第51回 脳と心の進化論① 頭に何かが刺さった人って、どうして、いつもこうなの?! 〜頭に刺さった人あるある


ロボマインド・プロジェクト、第51弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

フィニアス・ゲージって知ってます。
(フィニアス・P.ゲージ 米国鉄道建築技術者 1823-1860)
この人なんですけどね。

この人、何をやってたかってたか人かってうと、アメリカ大陸横断鉄道を作ってた人なんですよ。

手に鉄の棒、持ってるでしょ。
直径3cmで長さ1mぐらいあるんです。
岩に深い穴あけて、この棒で火薬を詰めて、岩を爆破するんです。

この棒、先が鉛筆みたいに尖ってて、後ろは平になってるんですよ。
細かい作業は、先っぽを使って、最後に後ろの平らな方で、火薬を突き固めるんですよ。

その日も、火薬を突き固めてたそうなんですよ。
どうも、上手く固まらなかったみたいで、ちょっと覗きこんだみたいなんです。
こっちが、尖ってる方ね。

「ちょっ、気ぃつけや」
「大丈夫やって」
コツコツッ

「ホンマに、気ぃつけや」
「だから、大丈夫やって言うてるやろ」
コンッ!コンッ!
ってやってたんです。

ほんなら、
カチッ

あれ?
なんか火花でたぞ?

って思った瞬間、火薬がドーンってなって、鉄の棒がボーンって飛びだしてきたんですよ。

先っぽがとんがってるでしょ。
それが、顔めがけて、ボーンって飛んでくるんですわ。

どうなったと思います?

続きは、次回を、お楽しみください!

って、うそうそ。

ちゃんとやりますよ。
先っぽが尖がった鉄の棒が、ゲージさんの左頬に突き刺さって、そのまま、頭のてっぺんから、ポーンて抜け出たんですわ。

こんな感じですわ。
こりゃ、びっくりしますわね。

その鉄棒は、頭を突き抜けた後、そのまま25mも飛んだらしいんですわ。
落ちた鉄棒見たら、もう、血と脳にまみれてたそうなんですよ。
頭を貫通したんやから、そりゃ、即死ですよね。

ところがね、医者が急いで駆けつけたとき、ゲージさんは、椅子に座ってたそうなんですよ。
ほんで、みんなに、今、あったこと、しゃべってたそうなんです。

「鉄棒が、ボーンてきて、頭ぬけていったんですわ」
「ほら、これ、見てみ」
とか言うて、頭をみんなに見せてたらしんですわ。
医者が見たとき、頭の穴から脳が脈打ってるのが見えたそうなんです。

馬車に乗せて病院にいくときも、
「いや、こんなん、かすり傷ですから」
とかいうて、ゲージさん、自分で歩いて馬車に乗りこんだそうなんですよ。

いやぁ、おっとこ前ですよね。

まぁ、さすがにその後、10日ほどは、昏睡状態になったらしいんですけど、2週間後には、起き上がって歩けるようになったらしいんですわ。
ほんで、半年後には、社会復帰したそうなんですよ。

脳って、人間にとって、一番大事なとこやないですか。
よう、交通事故とか頭打ったら、後遺症がでたり、場合によったら死んだりするじゃないですか。
でも、ゲージさんは、なんで、大丈夫やったんでしょうね。

それはね、損傷した、脳の場所なんですよ。

これが脳なんですけどね。
脳って、おおざっぱに、内側と外側にわけられるんですよ。
脳いうて思い浮かべるんは、外側の部分で、それを大脳っていいます。

内側には、小脳とか、脳幹っていうのがありましてね、生きて行くには、ここが一番重要なんです。
小脳は、体の平衡感覚を保つのに使ったり、脳幹は、呼吸とか、血圧とかコントロールしたりするとこです。
だから、この辺りをやられると、かなりヤバいんですよ。

それでは、ゲージさん、脳のどこをやられたんでしょう?

これが、鉄棒が貫いた場所です。
脳の前の方ですよね。
生命維持を司る脳幹や小脳は損傷してないみたいです。
だから、すぐに亡くなったり、寝たっきりとかには、ならなかったんです。

よかったですねぇ。
こんな大けがしても、社会復帰できるようになるまで回復したんですよ。

でも、これだけの傷を負って、本当になにも変わらなかったんでしょうか?
じつは、変わったとこもあるんですよ。
それは、心というか、性格なんですよ。

その話をする前に、少し、脳の構造について勉強しときましょう。
まずは、人間の脳と、人間以外の脳を比べてみます。

これは、魚類からヒトまでの脳を表したものなんです。
見て欲しいのは、順番なんです。

魚類から始まって、両生類、爬虫類、哺乳類で、最後がヒトです。
これ、生物の進化の順に並べてるんです。

生命って、海で誕生したっていうじゃないですか。
魚のひれが足に進化して、陸上に上がれるようになって、イモリみたいな両生類になって。
さらに進化して、トカゲみたいな爬虫類になって。
さらに進化して、哺乳類になって。

脳のピンクのとこが、さっき説明した、小脳とか脳幹です。
生命の根幹となるとこを制御してるとこです。

だから、一番古い魚類では、ピンクの占める割合が大きいんです。
進化するにつれて、だんだん、青い部分が大きくなって、最後のヒトになると、脳の大部分が青でおおわれてますよね。
この青い部分が、大脳です。

魚のひれが足に変化して、さらに四本足の動物に進化して、やがて立ち上がって2足歩行になったりとかって。
生物の進化は、外形の進化だけじゃないんです。
脳も進化してるんです。

脳が進化してるってことは、どういうことかわかります?
今まで、認識してなかったことを認識できるようになるってことです。
生物が、見てる、感じてる世界も進化してるってことなんです。

そう言う観点から見ると、魚と人間は、見てる世界や、感じてる世界が全く違うかもしれないんですよ。
生物の見た目の進化は分かりやすいんですけど、生物が認識する世界が、どんな風に進化したのかって、ほんと、まだ、だれもよくわかってないんですよ。

そこを、何とか見ようとしてるのがロボマインド・プロジェクトです。
第30回~34回の「クオリアってなんだ?」シリーズは覚えていますか?
人が見たり、認識したりしてるのは、全てクオリアだって話でした。
人の意識が認識する世界は、クオリアでできてるってことです。

逆に言えば、人間以外の生物は、クオリアを見てないかもしれないんですよ。
第31回では、痛みのクオリアについて考えました。
熱さとか、痛みって感覚は、意識で感じますよね。
意識で認識するってことは、クオリアなんですよ。
ほんで、魚釣りして、釣り針が刺さった魚は、痛そうにもがいてるけど、あれって、本当に痛いのかなぁって話をしました。
人間が感じるような痛みを魚も感じてるかどうかなんて、実は、分からないぞって話なんです。

脳の形が、魚と人間じゃ、全然違いますよね。

こんだけ違えば、そりゃ、感じてる世界も違うはずです。
たぶん、魚は、痛くてもがいてるんじゃなくて、ただ、反応してるだけなんです。

じゃぁ、脳で、人間と魚で一番違うのは、どこでしょう。
それは、大脳ですよね。
大脳の大きさが全然ちがいます。
たぶん、大脳でクオリアとか作ってるんだと思います。

それじゃぁ、今度は、大脳について考えてみましょう。
哺乳類から、だんだん、大脳が大きくなってきますよね。
これが人間の大脳です。

それじゃぁ、哺乳類が進化する過程で、大脳のどの部分が大きくなってきたんでしょう。
それは、前頭葉です。

おでこの内側にある部分です。
この図を見てください。

ネコからキツネ、サル、ヒトと進化するにつれて、前頭葉が大きくなっていますよね。
つまり、ヒトとサルに一番の違いは、前頭葉にあるといえるんです。

ここで、ゲージさんの話に戻ってくるわけです。
この図です。

ゲージさん、鉄棒が貫いたのが、まさに、前頭葉でしたよね。

これだけの事故にも関わらず、ゲージさん、半年で社会復帰したんです。
でも、以前とは、すっかり変わってしまったようなんです。

以前のゲージさんは、とても優秀なひとだったそうなんです。
勤勉で責任感があって、部下からは、一番仕事ができて才能もあるって慕われていたみたいなんです。

ところが、事故の後、ゲージさんは、すっかり変わってしまったって言うんです。

礼儀知らずで、女の人に、卑猥な言葉を投げかけて喜んだり、以前のゲージさんなら、考えられない人間になったそうなんです。

他人の忠告には、一切耳を貸さなくて、しつこいほど頑固な面があるかと思えば、とても実行できないような事業をいくつも思いついては、途中で投げ出したりといった気まぐれな面もあったりとか。
計画性とか、知性とか、そういったものがほとんど消え去ったようなんです。

一言で言ってしまえば、人間らしさがなくなったということですよね。
事故後のゲージさんは、獣のようだって言ってた人もいます。

なぜ、こんなことになってしまったんでしょう。
原因は、前頭葉が損傷したことにあるのは明らかですよね。

どうやら、前頭葉にこそ、人間らしさの本質があるようです。
人間らしさって、具体的にどんな仕組みなんでしょう?

それについて、次回は、じっくり考えてみたいと思います。
それでは、次回もお楽しみに!