第489回 進化した人類 右脳優位の人たち


ロボマインド・プロジェクト、第489弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

この間から呼んでるのがドナ・ウィリアムズの『自閉症だったわたしへ』ですけど、

それと並行して、東田直樹さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由2』も読んでいます。

自閉症の人は、普通の人と違う世界を認識していますけど、その原因は、右脳優位にあります。

東田さんは、自分の事を原始人の脳って言ってますけど、僕は、これは逆じゃないかって思ってるんですよ。
自閉症を始め、発達障害の子どもは明らかに増えてきています。
これって、人類が次の進化に入り始めている証拠じゃないかって思うんです。

進化は子どもから起こります。
これをネオテニーっていいます。

たとえばこれはチンパンジーの子どもと大人です。

明らかに、チンパンジーの子どもの方が人類に近いですよね。
つまり、進化は前世代の子どもに先に現れるんです。

それから、チンパンジーの子どもはよく遊びますけど、大人になるとあまり遊びません。
でも、人間は、大人になってからも遊びます。
これもネオテニーの一種と言えそうです。

発達障害の子どもが増えてきているということは、人類は右脳優位に進化しつつあるのかもしれません。
これが今回のテーマです。

進化した人類
右脳優位の人たち
それでは、始めましょう!

よく、左脳は言語、右脳はイメージっていいますよね。
右脳はイメージっていうのは正しいんですけど、左脳は言語っていうのは、ちょっと違うんですよ。
言語っていうのは、情報処理の結果です。
重要なのは、情報処理の内容です。
右脳だったら、それは映像です。
じゃぁ、左脳だったら何でしょう。
これがわかると、人類の進化が見えてくるんです。

まず、これが、僕が前提とする心のモデルです。

目で見た現実世界は、無意識によって脳内で仮想世界として作り上げられます。
そして、意識は仮想世界を介して現実世界を認識します。
これは、僕が提唱する意識の仮想世界仮説を基にした心のモデルです。

仮想世界って現実世界をできるだけ忠実に再現したものです。
コンピュータなら、3DCGです。
さて、同じ現実世界を再現するにしても、二つの方法が考えられます。
一つが左脳、もう一つが右脳です。
仮想世界って3DCGって言いましたけど、これ比喩じゃなくて、3DCGの処理の仕方がそっくり、左脳と右脳に当てはまるんですよ。

たとえば、今、目の前にリンゴがあるとします。
目からの視覚情報を基に、脳内に3DCGのリンゴを作るとします。
まずは3D空間に線でリンゴの立体をつくります。

これをワイヤーフレームっていいます。
次に、ワイヤーフレームの表面に、目に見えるリンゴの映像を貼り付けます。
これをテクスチャマッピングと言います。

これで仮想世界のリンゴが完成します。

最初、ワイヤーフレームで形を作って、次に目に見える表面を貼り付けましたよね。
このうち、形の部分が左脳が認識する部分、表面の見た目の部分が右脳が認識する部分になるんです。

もう少し分かりやすく説明します。
目の前のリンゴを見ていて、目をつむると真っ暗になりますよね。
覚えてるのは、このあたりにこんな形のリンゴがあったなぁって思うぐらいです。

考えたら、こう思えるってこと自体、不思議なんです。
だって、目をつむったら視覚情報は一切入ってきてないでしょ。
それなのに、こんなリンゴがあったって思えるってことは、そういう処理を脳内でしてるってことです。
そういう処理っていうのは、このあたりって位置と、こんな形って形のデータで物体を管理してるってことです。

目を開けてると、視覚情報を形状データの表面に貼り付けてるからはっきりとリンゴが見えるわけです。
でも、左脳は表面に見える部分は重要と思っていないので記憶しません。
記憶するのは位置とか形です。
だから、目をつむると真っ暗になるんです。
これが左脳優位で見る世界です。

自閉症の人は右脳優位です。
右脳優位の人は視覚優位とかビジュアル・シンカーとも言われて、見たままの世界を認識したり、映像で考えたりします。
自閉症で特殊な能力のある人をサヴァンといいますけど、サヴァンの中には見たままを写真のように記憶できる人がいます。

たとえば、スティーブン・ウィルシャーは、上空からみた街の光景を、記憶だけでそっくりにペンで描くことができます。
3DCGでいえば、テクスチャマッピングした表面を記憶してるわけです。
だから、まるで、今、目の前に見てるかのように思い出して描けるわけです。
これが、右脳優位で見る世界です。

皆さんは、今、目の前に世界があるって思いますよね。
それは、世界があるからじゃなくて、世界があるように情報処理してるからそう思うだけです。
そうじゃない情報処理をしてたら、全然別の世界を感じるんです。
そのことを、もう少し詳しく説明します。

左脳が認識するのは見た目でなくて、位置とか形でしたよね。
これは3DCGでいえばオブジェクトの形状データです。
オブジェクトは、さらに色とか味とかってデータも持っています。
つまり、左脳が「もの」を認識するとき、オブジェクトの属性といったデータのまとまりとして認識します。

まぁ、当たり前のことを言ってるだけですけど、これが当たり前と思うのはあなたが左脳優位で世界を認識してるからです。
ここで、右脳優位の東田さんは、どんな風に感じたり考えるのか紹介します。

東田さんは、本でこんな風に書いています。
「普通の人は、たとえば携帯電話を買うとき、デザインや機能、値段、通話料などを比較して購入すると聞きました」
まぁ、そうですよね。

東田さんにとっては、それが驚きだそうです。
自分には、そんなことができないって言うんですよ。

「えっ、どういうこと?」って思いますよね。

東田さんが言うには、機能や値段などを比較して選ぶことができないそうです。
というか、機能を比較するということを思いつかないっていいます。

やっぱり、何を言ってるのか、意味が分かりませんよね。
でも、さっきの話、思い出してください。
左脳は、「もの」をデータのまとまりとして認識するって言いましたよね。
同じ種類のデータは比較ができます。
比較、これこそが左脳が最も得意な機能です。
どちらの商品が高いか安いか、自分と相手、年齢はどっちが上か、どっちが偉いか。
僕らは普段、こんなことをずっと気にしてますけど、これこそ、まさに左脳の処理です。
左脳が自動で動いてる証拠です。
これが左脳優位ってことです。

じゃぁ、もし左脳を使わずに考えたらどうなるでしょう?
ものにはデータとか特徴があるって思わないわけです。
そしたら、比較するって思いつかないってのも理解できますよね。

じゃぁ、東田さんは、どうやって携帯電話を選ぶんでしょう。
それは、自分がその携帯電話を使ってるとこを思い浮かべるんだそうです。
まさに、映像で考えるわけです。
ビジュアル・シンカーです。
これが、右脳で世界を見るってことです。

意識が認識するのは仮想世界です。
仮想世界は無意識が作ります。
右脳の仮想世界は、見たままを作り出します。
見えないものは作らないので、目に見えないデータは作りません。
だから、意識は気づくことはないですし、まして比較するなんてできません。
これが右脳優位の人の認識の仕方です。

一方、左脳優位の人は、目に見えないとこにこそ、そのものの本質があると考えます。
ギリシャの哲学者のプラトンは、イデアって概念を提唱しました。
イデアとは、目に見えないところにある、そのものの本質のことです。
目に見える表面的なものは、そのものの本質じゃないって考えるわけです。

カントは、プラトンのイデアを発展させて「物自体」って概念を打ち出してます。
19世紀になると、フッサールは現象学で、イデアとか物自体を否定して現象に還れといいます。
表面に見える情報の方が重要だってことです。
哲学史っていうのは、表面に見えるものと、その裏にある物とどっちが正しいか議論してきた歴史とも言えます。
これもどっちが正しいかって問うんじゃなくて、なぜ、そんな風に考えることができるのかって問うべきなんですよ。
そう考えたら、イデアか現象というより、それを作りだす仮想世界の方が重要だってことが見えてきます。

さて、目に見えないところに本質があるって考えることができると、次に、必然的に生み出される概念があります。
それは神です。

目に見えないところに神様がいて、我々を見守ってるに違いないって考えです。
つまり神話や宗教の誕生です。

世界中のどの文化にも同じような神や神話が存在します。
考えたら不思議ですけど、左脳が必然的に生み出したと考えれば、理解できます。

ところが、世界で唯一、神や神話を持たない民族があります。
それは、南米のアマゾン奥地にすむピダハン族です。

ピダハンについては、このチャンネルで何度も紹介しています。
ピダハンを現代社会に紹介したダニエル・エヴェレットは元宣教師でした。
ピダハンにイエス・キリストについて教えると「お前は、そのイエスという男をみたことがあるのか」と聞かれます。
「いや、見たことはない」と答えると、「見たこともない男の話を、なんで信じるんだ」って笑われたそうです。

おそらく、ピダハンも右脳優位なんでしょう。
だから、目に見えない神を想像することも、思い付きもしないんでしょう。
ピダハンは、神だけでなくて色や数字って概念も持ってません。
色や数字は、オブジェクトの属性です。
右脳は見たままを認識するので、色とか数といった抽象的な概念だけを取り出して認識できません。
じゃぁ、赤色を示すとき、どうするでしょう?
それは、血の色って言い方をします。
つまり、必ず目に見える実体が必要なんです。
赤って色だけを取り出して考えることができないんです。

ピダハンの最大の特徴は時間って概念を持っていないことです。
たしかに時間は直接知覚できません。
つまり、抽象概念です。
だから、時間も頭の中の仮想世界の中にしかありません。
抽象概念を扱えるのは、左脳の仮想世界です。

ピダハン族は右脳優位の人の社会ですけど、一般社会は左脳優位です。
その中で、右脳優位の人は戸惑うことが多いそうです。

東田さんもその一人です。
言葉というのは左脳で作られています。
それを右脳で解釈すると、うまく通じないわけです。

たとえば、東田さんは、「じっとして」と言われると戸惑うそうです。
「じっと」という言葉は、「じっと見る」というときに使う言葉として覚えています。
それが「じっと動かないで」と、動作に対して使われると、途端にどうしていいか分からなくなるそうです。

そうはいっても、どっちに使っても意味はいっしょやし、なんでわからへんのやろって僕は思います。

それに対して、東田さんは、「じっと」という言葉は「テレビをじっと見ているお姉ちゃんの映像」として覚えてるそうです。
これが、映像で言葉を理解するビジュアル・シンカーです。

第485回で、自閉症が他人を理解するのは共感でなくて憑依、つまり乗り移って理解するって話をしました。
だから、言葉の理解も、映像に自分を当てはめて理解します。
この場合だと、自分がテレビを見てるお姉ちゃんになるんです。
すると、「テレビはどこ?」ってなりますよね。
だから戸惑うんです。
これが右脳で言葉を理解するってことです。
左脳で作られた言葉を右脳で解釈するから理解できないのは仕方ないことです。

第466回で紹介したビジュアル・シンカーのテンプル・グランディンもあらゆる出来事をビデオ映像みたいに録画して記憶してるって言ってました。
人と会話するとき、今の状況に近いビデオを探し出して再生します。
すると、「こんな場合、こんな風に言うと相手は怒る」って理解します。
この手法をマスターするまで、自分が思ったことをそのまま言って、始終トラブルになってたそうです。

東田さんは、さらに意外なことを言います。
話し言葉は何を指してるのか分からないから困るそうです。
たとえば、話し言葉で「さっき」とか言われても、何を指してるのか、それはどっからどこまでなのことなのか分からなくなるそうです。
でも、書き言葉なら文章で書かれているので見たら分かるそうです。

これも、「文章でわかるのに、話し言葉になるとわからないって、どういうこと?」って思いました。

でも、右脳は、今見えてるこの一瞬の世界しか認識できないと考えたら理解できます。
右脳は時間って概念を持たないことを思い出してください。
ピダハンが時間を持たないのと同じです。
一方、左脳は時間の流れの中で出来事を把握します。
頭の中で出来事を要素に分解して時間順に並べて、いつでも参照できるように管理してるんです。

文章だとわかるというのは、目に見えるところにさっきの出来事が書かれてるからです。
今、目の前のものしか認識しないって、こういうことです。
これで思い出したのが、自閉症の子どもの時間感覚です。

自閉症の子に、お母さんが「ちょっとここで待ってて」と言っても、いつまでまったらいいのかわからなくてパニックになるそうです。
時間の感覚を持てないと、1分も永遠も同じですから、永遠にお母さんが戻ってこないと思ったら、そりゃ、パニックになりますよね。
そんなときに使うのが、このタイマーです。
time-1024x779
時間の経過を目で見える形で表現します。
赤い部分がなくなるまでって言えば、あとどのくらいって視覚的にわかるわけです。
これが右脳で世界を認識する人の感覚です。

右脳優位の人は、およそ1%いると言われています。
そして、最近、自閉症とか発達障害の子どもが明らかに増えてきています。
冒頭にも言いましたけど、これは、人類が次の段階に進化し始めてる兆しです。
次の進化とは、右脳で世界を認識することです。

左脳は、物事を抽象的に理解して、論理的な思考ができます。
人類は左脳で文明社会を築いてきました。
一見、右脳より左脳の方が進化してるように思えます。

でも、左脳で作り上げた社会で人類は幸せになれたでしょうか?
じつは、ピダハン族は世界で一番幸せな民族と言われています。
過去も未来も考えないので、過去を悔やむこともありません。
将来を心配することもありません。
ピダハンは、何が起こっても笑っているそうです。
魚が捕れないと、「魚が捕れなかった」って笑ってるそうです。
嵐で家が吹き飛ばされたら「家が吹き飛ばされた」って笑ってるそうです。

もしかしたら、現代社会の行き詰まりは左脳が原因なのかもしれません。
それを打破するのは右脳優位の発達障害の子供たちかもしれません。



はい、今回はここまでです。
今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画の中で紹介して意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく語ってますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!