ロボマインド・プロジェクト、第484弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
いつも、AIや脳科学の本を紹介してますけど、面白いと思う本って意外と少ないです。
神経学者のオリヴァー・サックスの本は面白いですけど、なんで面白いかって言うと、リアルな患者を描いてるからです。
僕が作ろうとしてるのは脳じゃなくて「心」です。
だから、人が感じられないニューロンとかAIの話になると、急に興味がなくなるんですよ。
その意味で、僕にとって興味深いのが自閉症本人が書いた本です。
なにが面白いかって言うと、僕らとちょっと違う脳を通して感じる世界が描かれてるからです。
僕が知りたいのは、心の仕組みです。
脳がどんなふうに情報処理して、それを意識がどう感じるかです。
でも、自分が感じてることって当たり前すぎて、よく分かりません。
たとえば、今、目の前に机があるとか、壁があるとかって見えますよね。
これ、現実世界を見てるって思ってますよね。
でも、そうじゃないんですよ。
目の前に世界があると思うってことは、そう思わせる情報処理をしてるってことです。
だから、脳が違う情報処理をしてたら、全然違う世界が見えるはずです。
でも、生まれてこの方、自分の見方でしか世界を見てないから、それ以外の見え方があるってこと、想像もつかないんですよ。
それが、自閉症の人が書いた本を読むと、別の見え方がリアルに書かれてるんですよ。
「えっ、どういうこと?」って話が次々に出てくるんです。
面白すぎて、さらっと紹介できないんで、しばらく読まないようにしてました。
でも、そろそろいいだろうと思って、解禁しました。
今回、紹介するのは、僕がこの研究を本格的に始めた20年ほど前に読んだこの本です。
『自閉症だったわたしへ』
作者は、ドナ・ウィリアムズ。
自閉症であるドナが、幼少期からどんな風に感じて生きてきたのか綴った本です。
世界で初めて自閉症を内側から描いた本として1992年に発表されて、世界的ベストセラーとなりました。
それまで、自閉症の人は何も感じてないとか、内面がないとか言われていましたけど、それが全く間違いだってことに気付かされました。
僕も、当時衝撃を受けました。
それが、20年経った今、僕なりに心の仕組みが解明できて、それに照らし合わせて読んだら、当時わからなかった自閉症の心が、読み取れるようになっていました。
AIの解説じゃ絶対に味わえない、リアルな心です。
これが今回のテーマです。
自閉症だったわたしへ
それでは、始めましょう!
自閉症の人の特徴に記憶力が高いことがあります。
見たままそそっくりそのまま記憶して、しかもいつまでも覚えています。
この本も、一番最初のでてくるのが、ドナが始めて見た夢です。
ドナは、真っ白な明るい世界の中を歩いています。
そして、ドナの周りだけ、明るいパステルカラーの丸がいっぱい浮かんでいて、色とりどりに光ってたそうです。
嬉しくてたまらない夢だったそうです。
それがドナの原風景です。
ドナは、目が覚めてるときもその世界を見ようとしました。
まぶしい太陽の光を見つめて、ぎゅっと目を閉じて、激しくこすると、真っ白な中にパステルカラーの丸が動いてるのが見えたそうです。
そんなことをベビーベッドの中で夢中でしてたら、「やめなさい」って声がして、ピシャって平手打ちが飛んできます。
これが外の世界との対面です。
幸せな内面世界を破壊しようとするのが外の人です。
いやぁ、ここまで読んだだけでも、いろいろ考えさせられます。
最初にあるのは内面世界です。
内面世界に親しんでるはずです。
外の世界の方が異質です。
それが、だんだんと内側の世界と外側の世界が統合されてきます。
それが、ドナの場合、内側の世界の方を優先させたようです。
なぜかというと、外の世界が安心できいからです。
その代表が母親です。
やめなさいと平手打ちしてたのが母親です。
虐待する母親っていう過酷な現実がありました。
母親のことはひとまず置いといて、ドナの内面世界をもう少し見ていきます。
ドナは、もう少し大きくなると、普段から、パステルカラーの丸が見えるようになったそうです。
視点をわざとそらせると見えたそうです。
ドナは視力がかなり良かったみたいで、空気中のチリに反射する光が見えていたようです。
こんな話を聞くと、同じ世界を見てても、全く違う世界を感じてるってこと、よく分かりますよね。
ドナは、目の前に人がいても、光の点の方を追い求めていました。
人というのは、自分の世界を邪魔するゴミだと思っていました。
人よりも、ドナにとって重要なのは光の点です。
僕らは、空中のチリやホコリなんか、気にならないですよね。
ところが、ドナの場合、チリやホコリの方が重要で、人間は、自分の世界を邪魔するゴミなんですよ。
だから、人間は無視して、何もない空中を見つめるんです。
こう説明されたら、自閉症の人の行動も全て理解できますよね。
さらに続けます。
ドナはあらゆるものに一体化できるようそうです。
たとえば壁紙やじゅうたんの模様とかです。
目に見えるものだけじゃなくて、何度も繰り返して響いてくる物音とか、自分のあごを繰り返してたたいて出す音にも一体化したそうです。
ここもかなり興味深いです。
同じような話は聞いたことがあります。
第300回で「やまなみ工房」って障害者施設のアート作品を紹介しました。
「やまなみ工房」の作品は、今では世界の注目を集めています。
特徴は、繰り返しパターンとか、ものすごく細かく書き込まれてることです。
たとえば、この作品。
拡大するとこうなります。
びっしりと人が書きこまれているんです。
すごいでしょ。
ものすごい集中力だと思います。
たぶん、絵を描いてるとき、その世界に吸い込まれて世界と一体となってるんでしょう。
同じようなことは自閉症の作家、東田直樹さんも言ってます。
桜吹雪とか見てると、あまりの美しさに吸い込まれそうになるって。
その他にも、自閉症の子はキラキラするものが好きで、プールに入ると、水の中から水中に反射してくる光をずっと見てたりするとか。
これらは右脳の処理で考えると理解できます。
右脳は、全体を認識するのが得意です。
たとえば、これは右脳または左脳が損傷した人に左の元の絵を描いてもらったものです。
左脳が損傷して右脳で描くと、ほぼ輪郭だけとなっています。
逆に、右脳が損傷して左脳だけで描くと内側の細かい内容だけとなっています。
左脳は、部分の違いに注目するわけです。
逆に右脳は全体を捉えて、部分の違いは気にしません。
だから、右脳にとって最も心地いいのは、同じパターンの繰り返しが全体にある光景です。
そんな光景をみると、自分が吸い込まれて、世界と一体になるわけです。
東田さんは、桜吹雪の公園とか通り過ぎる時、出来るだけ桜を見ないようにするそうです。
見てしまうと、桜吹雪に自分が吸い込まれて、心が持って行かれるからだそうです。
そこまでのことはあまりないですけど、分からないこともないです。
たとえば、フラクタル図形ってあります。
フラクタルというのは拡大すると同じ形が現れる図形です。
https://www.youtube.com/shorts/aONbVIo2u10
0:00~0:30秒ぐらい。
フラクタル図形を無限に拡大していく動画とかみてると、吸い込まれそうになります。
この動画、いくらでも見続けれます。
ずっと見てたら、この世界に吸い込まれて、抜け出せなくなるんじゃないかって怖くなってきます。
この吸い込まれそうって感じてるのが右脳です。
繰り返し現れるパターンが心地よくて、その世界に一体となろうとするんです。
それを押しとどめるのが左脳です。
自分と世界を分けて認識するのが左脳です。
自分を認識するには、まず、世界と自分を切り離さないといけません。
自分と世界の境界を見極めて、世界から自分を際立たせるのが左脳の役目です。
だから、左脳の機能が弱くなると、世界と一体になろうとするんです。
このことは、このチャンネルでも何度も紹介してる脳科学者ジル・ボルト・テイラーも言っています。
ジルは、左脳が脳卒中になって右脳だけで世界を認識する体験をしました。
その時、自分の体の境界が薄れていくのを感じたそうです。
壁と自分の手の境目が分からなくなったそうです。
やがて、自分の体が膨張して、世界と一体となるのを感じたそうです。
そして、その時、この上ない幸福を感じたそうです。
これが右脳が感じる世界です。
普通の人は左脳優位です。
だから、常に自分と世界との違いを意識します。
でも、自閉症の人は右脳優位となっています。
だから、何かきっかけがあると、世界と一体となるんです。
そのきっかけが、繰り返しパターンの模様だったり、繰り返しの音だったりです。
同じリズムの繰り返しの音楽を聴いてるとトランス状態になったりしますけど、あれと同じです。
ドナは、話し声を聞いても、その空間に一体化してたそうです。
言葉といった平坦なものには興味がなくて、いろんなものに一体化するほうが楽しかったそうです。
でも、外の世界の人は、ドナが何かをしゃべることを期待してました。
それに気づいたドナは、何でもオウム返しをするようになりました。
すると「いちいち真似するんじゃない」っていわれます。
そしたら「いちいち真似するんじゃない」って答えます。
そしたら、ピシャっと平手打ちされます。
3歳になっても、オウム返しかしなかったそうです。
ドナは食べれるものもかなり偏っています。
主食は、パンにスプレー砂糖をふりかけたものです。
それからゼリーです。
どちらもドナの夢の中のカラフルな世界に近いからです。
それから、レタスは食べれました。
ドナは、ふわふわのウサギが好きで、ウサギはレタスを食べるからドナもレタスは食べれました。
きれいな砂や花、プラスチックも、つい、口に入れてしまいます。
子どもならよくあることですけど、ドナの場合、13歳になるまで続いてたそうです。
好きなものに一体になるって関わり方でしか、現実世界にかかわれなかったわけです。
それから、子どもは、よく、想像の中で友達を作ります。
イマジナリーフレンドって言います。
ドナも同じです。
現実世界では友達はほとんどいなかったそうですけど、イマジナリーフレンドはいっぱいいました。
友達というより架空の生き物です。
そのうちの一つがウィリーです。
ウィリーはぎょろりとした二個の目玉のおばけです。
ベッドの下にいて、暗闇の中でだけ見えます。
最初は怖かったそうですけど、他の人も怖いはずだって思ったそうです。
そう思ったら、自分はウィリーの見方になろうって決めたそうです。
現実世界の人間に対抗しようと思ったわけです。
親しみを覚えた対象とは一体化しようとする癖があったドナは、ウィリーに一体化しようとしました。
ベッドの下に潜り込んでウィリーと一緒に眠ったそうです。
そうしたら、気が付いたらウィリーと一体化してたそうです。
ドナは、ウィリーになったんです。
ドナが外の世界で立ち振る舞うとき、その役はウィリーが請け負いました。
ウィリーになったドナは、憎々し気な目であたりをにらみつけます。
口を一文字に結んで、全身を硬直させて、ぎゅっとこぶしを握り締めます。
歩くときは足を踏み鳴らして、気に入らないことがあるとつばを吐きます。
いったい、どうしてそんなお化けになろうとしたんでしょう。
それは、敵と戦うためです。
ドナの敵とは、それは母親です。
ドナの母親は、ドナを全く愛していません。
気に入らないと平手打ちをします。
ドナのことをItとか、ときにはウジムシって呼んでたそうです。
そんな母親に対抗するには、ウィリーになるしかなかったんです。
ウィリーは、話しかけられると、最初オウム返しで対抗してました。
やがて、もっと強力な武器を見つけました。
それは、沈黙です。
何を話しかけられても沈黙を貫くことにしました。
これがドナの世界です。
3歳の頃の話ですけど、細部の描写がリアルで、正直、どこまで本当なのか分かりません。
このことに関して、後にインタビューで、「あの本の中で創作したものはどのくらいありますか」って聞かれてこう答えていました。
母親の虐待で、ナプキンを口に突っ込まれたことと、顔を紐で打ち続けられたのが同じ日の出来事のように書いてますけど、あれは、実は、別の日に起こったことです。
それ以外は、すべて事実だそうです。
自閉症は内面がないと思われてましたけど、3歳以前の記憶でも鮮明にずっと覚えているんです。
いろいろ考えさせられます。
はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第484回 『自閉症だったわたしへ』ドナ・ウィリアムズ
