ロボマインド・プロジェクト、第497弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
科学の難しいのは、科学的発見があって実験によって再現性が確認できたとしても、メカニズムまでわからないと意味がないってことです。
1928年、イギリスの科学者フレデリック・グリフィスは二種類の細菌を一緒に培養すると、一方の性質がもう一方に移ることを発見しました。
しかも、その原因となる化学物質を抽出して特定することまで成功しました。
ところが、科学者はこれを無視しました。
化学物質が生物の性質を伝達するとは考えられなかったからです。
ところが、1953年、ワトソンとクリックがDNAの二重らせんを発見し、遺伝の仕組みを解明すると、にわか科学界は活気づきました。
DNAの解明によって、グリフィスが発見した化学物質がDNAということもわかり、ようやくグリフィスの発見が認められました。
この話は、ラマチャンドラン博士の『脳の中の幽霊 ふたたび』に出てきます。
ラマチャンドラン博士は、同じ事が共感覚にも言えるって言います。
共感覚というのは、数字に色を感じるとか、味覚に形を感じるとか、別の感覚が混ざって感じる人のことを言います。
共感覚は100年以上前から知られていますけど、神経科学者や心理学者からは無視し続けられています。
これも、メカニズムが解明されてないからだっていうわけです。
じつは、ラマチャンドラン博士は共感覚の研究でも有名です。
共感覚が難しいのは、主観が感じることだからです。
その人がどう感じてるか、客観的に調べることは難しいです。
だから、科学として扱いにくいんです。
そこで、ラマチャンドラン博士は共感覚のメカニズムを提案しています。
それも、科学の検証に耐えられるものです。
僕もラマチャンドラン博士が提案する共感覚のメカニズムに大いに賛成します。
ただ、僕が注目するのは共感覚じゃないんですよ。
共感覚って主観にかかわるっていいましたよね。
以前、僕とラマチャンドラン博士の違いは、仮説の大胆さにあるって言いました。
その一つが、僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。
人は、目で見た現実世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、仮想世界を介して現実世界を認識します。
これは、言い換えたら、今、僕らが見てる世界は現実世界じゃないってことです。
僕らは、現実世界を直接見てるんじゃなくて、頭の中の仮想世界を見てるってことです。
かなり大胆な仮説だとは思いますけど、でも、最近はいろんなとこでこれに近いことが言われるようになっています。
たとえば、第397回では、ディープラーニングで有名な東大の松尾豊研究室の世界モデルを使ったAIの話をしましたし、第482回で紹介した渡辺先生の本には、意識とは脳内につくられる仮想世界だって書かれています。
ラマチャンドラン博士は、共感覚が起こるメカニズムをほぼ解明したんですけど、じつは、これって意識が見てるのは仮想世界だって僕の仮説を証明したことにもなってるんですよ。
これが今回のテーマです。
科学的に証明
僕らは仮想世界に生きていた
それでは始めましょう!
共感覚の難しいのは、実は、本人も自分が共感覚者だって気づいてない人が多いんですよ。
本人に伝えると、「えっ、みんな数字に色が見えるんじゃないの?」ってなる人が多いんです。
そこで、ラマチャンドラン博士は、共感覚かどうか判定するテストの開発から始めました。
共感覚で一番多いのが数字に色がついて見えるパターンらしいです。
そこで、こんな図を見せます。
数字の5がランダムの書いてありますけど、一部、よく見ると2があります。
「2を探してください」といっても、普通の人にはすぐには見つけられないです。
でも、たとえば5は緑、2は赤にみえる共感覚者なら、こう見えます。
どこに2があるか一目瞭然でしょ。
2をすぐに見つけられる人が共感覚を持ってるってことです。
ラマチャンドラン博士は、こうやって共感覚者を探したら200人に一人の割合で見つかったそうです。
これは、今まで思われてたより、はるかに多くの人が共感覚であることが分かりました。
次は、さらに深く共感覚について調べていきます。
たとえば数字と色の関係は固定されているのかとかです。
結論から言うと、数字と色の関係は、人によって異なりますけど、完全にバラバラということはないそうです。
たとえば、「0」は緑より白である傾向が強いそうです。
それから、コントラストの関係も調べました。
最初、白地に真っ黒に「5」とはっきり表示して、黒色をだんだん薄くします。
すると、共感覚で感じる緑も薄くなったそうです。
そして、コントラストが8%以下になると、数字ははっきりみえてても、色は完全に消えたそうです。
ここから物理的刺激と共感覚は相関関係にあると言えます。
ただし、より強く受けるのは物理的刺激の方と言えます。
次に、目で見るのでなく、頭の中で数字を想像してもらいました。
すると、なんと、実際に数字を見るより、共感覚の色がよりはっきり見えたそうです。
次の実験は、もっと面白いですよ。
部分色盲で共感覚がある人がいたそうです。
網膜には色を識別する錐体細胞というのがあります。
彼は、この錐体細胞の一部が欠けているため、見ることができない色がありました。
彼は数字に色がみえる共感覚も持っています。
すると、数字を見たとき、見えたことがない色を感じるそうです。
物理的には見ることができない色なのに、数字を見ると感じる色があるんですよ。
なかなか興味深いです。
今度は、アラビア数字の「5」とローマ数字の「V」(5)の比較です。
はたして、ローマ数字の「V」(5)を見たときでも、共感覚の色は見えたでしょうか?
実験の結果、ローマ数字の「V」(5)だと色は見えなかったそうです。
もちろん、その人はローマ数字のVが数字の5ということは知っています。
これも興味深いですよね。
それから、共感覚には方向性があることも分かりました。
つまり、数字を見て色を感じる人はいますけど、色をみたら数字を感じる人はほとんどいなかったそうです。
さて、それでは、以上の実験結果から、共感覚が起こるメカニズムについて考えてみます。
ラマチャンドラン博士は、脳の配線間違いが原因だと説明します。
側頭葉には視覚情報を処理する領野が30以上あり、そのうちV4野は色を分析します。
ラマチャンドラン博士は、数字の形を識別する領域がV4の隣に隣接することを発見しました。
おそらく、共感覚は色を識別する領野と数字を領野のニューロンがつながったからだというわけです。
ニューロンはシナプスを介してつながっています。
生まれたばかりの赤ちゃんは、多くのシナプスを介して過剰にニューロンがつながった状態にあります。
それが成長とともに不要なシナプスの結合が削減されます。
これをシナプスの刈り込みといいます。
おそらく、数字の形と色がつながってたシナプスが刈り込まれることなくつながることで共感覚が生まれたんでしょう。
シナプスがつながってることで、数字を見たとき、色を識別するニューロンも活性化して色を感じたんでしょう。
色を分析する領野と数字を分析する領野が隣り合ってることから、数字と色の共感覚が最も多い説明にもなります。
おそらく、脳の中で数字の「0」と白色の距離は、緑色より近いのだと思われます。
だから、「0」と白色の共感覚は「0」と緑色の共感覚より多いんです。
数字の色を薄くすると、共感覚の色も薄くなるのもシナプスで結合してると考えれば納得できます。
さっき、アラビア数字の「5」には共感覚の色を感じても、ローマ数字の「V」(5)には共感覚を感じないって言いましたよね。
これは、数字の形と順序といった数字の意味が、脳の中の異なる領野で分析されているからです。
数字の意味というのは、言ってみれば順番のことです。
数字の意味を脳のどこで分析するかはすでに分かっています。
それは、左脳の角回といわれる部分です。
左脳の角回が損傷すると、見てその数字が何かわかりますけど、「17 - 3」といった単純な計算ができなくなります。
そして、曜日や月に色を感じる共感覚者もいます。
つまり、何らかの順序と色が関連する共感覚です。
色を分析する領野はV4ですけど、色は何段階で分析して、V4の次に色を分析する領野は角回に隣接してあるんです。
つまり、この領野と角回がつながると、順序と色がつながるので、曜日や月に色を感じることになるんです。
同じ数字でも形といった低次の共感覚でなく、意味という高次の共感覚が生じてると解釈できます。
さて、これで共感覚が起こるメカニズムが説明されたたんですけど、どうしてもうまく説明できない現象があります。
それは、数字を見たとき、色を感じる共感覚者はいるけど、色を見たとき数字を感じる共感覚者はほとんどいないっていう共感覚の方向性です。
これをうまく説明するのが、僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。
意識の仮想世界仮説では、目で見た現実世界を頭の中で仮想世界として再現します。
そして、意識は仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、ラマチャンドラン博士の考えと何が決定的に違うかというと、ラマチャンドラン博士は意識は現実世界を直接見てるとしています。
それに対して、僕の考えでは意識は現実世界を直接見ることができません。
意識が直接見るのは仮想世界です。
ここから、共感覚のメカニズムの説明にも違いが出てきます。
意識が認識するのは仮想世界に配置されたオブジェクトです。
オブジェクトというのは一種のデータ構造で、様々な属性を持っています。
例えば、リンゴオブジェクトなら色は赤で、形は丸で、味は甘酸っぱいとかです。
意識が赤いとか丸いって感じるのは、オブジェクトの色や形のデータにアクセスしてるからです。
意識や主観が感じるものをクオリアとも言います。
たとえば色だと、光の波長で定義できるのは物理的な色です。
網膜にある視神経が反応するのは物理的な色です。
一方、意識が感じる赤はクオリアです。
赤のクオリアは、脳の中のV4野で生成されます。
色や形は側頭葉で分析されて、最終的に「リンゴオブジェクト」というデータにまとめられて、意識はそれを感じるわけです。
意識が感じるものはクオリアなのでリンゴオブジェクトもクオリアです。
ただ、クオリアには色とか形といった単純なクオリアと、これらを複合したクオリアがあります。
リンゴといった「もの」は、色や形といった単純クオリアで複合された複合クオリアといえます。
数字オブジェクトも同じで、形や意味を持ってるわけです。
数字の意味というのが順序といった角回で分析されるものです。
数字オブジェクトも「もの」オブジェクトの一種なので色属性を持つことができます。
普通は、目で見た数字の色が設定されるんですけど、共感覚を持ってる人は、数字の色属性に最初から色が入っているんでしょう。
リンゴに甘酸っぱいって味が入ってるのと同じです。
以上のことから、「もの」と、その属性には方向性があることがわかりますよね。
つまり、リンゴを思い浮かべたらすぐに赤色って出てきますけど、赤色を思い浮かべてもリンゴが出てくるわけじゃないです。
これは、リンゴから赤色に矢印が向いてるけど、赤色からリンゴへは矢印は向いてないとも言えます。
または、リンゴは赤色といった単純クオリアを属性としてもつけど、赤色という単純クオリアはリンゴという複合クオリアを持ってるわけじゃないとも言えます。
こう考えたら、共感覚の方向性がきれいに説明できますよね。
そして、これは、単に共感覚の話だけじゃなくて、意識が見てるのは仮想世界だという証明にもなります。
また、実際に見た数字より、思い浮かべた数字の方が共感覚の色がはっきり出ることもこれで説明がつきます。
意識の仮想世界仮説では、意識が認識するのはすべて仮想世界です。
これは、現実にあるものを見る時だけじゃなくて、想像するときも仮想世界を使います。
これを想像仮想世界といいます。
想像仮想世界の数字オブジェクトの色属性に、共感覚者は特定に色が結びついているわけです。
だから、想像したときに見る数字オブジェクトは、純粋に共感覚の色だけが見えるから、よりはっきりと共感覚の色が見えるわけです。
こうして考えると、共感覚が起こるメカニズムから、意識が見てるのは仮想世界だといえますよね。
はい、今回はここまでです。
今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく語っていますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第497回 科学的に証明 〜僕らは仮想世界に生きていた
