第53回 脳と心の進化論③ 〜意識の進化 脳の中から世界をみたとき、進化の過程でどう変化したか


ロボマインド・プロジェクト、第53弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回も、ゲージさんの続きです。
鉄道工事の事故で、頭に鉄棒が貫通したゲージさん。

奇跡的に命に別状なく、社会復帰まで果たしました。
でも、以前と、ちょっと違うんです。
人格が、全く変わってしまったそうなんです。

事故前は、紳士で礼儀正しかったゲージさん。
事故後は、礼儀知らずで、欲望を抑えられない、獣(けだもの)みたいな男になってしまったそうです。

鉄棒が貫通した前頭葉が、脳の中で、人間らしさを司っていたようです。
本来ある動物の心を、前頭葉が抑制して、コントロールしていたみたいなんです。
どうやら、脳は、動物の心も残してたようです。

生命の始まりは海です。
38億年前に誕生した生命は、魚に進化して、4億年前に魚が陸上に上がりました。
魚のひれが足となってカエルのような両棲類に進化し、次は、トカゲのような爬虫類に進化し、最後は哺乳類です。

環境に対応して、ひれから足へ、体が進化してきました。
でも、進化したのは体だけじゃありません。
脳も進化しました。

これは、動物の脳を進化の順に並べた図です。

進化的に古い魚類から、両棲類、爬虫類、哺乳類と進んで、最後がヒトです。

ピンクの部分が、小脳や脳幹です。
小脳や脳幹は、心臓や呼吸をコントロールします。
生命維持に最も必要な機能なので、最も古い魚類では一番割合が大きいです。

それが、進化するにつれて、青い部分が大きくなってきます。
青い部分が大脳です。
大脳は、感覚器から入ってきた情報を処理して、どのように行動するかを決定します。

逆に言えば、大脳の処理の仕方で、その生物が、どのように世界と関わっているかが決まると言えます。

さっきの図を見ても分かると思いますけど、
進化するにつれて、少しずつ、大脳が大きくなってきてますよね。

これが何を意味するかわかりますか?
大脳が大きくなってきているということは、感覚器からの入力は処理の仕方が、進化するにつれて、どんどん変わってきたということです。

最も進化した生物は、ヒトです。
目や耳からの情報を処理して、認識するシステムで最も進化してるのがヒトの大脳ということです。
ヒトの大脳は、どうやって処理してるかわかりますか?
眼から得た外界の情報を、処理した中身が、今、あなたが、見ている、この世界です。
今、あなたの目の前に広がってる世界。
これが、生物の進化の過程で獲得した、複雑な世界というわけです。

そして、もう一つ注意してほしいのが、進化の特徴です。
進化というのは、古い機能を残しつつ、古い機能も利用しながら新しい機能を追加して進化するものです。
魚のヒレが足に進化したように、古い機能を利用して進化するわけです。

これは、脳の進化も同じです。
ということは、ヒトの認識も、進化的に古い認識の仕方が残っています。

人間の複雑な心も、進化的にどの段階の生物が持っている機能かって視点で紐解いていけば、すっきり整理できそうです。
ロボマインド・プロジェクトがやろうとしてるのは、人間の心のモデルを作ることです。
これも、脳の進化から整理できそうです。

それでは、まず最初に考えるのは、動物が環境、外部世界にどのように対応してるかってことです。

一番単純なものを考えてみましょう。
それは、感覚器官で外部環境を検知し、所定の条件に当てはまれば、決められたプログラムが動くといったものです。

たとえば、カエルです。
カエルが、目でハエを認識したとします。
お腹がすいていて、かつ、ハエが止まったと認識すると、その瞬間、舌を伸ばしてハエを捕まえます。

これは、設定した温度以上になると、冷房が作動するエアコンと同じと言えます。
センサーで検知した外部環境に応じて、自動で行動するわけです。
これは、無意識の行動といえます。

人間は、カエルよりも、もっと進歩した方法で世界を認識します。
それは、意識による認識です。

でも、進化的に古い生物が持つ認識方法も、もっているはずです。
つまり、カエルと同じ、無意識を使った方法でも環境に対応してるはずです。

たとえば、自転車を運転してるとき、倒れそうになると、とっさに体を傾けてバランスをとりますよね。
これなんか、自動で反応してるので無意識の行動といえます。

第49回「カエルに、サルに、意識はあるの?」で、カエルには意識がなくて、サルには意識があるって実験の話をしました。

この実験で、サルに意識があることは、クオリアを認識するかどうかで判断しました。
それでは、クオリアとは、なんでしょう?

クオリアに関しては、第30回~35回「クオリアってなんだ」シリーズを見ていただくのが一番いいのですが、簡単に説明すると、意識が認識するもの、全てクオリアです。

たとえば、第31回「クオリアってなんだ②」で熱さのクオリアを説明しました。
熱い鍋を触った時、思わず手を引っ込めますよね。
思わず手を引っ込めるのは、脊髄反射です。
これは、無意識の反応です。
手を引っ込めたときは、意識で熱さを知覚してるわけじゃありません。

意識が、熱うと感じるのは、手を引っ込めた後なんです。
この意識が感じる熱さが、熱さのクオリアというわけです。

よく考えてみると、意識が熱うと感じたときは、既に、鍋から手を引いてるので、実際に熱いわけじゃないんです。
つまり、熱さのクオリアっていうのは、バーチャルなんです。

意識が認識するもの、あらゆるものがクオリアって言いましたよね。
つまり、目で見えてるもの、全てクオリアです。

これは、ホワイトボードのクオリアで、これは、ペンのクオリアってわけです。
それでは、意識と無意識の一番の違いはなんでしょう?

それは、無意識は行動と直接結びついているけど、意識は、行動が直接結びついていないことです。

無意識の行動って、カエルがハエを取ったり、自転車が倒れそうになった時にバランスを取ったり、熱い鍋にふれて、思わず手を引っ込めたりとかです。
すべて、外界に反応する動作が決まっています。
これを変更することはできません。
熱い鍋に手を触れたとき、手を引くんじゃなくて、臭いをかぐとか。
そんな風に変更しようとおもっても、無意識の動作は変更できないんです。
これが無意識です。

意識が認識するのはクオリアです。
クオリアは、熱さのクオリアのように、実際に熱さを感じてるんじゃなくて、後から作り出したものです。
バーチャルです。

だから、意識が熱いと感じたとき、手を振って冷やしたり、水に入れて冷やしたりと、行動を変更することができます。

たとえば、犬は、ご飯を上げると、すぐに食べます。
でも、「待て」を教えると、「待て」といわれたら、待つことができます。
「よし」といわれて、初めて食べます。
これは、ご飯をクオリアとして認識してるから可能なんです。
ご飯と行動が、直接結びついていないからできるんです。

クオリアを認識しないカエルには、「待て」とか「よし」を教えることができません。
これがクオリアを認識するということです。

こうやって、生物は、進化の過程で意識を獲得することで、認識したものに対して、行動を変更することができるようになりました。

行動に自由が生まれました。
これが、意識の一番の特徴です。

無意識は、世界に自動で反応するだけです。
それに対して、意識は、クオリアを使って世界を認識します。
どう反応するかは、その人の自由です。

意識を獲得することで、世界から自由になれたわけです。
人によって、反応が変わるわけです。
意識を獲得することで、個性が生まれたわけです。

進化の過程で意識を獲得することで、世界から自由になって、個性が生まれたわけです。
哺乳類は、大脳が発達することで、クオリアを獲得できるようになりました。

でも、クオリアを獲得しただけでは、人間のような複雑な心にはなりません。
では、何がたりないんでしょう?

次回は、意識の、クオリアの次の段階の進化について考えてみます。

それでは、時間もお楽しみに!