・ティールはプライバシー侵害を絶対に認めないって話を第476回でしました。
それは、これを破られたらシステムの根幹の信頼性がなくなるからです。

もし、完璧なプライバシーが保証されたら、個人の特定以上にもっと大きなことができるんですよ。
それは、中央集権がない完璧な国家です。
国家には司法、立法、行政の三つの機能がありましたよね。

まず、今、実現できたのは個人の特定です。
これは行政です。
行政はアルゴリズムで実現できました。

次は、立法です。
国民が幸せになるように政策を決めるのが政治家の役目でしたよね。
これも、国民全員の記憶を読み出して、シミュレーションすることで、最適な政策を決定できます。
結果が最適となるように政策を決定するとは、最大多数の最大幸福を目指す功利主義の考え方ですよね。
これをアルゴリズムで全自動で決定できるわけです。

最後は司法です。
何か事件が起こったとしましょう。
関係者全員の記憶を読み出すことで、誰が犯人かすぐにわかります。
本人の嘘偽りのない記憶に基づいて判断するので完璧な判決を下せます。
完璧な司法が存在することで安全な社会が保証されます。
そして、判決を決定するのもアルゴリズムです。

ねぇ、司法、立法、行政、すべてアルゴリズムで実現できるんですよ。
人類は長い間、国家という強力な中央集権がないと、社会をまとめることができませんでした。

人類の歴史の中で、初めて、中央集権がなくても、個人の自由と安全が保証された社会を生み出すことができるんです。
おそらく、21世紀の後半には、地球から国境がなくなっているでしょう。
そこでは、最低限の生活費はベーシックインカムで保証され、人々は好きなコミュニティに属して自由に生きているでしょう。
アルゴリズムによって、人類はついに、国家の呪縛から解き放たれるんです。


はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!