第480回 『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』橘玲⑨ 〜社会はいずれ、意識を持ち始める・・・


ロボマインド・プロジェクト、第480弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、橘玲の『テクノ・リバタリアン』を読み続けてますけど、今回が最後です。
この本のテーマは、新しい理想の社会をテクノロジーで作り上げるってことです。
今まで不可能だった理想の社会が、AIや暗号技術で可能になりつつあります。
中央集権の問題を解決したのがクリプト・アナキズムです。
暗号技術で政府がない完全自由な世界を目指します。

それから、政治の根本問題は政治家にあります。
それを解決したのがAIが統治する社会です。
いろいろ紹介してきましたけど、さて、どれが正解なんでしょう。
その答えが最後の章に書いてあります。

ところが、この本、最後の章だけ、今までと雰囲気が違うんです。
わかりやすい世界を見せてくれないんですよ。
橘玲にしては、切れ味が悪いんですよ。
関係ない話がいっぱい出てくるんですよ。
たとえば、理想の社会の話をしてると思ったら、突然、意識理論の話が出てくるんです。
それが、突然、全部つながったんです。
それが今回のテーマです。
社会はいずれ、意識を持ち始める・・・
それでは始めましょう!

まず社会として、日本の会社を考えてみます。
日本は終身雇用が理想だと考えています。
新卒で入った会社に定年まで40年以上務めるのが理想ってことです。

これを維持するには、同期で入社した人がみな同じように出世する必要があります。
能力で決めるんじゃなくて、入社何年だから係長、課長って出世する社会です。
これだと、誰も脱落しなくて、全員、定年まで勤めることができます。

でも、能力のある人を出世させた方が会社にとってもいいし、その人も能力をより活かせると思いますよね。
でも、そうすると脱落する人が出てきて終身雇用が崩れてしまいます。

また、法律でも、日本の会社は、能力が低いからといって社員を簡単に首にできません。
こういった様々な仕組みで終身雇用を維持しようとしています。
でも、どう考えても不自然ですよね。

じゃぁ、どうなれば理想なんでしょう。
まず、能力のある人は、その能力を活かして出世したほうがいいですよね。
でも、それじゃぁ、能力のない人は出世できません。
でも、それは能力がないんじゃなくて、その人の能力とその会社が合ってないだけです。
その人は、その人の能力を活かせる会社に転職すればいいんです。
つまり、自分のやりたいこと、自分の能力を活かせる会社に自由に移れるような社会が理想なんです。
実際、日本以外の多くの国はそうなっています。
その結果どうなったかというと、日本は世界で最も労働生産性が低いといわれています。
失われた30年の原因はここにあります。

次は、これを自然界で考えてみます。
山に降った雨は川となって海に流れます。
川の流れは外側の岸を削って、内側に土が溜まります。

これによって川は徐々に蛇行するようになります。

だから、自然の河は蛇行してるんです。

それに対して人工の水路はまっすぐで変わることがありません。

水の水分子を人と考えます。
人工の水路が日本の会社です。
それは変わることはありません。
でも、自然の河は水の動きや環境で変化していきます。
こっちが自然というわけです。

それじゃぁ、理想的な世界はどんな世界でしょう。
それは、水分子、つまり人が自由に動き回れる世界ですよね。
人の動きを制限するのが政府とか国家です。
それをなくして完全な自由な社会を目指すのが無政府主義者、アナキストです。
ただ、国がないと、安心して使える通貨も発行できません。
これらを暗号技術で解決しようとするのがクリプト・アナキズムです。

水の動きを規制するのが水路の壁としたら、その壁が完全に取り払われた状態とはどんな状態でしょう。
それは池です。
水分子は自由に動けますけど停止しています。
流れがないと、水はよどんできます。
これは理想とは言えないですよね。
つまり、自由に動けるようにしただけじゃ、理想の世界にならないんですよ。
クリプト・アナキズムじゃ、ダメなんですよ。
じゃぁ、何が足りないんでしょう。
それは、動きです。
でも、人々が自由勝手に動き回ったら社会はムチャクチャになります。
無秩序で強い者だけが生き残る社会です。

かといって塀で仕切ったら社会が停滞してしまいます。
誰もが自分のやりたいことをして、それでいて秩序だった世界は生まれないんでしょうか?

そのヒントになるのが自己組織化です。
ロシア出身の科学者イリヤ・プリゴジン人は1977年に散逸構造の理論でノーベル化学賞を受賞しました。
プリゴジンは溶液を低温から加熱すると秩序を保ちながら動くことを発見しました。
https://www.youtube.com/watch?v=k4YILp8VIXM
(1:25~1:55)
まず、油をシャーレにいれて、そこに金属の粉末を入れます。
それを加熱していきます。
すると暖められた液体は上昇して、表面で冷めて、冷めた液体は下に下がります。
つまり対流です。

よく見ると、対流はいくつもの小さいセルに分割されて起こっています。
セルとセルの間に壁なんかないですけど、明らかに分割されてますよね。
全体を見ると、セルの形は固定されてるわけじゃなくて、少しずつ変化しています。
これが自己組織化です。

これが理想の社会です。
今の例で言いうと、金属の粉が人間です。
人々は一つの会社とか、国家に閉じ込められているわけじゃありません。
自分のやりたいこと、自分の動きたいとこに自由に動けます。
完全な自由を持っています。
それなのに、自然と秩序だった社会が生まれるんです。
小さなグループができて、グループ内でぐるぐる回ります。
でも、一つの金属粉末の動きに注目すると、必ずしも一つのグループの中だけで回ってるわけじゃなくて、隣のグループに移ったりしてます。
隣のグループの方が面白そうだっておもって移るんでしょう。
それを阻むものは何もありません。
個々のグループも統合したり分裂したりして、常に形を変えます。

ここには全体をコントロールしようとする中央集権はありません。
それなのに秩序だった世界が維持されてるんです。
まさに、理想の社会ですよね。

別の例で考えてみます。
かつてはみんなテレビを見ていました。
テレビというのは、少数のテレビ局が大多数の国民に情報を一方的に届けます。
中央集権的です。

そこにYouTubeが出てきました。
YouTubeは、誰もがテレビ局を持てる世界です。
好きな人が好きな情報を発信して、それを好きな人が見ます。

これをさらに一般化したのがSNSです。
情報発信する側と受け取る側が完全に対等です。
facebookやインスタ、X、TikTokです。
いくつものグループができて、人々はいろんなグループに属して発言したりいいねしたりして交流します。
そのグループに飽きてきていいねしなくなれば、そのグループの投稿はだんだん表示されなくなります。
その代わり、最近いいねした別のグループの投稿が表示されます。
理想的な社会に近いですよね。

このことは、第476回で紹介した社会実験でも示されています。
MITのアレックス・ペントランドは一人一人にモバイル端末を装着させて行動を観察しました。
それで分かったのは、自分のグループだけで交流するより、適度に他のグループと交流するのがもっとも仕事の効率がよくなると言うことです。
優秀なメンバーだけを集めてグループ内だけで交流するよりも効率が良かったそうです。

今度は脳で考えてみます。
第455回で目は見えるのに見たものしか認識できない人の話をしました。
その人にこの絵を見せて、何が描いてあるか質問します。

すると左のハサミ、鍵はわかりますけど、右の指、木の枝はわからないっていいます。
右と左で何が違うかって言うと、右はもの全体で、左はものの一部です。
次は、この絵をみせて何をしてるか答えてもらいました。

もちろん、凧揚げしてる少年です。
でも、この人は凧の紐を指して「この棒はなんやろう?」って言うんですよ。
つまり、その人は部分から全体を想像することができないんです。

さらに、その人は、家族の写真を見せても誰かわからないそうです。
「髪を真ん中で分けてるから次男かなぁ」とかっていうんです。
つまり、髪型とか、部分でしか判断できないんです。
でも、僕らは、顔を見たとき、顔全体の印象からパッと誰か分かりますよね。
全体っていうのは部分を足し合わせただけじゃないんですよ。
それ以上の何かがあるわけです。

分かりやすいのは錯視です。

これ、真ん中のに二本の平行線が引いてあるんですけど、どうしても、真ん中が膨らんで見えますよね。
でも、この人は平行な直線にしか見えないそうです。
なんで、僕らは真ん中が膨らんで見えるかって言うと、背景の放射状の線が、奥に向かって延びるトンネルみたいに感じるからです。
つまり、無意識で奥行のある三次元空間を作り出してるんです。
これが、目に見えてるもの以上の全体です。
別の言い方をすると、部分があるレイヤーとは別に、一つ上のレイヤーがあるわけです。
この上のレイヤーを作り出せるかどうかが重要なんです。
ただ自由に動けるだけじゃダメなんです。

今度は、小脳と大脳で考えてみます。
小脳も大脳もニューロンでできています。
実は、小脳の方が大脳より4倍以上もニューロンがあります。
でも、大脳の方が複雑なことができますよね。

小脳の主な働きは運動制御です。
たとえば、目の前のコップを掴むとします。
小さい子供は、コップを掴もうとしても手が当たってコップを倒してしまいます。
それが、だんだんすっとつかめるようになります。
そんな運動制御をしてるのが小脳です。
目に見えるコップと腕の筋肉の動作の最適化をしてるわけです。
これはこれでスゴイことですけど、できるのはそれぐらいです。
大脳は、もっと複雑なことができますよね。
昨日何したか思い出したり、今日は何をしようか予定を立てたりとかで、いろいろ考えたりできます。
そういった思考は意識の役割です。
これは、目に見えるもの以上のものを想像してるわけです。
それを扱えるのが大脳の意識です。
重要なのはニューロンの数じゃないんです。

冒頭に紹介した意識理論はここに関係します。
ジュリオ・トノーニは意識が発生してるときのニューロンの活動に注目しました。
すると、意識が発生してるとき、大脳のいろんな部分のニューロンが活性化してたんです。
一方、小脳ではそんなことはありません。
コップを取る時、手や腕を制御するニューロン以外が使われることはありません。
これは、部分のレイヤーしか使ってないといえます。

こんどはChatGPTで考えてみます。
最近、ChatGPTがバージョンアップして、ものすごく優秀になったって言われます。
でも、相変わらずできないのが小説です。
キャラクターとか場面とか設定すれば、それらしい小説は書いてくれるんですけど、全然、面白くないんですよ。

よく漫画家とか小説家がキャラクターが勝手に動き出すっていいますよね。
自分がストーリーを考えてるんじゃない。
キャラクターをリアルに作り上げると、頭の中で勝手にキャラクターがしゃべりだして、自分はそれを書き出してるだけだって。
大脳がつくり出した世界の中でキャラクターが動き出して、意識は、それを観察するんです。

一方、ChatGPTはパラメータは数千億個から数兆個あるって言います。
このことを指して、脳のニューロンに匹敵するっていう人がいます。
でも、ChatGPTは小脳なんです。
小脳は目に見える部分しか認識しません。
それと同じで、ChatGPTが学習してるのは目に見える単語だけです。
ある単語が来たら、次はどの単語が来る確率が高いかしか認識しません。
だから、いくらパラメータを増やしたとしてもキャラクターも世界も生まれないし、まして、キャラクターが生き生きと動き出すなんてことないんですよ。
だから、ChatGPTが面白い小説を書くなんてことは絶対にあり得ないんです。

そろそろまとめに入ります。
理想の社会というのは、一人一人が自分の能力を活かせる社会です。
そのためには、自由に動ける仕組みが必要です。
でも、人は、自由に動けるから動くわけじゃありません。
人が動くもはモチベーションが必要です。
それは、褒められたり感謝されたりとかです。
そうすると、もっと褒められよう、もっと役に立とうって思います。
それが最も発揮されるのが、その人の得意なことだったり、その人らしいことです。
それが、その人のやるべきことです。

でも、最初は自分の役割が分かりません。
いろんなグループにかかわっている間に、自分が一番活かせることが分かってきます。
そのためにもグループを隔てる壁があってはダメなんです。
自分の属するグループの中で動くと同時に、他のグループにも自由に行き来できないとだめなんです。
それが、散逸構造とか自己組織化って状態です。
https://www.youtube.com/watch?v=k4YILp8VIXM
(1:43~1:48)
これが、単に部分がつながっただけじゃなくて、一つ上のレイヤーの状態です。
部分を足し合わせた以上の何かが生まれた状態です。
これが、最も活性化した社会です。
脳なら意識が発生してる状態です。

そして、この状態は、既に数式化されてます。
つまり、一人一人に端末を持たせて、個々の動きをAIが観察するんです。
そして、計算によって社会が最も幸せになるようにするんです。

もし、全体が平衡な安定状態になってきたら、揺さぶってわざと不安定にするんです。
そしたら、平衡状態が崩れて次の平衡状態を目指して社会が大きく動きます。
揺さぶると葉、たとえば大きなグループをつぶすとか、ランダムに選んだ人の資産を10倍にするとかです。
それをAIが設計するわけです。

このシステムの何が優れてるかというと、社会の幸せと言ったものを定量的に把握できることです。
数値化して、最適な状態をAIが人工的につくり出すんです。
これが持続可能な幸せな社会です。

はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。

それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!