第511回 ついに完成!AIに使える心のモデル 


ロボマインド・プロジェクト、第511弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今日は、ちょっと興奮しています。
長年考えてた心のモデルがついに完成したんです。
僕は、意識モデルとして「意識の仮想世界仮説」というのを提唱しています。
ただ、これで説明できるのは、世界があるとか、時間の流れとかって基盤部分です。
でも、これは心とはちょっと違うじゃないですか。
じゃぁ、心って何って考えてて辿り着いたのが非認知能力です。

非認知能力とは何かというと、やる気とか、好奇心とか、集中力とか楽しむ力のことです。
「よし、やるぞ!」って思ったり、「えっ、なんでそうなるの?」って不思議に思ったり、つい、夢中になったりしますよね。
これって、まさに「心」ですよね。
行動するには心が動かないといけません。
それが、好奇心とかやる気と言った非認知能力です。
だから、AIに人間と同じ心を持たすには、非認知能力が必要なんです。

ここまではわかりました。
問題は、コンピュータに、どうやって「やる気」や「好奇心」を持たせるかです。
コンピュータで実現するには、定量化したり数式やプログラムで再現できないといけません。
これがわからなかったんですよ。

非認知能力については前回、第510回で考えました。
そのとき、心のたとえとして使ったのがフライホイールです。
フライホイールは弾み車ともいって、車のエンジンとか、いろんなところに使われています。
今回、これをAIの心としてプログラムに落とし込むことに成功したんですよ。
これが、今回のテーマです。
ついに完成!
AIに使える心のモデル
それでは、始めましょう!

まずは、フライホイールの具体例です。

銀色の大きい金属板がフライホイールです。
実際に動かしてみますよ。
https://www.youtube.com/watch?v=6DvvZtrOK
こんな風に床にこすって回転させると、そのあと、タイヤがずっと回転しますよね。
この仕組みをつかうと、こんな風にダンプカーを走らすこともできます。
(0:44~0:54ぐらい)
キャタピラに使うと、鉛筆の山を乗り越えることもできます。
(0:29~0:33ぐらい)
これがフライホイールです。
原理は、一度回転すうとなかなか止まらない慣性力です。
慣性力はエネルギーです。
重くて速く回転するほど、大きなエネルギーとなります。
これを心にあてはめてみると、やる気とか集中力というのは、回転するフライホイールにたとえることができます。

やる気があるというのは、フライホイールが高速で回転してる状態です。
力強くダンプを走らせたり、鉛筆の山みたいな困難があっても乗り越えることができます。
フライホイールがあまり回転してないと、ちょっとしたことがあると、すぐに止まってしまいます。
心の比喩として悪くないでしょ。
さて、これをどうやってコンピュータプログラムに落とし込むかです。

ここで、量子コンピュータの話をします。
量子コンピュータって、どうやって生まれたか知ってますか?
数学の解探索のアルゴリズムの一つに「焼きなまし法」ってのがありました。


正解がグラフの一番低い谷の底にあるとします。
球をランダムに動かして一番低いところを探すアルゴリズムがあります。
球が高温だとあちこち飛び回るので山があっても越えますけど、動き回ってるので一番底まで落ちません。
低温だと、あまり動かないので、底まで落ちますけど、山を越えることができません。
高音から温度をゆっくり下げていくと、必ず最も低い谷底に落ちることはわかっています。
でも、温度の下げ方が急だと、途中の谷にはまって正解にたどり着けません。
こんな風にして、物理の数式を使って解を探索するのが焼きなまし法です。

ここで、球として考えるんじゃなくて、量子として考えたら、もっと効率よく正解にたどり着けるんじゃないかと考えた人がいました。

量子は球じゃなくて、波としての性質をもっているので、同時に複数個所に存在することができます。
さらに、トンネル効果といって、山があっても通り抜けることができます。
こうして、量子力学の数式を使うことで、焼きなまし法が飛躍的に改善されたんです。
ここまでは、数式を使ったシミュレーションの話です。

そこに、ある人があらわれて、こういったんです。
「それ、数式じゃなくて、実際の量子でやったらいいじゃん」って。
つまり、コンピュータで量子のシミュレーションをするんじゃなくて、実際の量子を使ってコンピュータを作ろうってことです。
「そんな無茶な」ってみんな思いましたけど、でも、出来ない理由はないんですよ。
そうやってできたのが量子コンピュータです。

さて、今、作ろうとしてるのは心のモデルです。
そして、フライホイールが心の比喩にぴったりでしたよね。
そこで僕が思いついたのは、これを比喩で終わらせないってことです。
つまりね、フライホイールをそのままつくって、それを心とするんですよ。
さすがに、実際のフライホイールを使うのは難しいですけど、シミュレーションなら可能です。
コンピュータの心として、3DCGのフライホイールを使うんですよ。
はたして、本当にうまく行くんでしょうか?

その前に、非認知能力とはどういうものか、おさらいしておきます。
前回、非認知能力として、『非認知能力を育てる発達支援の進め方:「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て』を紹介しました。
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この本は、児童発達支援の事業所「きんぎょ」で培われた手法を紹介した本です。
それを、「きんぎょモデル」というんですけど、それがものすごくよくできているんですよ。

実例を紹介します。
「きんぎょ」に、自閉症の傾向のある7歳の男の子が通っていました。
課題を出すと、次々にこなして理解も早いです。
ただ、表情は乏しくて、意欲が感じられません。
この年齢なら、もっと活発に遊ぶはずです。

そこで、方針を変えて、「今日から、好きな遊びをしていいよ」って言いました。
でも、たくさんあるおもちゃの中からちょっと触っては、次を出してを続けて、
おもちゃを散らかすだけでした。
でも、先生は、遊びを誘導することなく、ずっと見守るだけです。
そんなのがしばらく続いた後、マジックテープでくっついた野菜や果物をおもちゃを包丁で切る遊びが気に入ったようです。

根気よく、何度も野菜を切り続けるようになりました。
次第に切るだけでなく、お皿に並べたり、お鍋に入れたりしてままごとへと展開していきました。
自発的に遊ぶようになったんです。

それでは、解説します。
意欲的に課題に取り組めないというのは、体は動いてるけど、心は動いてないということです。
心と体が離れているわけです。

目指すのは、笑顔で活発に動く子供です。
指示されたから動くんじゃなくて、楽しくて、つい動いてしまうって感じです。
まずは、それが出来るようにならないといけません。
それが心を育てるってことです。

それには遊びが一番です。
ところが、この子はおもちゃを渡しても、長続きしません。
上手く遊ぶこともできなかったんです。

それが、野菜のおもちゃは気に入ったわけです。
おもちゃの包丁で切ったり、お皿やお鍋に入れたりして遊ぶようになりました。
料理してるとこを想像したんでしょう。

人は、目で見た現実世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、僕が提唱する「意識の仮想世界仮説」です。

現実世界のものは、仮想世界で3Dオブジェクトとして再現されます。
オブジェクトには意味を設定できます。
だから、木で出来たおもちゃの野菜に、本物の野菜の意味を設定することもできます。

人は想像することができます。
想像するときにも仮想世界を使います。
これを想像仮想世界といいます。
目の前のおもちゃの野菜は、想像仮想世界の中では本物の野菜に変わります。
ニンジンを切ったらお皿に並べたり、お鍋で煮たりと想像できるわけです。
次は、想像したことを、現実のおもちゃの野菜で再現します。
おもちゃの野菜をおもちゃのお皿に並べたり、おもちゃの鍋で煮たりするわけです。

そうやって、心で思った世界と現実の世界とがつながります。
次はピーマンです。
「そうだ、ピーマンはフライパンで野菜炒めにしよう」
これが夢中で遊ぶってことです。
目が生き生きとして、表情も豊かになります。

これが心から楽しんで遊ぶってことです。
言われたから動くんじゃなくて、自発的に動くってことです。
心が体を動かしてるんです。
心と体が一体となって動いてるわけです。
この状態を目指すために、誘導するんじゃなくて、見守らないといけません。
心が体を動かすまで待つんです。
これが「きんぎょモデル」です。

次は、これを心のフライホイール・モデルで考えてみます。
最初、心のフライホイールは回転していません。
フライホイールが回転すると、心のエネルギーが生まれます。

心が動かなくても、言われたら体を動かすことはできます。
でも、言われたから動いてるだけなので、自発的な行動じゃありません。
だから、長続きしません。
これが、最初、「好きなおもちゃで遊んでいいよ」といわれたときです。
いろんなおもちゃを触ってっは投げ出して、次のおもちゃを触ってっは投げ出してって状態です。

そのうち、野菜のおもちゃを切った時、「あっ」っと思ったんでしょう。
何かが心に引っかかったんです。


それは、フライホイールの歯車です。
歯車が噛み合ったんです。
だから、フライホイールが回転し始めたんです。

じゃぁ、歯車は何と噛み合ったんでしょう。
それは、想像仮想世界です。
おもちゃのニンジンが想像の中のニンジンとつながったんです。
想像仮想世界という劇場の中で、お母さんがニンジンを切っています。
お母さんは切ったニンジンをお皿に並べたり、お鍋に入れたりしています。
想像仮想世界という劇場を動かす歯車に噛み合ったんです。

次は、想像したことを現実世界で再現します。
想像仮想世界の中のニンジンは、現実世界ではおもちゃのニンジン参です。
想像したとおりに切ったり、お鍋に入れたりすると、楽しくなって、さらにフライホイールは回転します。
フライホイールが回転すると、心のエネルギーがさらに発生します。
心のエネルギーが発生すると、もっといろいろ想像し始めます。
お鍋の中にはカレーができてきました。
そこに、お父さんが帰ってきました。
「今日の晩御飯はカレーよ」
そうやって、心のエネルギーはままごとにまで発展していきます。

ちなみに、チンパンジーはままごとはしません。
目の前にあるものを別のものに見立てることができないからです。
おもちゃのニンジンは、あくまでも、木で出来た黄色いかたまりとしか認識できないんです。
同じように、チンパンジーは絵を描くこともできません。
なぜできないかというと、目の前にないものを想像することができないからです。
脳の中に想像する仕組みがないからです。
ヒトの脳は想像する機能を獲得して、複雑な遊びや感情を獲得したと言えます。

さて、ここからは、心を持ったAIロボットを考えます。
これが全体像です。

目のカメラで現実世界を撮影すると、それを3Dの仮想世界として構築します。
この仮想世界を現実仮想世界といいます。
意識は、この現実仮想世界を介して現実世界を認識します。

また、意識は想像仮想世界を使って想像することもできます。
想像仮想世界も3DCGでつくられていて、意識は自由に想像することができます。
意識は、さらに体を制御して、現実世界で体を動かすことができます。
これが行動です。

そして、これらの活動の原動力となるのが心のエネルギーです。
心のエネルギーはフライホイールの回転で生み出されます。

何か思いついたとします。
思い描くのは想像仮想世界です。
そして、面白そうだと思ったら、実際に体を動かして行動します。
これらの原動力は心のエネルギーから供給されます。


それでは、心のエネルギーを生み出すフライホイールをコンピュータプログラムで実現してみます。
フライホイールを比喩として使うんじゃなくて、3Dのシミュレーションで再現するんです。

シミュレーションというのは、3Dモデルを動かして再現することです。
フライホイールは、回転する金属板で、直径、重さ、回転速度でエネルギーが決まります。

最初、男の子は、どのおもちゃを触っても、長続きしませんでしたよね。
これは、フライホイールが止まっているからです。
そして、おもちゃを触っても、フライホイールの歯車に噛み合わないから回転しません。

それが、野菜のおもちゃを触ったとき、歯車が噛み合いました。
歯車が噛み合うとは、おもちゃが頭の中で動きだすことです。
つまり、現実仮想世界のおもちゃの野菜が、想像仮想世界で本物の野菜になって、その野菜を包丁で切ったり、鍋で煮たりすることです。

仮想世界のオブジェクトは動作を持っています。
包丁だったら切るですし、鍋なら煮るとかです。
これらの動作のことをプログラムではメソッドといいます。
意識が、オブジェクトのメソッドを呼び出すことで、想像仮想世界の中で世界が動き出します。
想像仮想世界の劇場の中で、自分がお母さんになって料理をし始めるんです。
これが「あっ」です。
いいことを思いついたってことです。
フライホイールモデルだと、歯車がガチっと噛み合った瞬間です。
ここからフライホイールが回転し始めて、心のエネルギーが生み出されるんです。

でも、他のおもちゃには興味を持てなかったですよね。
これは、うまく歯車が噛み合わなかったからです。

つまり、人によって、噛み合う歯車と噛み合わない歯車があるわけです。
それは、歯車のピッチとか、直径で決まります。
いろんなおもちゃをとっかえひっかえしてたのは、歯車をとっかえひっかえしてるわけです。

歯車が合うかどうかは、その子にしかわかりません。
その子が自分で見つけるしかないんです。
だから、先生がおもちゃを押し付けたらだめなんです。

歯車がその子の個性です。
ということは、歯車のピッチと直径で個性を定義できそうです。
そして、おもちゃの側にも歯車を設定しておいて、ぴったりとかみ合えば、その子の想像仮想世界が動き始めるようにしておきます。

でも、噛み合ったからと言って、無理やり動かしてもいけません。
無理やり動かすと心が壊れるかもしれません。
その子にあった速度で、ゆっくりと回転しないといけません。
だから、先生は見守るしかできないんです。

フライホイールが回転し始めるとエネルギーが生まれます。
そのエネルギーは想像力や、体を動かすエネルギーになります。
そのエネルギーでさらに想像して、さらに行動します。
そして、それがさらにエネルギーを生んでと循環しはじめます。
これが自発的な行動です。
心の動きは表情にも現れます。
生き生きとした表情で夢中になって遊び始めます。

ねぇ、フライホイール・モデルで、心が完璧に再現できたでしょ。
意欲や興味、関心、夢中になって楽しむ心をコンピュータで再現できたんです。
しかも、このモデルは意識や体から、現実世界の認識まで再現しています。
僕らの意識や主観で感じること、すべて再現することができます。
こんなAIロボットがいたら、心があるって思うじゃないですか。
ようやく、長年構想してた心のモデルが完成したんです。


はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に興味がある方は、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!