第50回 ペッパー君の感情はどこが間違ってるの? 〜ペッパー君のおかしな感情?!


ロボマインド・プロジェクト、第50弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回のテーマは感情です。

人間と他の動物の違いは、感情です。
人間は、複雑な感情を持ってます。
ロボマインド・プロジェクトのテーマの一つも感情です。

感情を組み込んだロボットは、いっぱいあります。
有名なのは、ソフトバンクのロボット、ペッパー君です。
ペッパー君には、豊かな感情が組み込まれてるそうです。
でも、ペッパー君、最近、元気ないですよねぇ。
僕がよく見かけるソフトバンクショップでは、ショップの隅で、いつもうなだれてます。

どうしたんでしょう、ペッパー君。
人間のような豊かな感情があるんじゃなかったの?
人と、生き生きとおしゃべりするんじゃなかったの?

もしかして、ペッパー君の感情って、どこか、間違ってるじゃないの?
それでは、今回は、ペッパー君の感情、どこか間違ってるとこがないか、確認してみましょう。

これが、ペッパー君の感情の基になってる図です。

すごいでしょ。

複雑ですよねぇ。
これだけ複雑な感情を持ってるなら、もう、人間と同じっていってもいいですよね。

ペッパー君の感情、いろんな感情を、丸く並べているようですね。
感情でなくて、色を丸く並べた図はあります。
色相環っていいます。

ペッパー君の感情の図は、色相環に似ていますよね。
でも、それって、正しいモデルなのでしょうか?
感情って、こんな風に丸く並べれるものなんでしょうか?

色の違いって、光の波長の違いですよね。
感情も、色みたいに、何かの順に並べられるものでしょうか?

ペッパー君の感情を見ていると、たとえば、「がっかり」の隣に「悔しい」があります。
どちらもネガティブな感情という意味では近いといえます。
感情にも、光の波長のようなものがあって、それが少しずつ変化すると、「がっかり」から「悔しい」に変わるんでしょうか?
なんか、違う気がするんですよねぇ。

たしかに、「怒り」の感情が、大きくなれば「激怒」となります。
これは、一つの感情の大きさの変化として捉えていいと思います。

でも、「がっかり」が大きくなると「悔しい」になるってことではないと思います。
それでは、この二つの感情を、もう少し詳しく分析してみましょう。

まずは、「がっかり」について、考えてみましょう。
たとえば、「遠足が、雨で中止になってがっかりした」とかいいますよね。

「遠足」は楽しいイベントなわけです。
期待してたわけです。
それが、中止になって、楽しいことが起こらないとわかった場合に沸き起こる感情が「がっかり」というわけです。

ほかには、たとえば、「美味しそうなメロンをもらったけど、全然美味しくなくて、がっかりした」とか。
これは、美味しいと期待してたけど、期待を裏切られたわけですよね。

僕が、サラリーマン時代、20年以上前ですけど、後輩が、「今年の新入社員、めっちゃ可愛い娘、いますよ」って言ってきたことがありました。
「広末涼子そっくりな子、いましたよ」って。
ほんで、楽しみに待ってたけど、どこにも広末涼子がいなくてがっかりしたってこと、ありました。
ただの、毛、短いだけの女の子やったらいたんですけど。
これも、「がっかり」ですよね。

楽しいイベントとか、美味しいものとか、かわいい女の子とか、どれも、いいことですよね。
プラス感情です。
その逆は、マイナス感情です。
プラス感情になることを予測してて、それが、実際は、予測より低ければ「がっかり」となるようです。
「がっかり」の感情を構成するものとして、
(ホワイトボードに書く)
がっかり
1. 予測
2. 実際の結果
3. プラスマイナス感情
これらが必要なようです。

それでは、つぎは、「後悔」を考えてみましょう。
たとえば、「勉強をせずに、遊んでばかりいたから、大学受験に落ちて後悔した」とかです。

他には、たとえば、遠足のお弁当で、いつもは入ってないフルーツが入ってて、最後に食べようと取っておいたら、カラスが飛んできて取られてしまったとか。
「あ~、もっと早く食べといたらよかったのに」って。
これも、後悔ですよね。

自分が欲しいものがあったわけです。
それを手に入れたら、嬉しいわけです。
プラスの感情となるわけです。

それが、実際には、手に入らなかったわけです。
それだけじゃなくて、手に入れようと思ったら、手に入れることもできたわけです。
手に入れる行動を取っていれば、手に入れることができたんです。
その行動をとらなかったのは、他でもない、自分なわけです。

遊んでないで、もっと勉強しといたらとか。
美味しいフルーツを、先に食べてたらとか。

過去にさかのぼって、別の選択肢を選べるなら、その選択をしてたのにって。
これが「後悔」です。

「がっかり」と「後悔」。
共通項はありますけど、違うといえば、違いますよね。

共通項は、予測です。
プラス感情の予測です。
そして、実際の結果です。
実際の結果が、予測より悪くなったということです。

この部分だけ取り出せば、「がっかり」となるわけです。
大学受験に落ちても、美味しいフルーツが食べれなくても、「がっかり」ともいえます。

異なるのは、悪い結果となったことに原因があるということです。
それと、その原因が、自分の選択した行動によって起こったということです。

つまり、後悔の感情を理解するには、原因と結果という概念を理解する必要があります。
そして、自分の行動は、自分の意志で選択できるということ。
この二つを理解する必要があるわけです。

自分の意志で行動を選択できるとは、これは、自由意志です。
人間には、自由意志があるのか、無いのかという議論がありますが、僕はあると考えます。
詳しくは、第39回~42回の「自由意志は存在するか?」をご覧ください。

自由意志で自分の行動を選択し、その結果、悪い結果となる。
悪い結果となったとき、「もし、あの時、別の行動を取っていれば、悪い結果とならなかったのに」と思うことが後悔です。

こう思えるには、まず、時間の概念が理解できないといけません。
時間は、過去から現在、未来へと一方にのみ進ものです。
未来から過去には、絶対に進みません。

そして、原因と結果の時間的関係は、原因があって、その後に結果が生じます。
つまり、結果を変えるには、原因を変える必要がありますが、一旦、結果がでてしまうと、原因を変えることはできません。
そして、その原因を作り出したのは、自分の行動、自由意志による自分の行動というわけです。
ところが、その原因は、結果が出たあとからは変更することができないわけです。
自分の希望は、叶うことがないと分かるわけです。
このとき出てくる「あぁ」という声にならない思い、これが「後悔」というわけです。
「あぁ、あのとき、こうしておけばよかったのに」という思いが「後悔」というわけです。

まとめます。
「後悔」の感情を理解するには、次の3つの概念を理解できる必要があります。

(ホワイトボード)
後悔
1.時間
2.原因と結果
3.自由意志

これらが理解できて、初めて「後悔」が理解できるわけです。
どうでしょう。
最初のペッパー君の感情の図を思い出してください。

光の波長が変化して赤から青に色が変化するように、「がっかり」から「後悔」に感情が変化する図でしたよね。

感情って、光の波長の関係のような1次元で表せるものじゃなくて、時間とか、原因、結果の関係、自由意志といった構成要素が関係して、これらの組み合わせで生まれるわけです。

ロボマインド・プロジェクトでは、感情は、より広い意味に拡張して心理パターンと呼んでいます。
心理パターンは、「嬉しい」や「悲しい」だけでなく、「がっかり」や「後悔」、さらには善悪といった倫理観までも含んでいます。
心理パターンについては、第13回「好かれるAI、嫌われるAI」を参考にしてください。

ロボマインド・プロジェクトでは、時間や、原因結果といった基本的な概念のモデルをつくるところから始めています。

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それでは、次回もお楽しみに!