第502回 非認知能力 〜言語思考社会の限界

ロボマインド・プロジェクト、第502弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

日本には約150万人の引きこもりがいると言われています。
平均年齢は35歳だそうです。
引きこもりって若者って印象でしたけど、いまや中高年の問題です。
若い世代だけの問題じゃなくて、現代社会が抱える根本的な問題と言えます。

引きこもりだけならいいですけど、犯罪を犯す人も出てきています。
たとえば2019年に起こった京都アニメーション放火事件は、死者36人、負傷者32人もの被害を出しました。
犯人は生活保護を受けて、家賃4万円のアパートで暮らしていた41歳の男です。
自分の応募した小説が一次審査で落とされたことを逆恨みしてたようです。

安倍元首相を銃撃した山上被告もよく似ています。
母や統一教会に多額の寄付をした家庭が崩壊したことが原因だそうです。
ただ、統一教会の被害者は他にもいっぱいいて、被害者の会もあります。
でも、山上被告はそういう会に属することはなく、一人アパートにこもって銃や爆弾をつくっていました。
どちらも40代で人生がうまく行ってない弱者男性です。

全然ちがうパターンとして「頂き女子」りりちゃんの事件がありました。
マッチングアプリなどで知り合った男性から、1億5000万円ものお金をだましとっていました。
さらに、その手法をマニュアルにして販売したことで話題となりました。
そこには、恋愛感情を利用して弱者男性からお金を巻き上げる手法が書かれていました。
同じようなマニュアルは、2000年代のアメリカでナンパ術マニュアルとして既に存在していました。

興味深いのは、どちらも騙す方の自己評価がものすごく低いんです。
マニュアルには、こんな自分でもモテることで自信につながるってことを強調して書いてあります。
そうやって稼いだお金をりりちゃんは何に使っていたかというと、ホストにつぎ込んで、必死に愛されようとしていたんです。

この社会、何か間違っていますよね。
この問題を橘玲は環境問題と同じだといいます。
今回も、橘玲の『DD論「解決できない問題」には理由がある』からです。

現代社会は効率を求めてどんどん発展してきました。
そうやって過剰に生産されて、使われないものがゴミとして大量に排出されます。
このままでは環境が壊れてしまうというのが環境問題です。
だから、ゴミをリサイクルして社会に還元する仕組みをつくろうとなったわけです。
これが持続可能な社会です。

たとえは悪いですけど、橘玲は、社会にうまくなじめない人はゴミと同じだと言います。
つまり、解決すべきは、社会から取り残された人たちを再び社会に還元する仕組みだということです。
今の社会にはその仕組みがないわけです。
だから、社会から孤立して引きこもりになったり、時には他人を巻き込む犯罪を犯すんです。

じゃぁ、そんな現代社会を作り上げた根本原因は何なんでしょう?
それは、言語思考です。
ちょっと話が飛躍したので、丁寧に説明します。
これが今回のテーマです。
言語思考社会の限界
それでは、始めましょう!

本の中では、その他の最近の事件として、神奈川の知的障害者施設で職員によって入所者19人が刺殺された事件や、大阪の心療内科クリニックが放火されて26人が死亡した事件などを取り上げています。
共通するのは、犯人はちゃんとした仕事に就いていなくて、低収入で孤独なことです。
橘玲は、これらを「下級国民のテロリズム」と呼びます。
それから、もう一つ興味深い特徴があります。
それは、なぜ、そんな犯行に及んだのか納得のいく説明がされないことです。
山上被告が統一教会を恨むのはわかるのですけど、なぜ、元首相を暗殺したのか理由はしっくりいきません。
知的障害者を殺害した犯人は、「国の負担を減らすために安楽死させたのだ」といいますけど、これもほとんど理由になっていません。

ここで橘玲は興味深い点を指摘をします。
「はたして、我々は自分の行動を合理的に説明できるのであろうか」っていうんです。

そう言われて思い出す脳実験があります。
右脳と左脳をつなぐ脳梁を分離する分離脳という手術があります。
C:\Users\takata\Desktop\rectangle_large_type.jpg
そして、患者にはそれぞれの脳に別々に指示することができます。
たとえば、ある患者の右脳だけに「歩け」って書いたカードを見せると席から立ちあがって歩き始めました。
そのとき、「どこに行くのですか」と質問します。
会話をするのは言語を司る左脳です。
でも左脳は「歩け」のカードを見せられたことを知りません。
すると、なんと「喉が渇いたからコーラでも買いに行こうと思って」って答えたんです。
本当にそう思って言っているようなんです。
どうも無意識がつじつまの合うストーリーを作り上げてたようなんです。

でも、まぁ、これは右脳と左脳を分離した特殊な人だから起こってることで、普通はこんなこと、起こらないですよね。
ところが、そうでもないようなんです。

僕はジムに通ってるんですけど、あるとき、パーソナルトレーナーがこんなことを言っていました。
最近来られたお客さんに、「なんでここに来ようと思ったんですか?」って質問したそうなんです。
そのジムの名前は「ウェルネス何々」とかって名前なんですけど、そのお客さんは「普段から健康に気を使ってて、ウェルネスって名前を見た時、ピンと来たから」って言ってたそうです。

その話聞いた時、「あっ、その人、ウェルネスって文字が目に入って、その場でそんなストーリーを作り上げたんやろなぁ」って思ったんですよ。
確かめようはないですけど、普段から脳の性質とか考えてるから、たぶん間違ってないと思います。

もう一つ、僕の幼稚園の時のエピソードを紹介します。
はっきり覚えてないんですけど、その日、僕は友達に噛みついたらしいんですよ。
たぶん、その友達が泣いて、それで先生に怒られたみたいです。
その日の午後、僕はそのことすっかり忘れて友達と遊んでました。
自分の腕に噛みついたら、腕に歯形が残るのが面白くて友達と見せ合ってました。
「そうや、先生にも見せたろ」って思って、先生に腕の歯形を見せたんですよ。
そしたら、「そうか、あなたは歯形をつけたくて友達に噛みついたのね」って言われたんです。
でも、僕はその時、今朝のことなんかすっかり忘れてました。
ただただ、歯形が面白いから自分の腕に噛みついてただけです。
今朝は、たぶん、ふと、友達に噛みついたらどうやろって思っただけやと思います。
それ以上、理由なんかないです。
ただ、先生にそういわれながら、「全ての行動には理由がないといけない」ってことがわかってきたんです。
そうやって、社会のルールってものを身につけていくんやと思います。

たとれば、積み木から手を離したら積み木が床に落ちる経験をして、物は落ちるってことを学ぶのと同じです。
自分の行動には理由がないといけないって学ぶんです。
だから、行動の理由を聞かれたとき、原因がないなんてことがあったらダメなんです。
そんなとき、とっさに「喉が渇いたから」とか「健康に関心があるから」とかって無意識が理由をでっち上げるわけです。
そのぐらい原因結果という理論的な思考が重要ってことです。
この社会では、理論立てて物事を説明できないといけないわけです。
そして、理論立てて説明する能力、これが言語化能力です。

そんな中、最近起こってる事件は、なんでそんなこと行動を取ったのか納得できる説明がされないんです。
だから、みんな不安で不気味に感じるんです。
でも、行動には理論的に説明できる理由がないといけないってことが幻想なんです。
少なくとも、それは左脳が作り出した社会にしかあてはまりません。

幼稚園の時、僕が友達に噛みついたのは、ただ、噛みつきたいって思っただけです。
自分の腕に噛みついたのは、歯形が付くのが面白かったからです。
それ以上の理由なんかありません。
それが幼稚園の僕が生きてた世界です。

でも、先生の生きてる世界は、全ての行動には理由がある世界です。
だから、無理やり出来事をつなげて、筋が通ったストーリーを作りたがるんです。
子供は、そんな大人の思考をマネして、いずれ、自分も同じように考えるようになります。
そうやって、いろんな出来事がつながっていくわけです。
生まれてから今までの出来事が一つのストーリーとなってつながります。
それが、自分です。

子供の頃の記憶って、あまりないですよね。
なんでかっていうと、記憶がつながってないからです。
さっきも言いましたけど、子供の頃の行動って、その場の思いつきです。
いってみれば、自分がバラバラなんです。
それを無理やりつなげて作り上げられたのが自分です。
子供の頃の出来事は、自分とつながってないから思い出せないんです。

それと同じで、夢も覚えていないですよね。
何かのきっかけで思い出すぐらいです。
これは夢の中の世界と、現実世界とがつながってないからです。

こう考えると、自分とか社会って、左脳が理解できるように作った一種の幻想と言えますよね。
少なくとも唯一絶対正しいものというわけじゃありません。

さて、橘玲は教育についても言及します。
最近は、「1/2と1/3とどちらが大きいか?」って問題を間違う小学生が増えてきたそうです。
もちろん、小学3年生より5年生の方が正答率は高くなります。
ただ、小学3年生で間違う割合と、5年生で間違う割合があまり変わらないそうです。
これ、どういうことかっていうと、教育しても効果がない子が一定の割合いるってことです。

学校教育というのは、社会で必要な理論的な思考を学ぶところです。
ところが、教育によって理論的思考が身につかない子が一定の割合いるわけです。
そんな子が、現代社会でうまくなじめず、ちゃんとした仕事に就けなくて引きこもりになったり、事件を起こしてるわけです。
さらに、なんで自分がこんな事件を起こしたのか、言葉で明確に説明できないわけです。

理論的思考というのは左脳が得意な処理です。
じゃぁ、右脳は何が得意でしょう。
それは、たとえば絵です。
これは、普通の8歳の子が描いた馬の絵です。

こっちはレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた馬の絵です。

さすがですよね。
リアリティが全然違います。
じゃぁ、これは誰が描いた絵かわかりますか?

ダ・ヴィンチの絵に似て、躍動感とか疾走感が見事に表現されてますよね。
実は、これ、5歳の少女、ナディアが描いた絵です。
じつは、ナディアは自閉症のサヴァン症候群です。
知能が低くて言葉はほとんどしゃべれないですけど、絵を描かすと天才的な才能がありました。
ところが、治療して言葉がしゃべれるようになると、絵の才能が失われたそうなんです。
つまり、左脳で理論的思考を身に着けると、右脳の絵の才能が失われたわけです。

理論的思考というのは、社会で役に立つ能力なので現代社会では絶対必要です。
絵を上手にかけても、それで生きていけるとは限りません。
それより、社会で役に立つ理論的思考を身に着けたほうがいいということです。

ただ、これからの社会、役に立つ仕事はAIがやってくれます。
理論的思考が得意な人はそれでもいいですけど、そうじゃない人にまで、無理やり理論的思考を押し付ける必要はあるんでしょうか?

出来ないのに無理やり押し付けて、それで社会から落ちこぼれたらおしまいというのが現代社会です。
そうじゃなくて、理論的思考ができない人も取り込める社会にすべきじゃないでしょうか?
それが持続可能な社会です。

それにはどうしたらいいでしょう?
最近、言われるようになったのが非認知能力です。
認知能力というのが理論的思考といった学校教育で学ぶことです。

非認知能力というのは、意欲とか、自信、集中力、それからレジリエンスといわれる回復力のことです。
一言で言えば、安定した心です。

たとえ理論的思考ができなくて、役に立つ仕事ができなくても、そういった安定した心をもっていれば、自暴自棄になって事件を起こしたりすることはありません。

集中力とは、何かに夢中になることです。
夢中になれるものを持っていれば、孤独や寂しさを感じることはありません。
ナディアは夢中になって絵をかいていたと思います。
それを取り上げて、しゃべられるように訓練したわけです。
それでも、ちゃんとした仕事に就けるとはかぎりません。
そんな人たちが現代社会では取り残されているわけです。
それより、夢中になって絵を描かすべきなんですよ。
そうやって、安定した心を持つようにしたほうが、幸せに生きることができます。

「頂き女子」のマニュアルにはターゲットについてこう書かれてあります。
それは、趣味がなく生きる意味を見いだせてない人。
それから、寂しがりや孤独を感じてる人。
つまり、現代社会にうまくなじめてない弱者男性です。
そんな人に対して不幸な少女を演じて、「自分だけがこの子を救うことができる」と思わせるわけです。
つまり生きがいや夢を与えてあげるわけです。

こんなやり方間違っていますけど、逆に言えば、生きがいや夢を持てないようになっているのが現代社会と言えます。
りりちゃんに与えてもらわなくても、自分で好きなこと、夢中になれることを持てればいいんです。
夢中になれるものがあれば、一人でも孤独で寂しいと感じることはありません。
これからの時代、役に立つ人を育てるってことよりも、しっかりとした安定した心を育てるってことを目指すべきなんですよ。
それが誰も取りこぼさない、持続可能な社会です。

最後に医療少年院の少年の話を紹介します。
そこにはIQが低くて、境界知能とか軽度知的障害といわれる子が多くいます。
IQが低いというのは理論的思考ができなくて、現代社会についていけない人ということです。
そこで出会ったある少年は、地元の建設会社で働いていましたけど、仕事が覚えられなくて解雇されました。
そのあと、特殊詐欺の受け子の仕事を始めたそうです。
ところが、一度、受け取りに失敗して、それをごまかすために恋人から50万円借ります。
その恋人は、美容師の専門学校に入る学費としてアルバイトして貯めたお金を貸したそうです。
一か月で返すといって借りたものの返せなくて、夜の公園で彼女を何とか説得しようとしたんですけど、「嘘つき! 警察に言ってやる!」と叫ばれて近くにあった石で思わず彼女の後頭部を殴って殺害してしまったそうです。
その少年は、裁判で、最後にこう言ってたそうです。
「知的障害だからといって刑を軽くしてもらわなくていいです」って。

たぶん、本当は心が優しい少年なんだと思います。
こんな子を切り捨てるしかない社会は、どこか、間違っていますよね。
左脳のIQだけで人の価値を決める社会は、そろそろ限界に来ているんじゃないでしょうか。


はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!