第498回 自由意志実験で発狂した男の話


ロボマインド・プロジェクト、第498弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ラマチャンドラン博士の『脳の中の幽霊、ふたたび』を読んでいますけど、やっぱり最後は自由意志の話が出てきました。
意識やクオリア、自己、自由意志。
これらを脳から解明するのがラマチャンドラン博士の最終目標のようです。

自由意志といって避けては通れないのがリベットの実験です。
脳の運動野には身体がマッピングされていて、体の筋肉を動かすとき、運動野の対応する部分が活性化します。
C:\Users\takata\AppData\Local\Microsoft\Windows\INetCache\Content.Word\Motor_homunculus-ja.png
この部分を一次運動野と言います。

一次運動野の前にあるのが運動前野です。
ここは一次運動野に信号を送る準備をする領野です。
意識は前頭前野にあると考えられています。
たとえば、手首を動かそうと意識で考えたとします。
そのメッセージは前頭前野から運動前野、一次運動野に伝わって、そこから筋肉に伝えられて体が動きます。

運動前野に現れる脳波を運動準備電位といいます。
筋肉が収縮するときの電位を筋電位といいます。
リベットの実験では、被験者に好きなタイミングで手首を動かしてもらって、このときの運動準備電位と筋電位を測定します。
その結果がこれです。


筋肉が動いた時点を0とすると、その550ミリ秒前に運動準備電位の脳波が出ていることがわかります。
問題はこっからです。
では、被験者が手首を動かそうと思ったときはいつでしょう?
それは、ここです。

筋肉が動く200ミリ秒前でした。
これの何が問題化というと、被験者が「動かそう」って思う350ミリ秒前から脳波がでてるんですよ。(-550を示す)
「動かそう」と思ったのは意識ですよね。
被験者は、自分の意志で、好きなタイミングで「動かそう」と思ったんですよね。
これが全ての始まりですよね。
ところが「動かそう」って思う350ミリ秒前から脳波が出てるんですよ。
これを素直に解釈すると、この脳波が意識に「動かそうと思え」って命令して、それを受けて意識は「動かそう」って思ったってなりますよね。
つまり、自由意志なんて存在しないんです。
これがリベットの実験です。

さて、ラマチャンドラン博士といえば、巧妙な実験を考えるのが得意です。
ラマチャンドラン博士がリベットの実験の話を聞いて考えた面白い実験があります。
それは、被験者にさっきの脳波をリアルタイムで見せたらどうなるかって実験です。


被験者には、さっきと同じで、好きなタイミングで手首を動かしてもらいます。
被験者が動かそうと思った瞬間がここ(赤矢印)ですよね。
脳波計を見ていたら、自分が動かそうと思う350ミリ秒前(青矢印表示)から脳波が立ち上がります。
その脳波が出てくるのを見てたら「動かしたい」って思ってきて、手首を動かすんですよ。

「えぇ、どういうこと?」
たぶん、本人はそう感じるでしょう。

「よし、動かそうなんて思わないぞ」って思ってたら、脳波はピクリともしません。
今度は、「脳波が出ても、絶対動かさないぞ」って強く思います。
でも、どんなに強く思っても、脳波が出たら、その350ミリ秒後には「手首を動かそう」って思ってしまいます。

「え~、俺には自由意志はないのか!」
「俺の心を操るおまえは誰だ!」

たぶん、最後には発狂するでしょう。
さて、こんなことが本当に起こるんでしょうか?
これが今回のテーマです。
自由意志実験で発狂した男の話
それでは、始めましょう!

僕らは、今、エデンというメタバースを開発しています。
エデンには、意識を持ったAIアバターが住んでいます。
これがプロジェクト・エデンです。
プロジェクト・エデンがいよいよ完成に近づいてきて、最初のデモに選んだのがリベットの実験です。
つまり、リベットの実験をメタバースで完全再現するんです。
AIアバターはマインド・エンジンという心を持っています。
マインド・エンジンは、プログラムで出来た心なので、内部の動きを客観的に観察できます。
そこで、リベットの実験をプログラムで再現しながら処理の流れを追うことで、自由意志の謎を解明します。
詳しい内容は、第494回でしてますので、興味がある方はそちらもご覧ください。

今回は、これと同じことを、ラマチャンドラン博士の考えた実験をしてみようと思います。
ところで、この思考実験、実際に行ったのかどうかが気になりますよね。
じつは、この実験、以外と難しいんですよ。
どこが難しいかというと、脳波計のデータを解析してリアルタイムで表示するところです。
だから、まだ、誰もこの実験をした人はいないそうです。


それじゃぁ、まずは、プロジェクト・エデンでのリベットの実験から説明します。
リベットの実験の肝は、「動かそう」って思ったタイミングをどうやって測定するかです。
それには高速で回転するタイマーを使います。
C:\Users\takata\AppData\Local\Microsoft\Windows\INetCache\Content.Word\18タイトルなし.png
回転する黒丸を見てもらって、「今だ」って思った時の位置を覚えておいてもらいます。

ここで、自発的に動くときの神経の挙動について説明します。
たとえば、腕を動かそうと思って動かすとき、意識は、関節からのフィードバック信号を受け取ります。
これで、見てなくても「今、腕を45°動かした」ってわかります。
つまり、意識が動かすときは、必ず、どれだけ動かしたかって結果をフィードバックとして受け取るんです。
そして、フィードバックを受け取った時、意識は「動かした」って感じるんです。
この仕組みによって、この辺で止めようとか、もう少し動かそうとかって意識で自由にコントロールできます。
これが意識的な行動、または自由意志による行動です。

じゃぁ、逆に意識しない行動はどうでしょう?
それは、たとえば熱い鍋に触って、思わず出を引っ込めるときとかです。
いわゆる脊髄反射です。
この時、意識するまえに、先に手が動きます。
意識するのは、動いた後です。
意識的な行動との違いは、どれだけ手を引っ込めようとかって意識が自由にコントロールできないってことです。
これが無意識の行動、または自由意志でない行動です。

ここで、僕が提唱する心のモデルについて説明します。

人は、目で見た現実世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。

仮想世界というのは、コンピュータで作るとしたら3DCGです。
たとえば、目のまえにリンゴがあるとすると、目からの情報をもとに、無意識が仮想世界に3Dオブジェクトのリンゴをつくるわけです。
これは、目に見えるものだけじゃありません。
自分の体も仮想世界にあります。
仮想世界の自分の体は、実際の体とつながっています。
ただ、意識が直接認識するのは仮想世界の体です。
意識が仮想世界の体を動かそうとすると、それにつながってる実際の体が動くわけです。
これって、さっき説明した一次運動野と同じですよね。

一次運動野の隣には一次体性感覚野があります。

感覚野も体とつながっていて、関節からのフィードバック信号はここで戻されます。
意識は、それを受けて、どれだけ関節が動いたかって感じます。
つまり、脳の中には身体の仮想モデルがあって、意識は、身体モデルに対して動けと指令を出したり、動いた結果のフィードバック信号を受け取って体を動かしたと認識するわけです。

これは体を動かす場合じゃなくて、見る場合も同じです。
意識が世界を見る場合は、頭の中の仮想世界を見ます。
仮想世界は、目に見える現実世界を再現したものです。
でも、現実世界をそっくりそのまま再現するのは不可能です。
どういうことかというと、眼球が一度にはっきり見えるのは角度にして1度。
腕を伸ばして親指を立てた時の爪ぐらいの範囲しかないんです。

網膜には錐体細胞と桿体細胞があります。
錐体細胞は色を識別する細胞で、桿体細胞は明暗、つまり白黒を識別する細胞です。
そして、錐体細胞は網膜の中心付近に密集しています。
つまり、目に見えるうちの中心の1度の範囲しか色を感じてないんです。
はっきりと見えるのも中心だけです。
周縁部は、白黒でぼやけています。
でも、今見てる世界、全部色を感じてるし、隅々までちゃんと世界が存在してるって感じますよね。
これを見てください。
(動画略)
右の映像で小さい丸が細かくうごいていますよね。
つまり、この小さい丸が、眼球が一度にはっきりと見える範囲です。
左の映像は、眼球が実際に見てるものです。

つまり、実際に見える小さい部分をつなぎ合わせたのが右の画像です。
僕らが感じてるのはこれですよね。
つまり、僕らが見てる世界って、現実世界そのものじゃないんですよ。
現実世界の切れ端をつなげて作り上げられた仮想世界ってことなんです。

これって、本当の今の世界じゃないですよね。
過去に見たところと今見たところが混在してるんです。
なんと、古いところだと10分以上前の世界が含まれるそうです。
まぁ、これでもたいていは問題ないんですけど、問題になるときがあります。
それは、今の瞬間を確認しようとするときです。
リベットの実験だと、タイマーを見るときです。

タイマーを見るのは意識的な行動です。
さっき、意識的な行動は関節からのフィードバックを受けたとき、行動したと認識するっていいましたよね。
見るときも同じです。
違うのは、関節からのフィードバックじゃないってとこです。
じゃぁ、何のフィードバックかというと、無意識が世界をつくったってフィードバックです。

今、意識がタイマーを見ようとしたとき、そのタイマーが10分前に作ったものだったら困りますよね。
最新の時刻を示して欲しいです。
だから、意識が「今、見よ」って思ったとき、無意識は、意識が見ようとしてる部分を最新の世界に書き換えるんです。
そして、書き換えが完了したとき、意識にフィードバック信号を返すんです。
意識は、それを受けて、「今、見よ」って思うわけです。

それがこの位置です。
わかりましたか?
もう一回説明しますよえ。

意識が「今、見よ」って思いついたのはここです。

それと同時に、無意識は仮想世界の中のタイマーを最新に書き換え始めます。
そして、350ミリ秒後に最新のタイマーが完成しました。
それが、このタイミングです。

そして、このタイミングで無意識は意識にフィードバック信号を返します。
この時、初めて、意識は、「今、見よ」って認識するんです。
そして、タイマーを見るんです。
だから、意識が「見よ」って最初に思った瞬間と、実際にタイマーを見た瞬間との間に350ミリ秒のタイムラグが生じるんです。
タイムラグの原因は、最新のタイマーをつくるのに350ミリ秒かかってたからです。
これがリベットの実験の真相です。

さて、今日のテーマはリベットの実験じゃないです。
これを基にしたラマチャンドラン博士が考えた思考実験です。
それは、この脳波を被験者が見たらどうなるかって実験でしたよね。
被験者には、好きなタイミングで手を動かしてもらいます。
その時、脳波計もずっと見ていてもらいます。

リベットの実験から、「手首を動かそ」と思ったのは、このタイミングですよね。

もし、被験者が、この脳波をずっと見てたとしたら、自分が「今、動かそ」と思う350ミリ秒前に立ち上がる脳波を見ることになります。
脳波が出てから、「今、動かそ」と思うってことになります。
本当に、そんな風に感じるんでしょうか?

それじゃぁ、これを検証しますよ。
「今、動かそ」と思いました。
その時、脳波が立ち上がります。

意識は、これを見るわけです。
でも、思い出してください。
意識が見るのは、現実世界じゃなくて、仮想世界でしたよね。
仮想世界は無意識が作ります。
無意識は、現実世界からの視覚情報をもとに仮想世界をつくります。
ただ、仮想世界を作るのに、どうしても時間がかかります。
それが、350ミリ秒です。
つまり、じっと脳波計を見ていたとしても、現実世界の脳波計と、意識が見てる仮想世界の脳波計ではタイムラグが生じるんです。
それじゃぁ、そのタイムラグがわかるように現実世界の脳波計と仮想世界の脳波計をずらして示します。

上が現実世界で下が仮想世界です。
上の現実世界というのは実験者、または外部の観察者が見ている世界です。
そして、下の仮想世界は、被験者の意識、または主観が見てる世界です。

被験者は、「今、動かそ」って思いました。
それがこの位置です。

ただし、これは現実世界の脳波計です。
被験者が見てるのは仮想世界の脳波計です。

被験者が見てる脳波計は350ミリ秒遅れるので、この時はまだ脳波が動いていません。(下の三つのグラフを延長しておく)
無意識は現実世界の脳波計を仮想世界に再現して、完成したタイミングで意識にフィードバック信号を送ります。
それがここです。

現実世界で観察してるものから見れば、脳波が立ち上がった350ミリ秒後です。
ところが被験者の意識が見てる脳波計だとここです。

つまり、被験者の意識がみてる世界だと、「今、動かそ」と思った瞬間に脳波が立ち上がるわけです。
自分が何か思った瞬間、何らかの脳波が出たってだけです。
これだと、誰かに操られてるとか感じることもありません。
被験者に取ったら、当たり前のことが起こるだけです。

じゃぁ、ラマチャンドラン博士は何を間違ってたんでしょう?
それは、被験者が見てる世界も、実験者が見てる世界も、どっちも同じだと思ってたことです。
さすがのラマチャンドラン博士も、まさか、今、見てるこの世界が仮想世界とは考えもしてなかったんです。
ラマチャンドラン博士だけでなく、誰もが、今見てる世界は現実世界だと信じて疑っていません。
だから自由意志がないとかっておかしな結論になるんです。

でも、今見てる世界が仮想世界だとすれば自由意志があることになります。
これは、僕らが直観的に感じてる世界ですよね。
だって、じゃんけんでグーを出したいと思ったらグーを出すことができます。
これができるってことは、自分で考えた通りに行動できるって何よりの証拠です。

それに、もし、意識が直接、現実世界を見てたとしたら、どんな世界を見てましたか?
(動画略)
それは、この左側の世界ですよ。
世界は、こんな風に見えないですよね。
右みたいに世界全体があるように見えますよね。
これが、意識が見てるのは仮想世界だという何よりの証拠です。

はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!