ロボマインド・プロジェクト、第483弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
現代科学では、人間に自由意志はないと言われています。
今日の昼、ラーメンを食べるかカレーを食べるかはビッグバンが爆発したときに既に決まってるっていう人もいます。
そこで、今回、この本を読みました。
『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。心理学的決定論』です。
作者は、心理学博士の妹尾武治先生です。
前半は、自由意志と意識にまつわる古今東西の様々な説の紹介です。
リベットの実験から始まって、量子脳理論とか統合情報理論とかおなじみの話です。
その中で、仏教哲学の唯識をかなり重要な話として取り上げていたのが、この手の本では珍しいです。
唯識に関しては、僕も第243回で取り上げてます。
どういう考えかというと、今、見てるこの世界は自分が脳の中に作り上げた仮想世界だって考えです。
これ、まさに僕が提唱する意識の仮想世界仮説と同じでしょ。
それから、前回、第482回で取り上げた渡辺先生の新刊でも、目で見たい世界と同じ世界を脳の中で仮想的に生成するって心のモデルを提唱していました。
この本の後半は、妹尾先生が提唱する心理学的決定論の話が中心です。
ベースとなる考えは、ベクションという錯覚です。
ベクションというのは、周りの景色が動いたとき、自分が動いてると錯覚することです。
たとえば電車で、隣の電車が動き出したとき、自分が乗ってる電車が動いたと錯覚するとかです。
妹尾先生が言うには、自由意志もベクションだって言うんですよ。
自分の意志で決めて行動してると思ってるけど、実は、自分の周りの人生の方が動いてるだけだって。
それを眺めて、あたかも、自分の意志で行動してると錯覚してるだけだって。
さて、皆さん、この説明で納得しましたか?
なんか、無理やりって感じがしますよね。
まぁこれに限らず、自由意志否定派の理論で「なるほど」って納得したものは一つもありません。
そこで、今回はこの問題に決着を付けます。
これが今回のテーマです。
最終決着
自由意志の最新理論
それでは、始めましょう!
僕の考えは、自由意志で重要なのは、どの視点から見るかってことです。
たとえば物理学で考えてみます。
ニュートン物理学ってありますよね。
物が落ちるとか、地球の周りを月が回るとか、直観的に分かりやすい物理です。
それに対して、たとえばアインシュタインの相対性理論だと、光に近い速度で移動すると時間の流れが遅くなるっていいますし、量子力学だと、量子は物質と波の両方の性質があるとかっていいます。
直観的に分かりにくいですけど、どれも物理的に正しいです。
だからといって、速く歩いたら時間の流れが遅くなるから長生きできるとか、ボーリングの球は波としても存在するといっても、なんかしっくりきません。
これは、適用する状況が間違っているからです。
理論的には速く歩いたほうが時間は短くなるはずですけど、そんなの人生で0.1秒も変わりません。
物体と波の両方の性質が現れてくるのはナノレベルになってからで、目に見える物体が波の性質を示すことはまずありません。
自由意志の議論も、この間違いを犯してると思うんですよ。
つまり、今日の昼、ラーメンを食べるかカレーを食べるかは、ビッグバンの影響は0ではないかもしれないけど、ほとんど関係ないわけです。
意識は量子力学的振る舞いだっていう量子脳理論も同じです。
意識とか自由意志を議論するとき、適用する理論モデルが間違ってるんです。
自由意志を議論するなら、自由意志に最も影響する理論モデルを適用すべきなんです。
じゃぁ、自由意志が関係する理論モデルは何かってことです。
そこで、まず、自由意志を考えるときに必要な最低限の構成要素を考えます。
それは、動く対象と、その動きを制御するシステムです。
ここでは、単純なマイコンロボットのライントレーサーを考えてみます。
(ライントレーサーの動画)
ライントレーサーは、前にあるセンサーでラインの位置を読み取ってマイコンで車輪を制御することでラインに沿って走行します。
構成要素を細かく分けると、外部環境を検出するセンサーと、本体である体と、体を動かすモーターと、センサー入力に基づいてモーターを制御するコントローラーがあるわけです。
そうすると、自由意志の議論は、コントローラーには自由意志があるのかって課題に言い換えることができます。
少なくとも、自由意志を議論するには、これらの構成要素を備えたシステムを想定しないと議論のスタートに立てません。
つまり、自由意志を議論するとき、適用する分野はソフトウェア工学になるんです。
だから、自由意志の議論で、ビッグバンとか量子力学を持ちだすのは、適応する分野が間違ってると言えるんです。
次の問題は、ライントレーサーのコントローラーは自由意志を持ってるかです。
これを考える前に、自由意志についておさらいしておきます。
自由意志の議論っていうのは、自分の意志で自分の体を動かしてると思ってるけど、本当にそうなのかってことですよね。
ということは、絶対必要な要素として「自分」ってものがありますよね。
つまり、コントローラのプログラムの中に「自分」って制御対象のデータが必要なわけです。
それじゃぁ、ライントレーサーはどうでしょう?
ライントレーサーのコントローラは、センサー入力に応じてモーターを制御してるだけです。
コントローラが認識するのは、ラインの位置データと、モータへの出力データだけです。
つまり、プログラムの中には、自分というデータはありません。
自分というデータがない以上、自分の意志か、他人の意志かなんて議論は成り立ちません。
つまり、自由意志を議論するには、自分というデータをもった制御プログラムが必要となります。
でも、そもそも、自分って、どうやって定義したらいいんでしょう?
まず、自分の反対を考えてみます。
それは、自分以外です。
自分以外全部を別の言い方をすると、世界となります。
つまり、自分を定義するには、まず、世界を定義しないといけません。
今、作ろうとしてるのは、自分を認識できるコントローラ・プログラムです。
コントローラ・プログラムは、世界と自分というデータを区別して認識する必要があるわけです。
世界というのは言ってみれば環境です。
自分というのは、その環境の中に置かれた制御対象です。
ただ、これらを認識するのは結構難しいです。
なぜなら、コントローラに入力されるのはセンサーデータだけです。
たとえ1000万画素のカメラ映像が入力されたとしても、それが世界になるわけじゃありません。
そこで三次元の仮想世界を作ることにします。
この場合だとカメラデータから3DCGを作り出すわけです。
これで3次元の世界を扱えますよね。
そして、その仮想世界の中に自分を配置するわけです。
自分も3次元データです。
コントローラは、これらの3Dデータを受け取るわけです。
これによって、世界の中の自分の位置関係がわかりますよね。
これで自分というものが定義できました。
そして、自分や世界を認識するコントローラが意識と言えそうです。
ここで、もう一度自由意志について考えてみます。
今日、ラーメンを食べるか、カレーを食べるか自分で決めるのが自由意志でしたよね。
そのとき、「先週、駅前で美味しいラーメン屋見つけたから、あのラーメン食べよ」って決めたとします。
これは、先週の出来事を思い出したわけですよね。
もっと言えば、先週ラーメン食べた自分と、今の自分は同じという前提があるわけです。
つまり、過去から現在、未来へと続く自分という存在を理解してるわけです。
これを理解するには、時間というデータも持たないといけません。
仮想世界は時間によって変化します。
この仮想世界に流れる時間が、意識が感じる主観的時間です。
注意してほしいのは、これは物理的な時間と全く同じじゃないですけど、かといった全然別ものでもありません。
一部は重なります。
時間の話をするとき、物理的な時間か、主観的な時間かを区別する必要があります。
というか、主観的な時間というのは、物理的に定義されていません。
今回、仮想世界を持つシステムを作って、初めて定義できたものです。
仮想世界には時間が流れます。
そして、過去の自分も今の自分も同じ自分です。
というか、システムの中で、そのように定義したわけです。
そうやって、幼稚園の頃の自分も、今の自分も、将来、年老いた自分も自分だと認識できるようになります。
これだけの仕組みを作って、ようやく自分が定義できます。
でも、それだけじゃ、まだ足りません。
先週食べたラーメンが美味しかったから、それを食べたら美味しいだろうって考えるのは「AしたらBとなる」って原因結果を理解してるわけです。
こういう理論的な推論もできないといけません。
「AしたらBとなる」って推論するには、仮想世界の中でAを実行してみます。
つまり、シミュレーションするんです。
これで、ようやく推論できるようになりました。
でも、まだ足りません。
だって、カレーも美味しいこと知ってます。
駅前のラーメン屋に決めるには、いつものカレーよりいいと判断できないといけません。
つまり比較機能です。
これだけの仕組みが揃えば、今日は、駅前のラーメンを食べようって決めれますよね。
さて、どうでしょう?
このコントローラ・プログラムなら自由意志を持ってると言えるんじゃないでしょうか。
これで自由意志否定派を論破したと思ったんですけど、もっと、大きな反論があります。
それは、「そのシステムで、駅前のラーメン屋を思い出させたのは誰だ」って指摘です。
それは無意識ですよね。
無意識が駅前のラーメン屋を思い出させたことがきっかけで、「そうや、今日はあのラーメン屋に行こ」って決めたんですよね。
つまり、意識は無意識にコントロールされて行動を決めさせられたわけです。
つまり、「駅前のラーメン屋にしよ」って自分で決めたように思わされてるだけとも言えます。
これに対する細かな反論はここでは置いときます。
それより重要なことがあります。
それは、意識とは何か、無意識は何をおこなってるのかって細かな議論ができるようになったことです。
なぜ、それができるかというと、システム工学で扱うからです。
どうやって扱うかというと、まず、コンピュータで実際に動く心のシステムを作るんです。
そうすれば、このプログラムのここが意識、このデータは主観的な時間、このデータはクオリアって示せます。
少なくとも、客観的に示して議論できるようになります。
いままで、意識とは何かって定義すら、人によって違っていました。
それを、統一的に扱えるようになるんです。
これは画期的な進歩です。
第345回で、僕は、これをシステム心理工学と名付けました。
心を工学的に扱う全く新しいジャンルです。
今後、汎用人工知能とか超知能を考える時、その基盤となる新しい学問です。
今のAIは意識も自由意志もありません。
ChatGPTは、「それは間違ってるよ」っていうと「申し訳ございません」って謝ります。
でも、これはこういう入力に対してはこう答えるってプログラムで答えてるだけです。
これじゃ、ライントレーサーと同じです。
それが、意識を持ったAIになると、間違った答えで相手が恥をかくとかを想像して、「悪いことをしてしまった」って思って「申し訳ございません」って本気で謝ります。
今度からは、絶対に間違わないようにって検索したりして慎重に行動します。
こんなこと、自分で考えて行動するようになったら、もう、自由意志があるっていいんじゃないでしょうか。
もし、それでも自由意志がないというのなら、プログラムのどの部分が自由意志になってないとか、どんなことができれば自由意志があるっていれるとかって建設的な議論ができます。
これがシステム心理工学です。
そして、システム心理工学に従って開発を進めてるのがプロジェクト・エデンです。
もう少しで、最初のデモをお見せできると思うので、それを見れば、システム心理工学とはどういうものか分かると思います。
はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、システム心理工学の基礎となる意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本を参考にしてください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第483回 最終決着 自由意志の最新理論
