第52回 脳と心の進化論② 〜ネットワークビジネスの心理


ロボマインド・プロジェクト、第52弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回のゲージさんの続きです。
覚えてますか。
「この方がゲージさんです」

「もちろん、覚えてますよ。
ゲージさん、ちょっと、痩せましたよねぇ」
「あっ、これは、ゲージさんの頭蓋骨なんですよ。
どっか、気づいたことないですか?」
「えーと、歯が、とっても、きれいですよね。
 ホワイトニングとか、されてたんですか?」
「えーと、そこじゃないんですよ。
 何か、気づきませんか?」
「えーっと、頭から何かでてますねぇ」
「はい、そこです」

ゲージさん、鉄道工事の事故で鉄棒が飛んできて、頭を貫通したんでした。
これだけの事故にも関わらず、その後、仕事に復帰するまでに回復したんでしたよね。
死なずに済んだのは、脳の損傷個所によるものでした。

ゲージさんが損傷したのは、前頭葉でしたよね。
生命維持に関わる小脳や脳幹は無傷だったので、即死したり寝たっきりにはならなかったわけです。

ただし、全く何もかわらなかったかというと、そういうわけではなかったんです。
何が変わったかというと、性格がまるっきりかわってしまったんです。

以前は、紳士で誰からも慕われる人柄だったんですけど、それが、事故後は、礼儀知らずで、計画性とか知性がない人になったそうです。
どうしてそうなってしまったんでしょう。
今回は、ゲージさんが損傷した前頭葉について考えてみます。

ゲージさんが損傷したのは前頭葉の中でも一番前、前頭前野です。
前回、人間とサルの脳の違いで一番の違いは前頭葉だって説明しました。
そして、特にサルとの違いが大きいのが、前頭前野です。

前頭前野の機能として、行動計画の作成、情動の抑制などがあるようです。
事故後のゲージさん、実現できそうもない事業を思いついたり、女の人に卑猥な言葉を投げかけたりしたそうですが、まさに、前頭前野の機能が低下したことが原因のようですね。

脳科学の進歩は、ゲージさんみたいな、事故で脳を損傷した人のおかげで成り立っているんですよ。
でも、逆に言えば、そこが脳科学の限界なんです。
脳科学者が、本当にやりたいのは、脳に直接電極を挿して、脳の細かい機能を調べることです。
でも、それは、人道上禁止されててできないんです。

そこで、たまたま事故に遭った人を調べることで、少しずつわかってきてるわけです。
もちろん、CTやMRIを使って調べることはできますけど、解像度が大きすぎて、大雑把なことしかわからないわけです。

人間の脳の実験が無理なら、動物実験すればいいんじゃないかって思いますけど、動物実験でわかるのは、動物の脳の持つ機能だけです。
脳の機能で一番知りたいのは、どうやって心が生まれるかとか、言葉をどうやって話すのとかって、人間の持つ機能じゃないですか。
それは、動物実験じゃ、分からないんですよ。

これが、脳科学がなかなか進まない原因なんです。
そこで、ロボマインド・プロジェクトでは、プログラムで心のモデルを作ることで、人間と同じ機能を実現しようとしています。
それでは、さっそく、前頭前野の機能を実現する心のモデルを考えていきましょう。

まず、行動の計画性です。
ゲージさん、実現できそうにない事業を考えたりしてたそうです。
どんな機能が弱くなったんでしょう。

たとえば、あなたも、ネットワークビジネスに誘われたことないですか?
この食器用洗剤、環境にも優しくて、ものすごくよく汚れが落ちるんですとかって。

しかも、この洗剤をお友達に紹介して使ってもらうと、売り上げの10%があなたに入るんです。
それだけじゃないんです。
その友達が、さらに紹介すると、その人の売り上げの5%があなたに入るんです。
そうやって、どんどん紹介者が増えれば、あなたは、働かなくても毎月、お金が振り込まれるんですよ。

いやぁ、夢のような仕組みですよね。
このビジネス、やらない理由がみつからないですよね。

とは、普通の人は、なかなか思わないですけど、
たぶん、ゲージさんなら、そんな風に思うんじゃないでしょうか?

でも、このビジネスをやろうと思うってことは、このビジネスの仕組みは理解できたわけです。
仕組みが理解できるって、どういうことでしょう?
それは、こうすれば、こうなるっていう理屈が理解できてるってことです。

理屈が理解できるとは、どういうことでしょう?
たとえば、手にボールをもっていたとします。
手を離すと、ボールは下に落ちますよね。
なぜ、落ちるかと言えば、物体は、支えるものがなくなると、重力にしたがって下に落ちるからです。

支えがなくなると、下に落ちる。
これが理屈です。
この理屈は、何でできてるのでしょう?
それは、3次元世界です。
重力を持った3次元世界の仕組みがあるからです。

重力を持った3次元世界というものがあって、その世界に存在する物体は、全て重力が作用して、支えがないと下に落ちるわけです。

これが理解できるってことは、そういった3次元世界を頭の中に創って、その中で、シミュレーションできるってことです。

これが理屈を理解できるってことです。
今のは、3次元世界の理解でした。

それでは、次は、ネットワークビジネスを理解してみましょう。

ネットワークビジネスは、3次元世界でなくて、報酬体系の世界です。
イメージするのは、こんな風なピラミッドです。
(ホワイトボード)

これが自分です。
自分の子会員の売り上げの一部が自分に還元されます。
自分の孫会員の売り上げの一部も自分に還元されます。

子会員も、孫会員も、報酬が欲しいので、どんどん会員を増やしていきますよね。
増えれば増えるほど、あなたの報酬が増えるわけです。
あなたは何もしなくても、報酬がどんどん増えるわけです。
まさに、夢のようなビジネスですよね。

さて、この仕組みが理解できるとは、どういう事でしょう?
まず、お金という概念が理解できる必要がありますよね。
お金が、自分のところに来れば嬉しいってことです。
お金は、増えれば増えるほど嬉しいってことです。

ネットワークビジネスを理解できるってことは、
この図を見て、子会員、孫会員が増えれば増えるほど、自分のところにお金が増えるってことが理解できてるってことです。

さっきの、3次元世界と比べてみましょう。
3次元世界には、重力が働いていて、支えが無くなると、物は落ちます。

ネットワークビジネスの世界だと、子会員、孫会員が増えれば、それだけ自分へのリターンが増えます。

全然違いますが、どちらも、何らかの世界をつくっているとはいえます。
世界は、どうやって作られるのでしょう?
それは、その世界を構成する物と、その物の動きで定義されます。

3次元世界には、物体と、物体の動き、それから、全ての物体に働く重力で構成されるわけです。

ネットワークビジネス世界だと、自分や子会員、孫会員と、お金、それから会員からのリターンっていう動きで定義されるわけです。

物事を理解するとは、その世界を頭の中で構築して、それを自由に操作して動かすことができるってことのようです。
ボールが下に落ちたり、子や孫会員からのリターンが自分に集まるとかって動きを、頭の中で再現できるってことです。

その世界を自由に操作して、将来を予測すること、それが将来予測、計画性となりますよね。
その意味では、ゲージさんは、将来を予測したり、計画を立てることができてるとは言えます。

では、何が足りなかったんでしょう。
たぶん、その計画を批判的に検証するといったことじゃないでしょうか。

本当に、そんなに簡単に儲かるんだったら、なぜ、みんなやってないんだろうとか。
まず最初に、自分が友達を勧誘しないといけないけど、そもそも、自分には友達なんかいないぞとか。

そういう視点ですよね。
ネットワークビジネスの世界を理解したら、次は、それを、外の視点から見てみるってことです。
世界を理解するとは、その世界の中で、その世界を操作することです。
これで、ネットワークビジネスは、無限に自分にお金が入ってくる仕組みだぞってことが理解できるわけです。

それを批判的に検証するとは、その世界から外に出て、検証しないといけないわけです。
そのビジネスを全員が実行すればどうなるのかとか。
人は、誰でも友達がたくさんいるって前提になっているけど、自分には、本当に友達がいるのかとか。

これは、一段階、上のレベルの思考ですよね。

世界を頭の中に創って、操作するって機能が脳の中にあるとすれば、それは、人間だけが持ち得る機能なので、前頭葉が持つ機能ですよね。
そして、その世界を批判的に検証するとなると、前頭葉のなかでもさらに先の前頭前野の機能となりますよね。

ゲージさんが失ったのは、まさに、この前頭前野です。
実現できそうもない計画を実行しようとするって、こういうことだったんですよね。

心のモデルを作りながら考えていくと、脳の詳細な機能が明確になってきます。
これが、ロボマインド・プロジェクトがやってることです。
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次回も、ゲージさんの脳の中を覗いていきますね。
それでは、次回もお楽しみに!