第533回 世界初 心の特許


ロボマインド・プロジェクト、第533弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今まで二つほど特許を取りましたけど、今回、三つ目の特許を取得しました。
実は、今回取得した特許、出願したのは一番最初です。
通常は10ヶ月ほどで特許になるんですけど、今回のは3年以上かかりました。
なんでこんなに時間がかかったかというと、最初、拒絶されたんですよ。
それで上級審にあたる審判請求をして、ようやく特許になったんですよ。
何を争っていたかっていうと、そもそも、こんなの特許になるのかってことで争っていました。
なんせ、今回取得したのは、いってみれば「心の特許」です。

ちょっとややこしい話なので、丁寧に説明します。
僕は20代は特許事務所に勤めていて、今回の特許も全ての書類は僕が書いています。

特許というのは発明者に一定期間、独占的に実施できる権利を与えるものです。
その代わりに、発明の内容を公開させることによって、他社がもっといい製品を開発できるチャンスを与えるわけです。

もし、強い特許を与えすぎると、一社が市場を独占して競争が生まれません。
逆に、すごい発明をしても弱い特許しか与えないと、簡単にまねされて、研究費を回収できません。
そうなると特許を取るより技術を秘密にするので、産業が発展しません。
こうならないように、バランスをとって産業全体を発展させるのが特許制度です。
特許審査というのは、こういったことを考えて強すぎる特許を与えないようにします。

それじゃぁ、どうやって特許の強さを調整するんでしょう?
それは、他の誰かが同じようなことを言ってないか探しだすんです。
同じ分野で探せば、似た技術はいっぱい出てきます。
そういったものを引例と出して、このままじゃ特許にならないけど、権利範囲を狭くすれば特許になりますよって誘導するんです。
そうやってバランスを取るのが特許庁の役目です。


さて、同じ分野なら、いっぱい競合がいます。
ということは、逆に言えば、新しい分野なら、誰も競合はいません。
そうなったら、めちゃくちゃ強い特許が取れますよね。
でも、審査官の仕事はバランスを取ることですから、強い特許を取らせたくないわけです。
これが今回起こったことです。

今回、僕は「心の仕組み」で特許を申請したわけです。
「心の仕組み」なんか誰も考えたこともないし、そんな分野もありません。
誰も考えたことないなら特許法上、特許を与えないといけないんです。
つまり、AIの心の特許をロボマインドに与えないといけないんです。

今のAIには心はありませんけど、いずれAIが心を持つことは容易に想像できます。
その時、心をもったAIはロボマインド以外作れなくなるわけです。
そうなったら競争が生まれません。
そうならないようにするのが審査官の役目です。
それで、当初の審査官は、引用文献なしで僕の特許を拒絶したんです。
でも、そんなのおかしいでしょ。
それで、上級審で争ってめでたく、ようやく、心の特許を勝ち取ったというわけです。
これが今回のテーマです。
世界初 心の特許
それでは、はじめましょう!

さて、「心の特許」とずっと言っていますけど、書類上は「自然言語処理の意味理解」です。
自然言語というのは、人が話す言葉のことです。
つまり、正確には、言葉の意味理解に関する特許です。
僕は、20年以上、自然言語処理の意味理解の研究を続けてきました。
言葉にとって意味は最も重要ですよね。
ところが、自然言語処理では「意味理解」に関する研究はほとんどないんですよ。
なんでかというと、意味とは何かがわかっていないからです。
自然言語処理だけでなく言語学でもわかっていません。

僕は言葉の意味理解についてずっと考えてて、一つの結論に至りました。
それは、言葉の意味とは言葉にあるのでなくて、言葉を解釈する側にあると。
つまり、脳とか心です。
自然言語処理も言語学も、言葉しか見ていません。
だから、意味とは何か、いまだにわかってないんですよ。

言葉の意味を理解するシステムを作るには、意味を理解する脳とか心の仕組みを解明する必要があるんです。
その部分で特許を取ったので、「心の特許」と言っているわけです。

ただ、心や意味理解の研究がほとんどありません。
いや、心理学とか認知意味論とか研究自体はありますけど、僕はプログラムで実現できるものを作ろうとしています。
心理学や認知意味論などの理論はあいまいすぎて、とてもプログラムに落とし込めないので、特許出願もないようです。
僕も特許業界は長いので、ないと思っても、審査官は世界中の文献を探して近いものを探し出してくることはよく知っています。
そう思って、出願時は狭い権利範囲を書いてたんですよ。
ところが、一切、引例が出てこなかったので、「えっ?」となったんですよ。
それで、「ホンマにないんやったら、とんでもなく広い特許を取れるかも」と思って権利範囲を広げて出し直したんですよ。
普通は、広めの権利で出願して、徐々に狭めて特許化するのがセオリーなので、出願時より広い特許が取れるなんてほとんどないです。
審査官からしたら、出願時より広げるなんて、「なめんなよ」ってなるわけです。
それで、引例なしで、無理やり拒絶査定を出したようです。

それでは、ここから中身の説明に入ります。
ChatGPTも自然言語で会話ができます。
ただ、使い道としては、質問に答えてもらうとか、検索エンジンの延長です。
「今日、何か面白いことあった?」ってChatGPTに聞くことないでしょ?
ここに心の本質があるんです。

どういうことかというと、ChatGPTは自分というものを持っていません。
ChatGPTは、大量の文書から単語の出現確率を学習して、この単語の次はこの単語が来る確率が高いってデータから文章を生成しているだけです。
たとえ、「私はリンゴが好きです」と言ったとしても、それは、単語の出現確率から生成した文章であって、「私」とか「自分」といったものを持ってるわけではありません。

心を定義するためには、最低限、「自分」というものを持つ必要があります。
ここで、心をもった人型ロボットを想定します。
ロボットの場合、「自分」とは、ロボットの体ですよね。
コンピュータ・プログラムで考えると、自分の体を表すデータがあるわけです。
その「自分」を制御するプログラムが「心」のプログラムといえます。

ロボットを想定すると、生物としての機能が必要になりますよね。
生物として最低限必要な機能は、自己保存とか生存本能です。
お腹がすいたら何かを食べて、危険を察知したら逃げるといったことです。
これは、不快を避けて、快を求めると表現できます。
空腹といった不快を感じたら、何かを食べて満腹という快を得ようとするわけです。
これは最も原始的な感情と言えます。
快をプラス感情、不快をマイナス感情とすれば、あらゆる感情がプラスまたはマイナス感情に分類できます。
満腹とか嬉しいがプラス感情、危険とか空腹、悲しいがマイナス感情です。
さらに嬉しいと笑顔になって、悲しいと泣くといったふうに感情は表情にも現れます。
感情をもって体をコントロールするのが心といえます。

さて、いま、定義したのは自分の心ですよね。
自分の心が決まれば、次の段階は、他人の心の理解です。
相手の気持ちを思いやるってことです。
これが人間らしい心というわけです。

相手の気持ちを想像できると、じつは、善悪といった倫理観も定義できます。
たとえば、「善」は、相手がプラス感情となる行動です。
「悪」は、相手がマイナス感情となる行動です。
電車でおばあさんに席を譲るのは「善」ですよね。
これは相手が喜ぶ行動だからです。
道端にゴミや空き缶をすてるのは「悪」ですよね。
それは、その町に住む人にとって嫌な行動だからです。

今のAIは善悪といった倫理観を理解できないので単語レベルで言ってはいい言葉、悪い言葉と教えるしかできません。
それを、この仕組みを使えばAIに善悪の意味を理解させることができるんです。
さらに、人から親切にされたら「ありがとう」って言いますよね。
感謝です。
これも、定義できますよね。
つまり、自分がプラス感情となる原因が相手の行動にあるです。
こんな風に、倫理観や感謝といった社会的な感情もこの仕組みで定義できます。
つまり、人間社会を営む心をもったAIが実現できるわけです。
そして、こういった人間特有の複雑な感情は、言葉で表現されます。
つまり、言葉の意味を理解して行動するわけです。

それでは、ここから特許の話に入ります。
特許で一番重要なのは【特許請求の範囲】です。
これが特許請求の範囲です。

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【特許請求の範囲】
【請求項1】
 文字または音声による文が入力される入力装置と、C P U および主記憶メモリを有し、
前記入力装置からの入力文を、単語に分解する制御装置と、を有する自然言語処理システ
ムであって、
 前記入力装置に入力される前記入力文には心的状態を有する登場人物が含まれ、
 前記主記憶メモリには、前記登場人物に好ましい感情であるプラス感情、および前記登
場人物に好ましくない感情であるマイナス感情を属性として持ち、前記登場人物に対応す
る登場人物オブジェクトが前記制御装置により生成され、
 前記制御装置は、前記入力文に基づいて前記登場人物オブジェクトを前記主記憶メモリ
に生成するとともに、前記登場人物オブジェクトに前記プラス感情または前記マイナス感
情の属性を設定し、前記プラス感情および前記マイナス感情に基づいて前記登場人物の行
動を予測することで前記入力文の意味理解を行う、自然言語処理システム。



これが広いものが強い特許で、狭いものが弱い特許です。
だから、出来るだけ広く取ろうとするため、特許請求の範囲は抽象的な表現になるので、それで何が書いてるのか意味が分からないことがよくあります。
たた、読み方のコツっていうのはあります。
それに従って、特許請求の範囲を読み解いていきましょう。

最初に、「CPU」や「メモリ」や「制御装置」なんて単語が出てきますけど、これは、実際に動くものでないと特許にできないって決まりがあるので、プログラムの特許を取るときのお決まりの書き方と思って気にしなくてもいいです。
重要なのは、制御装置の中に入っているプログラムです。

まず、読みとかないといけないのは、これがどの分野のどんな特許かです。
それは、最後の名前からわかります。
この場合、「入力文の意味理解を行う、自然言語処理システム」となっています。
つまり、分野としては自然言語処理で、内容は文の意味理解に関する特許とういことです。

入力文とは何かというと、最初にかいてある「文字または音声による文」です。
つまり、想定してる一つは、ChatGPTみたいな対話システムです。
キーボードからの文字入力でも、マイクからの音声入力でもいいわけです。
PCやスマホでなくて、ロボットに組み込んで会話する場合も考えられます。
さらには、対話システムでなくても、文章を要約したり翻訳したりなど自然言語処理システムが対象となります。
逆に、自然言語処理以外は含まれませんので、コンピュータプログラムの自動生成システムとか数式を解くシステムは含まれません。
こんな風に、どこまで権利範囲に含まれるのかに注目して読み解いていきます。

こっから中身の解説です。
「心的状態を有する登場人物」とありますよね。
これ、「人間」とか「人」って書けばいいんですけど、そう書くと宇宙人や怪物は含まれないと解釈される恐れがあるので、こんな言い回しにしているんです。
それから登場人物というのは、文章に登場する人物というだけじゃなくて、ロボットの場合、自分自身も含まれます。
つまり、心をもった主体が登場する会話文や物語が対象となるわけです。

逆に、登場人物が登場しない自然言語の文はこの特許の対象外となります。
たとえば、電子レンジの使い方とか、天体の動きを解説した本は対象外というわけです。

僕は、自然言語なら何でも含めようと思ってるわけじゃなくて、想定しているのは、心の通った会話ができるAIとか、物語や映画のシナリオを自動生成するAIです。

さて、その登場人物は「プラス感情」と「マイナス感情」を持つって書いてありますよね。
これがさっき説明した快不快のプラスマイナス感情です。
それから注意してほしいのは、「登場人物オブジェクト」って表現です。
オブジェクトというのは、オブジェクト指向言語プログラムのオブジェクトの意味で、データをまとめたものです。
これが、さっき説明した「自分」っていうデータのまとまりです。
ここがこの特許の一番の特徴です。
つまり、自分って単位でデータをまとめて管理してるってことが最大の特徴です。

特許というのは新しいアイデアに与えられるので、従来技術との違いつけないといけません。
従来技術というのは、たとえばChatGPTのような大規模言語モデルを使った自然言語処理です。
ChatGPTは、単語の出現確率を学習したシステムで、自分といった概念を持ちません。
だから、自分という概念でデータをまとめたってことが、この特許の特徴というわけです。
そして、登場人物オブジェクトは、その属性としてプラスマイナス感情を持ちます。
これが心的状態を有する登場人物ということです。
これが第二の特徴と言えます。

そして、最後に第三の特徴が書いてあります。
「プラス感情およびマイナス感情に基づいて登場人物の行動を予測することで入力文の意味理解を行う」です。
これは、楽しかったら笑うだろう、悲し語ったら泣くだろうって予測することです。
そういう行動を予測できることが、意味を理解すると定義したわけです。
まぁ、当たり前のことを書いてるだけです。
じつは、これは書かなくてもいいんですけど、特許請求の範囲って何か追加すると、それだけ権利範囲が狭くなるんです。
つまり、審査には通りやすくなるんです。
この文を追加することで、一見、権利範囲が狭くみえるんですけど、実質、何も狭くなっていません。
これが、特許請求の範囲の中身の説明です。

さて、皆さん、これを見て、どう思いましたか?
これ、とんでもない特許だって気づきましたか?

たとえば、会話システムを作るとします。
そのとき、相手をデータのまとまりで管理して、相手が喜んでるのか、悲しんでるのかって判定したとします。
それだけで、この特許を侵害したことになるんです。
つまり、ロボマインドの許可なく、勝手に作れないってことです。
ねぇ、どれだけ強い特許を取ったか分かるでしょう。

ただ、今のAIは、そうなっていないので、今は大丈夫です。
今のAIは、単語単位でしか管理してなくて、単語に応じた単語を返すだけです。
自分や相手といった概念や、感情を持ちません。
まぁ、だから、ChatGPTとの会話に心を感じないんです。

でも、いずれ、自分って概念や感情を持ったAIが出てくるのは間違いないです。
少なくとも、善悪といった倫理観を理解させるには、この特許を使わざるを得ません。

勘違いしてほしくないのは、僕は儲けようと思ってるわけではありません。
オーバーでなく、これは日本のためになると思っています。
日本はAIで出遅れましたけど、これは、最後のチャンスだと思っています。
次のAIは、心をもったAIです。
孫さんは、それを超知性と呼んでいます。


それに、日本が得意なのはゲームやアニメです。
キャラクターには心が絶対必要です。
そこに、この特許を生かして欲しいんです。
次のAIは、日本が世界を引っ張っていく。
そう考えています。



はい、今回はここまでです。
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それから、今回の話のもう少し詳しい内容を知りたい方は、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!