ロボマインド・プロジェクト、第493弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
この間から、ラマチャンドラン博士の『脳の中の幽霊ふたたび』を再読しています。
改めて読むと、ロボマインド・プロジェクトが、いかにラマチャンドラン博士の影響を受けてたかがよく分かります。
僕のアイデアのほとんどは『脳の中の幽霊』が出発点になってました。
違いがあるとすれば、アイデアの大胆さです。
ラマチャンドラン博士は、脳から心を解明しようとする自分のアイデアがなかなか認められないって嘆いていたので、かなり大胆なことを主張してるようです。
ただ、僕にしてみれば、ラマチャンドラン博士の言ってることは、まだまだ当たり前のことしか言ってないと思っています。
たぶん、僕の仮説は、ラマチャンドラン博士の10倍ぐらい大胆です。
僕は、よく盲視の話を例にあげますけど、元ネタは『脳の中の幽霊』です。
目の網膜からの視覚情報は後頭部の視覚野に投影されます。
この視覚野一部が損傷すると、視界の一部が真っ黒になって見えなくなります。
見える視界にリンゴがあるとき、「何が見えますか?」って聞くと「リンゴ」って答えます。
次に、真っ黒な視界にリンゴがあるときは「わかりません」って答えます。
今度は、真っ黒な視界にレーザーポインターで示して「光の点を指差してください」っていうと「見えないのでできません」って言います。
そこで「あてずっぽうでいいので指差してください」というと、正確に指差せます。
これが盲視です。
目からの情報は後頭葉の一次視覚野から頭頂葉のどこの経路と側頭葉の何の経路に分かれます。
どこの経路というのが位置や動きを分析する経路で、何の経路が、それが「何か」を分析する経路です。
網膜からの視覚情報は、視床を介して視覚野に行く経路とは別に、上丘を介して、直接頭頂葉の「どこの経路」に行く経路があります。
だから、視覚野が損傷したとしても、位置とか動きに反応することができるんです。
それが盲視患者です。
そして、ものを見て「何」と分かるのは意識です。
盲視患者は意識できないけど指差しができましたよね。
つまり、どこの経路の処理は意識がなくてもできます。
だから、意識は何の経路にあると言えます。
ここまで、僕がいつも語ってる話です。
ここからが、僕とラマチャンドラン博士の違いが出てきます。
盲視患者は意識できなくても動きは識別できましたよね。
さらに研究によって、意識できなくても色が識別できることも分かったそうです。
ここで、ラマチャンドラン博士は、意識は何のためにあるのかって問います。
そして、それは「結び付けるためだ」って仮説を立てます。
どういうことかというと、視覚処理は40もの領野にわかれていて、それぞれ動きや色、形など様々な分析を行います。
緑のボールが右から左、赤いボールが左から右に移動したとしたら、僕らは見て、そう感じますよね。
つまり、バラバラに分析された色と動きを結び付けてるわけです。
これが意識の役割というんです。
もし、盲視患者がこれをみたとしましょ。
その時、盲視患者は、右から左に緑、左から右に赤が移動すると感じるでしょうか?
それとも、色と動きをバラバラに感じるでしょうか?
もし、色と動きをバラバラに感じたとします。
そうしたら、別々に分析された色と動きを結び付けるのが意識の役割といえますよね。
なるほど。
これが科学者の考え方のようです。
一歩一歩、確実に言えることだけ積み上げて仮説を立てるわけです。
ただ、正直、地味やなぁって思います。
僕は科学者じゃないんで、もっと、一気に大胆な仮説を立てます。
僕が立てた意識の目的は全然違います。
それは、世界を見るためです。
今、目の前に部屋があるとかって見えますよね。
こうやって世界があるって感じてるのが意識です。
これが意識の目的です。
これ、逆に言うと、意識があるから世界があるんです。
意識がなかったら、世界なんか存在しないんです。
これが今回のテーマです。
まだ世界が存在すると思ってるの?
それでは、始めましょう!
まず、最初に僕の考える心のモデルから説明します。
目で見た現実世界は頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを僕は意識の仮想世界仮説と呼んでいます。
仮想世界は3DCGのようなものを想像してください。
三次元空間に3Dオブジェクトを配置して仮想世界を作るわけです。
オブジェクトは色や形、動きを持ってます。
はい、ここです。
さっき、脳内で視覚情報は色や形、動きに分析されるって言いましたよね。
ラマチャンドラン博士は、意識の役割は、色や動きを結び付けるためと言いました。
それに対して、僕の考えは、意識は世界を認識するためにあります。
意識が認識するのが仮想世界で、仮想世界はオブジェクトで作られます。
オブジェクトというのは、色とか動きといったデータをまとめるものです。
ここで色と動きが結びつきましたよね。
ここは、ラマチャンドラン博士と同じです。
違うのは、オブジェクトは仮想世界の一部ということです。
色と動きを結び付けるためっていうのは、僕の仮説の一部です。
僕の仮説は、意識は、今見えてる世界を感じるためにあるというものです。
次は、意識が感じる世界は二種類あるって話をします。
一つは見た目で、一つは意味です。
そして、見たままの世界を認識するのが右脳で、見えない部分を理解するのが左脳です。
見えない部分というのは「意味」のことです。
これだけじゃ分かりにくいと思うので、脳障害の症例から説明します。
それは、半側空間無視です。
左脳は右半身、右脳は左半身って、脳は体の反対側を制御します。
だから、左脳が損傷すると右半身、右脳が損傷すると左半身が動かなくなったりします。
それは体だけじゃありません。
右脳を損傷すると、左側を無視する症状がでます。
たとえば、ご飯を食べる時左側のおかずだけ残したりします。
注意してほしいのは、左側が見えないんじゃなくて、注意を向けれないってことです。
頭頂葉には位置や動きを分析するどこの経路があるって言いましたよね。
右脳のどこの経路が損傷すると、眼球を左に向けて左に注意を向けることができなくなるんですよ。
ここで、不思議なことが二つあります。
一つは、半側空間無視で右を無視する人はいないんですよ。
症状は、必ず左無視にあらわれます。
つまり、右脳が損傷したときのみ発症するんです。
左脳のどこの経路が損傷しても、右に注意を向けることができるんです。
もう一つの不思議なのは、半側空間無視は記憶でも起こるってことです。
これ、半側空間無視の患者に記憶で描いてもらった花の絵です。
現実世界の物を見るときは、眼球を動かしますよね。
眼球の動きに関係する右脳のどこの経路が損傷したから左に注意を向けれないわけです。
それが、記憶の中でも左に注意を向けることができないってどういうことでしょう?
だって、花を思い出すとき、眼球は関係ないですよね。
これも仮想世界から考えると理解できます。
さっき、現実世界を認識するために頭の中に仮想世界を作るって言いましたよね。
じつは、思い出すときにも仮想世界を使うんです。
それを想像仮想世界といいます。
想像仮想世界は、記憶を元に無意識が作り出す仮想世界です。
現実仮想世界も想像仮想世界も意識が認識します。
そして、半側空間無視の人は左に注意を向けられません。
ということは、どこの経路は、現実世界じゃなくて、仮想世界の位置や動きに関係するんです。
現実の世界も、記憶の中の世界も、意識が認識するのは頭の中の仮想世界なんです。
だから記憶の中の花も左が欠けるんです。
ただ、まだ分からないのが、なぜ、半側空間無視は左しか起こらないかです。
これは、右脳と左脳の世界の解釈の違いから説明できます。
右脳は見たままの世界を重視します。
左脳は見えるものより、その背景にある意味内容を重視します。
自閉症は右脳優位となっていて、見たままをそっくり記憶することができる人がいます。
自閉症の画家のスティーブン・ウィルシャーもそうです。
彼は、一度見ただけの風景を写真のようにそっくり描くことができます。
これが右脳の持つ正確な空間把握能力です。
つまり、右脳は、空間全体を把握する機能があります。
一方、左脳は全体より中身、内側に注意を向けます。
これは、左脳が損傷して右脳だけで認識する人と、右脳が損傷して左脳だけで認識する人に描いてもらった絵です。
左の元の絵を右脳で描いたのが真ん中で、左脳でかいたのが右です。
右脳は全体に注意を向けて、左脳は中身に注意を向けてるのが分かりますよね。
意識が認識するのは仮想世界でしたよね。
右脳が認識する空間把握能力というのは、たとえて言えば、仮想世界に正確なXYZ軸を設定する能力とも言えます。
だから左脳が損傷して右側を認識できなくなったとしても、右側にも世界があるってことは理解できるんです。
一方、右脳が損傷すると、左脳は右側しか認識できなくなります。
左脳は、空間全体より、認識できる右側にしか注意を向けれません。
これは、たとえて言えば、空間全体が右に偏ってるようなものです。
これは左側に世界があるけど気づけないってことじゃありません。
左側に世界そのものが存在しないんです。
ラマチャンドラン博士は、半側空間無視の患者に、どうすれば左側にも世界があることを気付かせることができるかと考えました。
そこで思いついたのが鏡を使うことです。
博士は、患者の右側に鏡を持って立ちます。
患者は右の鏡を見ると、自分の左側が見えます。
これで、無視していた左側を認識できますよね。
博士は、弟子に協力してもらって、患者の左にペンを出してもらいます。
すると、患者は鏡を通して、自分の左にペンがあることを認識します。
そこで「そのペンを取ってください」って言います。
そしたら、左のペンを取るでしょう。
これで、左側にも世界があるって気づけるわけです。
当然、そうなると思っていました。
ところが、思ってもないことが起こったんです。
何と、患者は鏡に向かって手を伸ばしたんです。
つまり、鏡に映ってるペンを取ろうとするんです。
そして「鏡が邪魔でペンが取れません」って言うんです。
もちろん、患者は、鏡とは物を映すもので、鏡の中に物があるわけじゃないってことも知ってます。
そんな今までの経験より、左に世界が存在しないことの方を信じるんです。
でも、よく考えればこれも理解できます。
だって、意識が認識するのは仮想世界です。
その仮想世界には左側が存在しません。
全てを矛盾なく解釈するとすれば、鏡の中にペンがあるとなります。
だから、鏡の中のペンを取ろうとするんです。
これが左脳の解釈です。
世界を意味で解釈するのが左脳って言いましたよね。
これ、うがった見方をすれば、現実世界を捻じ曲げてでも意味が通るように解釈するとも言えます。
このことを、今度は分離脳患者から説明します。
分離脳患者というのは、右脳と左脳をつなげる脳梁を切断した患者のことです。
重症のてんかん患者に行われる手術です。
分離脳患者の左の視界に、ちらっとカードを見せることで、右脳だけに指示を出すことができます。
そこで、ある分離脳患者の右脳に「歩け」って指示を出しました。
すると、その人は席を立って歩き始めました。
そこで、「どこに行くのですか」って声をかけます。
会話は左脳の役目なので、左脳が答えます。
ところが左脳は、右脳に見せられたカードの指示のことを知りません。
そしたら、何と答えたと思います?
その患者は、「喉が渇いたから、コーラでも買いに行こうと思って」って答えたんです。
患者は嘘をついてるわけでもありません。
本気で、喉が渇いたからコーラを買いに行こうと立ち上がったと思ってるんです。
これ、どういうことか分かりますか?
左脳が重要視するのは意味です。
だから、左脳が作り出す仮想世界には必ず意味が必要です。
この場合なら、「立ち上がった意味」です。
意味のない行動は存在しません。
だから、「喉が渇いたからコーラを買いに行く」って意味を無理やり作り出したんです。
これが、左脳が作り出す仮想世界です。
そして、意識はそれを認識します。
現実が本当はどうなのかなんか、わからないんですよ。
別の例も紹介します。
右脳が損傷すると、まれに病態失認になります。
病態失認というのは、自分の病気を認めようとしないことです。
右脳が損傷すると左半身が麻痺して動かせなくなります。
そんな患者に、「左手を上げてください」っていうと、左手があがりません。
ところが、なかには「今は左手を上げたくないんです」とかっていう人がいます。
つまり、自分の病気を認めようとしないんです。
これが病態失認です。
もっと症状がひどくなると、全く動いてないのに「はい、上げました」っていう人もいます。
完全に、現実世界を無視してるんです。
その患者に、「拍手してください」って言うと、右手だけ動かして拍手します。
「音はしましたか?」って聞くと、「はい、パンって音が鳴りましたよ」って平気で答えます。
これが左脳です。
自分が信じる意味の方が現実になってるんです。
左手は動くはずだし、拍手したから音がしたはず。
実際の現実がどうかより、自分の思いとか意味の方が優先するんです。
これが左脳が認識する世界です。
もはや、現実世界なんかあってもなくても関係ありません。
自分が信じる世界が現実だと思うんです。
まぁ、さすがに起こってないことが見える人はまれですけど、現実に起こってる出来事にこじつけの解釈をする人はよくいます。
たとえば陰謀論者です。
何か大きな事件が起こると、世界を操る闇の組織の仕業と思うわけです。
宗教もそうです。
見えないとこから神様が見守ってくれてると思えるのも左脳の仮想世界です。
それだけじゃありません。
学歴社会とか、お金に価値があると思うとか、どれも左脳が作り出したものです。
現代社会は左脳が作り出しています。
左脳は、意味を成すためなら平気で現実をいがめます。
ねぇ、現実世界なんか存在しないってことが、よく分かったでしょう。
はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第493回 世界が存在すると思ってるの?
