ロボマインド・プロジェクト、第532弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
さて、ここしばらくマインド・エンジンの設計について語ってきましたけど、そろそろ元に戻ろうと思いますけど、その前、何を語っていたか覚えていますか?
それは、ラマチャンドラン博士の『脳のなかの天使』です。
僕が最も影響を受けた本が、ラマチャンドラン博士の『脳のなかの幽霊』です。
ロボマインド・プロジェクトのほとんどのアイデアというか、僕の提唱する「意識の仮想世界仮説」はこの本が基になっています。
その約10年後に出版されたのが『脳のなかの天使』です。
前回の続きの章を読み始めたら、内容は自閉症でした。
自閉症も、このチャンネルで数えきれないぐらい取り上げていています。
自閉症の原因はまだ解明されていませんけど、僕なりに、自閉症が起こるメカニズムは解明してきました。
おそらく、その復習となる内容になると思って読み始めたら、全然ちがいました。
ラマチャンドラン博士は、自閉症の原因を特定していたんです。
自閉症って、いろんな症状があります。
他人の気持ちを理解できないとか、ままごとやごっこ遊びをしないとか。
その一方、物へのこだわりが強くて、たとえば車を見ただけで車種まで答えたり、電話帳を丸暗記したりします。
それから、言葉をうまくしゃべれない人も多いです。
科学ではオッカムの剃刀って言葉があります。
いろんな現象を説明するのに最も少ない理論で説明できるものが正しいっていうことです。
ラマチャンドラン博士は、自閉症の様々な症状をたった一つの理論ですべて説明します。
それが何かと言うと、それは、ミラーニューロンです。
ミラーニューロンというのは、他人の行動を見た時、活性化するニューロンです。
たとえば、物をつかむとき活性化するニューロンがあったとします。
そのニューロンは、自分が物をつかむときだけじゃなくて、他人が物をつかむのを見た時にも活性化するんです。
これがミラーニューロンです。
ミラーニューロンというのは、一つのニューロンを指すわけじゃなくて、他人の行動を見た時に活性化する多数のニューロンからなるシステムです。
ラマチャンドラン博士は、このミラーニューロンシステムが上手く機能しないことで、自閉症の様々な症状をきれいに説明します。
まさに、オッカムの剃刀です。
これが今回のテーマです。
自閉症の原因をついに特定
ミラーニューロン
それでは、はじめましょう!
自閉症について、今までかなり紹介してきましたけど、意外と、歴史については知りませんでした。
自閉症が発見されたのは1940年代だそうで、意外と最近なんですよ。
それまでは統合失調症の一種と診断されていたようです。
ほぼ、同時期に、ボルティモアのレオ・カナーと、ウィーンのハンス・アスペルガーによって別々に発見されました。
アスペルガーは、アスペルガー症候群の名前の由来となっています。
興味深いのは、二人は互いのことは全く知らなかったんですけど、病名を「autism」って同じ名前を付けていたんですよ。
autismというのはギリシャ語の「自己」とか「自身」を表すautoに由来する単語です。
他人とかかわりを持つことができなくて閉じこもる自分症といったところです。
日本語の自閉症という呼び方は、それをもっと特徴づけています。
あるひ、ラマチャンドラン博士のところにお母さんが息子を連れてやってきました。
「スティーブンを何とかして連れ戻してください」
スティーブンは自閉症でした。
6歳ですけど、見事な動物の絵を描きます。
でも、あなたが、「上手だねぇ」と話しかけても、あなたは、スティーブンという人間がそこにはいないように感じるはずです。
普通の会話のやり取りがまったくできなくて、視線を合わせようともしません。
彼に関わろうとするとあなたの態度は、彼をひどく不安にさせて、体を前後に揺らします。
これが典型的な自閉症です。
この年ぐらいの男の子なら、仮面ライダーごっこのようなごっこ遊びに夢中になりますけど、スティーブンは一切しません。
このことに対し、心理学者のバロン=コーエンは、自閉症の子は「心の理論」を持っていないからといいます。
「心の理論」というのは、他人も自分と同じ心を持っていると思う能力のことです。
これ、当たり前と思うかもしれないですけど、当たり前のことほど、説明が難しいんです。
「見える」と同じです。
「見えるとはどういうことか説明してください」といわれても「目を開けたら自然と見える」としか説明できないですよね。
でもカメラは「見える」と思っていませんから、目があれば自然と見えるわけではありません。
「見える」と思うにはそれなりの仕組みが必要ということです。
それと同じで、人は自然と物と人を区別します。
電車で他人の足を踏んだら「すみません」と謝りますけど、道で石ころを踏んでも、石に謝りませんよね。
これが人と物を区別するということです。
つまり、「見える」と同じで物と人を区別する仕組みがあるってことです。
そして、相手が人だと、自然と相手の気持ちを察します。
だから足を踏んだら謝るんです。
それが「心の理論」です。
スティーブンに話しかけても、人と話してるように感じませんでした。
その原因は、スティーブンがあなたのことを人と認識していなかったからです。
というか、人と物を区別することができないからです。
心理学者のバロン=コーエンが指摘したのはここまでですけど、神経科学者のラマチャンドラン博士は、これを脳の機能にまで落とし込んで特定しました。
それがミラーニューロンです。
ラマチャンドラン博士は、自閉症の人はミラーニューロン・システムの機能が低下または機能していないと考えました。
そこで、これを実験で確かめることにしました。
手を開いたり閉じたりするといった随意運動するとき、ミュー波という特定の脳波が抑制されることが分かっています。
このミュー波の抑制は、他の人が手を開いたり閉じたりするのを見ても観測されます。
これを行っているのがミラーニューロン・システムです。
自閉症の人の脳波を調べると、他人が手を開いたり閉じたりするのを見てもミュー波の抑制が起こりませんでした。
つまり、ミラーニューロン・システムが機能していなかったんです。
思った通りの結果です。
そこでさらに調べました。
脳には運動野という領域があります。
運動野には身体がマッピングされていて、人が体を動かすとき対応する領域が活性化します。
これは、自分が行動するときだけでなくて、他人が行動するのを見るときも、わずかに反応します。
これを行っているのがミラーニューロン・システムです。
ところが、自閉症の人を観察しても、これが全く観察されなかったんですよ。
これらのことから、自閉症の人はミラーニューロン・システムが機能していないことが明らかになりました。
ここから、他人の心を推測する「心の理論」は、ミラーニューロン・システムによって生み出されると考えられます。
それだけじゃありません。
他人の心を推測することで、自分の心もより明確になってきたとも考えられます。
自分は喜んだり悲しんだりする心をもっていますよね。
ミラーニューロン・システムは、自分が感じることを、他人も同じように感じていると理解するシステムです。
つまり、自分と同じ心を他人も持っていると理解するわけです。
それは、言い換えたら「心」というものを、客観的に観察する視点を獲得したと言えます。
その視点があれば、今度は自分の心を客観的に観察することができますよね。
今、他人の心も自分の心も同じ視点で見ることができるようになりました。
すると、次は何ができるようになるかわかりますか。
それは比較です。
何かを理解するとき、似たものと比較する方が違いが見えてきますよね。
対象を観察しただけじゃ、ざっくりとしか捉えられないですけど、比較して比べると細かいとこまで見て来るってことです。
そうやって、自分というものが確立されたんです。
自分は、今、何を感じてるとか、どんな気持ちかって、自分で自分のことがわかりますよね。
でも、自閉症の人は、自分の感情を表現するのが苦手といわれています。
顔や表情に表すことも少なくて、嫌なことをされても嫌と言えなかったりします。
これは、嫌と言えない性格ってことじゃなくて、自分が嫌なことを感じてると客観的に認識できてないんです。
漠然とした感覚でしか自分を捉えられないんです。
それだけじゃなくて、自閉症の人は一人称や二人称の使い方を間違えることがあります。
自分のことを「あなた」と呼んだり、相手のことを「私」と呼んだりします。
「~してあげましょうか?」と聞くと、自分に対して「~してあげたい」って答えたりします。
相手が自分に対して言っていることと、自分が言われてることを切り替えることができてないわけです。
これができないってことは、相手と自分を区別してないってことです。
「~したい」って感情だけがあって、そう感じてるのが誰かってことは気にかけてないんですよ。
それから、自閉症の人は話し方も単調で、抑揚がありません。
または、相手に通じてるのか通じてないのかお構いなしに一方的に話したりします。
これも、心を持った相手を想像できてないからです。
自分の言ったことを相手が受け取るといったことを想像できないわけです。
だから、スティーブンに話しかけても、目も合わせることがなくて、そこにあなたという人がいると認識すらしないんです。
その一方、自閉症の人は心を持たない物事に、異常なまでに高い関心を持ったりします。
たとえば電車や自動車にめちゃくちゃ詳しかったりします。
僕は、パトカーをみても「あっ、パトカー」と思うだけですけど、自閉症の子は「あっ、パトカー。トヨタ クラウン 220系」とかまで言います。
それも自慢げにいうわけじゃなくて、当たり前のように言います。
第484回で紹介した自閉症のドナは、電話帳を見るのが好きで丸暗記してたそうです。
いったい電話帳の何が面白いのかと思いますけど、ドナが言うには、「ブラウンという人が何人いる」とかって数えたり、比較するのに夢中になって、気が付いたら丸暗記してたそうです。
こういうの見ると、よくそんな細かな違いを区別できるよなぁ、すごいマニアだよなぁって思いますよね。
でも、これ、逆の立場からみたら僕らの方がおかしいんですよ。
僕らは、ほんの少しのイントネーションや表情の違いを読み取ったりしますよね。
「それはすごいですねぇ」といって褒めてるようで、バカにしてたりします。
自閉症やアスペルガー症候群の人はこれが理解できません。
なんで同じことを言ってるのに、こっちは褒めていて、こっちだとバカにしたことになるのかって理解できないんです。
僕からしたら、同じパトカーなのに、細かな車種の違いを見抜くのと同じくらい理解できないのと同じです。
二つの違いをみつけて、細部まで分析する能力はどちらも同じです。
ただ、自閉症の人は、相手に感情を持った心を見いだせないから、比較して細かな感情を分析できないんです。
ただ、比較分析する能力は持っているので、それを精神をもたない対象にあてはめるんです。
僕らが特別な訓練しなくても、ちょっとした言い方の違いから馬鹿にされたと感じるみたいに、自然とパトカーの車種を感じたり、電話帳を記憶するんでしょう。
最後に、自閉症の治療についても説明しておきます。
第352回「自閉症を治したら、突然、他人の気持ちが理解できた」でTMS治療について説明しました。
TMS治療というのは、経頭蓋磁気刺激というもので、特殊なコイルで脳を外から磁気刺激する治療です。
この治療を受けたアスペルガー症候群のジョンは見事に効果があったそうです。
今まで、人の気持ちがよくわからなかったのが、TMS治療をうけたその直後から、急に他人の気持ちが理解できるようになったそうです。
テレビで子供を事故で亡くしたニュースを見ると、その親の気持ちになって、涙が止まらなくなったそうです。
今まで、そんな経験は一切ありません。
ジョンには仲の良い友達がいました。
でも、奥さんは、その人のことがあまり好きでなくて、あの人とはあまり付き合わない方がいいと言っていました。
TMS治療を受けた後、その友達に会いに行くと、いつものように親しく話しかけてきましたけど、明らかに自分のことをバカにしてるのがわかったそうです。
これがTMS治療の効果です。
ラマチャンドラン博士は、自閉症やアスペルガー症候群の原因はミラーニューロン・システムだと言いましたよね。
そして、ミラーニューロン・システムが活性化しないことを脳波の実験で確かめました。
ということは、逆に言えば、ミラーニューロン・システムを活性化すれば自閉所やアスペルガー症候群が治るかもしれないですよね。
TMS治療は、脳を電磁刺激することで、おそらくミラーニューロン・システムを活性化したんです。
そしたら、相手が考えていることが急に分かるようになったんです。
というか、相手にも心があるということが理解できたんです。
人間らしさとか、人とコミュニケーションするには、相手の心を想像する機能が不可欠だってわかりますよね。
はい、今回はここまでです。
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それからよかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに
第532回 自閉症の原因をついに特定ミラーニューロン
