第518回 あなたのオーラは何色?オーラは共感覚だった!


ロボマインド・プロジェクト、第518弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ある感覚を感じるとき、まったく別の感覚を感じる人のことを共感覚者といいます。
よくあるのが数字をみたら色を感じるという共感覚です。
珍しい例だと、手触りの感覚と感情の共感覚です。
フランチェスカは目を閉じてデニムを触ると悲しさを感じるそうです。
シルクは平和と穏やかさを感じます。
もっと微妙な感情も感じます。
サンドペーパーの60番は罪悪感を生み出すそうです。
その倍の細かさの120番だと「たわいのない嘘をついてるような気持ち」だそうです。
サンドペーパーのザラザラは罪悪感を生み出して、ザラザラが細かくなると、罪悪感も薄れるようです。

今回もラマチャンドラン博士の『脳の中の天使』から取り上げます。

ラマチャンドラン博士は共感覚を本格的に研究した先駆者でもあって、かなりいろんなタイプの共感覚を調べています。

ある人は音を聞くと色が見えるって言います。
ピアノでC#を鳴らすと、青が見えるとかです。
まるで、超能力の実験みたいです。
また、ある人は、顔をみると色を感じるそうです。
後光がみえるんです。
これって、いわゆるオーラですよね。

もしかして、オーラっていうのは共感覚なんでしょうか?
これが今回のテーマです。
あなたのオーラは何色?
オーラは共感覚だった!
それでは始めましょう!

スーザン(学生)は数字を見ると、特定の色が見えると言います。
数字の5は鈍い赤で、3は青、7は鮮やかな赤、8は黄色、9は黄緑色だそうです。
ラマチャンドラン博士がメモ用紙に黒のペンで大きく「7」と書いて「どんなふうに見えますか?」って聞くと、「赤が見えます」って言います。
ここから、博士は科学者らしく、いろんな質問をしていきます。

「赤は見えるものですか? それとも思い浮かぶのですか?
たとえば、私は〈シンデレラ〉という言葉を聞くと、ガラスの靴とか、カボチャの馬車が思い浮かびます。
そんな風に赤のことが思い出されるのですか? それとも文字通り赤が見えるのですか?」

スーザンはこう答えます。
「それは難しい質問ですけど、おそらく、実際に見えていると思います。
この7は明らかに赤に見えます。
でも、実際は黒だということもわかります。
確実に言えるのは、〈シンデレラ〉と聞いてガラスの靴を思い浮かぶのとは違うってことです。
色は実際に見えています」

今度は博士はメモ用紙に、「VII」ってローマ数字の7を書いて「どんなふうに見えます?」と聞きました。
そしたらスーザンは「これがローマ数字で、7ということはわかりますけど、黒に見えます。赤はまったくみえません。ローマ数字じゃ赤は見えないんです」っていいます。

共感覚の原因として幼少期の記憶と色が結びついているんじゃないかって説があります。
たとえば、子供の時、数字のマグネットで遊んだ記憶と結びついてるとかです。

そこで、博士は黒ペンでニンジン、トマト、バナナのイラストを描いて彼女に見せて「どんなふうに見えますか?」って聞きました。
そしたら彼女は「色は全く見えません。
ニンジンはオレンジだということを知っているし、このニンジンをオレンジ色として視覚的に思い描くこともできます。
でも、数字の7を見て赤がみえるみたいにオレンジ色が見えるかというと、そういうことはありません」っていいます。

されに続けてこう説明します。
「白黒の人参を見て、その気になれば、青いニンジンとか想像することもできます。
でも7の場合は無理なんです。7を見た時見える赤は、赤にしか見えないんです」って。

今度は彼女に目をつむってもらって、手を出してもらいます。
博士は手のひらに「7」って書いて「何と書いたかわかりますか?」って聞きます。
「7です」
「色はついてますか?」
「いいえ、全然。
 あっ、最初は色は見えなかったですけど、7を視覚化すると赤みを帯びてきました」っていいます。

「OK、スーザン。それじゃ、私が7って言ったらどうですか? 7,7,7」
「最初は赤くなかったですけど、7の形を視覚化すると赤が見えてきました。
「それじゃぁ、これはどうです? 7、5,3,2,1」
「わっ、なに、これ! おもしろい!
 虹がみえます。
 数字と結びついた色が、先生が言った順番に並んで、とてもきれいな虹です!」

いやぁ、面白いですよねぇ。
共感覚が、どんなふうに感じられるか、なんとなくはわかってきました。
次は、なぜ、共感覚が起こるかです。

視覚情報は脳の中の様々な領野で解析されます。
ラマチャンドラン博士は、色を解析する領野と数字を解析する領野がつながったのではないかと推測しました。
色も数字も脳の中の紡錘状回というところで解析されることはわかっていました。

紡錘状回は、側頭葉の下面に位置する細長い領域です。
その内、色を解析するのはV4野です。
そして、数字を解析するのは、V4野のすぐ隣に位置することがわかりました。

共感覚が起こるのは、色を解析するニューロンと、数字を解析するニューロンの配線がつながったことが原因だと思われます。
ニューロンは別のニューロンとシナプスでつながります。

シナプスの数は、2歳の頃がピークで、ありとあらゆるニューロンがつながっています。
そのあと、不要なシナプスが刈り込まれて、10歳ぐらいまでの間に約半分になります。
おそらく、共感覚が起こるのは、何らかの原因でシナプスが刈り込まれなかったことで色と数字のニューロンがつながったからだと思われます。

これはあり得そうですけど、ただ、それだけでは説明できないことがあります。
それは、普通の人でもLSDなどの薬物で共感覚が起こることです。
それから、共感覚の人でも、プロザックのような抗うつ剤を投与すると共感覚が消えるそうです。
抗うつ剤は、セロトニンのような神経伝達物質の取り込みを抑える作用があります。

これらのことから、シナプスが刈り込まれていなくても、隣接するニューロンの影響を受けているとも考えられます。

ニューロンは軸索を介して信号が伝達されます。
このとき、隣接する軸索の影響を受けることは十分に考えられます。
だから、LSDはセロトニンのような神経伝達物質を過剰に分泌させます。
すると、軸索を流れる電気信号の電圧の変化も大きくなって、それが隣接するニューロンの軸索にも影響を与えて他のニューロンも活性化させるんです。
これにより、普通の人でも共感覚が起こるわけです。

ここで、僕が思ったのはコンピュータです。
よく、脳はコンピュータに例えられますけど、電圧信号で変化するってことは脳はデジタルコンピュータでなくてアナログコンピュータと言えそうです。
デジタルコンピュータというのは、僕らが普段使ってるコンピュータで情報を01で表現するタイプです。
たとえば0Vが0で、5Vが1とかです。
それに対してアナログコンピュータは、電圧の大きさに比例して信号が大きくなります。
0Vが0、1Vが1、2Vが2、3Vが3とかです。
たとえば、このオシロスコープはボールの軌跡をシミュレーションしていますけど、これが一種のアナログコンピュータです。
https://www.youtube.com/watch?v=O8_IvkNK_IE
(0:01~0:08ぐらい)
これは、オペアンプという増幅器を使ったアナログ回路でつくられています。

アナログ回路だと周囲の電圧の影響を受けてボールの速度が変わったりします。
それと同じで、共感覚者は、数字のニューロンの信号が、隣接する色のニューロンを活性化させているんでしょう。

ラマチャンドラン博士はこんな実験もしています。
コンピュータの黒い画面の中央に白で数字の7を表示します。
すると、スーザンは赤が見えると言います。
そこで、画面の中央に点を表示して、その点をじっと見てもらったままにして、数字を中央からゆっくり遠ざけていきます。
すると、赤の色が薄くなるって言います。
距離に比例して徐々に赤が薄くなるということは、まさに、アナログコンピュータと言えます。

数字を見て色を感じるのは、色と数字を分析する領野が紡錘状回で隣接するからだということはわかりました。
それじゃぁ、冒頭で紹介した手触りから様々な感情を感じるフランチェスカの場合はどうでしょう?
それは、島皮質が関係します。

島皮質は大脳の表からは隠れていて、側頭葉と前頭葉の間の溝を開けると、その奥に見える領域です。
ここには、触覚とか痛覚、温度感覚、味覚、嗅覚など、様々な感覚が入力されて、ここで感覚が統合されます。

それだけでなくて、感情を発生する辺縁系とも隣接しています。
そう考えると触覚から様々な感情を感じるフランチェスカの共感覚も説明できますよね。
手触りを分析するニューロンが感情を発生するニューロンに影響を与えて、デニムやサンドペーパーを触った時、その触覚に応じた感情が発生したわけです。
ちなみに、フランチェスカの母親も共感覚者だそうで、ものに触れると味覚を感じるそうです。
たとえば鋳鉄製のフェンスをなでると、口の中に強い塩味を感じるそうです。
島皮質は舌から味覚入力も受けているので、これも十分あり得ることです。

さて、色や数字を解析する紡錘状回には、顔を解析する領域もあります。

それを、紡錘状回顔領域といいます。
ということは、顔をみて色を感じる人がいてもおかしくないですよね。
そう思いながら様々な共感覚者を探していたら、ロバートがまさにそれでした。
彼が言うには、顔の周りに後光のような光が見えるそうです。

まさにオーラです。
その色は、その人の顔によって異なるそうです。
顔を認識するニューロンと色を認識するニューロンが影響しあっているんでしょう。
彼が言うには、酔っぱらるとさらにオーラがはっきりと見えるそうです。
これは、アルコールで神経伝達物質が増えたからでしょう。

僕は昔からオーラとか心霊現象が好きで、そんなテレビをよく見ていました。
よく、オーラの色でその人の性格がわかるって言いますよね。

昔、オーラが見える霊能力者を何人も呼んで、いろんな人のオーラを同時に見てもらうって実験を番組をやっていたんですよ。
その時、意外だったのは、見る人によってオーラの色が全然違っていたんです。
オーラがその人固有なら、誰にも同じ色が見えるはずですよね。
でも、オーラが共感覚だとすると、それもあり得ます。
数字に色が見える共感覚者でも、数字と色の関係はばらつきがあります。
だから、顔と色の共感覚の場合もばらつきがあるので、見る人によってオーラの色が違って見えるというのも納得がいきます。

さて、これでかなり共感覚の謎が解明されてきました。
ただ、まだよくわからないことがあります。
それは、共感覚で見える色と、思い浮かべる色との違いです。
メモ用紙に黒ペンで7と書いたとき、スーザンはそれが黒で書かれていることはわかると言っていました。
でも、はっきりと赤が見えるとも言います。
それは、〈シンデレラ〉と聞いてガラスの靴を思い浮かべるのとも違うといいます。
じゃぁ、共感覚の色はどこに現れるんでしょう?
または、共感覚はどうやって見えるんでしょう?
これが、共感覚の最大の謎です。

このことを、意識の仮想世界仮説で考えてみます。
意識の仮想世界仮説というのは僕が提唱する心のモデルです。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。

意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが意識の仮想世界仮説です。
仮想世界というのは、コンピュータなら3DCGで作られた世界です。

仮想世界は、じつは二種類あって、一つが現実世界を再現した現実仮想世界です。

もう一つは、想像したり、思い出したりするときに使う想像仮想世界です。
〈シンデレラ〉と聞いてガラスの靴を思い浮かべるときに使うのは想像仮想世界です。
想像仮想世界の特徴は、意識が自由に想像できることです。
スーザンは、青いニンジンを思い浮かべることもできると言っていましたけど、それは想像仮想世界だからです。
目の前に見えるニンジンは、現実仮想世界のニンジンです。
同じ仮想世界でも、現実仮想世界のニンジンは、青色に変えることはできません。

なぜかというと、現実仮想世界は意識が作った世界じゃないからです。
現実仮想世界を作るのは無意識です。
意識は、無意識が作った世界をただ見ることしかできません。
これが、現実仮想世界と想像仮想世界の違いです。
そして、スーザンは、共感覚の色も、自分の意志で変えることはできないと言っていました。
じゃぁ、共感覚の色は現実世界にあるんでしょうか?

それも違います。
もし、共感覚の色が現実世界に見えるとしたら、共感覚の色で現実の色が隠れたり、共感覚の色はここにあるって指で指せるはずですけど、それはできないそうです。

たとえば第425回で閃輝暗点という症状を紹介しました。
閃輝暗点というのは、こんな風に視界のなかにギザギザの光が見える障害です。

閃輝暗点が現れると、文字が隠れて読めないといいます。
ということは、閃輝暗点は現実仮想世界に作られたんでしょう。
同じ脳内の視覚処理に関する現象でも、閃輝暗点と共感覚は別のようです。

ここから考えられるのは、現実仮想世界でもなく、想像仮想世界でもなく、さらに別の仮想世界があるんじゃないかってことです。

生まれる前、脳はどんな世界に生まれるかわかりませんよね。
だから、脳はどんな世界にも対応できるように作られています。
そして、生まれた後、環境に適応していくわけです。

たとえば、この世界は3次元世界だって認識して、3次元の現実仮想世界を作るわけです。
それとともに、いろいろ想像できるようになります。
そこで、脳の中に想像仮想世界が生みだすわけです。

僕が2歳か3歳ごろの話です。
当時、近所に、大きい空き地があったんですよ。
兄といっつもそこで遊んでいました。
ある時、遊びに言ったら、その空き地にキングコングがいたんですよ。
キャーっていってアパートに逃げ込んで、窓からキングコングを見てました。
めちゃくちゃ怖かったですけど、ちょっと楽しかったのも覚えています。
「また、キングコング来ないかなぁ」ってずっと思ってたんですけど、それ以来、キングコングが来ることはなかったです。

小学生ぐらいになって、あれは本当にあったことなんかなぁって疑問に思うようになりました。
夢じゃないかとも思ったんですけど、はっきりと覚えています。
それで、さりげなく兄に尋ねてみたんですよ。
「昔住んでたアパートの近くの空き地にキングコングが来たことがあったらしいけど、聞いたことある?」って。
そしたら、「そんなん来るわけないやろ」ってあっさり否定されました。
「そりゃ、そうよね」って答えましたけど、「やっぱり夢やったんか」って、内心、ショックを受けたのを覚えています。

何が言いたいかというと、2~3歳の頃は、夢と現実の区別がまだついてなかったってことです。
幼少期から成長するにつれて、現実世界とか想像とか夢とか、それぞれ別の世界だってわかってくるわけです。
わかってくるというのは、夢とか想像したことと現実とは関係ないってことを理解するってことです。
経験から夢と現実は違うって脳が学習するわけです。

そんな中、共感覚者は数字を見た時、色を経験します。
でも、その色は現実世界にないことも脳は知っています。
かといって意識が想像した世界でも、夢を見ているのでもありません。
そうなると、脳がとる戦略は新たな仮想世界を作ることです。
それを、たとえば共感覚世界とでも呼びましょう。

それは、現実と同じくらいはっきりと知覚できますけど、現実世界とも違います。
数字を見た時見える色だけを経験する特別な世界です。
それが共感覚世界です。

人によったら、顔をみたとき、共感覚世界に色が現れます。
これで、共感覚がなぜ生まれたのか、きれいに説明できました。

はい、今回はここまでです。
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それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に興味がある方は、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!