ロボマインド・プロジェクト、第482弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回は新刊の紹介です。
この本、渡辺正峰(まさたか)先生の『意識の脳科学 「デジタル不老不死」の扉を開く』介です。
渡辺先生といえばマインド・アップロードが有名です。
意識をクラウドにアップロードして永遠に生き続けようって研究をしてる人です。
僕もずっと注目してるのでネット記事とかYouTubeとかウォッチしてました。
今回の本、それらの集大成みたいなので、復習のつもりで読んでみました。
前半は、意識科学にまつわるメジャーな話が紹介されていました。
ノーベル物理学者のロジャー・ペンローズの量子脳理論とか、ジュリオ・トノーニの統合情報理論とかです。
はいはい知ってますよって、軽く流して読んでたんですよ。
ところが、後半、聞いたことがない意識仮説が出てきたんですよ。
いや、他では聞いたことがないが正確です。
どんな意識仮説かっていうと、意識とは仮想世界だっていうんですよ。
えっ!ってなるでしょ。
このチャンネルを見てる人なら分かると思いますけど、それって、僕が提唱してる意識の仮想世界仮説です。
意識の仮想世界仮説が、いつの間にか、量子脳理論とか統合情報理論と並んで紹介されるようになったんでしょうか?
これが今回のテーマです。
意識の脳科学 「デジタル不老不死」の扉を開く
それでは、始めましょう!
さっき、メジャーな意識理論を紹介しましたけど、どれも、根本的な問題があるんですよ。
それは何かというと、どれも、意識を客観的に定義しようとしてるんです。
数式とか量子力学で意識を説明しようとするんです。
科学なので客観的に定義するのは当たり前といえば当たり前ですけど。
でも、意識って、主観で感じるものですよね。
今、目の前にスマホがあるとか、モニターがあるとか感じてるのが意識です。
数式や量子力学で、これが意識だって定義してもピンとこないでしょ。
なんでかっていうと、肝心の主観が抜けてるからです。
つまり、意識を扱うのに主観は絶対外せないんですよ。
でも、主観って、自分で感じるものでしょ。
そんなの科学じゃ扱えないじゃないですか。
だから、意識科学はどうしても哲学的な議論になるんですよ。
意識科学で一番有名な哲学者といえばディビッド・チャーマーズです。
意識のハードプロブレムとか、哲学的ゾンビとかの思考実験で有名ですけど、渡辺先生は、フェーディング・クオリアの思考実験を取り上げます。
ニューロンって、一種のスイッチです。
だから、ニューロンと全く同じ動きをする半導体素子を作ることは可能です。
そこで、脳手術でニューロンの一つを半導体に置き換えてみます。
そうするとどうなるでしょう。
たぶん、本人は気付かないでしょう。
じゃぁ、もう一個置き換えましょ。
そうやってちょっとずつニューロンを半導体に置き換えていきます。
そして、最後には、ついに全部のニューロンを半導体に置き換えるんです。
それでも本人に意識があったとしたら、それは、コンピュータに意識を移植したことになりますよね。
この思考実験、最初から最後まで主観的な意識が関わっていますよね。
数式とか量子力学の理論とちがって、紛れもなく、本物の意識です。
これなら、意識を扱ってると言えますよね。
ただ、これはあくまでも思考実験です。
アインシュタインは、「もし光速で移動したら」った思考実験から相対性理論を導き出しました。
相対性理論は、後に実験で確認されて正しいこと確認されました。
つまり、思考実験は実際の実験による確認が必要なんです。
そして、この思考実験を実際にやろうとしてるのが渡辺先生です。
今までの意識科学と説得力が全然ちがいます。
たとえば、統合情報理論は、「意識とは統合された情報である」から始めるんですよ。
これは公理だから証明の必要はないって言うんですよ。
それで納得するわけないですよね。
その点、自分の脳を半導体に置き換えても意識があれば、これ以上の証明はないですよね。
かといって、ニューロンを全部半導体に置き換えるって、そんなこと、できるわけないです。
ところが、渡辺先生はそれをするっていうんですよ。
でも、さすがに、全部は難しいです。
そこで、まずは半分、たとえば右脳だけ置き換えます。
仮に半導体で作った右脳ができたとしましょ。
できたとしても、それをどうやって左脳につなげるかが問題です。
だって、脳にはニューロンがぎっしり詰まってます。
左脳と右脳をつなぐ脳梁だけでも約一億のニューロンがあります。
それを一つ一つつなぐにはどうすればいいんでしょう。
それは、CMOSを使うんです。
CMOSっていうのはカメラなんかに使われる高密度の二次元の半導体アレイです。
両面が半導体アレイとなる薄いCMOSを作るんです。
そして、これを包丁で切るみたいに、脳梁に脳梁に挿入するんです。
そしたら、どうなると思います?
ニューロンは軸索を伸ばして半導体素子に接続します。
そうなったら、一つ一つのニューロンの信号を読み出すことができますよね。
神経細胞の最小間隔は数100ナノメートルだそうです。
一方、今のCMOSセンサーのピクセル間隔は700ナノメートルだそうです。
あともう少し縮めれば、全てのニューロンを読み出し可能なCMOSができます。
ここは、技術的に十分可能なんですよ。
でも、これでできたのは機械の脳と人間の脳の接続部分です。
肝心の機械の脳はどうやって作るんでしょう?
脳には何百億ものニューロンでできてます。
人間と同じ意識を宿らせるには、それを全て半導体で作らないといけません。
素子の大きさは、現代の半導体技術で何とかクリアできそうです。
難しいのは、ニューロンが脳内でどうつながってるかです。
だって、ニューロンは脳内で軸索を縦横に伸ばしてつながっています。
それを立体的に解明しないといけないんです。
さすがに、これは無理でしょう。
ところが、これもやり方があるそうです。
使うのは、人体解剖標本で使われる技術です。
たとえば、これ見てください。
これは、実際の手の血管の三次元の標本です。
どうやって作ったかというと、血管にプラスティックを流し込んで型を取るプラスティネーションとう技術で作っています。
ただ、ニューロンにプラスティックを流し込むことはできません。
そこで、別の標本化技術を使います。
まず、脳を透明なプラスティックでガチガチに固めます。
それを、ダイヤモンドカッターで0.01㎜に薄くスライスするんです。
そうしたら、断面のニューロンの位置がわかりますよね。
これを何十万枚と分析することでニューロンの三次元的な接続状態がわかります。
それさえ分かれば、それと同じように三次元的に接続した半導体を作るわけです。
LSIを重ね合わせた三次元積層LSIは既に実用化されています。
この技術を使えば脳そのものを半導体で作ることも可能です。
でも、最後に一番大きな問題があります。
生身の人間の左脳に、機械の右脳を接続したとして、機械の脳にどうやって意識を宿らせるかです。
でも、その方法もちゃんと書いてあります。
あなたの意識って、あなた自身ですよね。
じゃぁ、あなた自身を作り上げてるものは何ですか?
それは、生まれてから今までの記憶です。
でも、それは今は、生身の左脳にしかありません。
脳の記憶とういのは、ホログラムみたいなものです。
ホログラムは、3次元形状を記録した媒体にレーザー光を当てることで立体的に画像を浮かび上がらせる技術です。
じつは、ホログラムって媒体の一部が欠けても、立体画像の一部が欠けるわけないんです。
一部が欠けるんじゃなくて、全体が薄くなるんです。
つまり、一部に全体が少しずつ記録されてるんです。
脳もこれに近いんです。
同じ記憶を、右脳と左脳で、それぞれ別の形で記憶してるんです。
だから、左脳だけでも思い出すことができます。
左脳で思い出すと、その思い出は右脳に投影されて、右脳にも記憶されていくんです。
こうやって、左脳で思い出すことで、次第に右脳にも自分の意識が宿るんです。
具体的には、幼稚園のときのアルバムから、小学校、中学の卒業アルバムを順番にめくって思い出すんです。
そうすると、機械の右脳にもあなた過去が刻まれて行くんです。
これで、コンピュータの脳に意識が宿りました。
でも、まだ、解決していないことがあります。
それは、意識とは、そもそもいったい何かってことです。
こっからが本題です。
まず考えないといけないのは、意識がどうやって世界を認識してるかです。
これに対して、フィンランドの神経科学者アンティ・レボンシオは寝てるときの夢を例にだします。
夢って、脳が作りだした仮想世界ですよね。
意識はそれを見てるわけです。
じゃぁ、起きてるときはどうなんでしょう。
現実世界を見てるんでしょうか?
レボンシオは起きてるときも同じといいます。
つまり、起きてるときも、意識は脳が作りだした仮想世界を見てるっていうんです。
ただ一つ違うのは、起きてるときは目で見た現実世界を参考に仮想世界を作り上げてるってことです。
これ、僕が提唱する意識の仮想世界仮説と同じなんですよ。
僕の考えでは、人は、目で見た現実世界を頭の中で三次元の仮想世界として再構築するというものです。
ねぇ、同じでしょ。
さて、次は、どうやって仮想世界を作るかです。
渡辺先生がいうには、これには生成モデルを使います。
今、目の前の光景を見ているとします。
目で見た光景は脳内のニューラルネットワークで解析されます。(左のニューラルネットワーク)
解析された結果、目の前に一本の木があって、その奥に家があって、その奥に
何本も木があるって分かります。
これを記号で表現したとします。
これを記号的表象と呼びます。
今度は、この記号的表象から3DCGの仮想世界を生成します。(右のニューラルネットワーク)
そして、生成した仮想世界と現実の仮想世界が一致するようにニューラルネットワークを調整します。
こうすることによって、現実世界と完全に一致した仮想世界が作られますよね。
なかなかよく考えられた仕組みです。
仮想世界を3DCGで作るとか、意識の仮想世界仮説とそっくりです。
でも、実は似てるのはここまでなんです。
このモデルで意識は何を指すかというと、渡辺先生は脳内で仮想世界を作りだす生成プロセスこそが主観的体験、つまり意識だと言います。
これに対して僕は仮想世界を作りだしてるのは無意識としています。
僕の考えでは、仮想世界を見ている主体が別にあって、その主体こそが意識です。
じゃぁ、僕と渡辺先生の考えの違いはどこからくるんでしょう。
それは、意識は機能かという点です。
機能というのは、分かりやすく言えば、何かの役に立つのかってことです。
意識の随伴現象説っていうのがあります。
随伴現象っていうのは、オマケのことです。
たとえば工場でいえば煙です。
工場の煙って、工場で何かを作った時出てくるものですよね。
煙を作りたくて工場で物を作るわけじゃないですよね。
つまり、工場の機能は物を作ることで、煙はオマケってことです。
意識が機能かどうかっていうのは、意識は何か役に立つのかどうかってことです。
そして、その機能を獲得するために進化したと捉えるか、意識は進化のオマケとして捉えるかって違いです。
進化の目的は、出来るだけ長生きすることと、出来るだけ自分の子孫を残すことですよね。
そのために二足歩行するようになったり、言語を獲得したわけです。
これらの進化のおまけとして、脳内で仮想世界を生成するようになったと考えるのが随伴現象説です。
渡辺先生は、仮想世界自体に機能があるわけじゃないと考えるんです。
これ、じつは、自由意志にもつながるんです。
現代の科学では自由意志がないと考えるのが主流です。
自分の自由意志で行動を決めてるんじゃなくて、後からそれを自由意志が決めたと思わせてるだけという考えです。
意識も自由意志も工場の煙ってわけです。
僕の考えは、ここが大きく違います。
僕は、意識は機能だと考えます。
行動を決定して、体を動かすのが意識というわけです。
そして、その時使うのが仮想世界です。
なんでそう考えるかというと、単純に、そう考えるのが自然だからです。
ジャンケンするとき、グーを出そうと思ってグーを出すでしょ。
それを、グーを出すと決めたのは無意識で、それを後から自分が決めたと思わされてるって解釈する方が不自然じゃないですか。
この意識と自由意志の関係については、前回、第481回で詳しく語ってますのでよかったらそちらもご覧ください。
いずれにしても、意識科学の分野で仮想世界が取り上げられるようになったのは大きいです。
その背景には、最近の生成AIの影響があります。
ただし、今のAIには意識はありません。
今のAIは入力に反応して出力してるだけです。
でも、近いうち、仮想世界を使って世界を認識するAIロボットが生まれます。
はたして、そのとき、その仮想世界の生成プロセスを意識と呼んでいいんでしょうか?
または、仮想世界を介して体をコントロールするプログラムを作ったとしましょ。
そしたら、それが意識プログラムじゃないんでしょうか。
しかも、そのロボットはジャンケンするとき、その意識プログラムがグーを出すって決めて、グーを出すんです。
そうなったら、このロボット、自由意志があるってなりますよね。
ということは、人間には自由意志がなくて、ロボットには自由意志があるってなるんでしょうか?
おそらく、今後、こんな議論が行われるようになると思います。
いやぁ、面白くなってきますよね。
いよいよ、AI業界も意識や自由意志を避けて通れなくなります。
意識と仮想世界を取り上げたこの本、AI業界のターニングポイントになる重要な本になると思います。
皆さんも、ぜひ読んでみてください。
はい、今回はここまでです。
この動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、僕の意識の仮想世界仮説に興味がある方は、こちらの本も読んでください。
第二巻のテーマは自由意志となっています。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第482回 『意識の脳科学 「デジタル不老不死」の扉を開く』渡辺正峰
