第534回 AIで脳を改造せよ!自閉症治療から教育改革まで


ロボマインド・プロジェクト、第534弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

自分の体ってどこにあるんでしょう?
そんなの、考えるまでもなく、これが自分の体ですよね。
でも、なんで、そう思えるんですか?
実は、どこが自分の体かって経験による学習で作られるんですよ。
それも、生まれる前からです。
胎児を診断するのにエコーってありますよね。

エコー技術って、ものすごく進歩しているって知っていましたか?
四次元超音波イメージング技術っていうんですけど、これ見てください。

ここまではっきり観察できるようになっているんです。
それでわかってきたのは、赤ちゃんは、自分の手で自分の顔を頻繁に触っているってことです。
「ここが顔かぁ」とか、「顔さわったら、こんな感じがするんやなぁ」って生まれる前から確認してるんですよ。
こうやって学習したから、顔はどこにあって、頬っぺた触ったらどんな感じがするとかってわかるんです。
こうやって自分が出来上がってくるわけです。

でも、これって、他の動物も同じなんでしょうか?
そりゃ、同じやと思うでしょ。
でも、ちょっと考えてみてください。
自分の体を感じるとか、自分の体を動かそうと思ったとき活性化するのは脳の感覚野と運動野です。

これ、大脳にありますよね。
さて、これが脳の系統発生図です。

大脳が発達してきたのは哺乳類からです。
感覚野とか運動野がはっきりしてきたのは霊長類ぐらいからです。
感覚野がないなら、自分の体を感じることはあるんでしょうか?

これで思い出すのが、ジル・ボルト・テイラーです。
ジルは、大規模な脳卒中が大脳で起こりました。
いつもは右脳の話をするんですけど、今は、右脳か左脳かは置いときます。

ジルは、脳卒中が起こった時、自分の体の境界が消えたと言っていました。
どこまでが自分の腕かわからなくなったそうです。
そして、体がどんどん膨張する感じがして、やがて、世界と一体となったと言います。
おそらく感覚野が損傷して、自分の体の感覚が消えたんでしょう。
つまり、自分の体って、大脳の感覚野が作り出したデータってことです。
体だけじゃありません。
どう感じて、何に興味があるかって自分も脳が作り出したデータです。
それがわかると、AIを使って自分を変えることもできるんです。
たとえば、AIを使った自閉症の画期的な治療法から、全く新しい教育の概念まで、AIを使うことでできることがいっぱいあるんです。
これが今回のテーマです。
AIで脳を改造せよ!
自閉症治療から教育改革まで
それでは、はじめましょう!

今回も、ラマチャンドラン博士の『脳の中の天使』の自閉症から取り上げます。

前々回、第532回で自閉症の原因は、ミラーニューロン・システムにあるって言いました。
ミラーニューロンっていうのは、他人の行動を見た時、自分も同じ行動をするときに活性化するニューロンのことです。
この仕組みがあるから他人の感情も読み取ることができます。
そして、自閉症の人は、ミラーニューロン・システムが上手く機能していないから他人の感情を読み取るのが苦手というわけです。

このことをことを確認する簡単なテストがあります。
鉛筆を横にして口にくわえてもらいます。
その状態で、写真を見て他人の表情を読み取ってもらいます。
すると、ほほ笑みの表情だけ、読み取り精度が悪化したそうです。
どういうことかというと、鉛筆をくわえることでほほ笑むときにつかう頬の筋肉を使うわけです。
ほほ笑むときに使う筋肉のニューロンが既に使われているので、それが自分の感情か、他人の感情かわからなくなって精度が落ちるわけです。

さて、赤ちゃんの話の続きです。
新生児の赤ちゃんって、こんな風に手を顔の前に持ってきますよね。
あれは手を見るために顔の前にもってきてるって説があって、それを調べたそうです。
方法は、赤ちゃんの手に紐を結びつけて、反対側を足元のベッドまでもっていって、重りを付けたんです。
すると、重りで手が顔から離れますよね。
それを、顔の前に持ってくるかどうか二種類のテストをしたんです。
一つは、自分の腕が見える状態で、もう一つは、顔の前に仕切り板を置いて、自分の腕が見えない状態です。
すると、自分の腕が見えるときは、重りを上げて手を顔の前に持ってきました。
ところが、仕切り板で自分の腕が見えないときは、手を顔まで持ってこなかったんです。
つまり、新生児は腕を見ることで、自分の腕と確認して腕を動かしてたわけです。
でも、腕が見えないと腕を動かすことができませんでした。
それが、生後3ヶ月ぐらいになると、自分の手を不思議そうに眺めて、頻繁に両手を合わせる行動を取ります。
これは、ハンドリガードと言われる行動です。
この時期を過ぎると、赤ちゃんは自分の手を見なくても手を動かせるようになります。
つまり、最初は目で見ることで自分の体を確認してたのが、見たり触ったりして手を観察することで、見てなくても手があるとか、手を動かせることを発見するんでしょう。
僕らが当たり前に思っている自分の体の感覚って、こうやって経験による学習で獲得したわけです。

こうやって、ここまでが自分の体だって境界が作られるわけです。
この自分の体という感覚も、自閉症の子ははっきりと感じられないそうです。
第300回で、パッキング療法という自閉症児の治療法を紹介しました。
それは、水で濡らしたシーツで子供の首から下をくるむ療法です。
一回に1時間、それを数日から数週間行います。
ちょっと野蛮な治療法に思えますけど、これで自閉症の症状が改善されることも確認されているんですよ。
なんで改善されたかというと、水でぬれたシーツを感じることで、自分の体を意識できるようになったってことです。

脳卒中になったジルは、自分の体の境界を感じれなくなりましたけど、その逆です。
ジルは、自分が世界に溶け出して、世界と一体となったと言っていました。
そんな感覚だと、そりゃ、自分というものを感じられないですよね。
大脳が、自分の体の感覚を作り出していたわけです。
その機能を強化すれば、自分というものをはっきりと感じられるようになるわけです。

さて、自閉症の場合、共感能力が低いと言われています。
それじゃぁ、共感力を鍛えればいいんじゃないでしょうか。
腕の筋肉を鍛えるみたいに共感力を鍛えるんです。
ただ、腕の筋肉は、自分の意志で動かせるから鍛えることもできます。
でも、自分の意志でコントロールできないものを鍛えたり、コントロールできるようになるんでしょうか?
たとえば心拍は、心臓や自律神経で決まるので自分の意志でコントロールできません。

ところが、訓練すれば、心拍を自分の意志でコントロールできるようになるんですよ。
どうするかというと、心拍数をモニター画面で上下に動く丸い点で示すんです。
心拍数が上がれば点が上がって、心拍数が下がれば点が下がります。
つまり、心拍数を目に見える形でフィードバックさせるわけです。
そして、心拍数上がれと念じて点が上がるように訓練するんです。
そしたらだんだんできるようになるんです。
最後は、モニターなしでも自由に心拍をコントロールできるようになるんです。

赤ちゃんも、最初、手が見えるときしか、手を自由に動かせなかったですよね。
それが、自分の手を眺めて、頻繁に両手を合わせるハンドリガード期を経過すると、手を見なくても動かせるようになりました。
あれと同じです。
視覚フィードバックを使って訓練することで、本来、自分の意志でコントロールできない心拍もにコントロールできるようになるんです。

これは心拍だけじゃありません。
たとえば痛みもコントロールできるようになるんです。
痛みは、主観で感じるもので、コントロールできるものじゃないですよね。
ところが痛みも訓練でコントロールできるようになるんです。

痛みの大きさは、脳の前部帯状回の神経活動に比例します。
そこで、この神経活動の大きさをCGの炎としてモニターに表示して痛みを視覚フィードバックするんです。
そして、その炎を小さくなるように念じるんです。
そしたら、だんだん炎が小さくなるんです。
つまり、痛みが小さくなるんです。
こうやって、自分の意志で痛みをコントロールできるようになるんです。

つまり、フィードバックして感じることさえできれば、自分の体で感じるものは、自分の意志でコントロールできるようになるんです。
そう考えたら、共感力も鍛えることができるはずですよね。
つまり、会話する相手がどう感じてるか、目に見える形で示すんです。
そうしたら、自分もその感情を感じるように訓練するんです。
これで、共感力を鍛えることができますよね。

これが、ラマチャンドラン博士が考えた自閉症の治療法です。
いやぁ、さすがラマチャンドラン博士です。
こういうアイデアを考えさせたらピカイチです。
ただ、さすがのラマチャンドラン博士も、どうやって実現したらいいのかまではわからなかったようです。
やるとしたら、MRIとか使って相手の感情をリアルタイムでモニターするとかです。
かなり大がかりな装置となりますよね。
まぁ、この本が出版された10年前なら、それしかできないと思いますけど、でも、今なら比較的簡単に実現できます。
どうやるかというと生成AIを使うんです。

こっからは、僕のアイデアです。
たとえば、ChatGPTを使うんです。
ChatGPTに、「今からあなたと会話するので、その時に感じた感情を表示してください」って指示するんです。

そしたら、こんな会話ができます。

「あなたはとても頭がいいですよね」っていったら
「とてもうれしい」って感情を表示しましたよね。
次は、こうです。
「大事に育てていた花が枯れたんですよ」っていったら、
感情が「悲しい」ってなりましたよね。
ちゃんと、こちらの感情に共感していますよね。

今度は、感情を10段階の数値で表してくださいって言ってみます。

そしたら、「頭がいいですよね」っていったら「嬉しい10」となりました。

花が枯れた場合は「悲しい3」です。
完璧ですよね。
こちらの感情と同じ感情が発生しますけど、自分に起こった出来事じゃないから小さい数値となっています。

これを数値でなくてCG画像の大きさで表現してもいいです。
たとえば、怒りは炎とか、喜びは太陽とか、悲しみは氷とかです。
これでAIと自由に会話させるんです。

出来るだけ炎や氷を出さず、太陽を出させるような会話をするゲームです。
でも、現実社会では、嫌なことを伝えないといけないことがありますよね。
そんな場合も、できるだけ炎や氷が小さくなるような表現をすれば成功です。
こんな訓練、人間相手になかなかできないです。
でも、AIならいくらでも訓練できます。
コミュニケーションに悩むアスペルガー症候群の人にとって、画期的なシステムになると思うんですよ。
ロボマインドなら、このぐらいのシステムなら作ることが可能です。
もし、この動画を見ていて興味がある人がいれば協力しますので、よかったら、声をかけてください。

最後に、この本で取り上げられていた突出風景理論について説明します。
突出風景理論というのは、自閉症を説明する一つの仮説です。
風景というのがちょっとわかりにくいんですけど、これは感情の起伏の風景と思ってください。
何か見たり聞いたりしたとき、感情の起伏が起こりますけど、これが普通の人と自閉症の人で形が違うってことです。

具体的な検証実験で説明するとわかりやすいです。
自閉症児と健常児にいろんな写真を見せて、その時の電気皮膚反応を測定します。
電気皮膚反応というのは、感情や精神的刺激によって皮膚の電気的性質が変化することです。
たとえば、健常児は、人の眼の写真には電気皮膚反応が起こって、鉛筆の写真には反応しません。
ところが、自閉症児の場合、人によってさまざまで、どうということのない写真にも大きく反応することがある一方、人の眼の写真には無反応だったりします。

自閉症の子は、ものに対するこだわりが高くて、自動車や電車にものすごく詳しい子がいっぱいいます。
それから、第484回で紹介した自閉症のドナは、電話帳を丸暗記していました。
ドナが言うには、電話帳を開いて、「ブラウン」って名前が並んでるのを見ると、興奮して、数えずにはいられないそうです。
それで、「すごい、ブラウンさんが3800人もいる!」って夢中で数えているうちに電話帳を丸暗記したようです。
電車オタクの中には、スジ鉄といって、時刻表を覚える人がいます。
時刻表のダイヤグラムを読みといて、この電車でここで乗り換えたら何時間でどこどこに行けるって見つけたら興奮するみたいです。


それから第428回では、素数を暗算で計算する双子の兄弟を紹介しました。
神経科医のサックス博士が、ある日、双子が数字を言い合うゲームをしてるのを見たそうです。
兄が何か数字を言うと、しばらくすると弟がにっこり笑って、今度は、弟が別の数字を言うっていうゲームです。
その数字を調べてみると、全部、素数だったそうです。
しかも、10桁の素数です。
二人にとったら、どんな数でも割り切れない数字を見つけたとき激しく興奮するんでしょう。

ただ、この双子、あまり幸せな人生を送ることはできませんでした。
素数の計算はできても、一人で電車に乗ることもできません。
二人一緒にしてるからこうなるんだって、無理やり二人を引き離して、社会で生きていける訓練をさせたそうです。
それで、電車に乗ったり、簡単な作業はできるようになりました。
ただし、二度と、素数を計算することはできなくなったそうです。

素数というのは、セキュリティの要になるものなので、もしかしたらセキュリティの弱点を見つけ出すとか、そんな仕事ができたかもしれません。
特殊な能力を持つ人がいたら、それを社会の役に立てるように導くのが教育の役割だと思います。

ただ、一人ひとりバラバラに教えるわけにもいきません。
そこで、同じ教室で、決められた教科書を全員、一律に教えるのが今の教育です。
でも、そのやり方が既に破綻してるのは目に見えています。
不登校の割合は毎年増加して、今では中学生の14人に一人が不登校だそうです。

そこでAIを使うのです。
今も教育にAIを使おうって話はあります。
ただ、そのほとんどは教科書ありきで、人によって進み具合を変えるってぐらいです。

僕が提案するのは、教科書に合わせて人を育てるんじゃなくて、人の個性に合わせて教科書を作るって考えです。

今の教育を支える技術の一つに印刷技術があります。
大量の本を安価に印刷する発明で、知識、教育の大衆化が進みました。
ただ、その一方、全員一律の教育にもなりました。

でも、紙の本の時代は終わりつつあります。
今や、教科書はタブレットに変わりつつあります。
そして、AIの登場です。

新しい技術の発明で、教育のやり方も変えていくべきです。
つまり大量印刷と標準化の教育から、一人ひとりの個性を伸ばす教育です。
今までは技術的にできなかった理想の教育が、テクノロジーで可能になりつつあります。
その人の個性にあった教科書を生成AIで、一人ひとりに作るんです。
これこそ、生成AIの正しい使い方じゃないでしょうか。

はい、今回はここまでです。
今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!