ロボマインド・プロジェクト、第488弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
僕は、コンピュータで心を作ろうとしています。
僕の考える心のモデルは、人は、頭の中で仮想世界を作って、意識はそれを認識するってものです。
これは、僕の説ですけど、第482回で紹介した渡辺正峰(まさたか)先生の『意識の脳科学』でも同じようなことを語っていて、脳の中に仮想世界を作るって考えが、少しずつ認められつつあるようです。
あとは、この仕組みをコンピュータで作るだけです。
ところが、ここにきて、大きな間違いに気づいたんです。
それは、世界の見方には二種類あるってことです。
なんで気付かなかったかというと、他ならぬ僕の意識が一種類の見方しかしてなかったからです。
それ以外の世界の見方があるなんて、思ってもいなかったんですよ。
二種類の見方が何かというと、それは、左脳と右脳です。
僕をはじめ、ほとんどの人は左脳優位で、左脳で世界を認識しています。
ところが、約1%の人は、右脳で世界を認識してるんですよ。
同じ世界を見ても、その処理方法が違うと、全く違う世界を感じてるんです。
これが今回のテーマです。
右脳で世界を認識する1%の人たち
それでは、始めましょう!
今回は、普段とちがう脳の情報処理を実感するのが目的です。
できるだけ、具体的な例をあげますので、自分でリアルに想像して体感してみてください。
まずは、意識を使う情報処理と、意識を使わない情報処理です。
目の網膜からの視覚情報は、まず、後頭葉の一次視覚野に送られます。
そして、そこから頭頂葉の背側視覚路と側頭葉の腹側視覚路の二つに分かれます。
背側視覚路は位置や動きを分析する経路で「どこの経路」とよばれています。
腹側視覚路は「もの」を分析する処理経路で「何の経路」とよばれています。
実は、頭頂葉のどこの経路に行く経路は、視覚野を経ずに、上丘を介して頭頂葉に行く経路が存在します。
そして、この経路は進化的に古いことも分かっています。
つまり、進化的に古い生物は「何」の経路がありません。
もっと言えば、「何」と認識せずに「動き」に反応して行動するだけです。
この処理経路は、人でも持っています。
プロ野球でピッチャーが投げたボールがバッターまでとどくのに約0.4秒です。
ところが、人がものを認識するのに0.5秒かかります。
つまり、ピッチャーが投げたボールをバッターが認識したときには既にボールはキャッチャミットに納まっています。
でも、バッターはボールを打てますよね。
どうやってるんでしょう?
この時使うのが「どこの経路」です。
つまり、ボールを打つとか、動きに反応するときに使うのは進化的に古い「どこの経路」なんです。
だから、その時は、「これはボールだ」とかって認識してないんです。
じゃぁ、「これはボールだ」と認識してるのは何でしょう?
それは、自分の意識ですよね。
でも、どこの経路はボールと認識していません。
つまり、動きに反応するだけじゃ、意識は必要ないんです。
反射的に反応するときって、それが「なに」かなんか意識してないですよね。
これが意識を必要としない行動です。
脳は目的に応じて情報を最適化する機能を持っています。
じゃぁ、速い球を打てるようにするには、網膜からの映像をどんな風に最適化するでしょう?
余計な情報を排除するので、球の軌跡だけ抽出するとかになりますよね。
真っ黒な中に白い線の球の軌跡だけとか。
これって、現実の世界とは程遠いですよね。
このタイプの情報処理は、最適化すればするほど世界は消えていくんですよ。
そもそも、どこの経路には世界を見て認識する意識がないので、世界が消えても気にしないんです。
逆に言えば、「何の経路」の情報処理は、「どこの経路」の情報処理と目的が違うってことです。
それは、ありのままの世界を見たいってことです。
ありのままの世界を見たいって目的が決まれば、脳は、視覚情報からありのままの世界を作り上げます。
作り上げた世界と、実際の世界が異なれば、その誤差を無くすように調整します。
これは誤差逆伝播法とかバックプロパゲーションといってニューラルネットワークの基本理論です。
つまり、脳の基本的な学習方法です。
世界にできるだけ素早く反応するか、世界をできるだけ正確に再現するか、与える目的を変えることで、脳内の情報処理が変わったわけです。
さて、それじゃぁ、動きの軌跡を抽出するのと、ありのままの世界を作るのとでは、どっちが難しいでしょう。
そりゃ、ありのままの世界を作る方が難しいです。
それには莫大な計算が必要になります。
そのために巨大に進化したのが大脳です。
これは脳の系統発生図です。
進化するにつれて水色の大脳がどんどん大きくなっていますよね。
最終的にヒトだと、脳のほとんどが大脳に覆われています。
世界を作りだすには、これだけの大きさの脳が必要だってことです。
こうして、人は脳の中に仮想世界を作ることができるようになりました。
本題はこっからです。
世界を作るという目的は同じでも、世界の見方が違うと、二つの別の世界が出来上がるんです。
目的が変わると意識が生まれたのと同じです。
第一の見方は、見えてる世界は表面だけで、本質は背後にあるって見方です。
第二の見方は、見えてる世界が全てという見方です。
そして、第一の情報処理をするのが左脳で、第二の情報処理をするのが右脳です。
それじゃぁ、第一の情報処理で仮想世界を作るとどうなるでしょう?
それは、僕らの多くが感じてる世界です。
僕らは、目の前に机があるとか、人がいるとかって認識しますよね。
空間の中に物体として物とか人がいると感じます。
世界はどこまでも広がっています。
過去から未来に時間が流れています。
そして、今見えてるのは、今という一瞬、ここという場所を切りだしたものです。
そんなこと、言うまでもなく当たり前と思ってますよね。
でも、そう思うのは僕らが左脳で世界を認識してるからです。
右脳だとそうは感じません。
たとえば、右脳で世界を認識してる人に、ピダハンって民族があります。
南米のアマゾンに住む未開の民族です。
ピダハンは、過去や未来をもっていません。
認識するのは、今、ここだけです。
見えてるものしか信じず、見えないものは存在しないというか、気にかけません。
だから、神話や神、宗教を持っていません。
神や神話をもたないなんて、世界的にあまり例をみません。
過去を持たないということは、たとえば、死んだ人のことを語ることもありません。
というか、亡くなった人を思い出したり、意識に上がることがありません。
そんなことあるのかって思いますけど、よく考えたら、死んだ人のことをいつまでも思い出す方が不自然なんです。
先日、岡田斗司夫がディズニー映画の「リメンバー・ミー」の解説をしていました。
「リメンバー・ミー」で語られてるのはメキシコの死者の日のお祭りです。
メキシコでは人は死んだら死者の国に行きます。
そして、生きてる人がその人のことを忘れたとき、その人は死者の国からいなくなります。
これが本当の死です。
ところが、写真が発明されて、生きてる人は、死んだ人のことを忘れなくなりました。
そしたら、死者の国の人が死ななくなって、死者の国の人口が急増して困ったことになったそうです。
これが「リメンバー・ミー」の背景だそうです。
そう考えたら、ピダハンのことも理解できます。
過去が存在するのは、過去を思い出させる写真とか本があるからです。
ピダハンは文字を持たない民族なので、過去のことを思い出すこともないので、過去って概念を持たないのもわかります。
ピダハンは過去だけでなくて、将来のことも考えません。
そんなもの存在しないし、考えても仕方ないって考えてるわけです。
ピダハンの脳は、時間という概念を理解できないわけではないですけど、過去や未来を考えても意味がないと考えるわけです。
重要なのは、今、ここに注目するから、脳は今ここの世界しか作らないってことです。
過去や未来を気にしてるから、過去や未来のある世界を作り出すわけです。
何に注目するか、何を目的とするかで脳が作り出す世界が変わるということです。
まぁ、「今」に注目するというのはわかります。
じゃぁ、「ここ」しかないってどういうことでしょう?
ピダハン語に「イビピーオ」って言葉があります。
たとえば、カヌーで人がやってきたときとか、カヌーが見えたとき「イビピーオ」って子供たちが叫びます。
カヌーで帰る時も、カヌーが見えなくなる時「イビピーオ」って叫びます。
ピダハン族と暮らしてたエベレットは、この「イビピーオ」の意味がわからなかったそうです。
最初、あいさつの言葉かと思ったそうですけど、どうも、その人に向かって語りかけてるように思えません。
ようやくわかったのは、「イビピーオ」というのは、世界の境界を指す言葉でした。
どういうことかというと、ピダハンにとっての世界は、今、目に見えてるとこだけです。
目に見えてないとこまでずっと続いてるとか、今見えてるのは、広い世界の一部だって考えをしてないわけです。
見えてないとこには世界が存在しないんです。
少なくとも、見えてない世界を考えても意味がないと思っています。
だから、この世界とそれ以外をはっきりと区別します。
その境界がイビピーオです。
だから、境界を超えてこの世界にやってきたり、境界を超えてこの世界から人が出ていくとき、子どもたちは「イビピーオ」って叫ぶんです。
ピダハンは、この世界の境界がどこにあるのか、常に意識してるんです。
これが今、ここだけの世界で生きるってことです。
これが、目で見えるものが全てって考える右脳の見方です。
右脳で世界を認識するのは、ピダハンだけでなくて、自閉症の人もです。
自閉症の人の中で特殊な能力を持つ人をサヴァンっていいます。
今までもサヴァンの話は何度も紹介しましたけど、ほとんどは外から観察した話ばかりです。
今、読んでるのが、この間から紹介してるこの本『自閉症だったわたしへ』です。
この本は、自閉症だったドナ・ウィリアムズが、どんなふうに世界を見てるかって、内面から書かれています。
これを読むと、右脳で情報処理するっていうのは、どんな風に感じるのかってことが、リアルにわかってきました。
サヴァンの能力の中に写真記憶ってのがあります。
たとえば自閉症の画家、スティーブン・ウィルシャーは記憶だけでこれだけの絵を描きます。
一度見たものを、細部まではっきりと思い出すことができるそうです。
僕らは目をつぶると、目の前が真っ黒になりますよね。
机があったとかってのは覚えていますけど、見えてた映像は消えてしまいますよね。
これが左脳で世界を認識するってことです。
左脳は、世界のなかに物体があるって形式で認識します。
これは3DCGで考えると分かりやすいです。
3DCGは、まず、最初に物体の形の情報を生成します。
その上に、表面に見えるものを貼り付けて
完成させます。
左脳は、物体の形とか位置を本質と考えて、表面は本質でないと考えます。
目を開けてるとき、脳内でつくり出した仮想世界の表面に、見えてる画像を貼り付けて、意識はそれを現実世界として見ます。
でも、目をつむると見えてた表面が消えて真っ暗になります。
残るのは、このあたりに、こんな形のものがあったって形と位置の情報だけです。
これが左脳が認識する世界です。
一方、右脳は目に見えるものが世界の本質だと考えます。
だから、見えたものをそっくりそのまま記憶するんです。
目をつむったとしても、見えてたものをそっくりそのまま瞼の裏に再現できるんです。
これが右脳の情報処理です。
さっき紹介したドナの本には、小さいころから何に興味があって、どんなものに惹きつけられてきたかって詳細に書かれています。
たとえば、本なら図鑑に魅せられたそうです。
バラバラなものが収集されて、分類されて整理されてるものが大好きっていいます。
猫の図鑑、鳥の図鑑、花の図鑑といった図鑑を図書館から借りてきて飽きもせずずっと見ていたそうです。
天才の子ども時代あるあるに百科事典を丸暗記するってのがあります。
イーロン・マスクとか南方熊楠とかも、百科事典を丸暗記したそうです。
どうも、彼らはこの右脳の機能を使っていたんでしょう。
あらゆる物を分類、整理して、その違いを確認するのが楽しくて仕方がなかったんだと思います。
しかも、写真記憶ができるから、それをそっくり丸暗記してたんでしょう。
ドナが、最も夢中になったのは電話帳だったそうです。
あらゆる人がアルファベット順に並んで整理されてるのを見るのが楽しくて仕方なかったそうです。
電話帳をみて、「ブラウン」って人が何人いるかとか数えて、さらに分類する遊びに夢中になってたそうです。
サヴァンの人で、電話帳を丸暗記したって話とか聞いて意味がわからなかったんですけど、今回、ドナの話を読んで、電話帳の何が面白いのかちょっとだけ分かった気がします。
右脳は、見たものそのままを認識して、わずかな違いに注目して、分類したり整理したりするんです。
サヴァンでよくあるのがカレンダーサヴァンです。
日付を言うと、曜日を当てることができる人です。
何十年、何百年先とか過去の日付でも当てることができます。
これ、カレンダーをそっくりそのまま暗記してると思ってたんですけど、ちょっと違うようです。
カレンダーを見ながら、曜日が出現する法則とかを発見したんでしょう。
さらに、写真記憶と相まって頭の中にカレンダーを完璧に再現できるようになったんです。
自閉症をテーマとした映画に「レインマン」があります。
「レインマン」で、床に散らばったつまようじを一瞬んで数えるシーンがあります。
これと同じことができる双子の話を第428回で語りました。
その双子は、床に散らばったマッチを見て、同時に「111」って答えます。
さらに、その後「37,37,37」って37を交互に3回言います。
なんで37って言ったのか聞いてみると、37+37+37は111って言います。
つまり、111を一瞬で因数分解したんです。
たぶん、並んでる数字の中からパターンとかを抜き出す能力があるんでしょう。
この双子の驚くべきことは、暗算で素数を計算できたんです。
それも、20桁の素数です。
これが右脳の情報処理です。
その他、自閉症の人はジグゾーパズルが得意って話もよく聞きます。
しかも、ピースを裏返しにして、絵を見ずに形だけみて組み立てることができます。
これも、よく似たものからわずかな違いに注目する右脳の得意な処理と考えたらわかります。
逆に、左脳は似たものは同じ判断するので、どれも同じに見えるわけです。
これが右脳と左脳の情報処理の違いです。
同じ視覚情報から同じ世界を再現しようとしても、左脳と右脳の情報処理の違いによって全く違う世界をつくり出してるんです。
そして、1%の人は右脳で世界を見ています。
はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第488回 右脳で世界を認識する1%の人たち
