ロボマインド・プロジェクト、第487弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
第483回で、『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。心理学的決定論』という本を紹介しました。
作者は心理学者の妹尾武治先生です。
帯には「あなたが本書を手にすることは、138億年前から決まっていた」ってあります。
138億年前っていうのは、ビッグバンが爆発したときです。
この宇宙が生まれたときから、その後に起こることは全て決まっているといいたいわけです。
つまり、自由意志など存在しないということです。
「そんなバカな」って思うかもしれませんけど、根拠もいっぱい示してあります。
たとえば、自分が手首を動かすと決定するより前に脳波が発生しているリベットの実験とか、麻薬やギャンブルを止めようと思っても止められない依存症とか。
さらには、量子力学、心理学から仏教まで、これでもかってぐらい根拠を挙げます。
あなたが、お昼にカレーを食べるかラーメンを食べるかは、ビッグバンが爆発したときに既に決まっていたんです。
それに対して、僕は、自由意志は存在するとずっと主張してきました。
その理由として、第483回では、影響の大きさから説明しました。
たしかに、ビッグバンの爆発は、その後の宇宙の全てに影響を与えています。
だからといって、カレーを食べるかラーメンを食べるかの影響は限りなく0に近いです。
海水の中から砂糖の成分を見つけて、「海水は甘いにちがいない」って言ってるようなものです。
ほとんど関係ないものより、最も影響を与える分野で議論しないと意味がないんです。
じゃぁ、自由意志に最も影響を与える分野ってどこでしょう?
自由意志って自分の行動を決めたり、体を制御することに関することですよね。
つまり、最も関連する分野は制御工学とかシステム工学になるんですよ。
簡単なロボットを考えます。
センサーと、モーターによって動く手足と、センサー入力に応じて手足の動きを制御する制御装置からなるロボットです。
そして、手足を動かす起点がどこにあるかを考えます。
起点というのは、制御の出発点のことです。
これが外部にあれば外から動かされてると言えます。
たとえばリモコンで操作されてるとかです。
それなら、自由意志はないですよね。
でも、制御装置から出発していれば意志によって行動を決定したとなりますよね。
つまり自由意志があるわけです。
これ、逆に考えれば、制御装置から出発して行動を決定するシステムであれば、それは自由意志があるシステムといえるわけです。
つまり、カレーを食べるかラーメンを食べるか、制御装置が決定して行動するのであれば、それは自由意志を持ったシステムとなるわけです。
そして、人間は、まさにそういうシステムだから自由意志はあるとなるんです。
ただ、483回の最後で、未解決の問題を提示したんですよ。
たとえば、駅前のラーメンが美味しかったのを思い出してラーメンに決めたとします。
この場合、駅前のラーメン屋を思い出させたのは何でしょう?
それは無意識ですよね。
少なくとも、意識以外から送られてきたデータです。
つまり、行動の起点は制御装置以外になります。
これじゃぁ、やっぱり自由意志は存在しないってなりますよね。
これが今回のテーマです。
田方敗北
やっぱり、自由意志は存在しなかった!
それでは、始めましょう!
自由意志の議論を見ていて思うのは、厳密性に欠けてて、科学的とは言えない議論が多いことです。
たとえば、この本には麻薬を止めようと思っても、つい、手を出して止めれないって例を挙げています。
だから、自由意志はないってことです。
でも、その理屈が通るなら、麻薬を止めれた人は自由意志があるってなるじゃないですか。
それなら自由意志は存在しますよね。
たとえ止めれなかった人でも、「麻薬を止めたい」って意志はあるわけです。
「こう行動したい」っていう意志って、それは自由意志じゃないですか。
なんか、「自由意志はない」って結論にもっていくために、「麻薬を止めたくても止めれない」って都合のいい部分だけ切り出してるようです。
まぁ、こういうことは文系学問ではよく見かけますけど、科学ではあまりありません。
これだから心理学は科学といえないんです。
じゃぁ、自由意志を科学的に厳密に扱うにはどうしたらいいのか。
そこで、僕はシステム工学で扱うことにしたんですよ。
システム心理工学と名前まで付けています。
じゃぁ、なぜシステム工学なら厳密に扱えるかって言うと、それはプログラムで書けるからです。
プログラムとして客観的に示せるなら、ここからここまでの機能が自由意志とかって議論できるじゃないですか。
自分の都合とか、解釈の仕方で自由意志の定義が変わったらすぐに分かります。
これが科学ってことです。
今回、システム工学っぽく、フローチャートやブロック図をいっぱい使って厳密に自由意志を定義していきます。
まずは、自由意志がないシステムとして、マイコンロボットのライントレーサーを考えます。
(ライントレーサーの動画)
ライントレーサーは、車体の前にあるセンサーでラインの位置を読み取って、車体の中央にラインが来るようにマイコンでモーターを制御します。
ブロック図で書くとこうなります。
センサーは、外部環境のラインを検出します。
つまり、外部に起点があって、車体は外部環境に応答して動いてるだけです。
これは自由意志がないシステムといえます。
次に、人の場合です。
人は、目で見た現実世界を脳の中で仮想世界として構築します。
仮想世界は、コンピュータだと3DCGで作った世界と思ってください。
仮想世界を作るのは無意識です。
そして、意識は仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。
そして、最終的に、意識が行動を決定して、体を制御し、現実世界で体を動かします。
今、目の前にカレー屋があったとします。
意識は、仮想世界を介してそれを見て、カレーを食べようと決めたとします。
これだけだと、外の現実世界が起点となっているので自由意志があるとはいえません。
でも、人間は考えることができます。
考えるというのは、目の前にないものを想像することです。
その時に使うのが想像仮想世界です。
想像仮想世界も現実仮想世界も作るのは無意識です。
「えーっと、なに食べよかなぁ」って考えるとします。
人は、考えたり、思い出したりする時、右上を見るっていいます。
少なくとも、目の前にあるものを見るわけじゃありません。
このとき見ようとしてるのは、頭の中の想像仮想世界です。
それじゃ、カレーかラーメンかどっちを食べるかを決めるプログラムを考えてみます。
意識が「何を食べようかなぁ」っと思ったら、それをきっかけに無意識が記憶を検索して「カレー屋」が出てきました。
このカレー屋を一時的に保存します。
次に思い出したのは駅前のラーメン屋です。
これも一時保存します。
そして、どちらが美味しいか比較します。
いつも食べてるカレー屋は安定した美味しさです。
駅前のラーメン屋は先週できて、結構おいしかったことを思い出しました。
ラーメン屋を思い出したときの方が、食べたい度が高かったです。
そこで、今日は、ラーメンを食べることに決めました。
さて、これについて考えていきます。
このプログラムが意識の中で実行されるとすると、自由意志があると言えるのでしょうか?
まず、無意識プログラムは「昼に食べるもの」といった条件を渡されると記憶を検索します。
そして、カレーとかラーメンを意識に渡したわけです。
この点を見ると、意識の外からデータが渡されて、後はプログラムに従って行動を決定してるだけです。
意識の外に起点があります。
これじゃぁ、センサーデータで行動を決定するライントレーサーと同じです。
自由意志があるとはいえません。
でも、重要なのはプログラムの中身です。
どっちが美味しいか決めてるのは意識プログラムです。
二つを比較して、美味しいと思った方を決めてるんだから自由意志があると言ってもいいんじゃないでしょうか?
いや、ライントレーサーもセンサーデータを比較してラインから離れない方向に曲がります。
比較して決める点は人間もライントレーサーも同じです。
やっぱり、人間に自由意志はなさそうです。
いやいや、でもライントレーサーは決められた行動しか取れません。
でも、人間は学習ができます。
これならどうでしょう?
これも、AIは学習できます。
でも、AIに自由意志はないです。
学習できただけじゃ自由意志とは言えません。
どうあがいても、人間には自由意志はなさそうです。
人間には自由意志はありません。
完全に僕の負けです。
でも、本当にそうでしょうか?
もう一回、ライントレーサーと意識プログラムの違いを見直してみます。
たとえば比較するとこです。
どっちも外部からのデータを比較して、行動を決めてますよね。
カレーとラーメン、どっちが美味しいかって比較します。
そしたら、「今日の気分はラーメンかなぁ」とかって感じます。
じゃぁ、ライントレーサーはそんな風に感じてるんでしょうか?
「右に曲がりたいなぁ」とか「左に曲がりたいなぁ」とかって感じてるでしょうか?
感じてないですよね。
ライントレーサーは、センサーデータからモータを直接動かしています。
人間の場合は、データを受け取ってから行動するまでの間に「感じて」るんですよ。
じゃぁ、何が感じてるんでしょう?
それは、意識プログラムです。
意識プログラムは、ライントレーサーとちがって「感じる」ことができるんです。
じゃぁ、ライントレーサーは、「なんで」データを「感じ」ないんでしょう?
それは、受け取ったデータに応じた行動が決まってるからです。
ラインからずれたら中央に戻すって行動です。
ライントレーサーは、その行動しかとれません。
その行動しか取れないのに、わざわざ「感じる」なんて機能は不要なんです。
人間の場合は比較して結果がでても、違う行動を取ることもできます。
たとえば、カレーよりラーメンを食べたいと感じたとしましょ。
でも、一緒にいる友達が「カレー食べたい」といえばカレーを選ぶこともあります。
または、最近太ってきたから、今日は昼は抜こうと思って、どちらも食べないって選択もできます。
人間のプログラムとライントレーサーのプログラムは、ここが決定的に違うんです。
「感じることができる」
これが意識の最大の特徴です。
意識は、進化の過程で獲得しました。
僕は、大脳が発達した哺乳類から意識を獲得したと思っています。
それ以前の生物、たとえば魚などは意識を持ってません。
意識を持ってないと言うことは、何かを「感じる」って機能も持ってないんです。
釣り上げられた魚はバタバタもがきますけど、痛みは感じてないんです。
ライントレーサーと同じで、センサー入力に応じて自動で動いてるだけなんです。
このことは、例えば第322回「解明!魚は痛みを感じてないのか?」で語っているので、興味がある方はそちらも見てください。
話を戻します。
人の場合、ラーメンを食べたいと感じても、カレーにしたり、どちらも食べないって行動が取れました。
じゃぁ、これはどうやれば実現できるでしょう?
それは、プログラムを変更するんです。
ライントレーサーや、単純な生物は決められた動きしかできません。
こんな場合はこう動くってプログラムが生まれたときから決まってるんです。
お腹が空いたら食べ物を食べるとか。
これだと、お腹が空いたけど、痩せようと思って食べるのを我慢するなんて行動の変更はできません。
ここ、もう少し深掘りしてみます。
ダイエットのために昼を抜こうって考えたのは、痩せた理想の自分を想像したわけですよね。
想像するとき使うのは想像仮想世界です。
想像仮想世界というのは、その人しか見れない世界です。
つまり、人の場合、それぞれ、別の世界を想像してるんです。
同じ環境にいても、頭の中で見てる世界が違うんです。
だから、同じ環境にいても違う行動を取るんです。
つまり、人には個性があるんです。
一方、現実しか認識しない生物は、みんな同じ世界を見ています。
さらに、行動を決定するプログラムが生まれたときから決まっています。
そうなると、同じ環境にいれば、みんな同じ行動をとりますよね。
たとえばアリは、みんな同じ動きをします。
個性なんかありません。
こういう生物は自由意志がありません。
じゃぁ、人間には自由意志は有ると言えるんでしょうか。
僕はあると思います。
ただ、それは自由意志の定義によります。
プログラムで動いているシステムは自由意志はないって定義すれば、人間も自由意志はないといえます。
そこで、厳密に定義していきます。
まずは、意識からです。
意識とは、何かを感じるプログラムと定義します。
感じる内容は快や不快です。
嬉しい、美味しい、心地いいは快です。
悲しい、不味い、痛いは不快です。
意識でもう一つ重要な機能は、行動を決定することです。
意識は不快を避けて快を求めるように行動します。
行動決定に必要なのは、ルールです。
美味しいものを優先するとか、友達の気持ちを優先するとか、ダイエットを優先するとかがルールです。
そして、ルールは意識によって自由に変更できます。
意識は、選んだルールを使って想像仮想世界でシミュレーションします。
シミュレーションの結果、何かを感じて、行動を決定します。
ルールが美味しいものを食べたいなら、ラーメンを食べます。
ルールが太りたくないなら、何も食べません。
こうして、意識は、ルールを変更することで自由に行動を変更できます。
僕は、意識の持つこの仕組みのことを、「自由意志」と呼んでもいいと思っています。
自由意志って呼び方が嫌なら、行動変更機能とかルール変更機能と呼んでもいいです。
でも、重要なのは呼び方じゃなくて、人間の心は、本当にこのようなシステムとなってるかどうかです。
今回提案した心のシステムは、あくまでも僕の仮説です。
これが正しいかどうかはまだわかりません。
だから、こういった心のシステムを、みんなが提案しあって議論すべきなんです。
自由意志の定義は、それができた後です。
そして、心のシステムの議論の土台となるのがシステム心理工学です。
システム心理工学というは、心や主観といった今まで曖昧だったものをプログラムを使って客観的に扱う新しい科学です。
そして、そろそろAIも、システム心理工学で扱う段階に来ていると思います。
AI業界では、人間と同じ知能を持つ汎用人工知能とか、人間を超えた超知能がそろそろ生まれると言われています。
でも、人間と同じとか超えたとかって議論するには、同じ土俵で比較する必要があります。
そして、それができるのがシステム心理工学です。
はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いします。
それから、今回紹介した僕が提唱する意識の仮想世界仮説に関してはこちらの本で詳しく語っています。
第二巻のテーマは自由意志となっています。
よかったらこちらも読んでください。
それじゃぁ、次回もおっ楽しみに!
第487回 田方敗北 やっぱり、自由意志は存在しなかった!
