第510回 非認知能力って何?


ロボマインド・プロジェクト、第510弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

このチャンネルは主にAIについて語ってるんですけど、意外と教育関係者が見てくれてるんですよ。
今のAIは、どんどん頭がよくなった大学の入試問題ぐらいは簡単に解けるようになりました。
このままだと近い将来、人間をはるかに超える超知能が生まれるってのがAI業界の大方の見方です。
それに対して、第507回で、人間の心はそんな単純なものじゃないって指摘しました。
おそらく、それと同じ問題が今の学校教育にもあるんじゃないかって思うんですよ。

たとえば、学校では、テストでいい点数を取れるように勉強しますよね。
そこで評価されるのは点数をつけられる知能だけです。
でも、はたして、人間の価値って、テストの点数とかで評価できるんでしょうか?
人の心って、数値化できないけど、もっと大事なものがあるんじゃないでしょうか?
これが、僕がAIに感じてることと、教育関係者で学校教育に感じてることに共通することみたいなんです。

第502回「言語思考社会の限界」でもこのことを取り上げました。
今の日本には、引きこもりが150万人を超えて、その平均年齢は35歳だそうです。
もはや一部の若者の問題というより、社会が抱える構造的な問題と言えます。
その原因として、言語思考社会を指摘しました。
言語思考っていうのは、言葉や数値で考えることで、左脳が得意なことです。
その反対が右脳で、今まで右脳の重要性については何度も説明してきました。
そこで、第502回では、右脳とは別の心の重要な点を取り上げました。
それは、非認知能力です。
最近、よく聞く言葉ですけど、非認知能力って、意味がよくわからないです。
そこで、今回は非認知能力について徹底的にわかりやすく解説します。
これが今回のテーマです。
非認知能力って何?
それでは、始めましょう!


今回参考にしたのが、この本『非認知能力を育てる発達支援の進め方』です。

この本、第190回で紹介した僕の友達の天岸さんも著者の一人として加わっています。
天岸さんは、特別支援学校で先生をしていて、今は、遊びを通して発達障害や知的障害の心を育てる活動をしています。
非認知能力というのは、一言で言えば「心の安定性」のことです。
引きこもりというのは、社会についていけなくなったわけですよね。
そうならないようにもっと勉強しましょうじゃ根本解決になりません。
それより、少々のことがあってもへこたれない強い心、安定した心を育てるのが先決です。
強い心があれば、失敗してもあきらめずにもう一度挑戦したり、別の道を探したりできます。
行動している限り、チャンスが見つかったり、助けてくれる人が現れてきます。
人生というのは、そうやって自分で切り開くものです。
それができないのは、心が折れてしまうからです。
そこで、簡単に心が折れないような強い心、安定した心を育てる必要があるんです。

そういった安定した心、強い心に関係するのが非認知能力です。
それでは、まずは、学校教育も含めた心の教育の全体から考えていきます。
これが心の教育の全体像です。

一番わかりやすいのが「学びの育ち」の認知能力です。
これは記憶力とか理解力、計算能力とか運動能力のことです。
これらは全て学校で学ぶものですよね。
学校教育も、広い意味で心の教育の一部ってことです。
ただ、学校教育が対象とするのは、数値で評価できるものだけです。
だから、その子がどれだけの能力があるのか、見てすぐにわかります。

その隣にあるのが「心の育ち」の非認知能力です。
非認知能力に含まれるのは、好奇心とかやる気とかやり抜く力です。
どれも大事ですけど、数値化したり、テストで合格、不合格って言えるものじゃありません。
だから、今まであまり取り上げられることはありませんでした。
それが、社会のいろんなとこに歪みが出てきて、今まで大事なものを見落としてきたんじゃないかって言われるようになってきました。
それが、この非認知能力です。

そして、これらを支えるのが「心の安定」です。
これもわかりにくいですけど、逆を考えたらわかりやすいです。
「心が不安定」な子というのは、すぐに怒ったり泣いたりするような子です。
または、何に対しても興味、関心がなくてほとんど反応しないような子です。
内に閉じこもって、心が外の世界とつながってないんでしょう。
引きこもりや鬱の状態といってもいいです。

安定した心を持ってると、少々、嫌なことがあっても動じません。
心は外の世界に開かれています。
だから、何か面白そうなことがあると、興味、関心をもって行動します。
これが安定して健康な心です。

興味や関心、好奇心は非認知能力です。
非認知能力で興味をもったら、次に、もっと調べようって思います。
これが学習で、学習は認知能力です。
学習は継続することが大事です。
あきらめずにやり抜く力は非認知能力です。
こうやって認知能力と非認知能力は互いに補い合うことで成長していきます。
そして、その土台となるのが心の安定です。

心の安定が、どれだけ重要かわかりましたよね。
ただ、「心の安定」が重要といっても、具体的にイメージできません。
僕は学者じゃなくてエンジニアなので、具体的に触ったりイメージできるもので理解します。
エンジニアが安定といったときイメージするのは、たとえばフライホイールです。
弾み車ともいます。
フライホイールというのは、安定して回転させる仕組みです。
自動車のエンジンにも使われていますし、レコードプレーヤーにも使われています。

レコードのターンテーブルって、結構重いんですよ。
ターンテーブルが軽いと、ちょとした振動で回転速度が変わってしまいます。
だからターンテーブルは重いんです。
重いと回転が安定するんです。
これがフライホイールです。

フライホイールを使ったおもちゃも見てみます。

この、銀色の金属板がフライホイールです。
これをこうやって高速で回転させると、そのあと、タイヤがずっと回転しますよね。
この仕組みをつかうと、こんな風にダンプカーを走らすこともできます。

フライホイールの原理は、一度回転し始めるとなかなか止まらない慣性力です。
慣性力はエネルギーです。
重くて速く回転するほど、大きなエネルギーとなります。

心の安定も同じだと思うんですよ。
安定した心というのは、重くて高速で回転するフライホイールです。
一度動き出したら、少々のことがあっても止まりません。
不安定な心というのは、軽くてほとんど回転してないフライホイールです。
ちょっとしたことがあるとすぐに止まってしまいます。
これで、「心の安定」とはどういう状況下、具体的にイメージできるようになったと思います。
これを、心のフライホイール理論と呼ぶことにします。

次は、成功について考えてみます。
アメリカの心理学者、アンジェラ・リー・ダックワース教授は、中学の数学の教師もしていました。
そのとき、成績が優秀な生徒について調べたそうなんですけど、ある共通する特徴に気づいたそうです。
それは、頭の良さや生活環境は関係なかったんです。
その特徴は四つあります。

一つ目はGuts(ガッツ)です。
これは困難に立ち向かう「闘志」です。
二つ目は、Resilience(レジリエンス)です。
これは、失敗してもあきらめずに続ける「粘り強さ」です。
三つめはInitiative(イニシアチブ)です。
これは、自らが目標を定めて取り組む「自発」です。
四つ目は、Tenacity(テナシティ)です。
これは、最後までやり遂げる「執念」です。
これら四つの頭文字ををつなげて、GRITと呼びます。
GRITは、一言でいえば、継続する力です。
つまり、成功に一番重要なのは継続することです。
たとえ才能や環境に恵まれなくても、何か一つのことをずっと続けることさえできれば、成功するということです。
このGRITについて語った彼女のTEDトークは900万回以上も再生されています。
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GRITの四つの要素、どれも心の安定や非認知能力にかかわっていますよね。
それが結果として、学校の成績といった目に見える評価につながるんです。
心の安定や非認知能力がどれだけ重要かわかりますよね。
それじゃぁ、どうやって心の安定を育てるのか、フライホイール理論を使って、具体的い説明していきましょう。

行動というのは、外の世界への働きかけです。
何か行動をするとき、小さい子供は、心の支えを必要とすることがよくあります。
たとえば、好きなキャラクターの人形を握り締めるとかです。
ある子は、友達が楽しそうにトランポリンをしているのを見て、自分もトランポリンしたいと思ったみたいですけど、トランポリンに登る勇気がありませんでした。
どうするかと思って見ていると、近くにあったおもちゃの旗を手に持って登り始めたそうです。
その子にとって、旗が心の支えになっていたんです。

僕も同じようなことがあったのを思い出しました。
幼稚園の頃、ちょっと高いところから飛び降りるとき、必ず「トォー」って声を出してたんです。
これは、仮面ライダーがジャンプするときの掛け声です。
僕にとって、仮面ライダーが心の支えだったわけです。
ある時、兄から「お前、トォーって言わんとジャンプできひんやろ」って言われて、「そんなことないわ」って言い返したんですけど、本当にジャンプできるか不安だったんです。
でも、なんとか「トォー」って言わずにジャンプできました。
それ以来、ジャンプするとき、「トォー」って言わなくなりました。

フライホイール理論で考えると、最初の行動って、止まってるフライホイールを回転させることです。
いったん、フライホイールが回転し始めると、簡単に行動できるようになります。
でも、最初、止まってるとこから回転させるまでって、結構大変なんですよ。
だから子供の教育では、相手の心のフライホイールが回転してるかどうかを見極める必要があるんです。
そして、回転してない場合は、何か心の支えがないか探す必要があるんです。
そして、ある程度回転し始めた子には、心の支えを手放す機会が必要です。
先生は、それを見極めないといけないんです。

回転したばかりのフライホイールは、簡単に止まります。
次は、回転を維持したり、さらに加速させないといけません。
フライホイールのおもちゃだと、何度も床にこすると、ウィーンってうなってフライホイールが高速で回転し始めましたよね。
あれです。

心のフライホイールを加速するのは感情です。
何か行動したとき、感情を動かすんです。
それは、「うわっ」って驚きだったり、「やったぁ」って達成感です。
それを引き出すのは先生の役割です。
いっしょになって、「うぁっ」って驚いたり、「すごいやん」ってほめることです。
これが心のフライホイールをさらに回転させるエネルギーとなるわけです。

それから重要なのは、その子が、何に興味があるかです。
これは、生まれ持った特性です。
同じものを見ても、反応する子と反応しない子がいます。
その子が何に興味あるのか、それを見極めるのが重要です。
興味があるものを見つけて、それを伸ばすわけです。

発達障害の子はこだわりが強いといいますけど、それをうまく伸ばすと、とんでもない才能として開花します。
たとえば、イーロン・マスクは自身がアスペルガーだと公表しています。
それから、さかなクンは、公表はしていませんけど、おそらく発達障害だと思われます。

さかなクンの興味をうまく伸ばしたのはお母さんです。
「あの子は魚と絵が好きだからそれでいいんです」といって、周囲の批判に動じずにさかなクンの個性を伸ばしたわけです。
その結果、今では東京海洋大学の客員教授になっています。
でも、さかなクン、高校を卒業して受験したときは、東京海洋大学を不合格となっているんですよ。
これが今の学校教育です。

学校教育は、個性はほとんど無視して、誰に対しても同じ勉強をさせます。
心のフライホイールが回転しないのに、無理やり興味がないことをさせても、そりゃ、できるようになりません。
重要なのは、その子の心のフライホイールが何に反応するかを見極めることです。
それさえ見つければ、あとは、その回転を加速させることです。
それは家族や先生の役割です。
上手く回転すれば、受験で失敗した大学の教授にでもなれるんです。

次は、心の教育の最終目標です。
それは、自分でフライホイールを加速させることです。

ちょっと前に、昔の友達にあったとき、彼の父親の話を聞きました。
彼の父親はとにかく趣味が多かったそうです。
テニスをやったり、ピアノを弾いたり、バイオリンを弾いたりです。
さらには、バイオリンを自分で組み立てたりもするそうです。
凄いですよね。
その子も、ずっと父親のことを尊敬してたそうですけど、今になって考えると、どれも中途半端だったっていいます。
たぶん、みんなから「すごいですねぇ」とか、「そんなこともできるんですか」って言われるのがうれしくて、そういわれるために、次々といろんなことをしてたようなんです。
これ、フライホイール理論でいうと、常に、誰かに、フライホイールを回してもらわないと回転しない状態です。
たぶん、ちっちゃくて軽いフライホイールなんでしょう。
だから、簡単に動くけど、すぐに止まります。
止まりそうになったら、別のことを初めて、「すごいですねぇ」って言ってもらって回転を維持してるわけです。
彼がいうには、父親は子供に対してかなり支配的で、彼の人生もコントロールしようとしていたって言います。
心が安定しないというのは、自己肯定感が低かったり、自分に自信がないことです。
他人に凄いといわれたり、他人を支配することでしか自分を確認できないことのようです。

それじゃぁ、心が安定した人とはどんな人でしょう。
それは、自分で自分のフライホイールを回転させることができる人です。
そうなると、多少の困難があっても続けることができます。
GRITの理論からも、成功に一番重要なのは継続でしたよね。

そこで思い出すのがエジソンです。
エジソンは白熱電球のフィラメントの材料を見つけるのに、一万種類以上試したそうですけど、それでも見つかりませんでした。
それでも探し続けて、ようやくみつかったとき、こう言いました。

「私は一度も失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」って。

いやぁ、さすが、エジソンです。
どんだけ前向きなんだって思いますよね。
たぶん、巨大なフライホイールが超高速で回転してたんでしょう。
1万回程度の失敗じゃ停止しません。
自信というか自己肯定感が高いと、こうなるんですね。

それから書道家の武田双雲さんっていますよね。


彼は、ADHD、多動性障害と自ら公表しています。
武田さんは、あるとき、絵を描こうと思ったそうです。
書道の筆から絵筆に持ち替えて、絵を描いたそうです。
自分の書いた絵をみたとき、思ってた以上に上手く描けたそうで、思わず出た言葉が
「ピカソ、ごめん」だったそうです。

いやぁ、どんだけ自信があるんだって思いますよね。
ここまでくるとすがすがしいです。
武田さんも、母親の影響が大きいそうです。

そういえば、僕も、子供のころから母親から、お前は絶対成功するって言われていました。
今でも、毎年、この時期になると、
「あんた、今年もノーベル賞、取れなかったなぁ」って残念そうに言われます。
僕も、いっつも「あと、もうちょっとやねんけどなぁ」って答えています。
あっ、勘違いせんといいてくださいよ。
「あと、もうちょっと」っていうのは、僕の実力があともうちょっとでノーベル賞に届くってことじゃないですよ。
そうじゃなくて、世界が僕に追いつくのが、あともうちょっとってことです。


はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それからよかったら、こちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!