第54回 脳と心の進化論④ 〜意識をちゃんと定義してみた


ロボマインド・プロジェクト、第54弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回から、脳の進化を考えています。
生物の進化って、普通は、体がどう変わっていったかですよね。
でも、脳の進化は、脳の大きさとか、形の変化だけみても、あまり意味ないんです。

重要なのは、その脳で、世界をどう見てたかってことです。
進化の過程で、世界の認識の仕方がどう変化してきたかってことです。

えっ、ちょっと待ってください。
現実の世界は一つですよね。

世界の認識の仕方が違うって、どういうこと?
同じもの見たら、みんな、同じに見えるでしょ?
生物によって、違う風に見えるってこと?

はい、そうですよね。
いろんな疑問が出てきますよね。
現実に存在する世界は一つです。

客観的に観測できて、だれが観測しても同じもの。
これが、今までの科学が扱ってきた世界です。

でも、我々は脳の内側から世界を見ています。
主観で世界を認識しています。
主観で、どう感じてるか、ここは、今までの科学じゃ、扱えない領域です。

でも、心を持って会話ができるAIを作ろうと思ったら、主観が必要です。
脳が、世界をどう認識してるか、そこを理解する必要があるんです。

我々は、脳の内側から世界を見ています。
それって、どういうことでしょう?
まずは、ここから疑っていきます。
自分は、世界を見ています。
そう思ってますよね。

はい、そうです。
って、納得したあなた。
ここで、納得しちゃ、ダメなんですよ。
ここから疑わないとダメなんですよ。

いいですか。
僕らは、世界を見てますよね。
サルもイヌも世界を見ますよね。
そうやって、世界を認識してますよね。

じゃぁ、カエルはどうでしょう?
植物はどうでしょう?

いや、植物は見てないでしょ。
だって、目がないし。

そうですよね。
目がなければ、世界を見れないです。

じゃぁ、目が見えなかったら、世界を認識できないんでしょうか?
目をつむってみてください。

何も見えませんよね。
真っ暗ですよね。

でも、自分の周りに空間が広がってるのは感じますよね。
これが世界を認識してるってことです。
目が見えなくても、世界を認識できるわけです。

つまり、世界を認識するのに、目がみえるかどうかは関係ないんです。
目があるかどうかは、根本的な問題じゃないんです。
逆に言えば、目があっても、世界を見てるかどうか、分からないんです。

どんどん分からなくなってきましたよね。

じゃぁ、今度は、違う視点から考えてみましょう。
生きて行くのに、世界を認識する必要はあるんでしょうか?
まず、ここから考えていきましょう。

生物の目的ってなんでしょう?
まず、生き延びることです。
次に、子孫を残すことです。
生物の目的はこの二つです。
生物の全ての活動は、究極的には、この二つを達成するためにあります。

利己的な遺伝子って言葉、きいたことありますか?
進化生物学者のリチャード・ドーキンスが作った言葉です。
(リチャード・ドーキンス 進化生物学者・動物行動学者 1941~ )

生物の行動って、結局、自分の遺伝子をいかに残すかってことで全て説明がつくって考えです。
勉強していい学校に入ろうとか、いい会社に就職しようとしたり、おしゃれしてモテようとしたり、どれも、自分の遺伝子を残すための行動なんです。
人間といえども、この遺伝子の戦略からは逃れられないわけです。

これは、ホント、そうですよね。
意識を生み出したり、言語を発明したりするのも、他の生物より、自分たちの遺伝子を残すためっていう説明は、間違ってはいないです。

生物の大きな目的はこれで問題ないですが、そのために、どんな風に進化したのかを、もう少し細かく見ていきます。

生物の目的は、自分が長生きすることと、出来るだけ子孫を残すことです。
一生、その場から動くことのない植物は、環境に身を任せるしかありません。
世界への関心は、どっちを向いたら、太陽の光をいっぱい浴びれるかってことぐらいです。
世界とのかかわりは、そのぐらいです。

これが、足をもって、自由に動き回れるようになると、違ってきます。
自然界で生き抜くために、天敵から逃げて、エサを探して食べないといけません。
早く正確に世界の変化に対応する必要があります。
そのために、目が生まれました。
目で見て、敵から逃げたり、エサを捕まえたりします。

体をコントロールするために脳が必要になります。
カエルは、エサとなるハエを見つけると、舌を伸ばして捕まえます。
天敵が近づいてきたら逃げます。
全ての動きを脳がコントロールしています。

その場に根を張って動けない植物とは全然違いますよね。
さて、カエルは、どんな世界をみているでしょう?

カエルは、ハエを見つけたら捕まえて、天敵の蛇や鳥を見たら逃げるってプログラムで動いています。
入力によって行動が決まっているわけです。
足の筋肉とか、複雑な制御をしないといけないので脳が必要ですが、やるべきことは決まっています。
悩むことも考えることもありません。

環境に応じて決まった動きをするだけです。
そう考えると、風に揺れる植物とあまり変わらないといえます。
何も考えてないわけです。
あぁ、鳥だとか、あぁ、ハエだ、さて、どうしようかと考えてるわけじゃありません。
鳥を見たとき、ハエを見たとき、全ての行動が決まってるので、認識した瞬間に行動に移っているわけです。

何が言いたいかわかりますか?
カエルは、世界を見てるわけじゃないってことを言いたいんです。
僕らが、こうして世界を見て、認識してるように、カエルは見てないってことなんです。
同じような目を持っていても、同じように世界を見てるわけじゃないんです。

ここにペンがあります。
僕らは、このペンを使って、何か文字を書こうか、絵を描こうかって考えることができます。
そんな風に考えることができるのは、ペンを使って、いろんなことができるって知ってるからです。
行動を選択できるからです。

カエルは、お腹がすいてるとき、眼の前にハエが止まったら、舌を伸ばして捕まえます。
というか、捕まえるしか選択の余地がないわけです。
天敵の鳥が来たら、池の中に逃げます。
逃げるしか選択の余地がないわけです。

行動が一つに決まってるなら、なにも、わざわざ、認識して、考える必要はないですよね。
考えてる間に、ハエは逃げるし、鳥に捕まって食べられてしまいます。
それより、認識した瞬間に決められた行動に移った方が、生存確率が高くなります。

カエルは、このペンをみて、ペンがあるって思わないわけです。
食べれないし、危険でもないものです。
つまり、何も行動しないわけです。
行動しないということは、存在しないのと同じです。

認識したものに対して、どう行動するかは、カエルは、生まれたときから決まっています。
それ以外の行動はできません。
無意識で動いてるだけです。

じゃぁ、意識って何ってってなります。
ここで、ようやく、意識の話がでてきます。

意識の定義は、厳密に決まってるわけじゃありません。
なので、ここからの議論は、意識の定義も同時にしながら進めていきます。

意識の定義は、いろんな考えがあって、環境に応じて変化するものは全て意識があるって考えもあります。
その定義だと、石っころにも意識があるわけです。
石ころは、温度によって少し大きくなったり、小さくなったりするからです。
さすがに、この定義は、極端だと思います。

僕の考えでは、カエルには、まだ、意識がないと考えます。
ものを認識して、考えることができないと、意識があるとは言えないと思っています。

考えるというのは、言い換えると、行動の選択です。
ある条件を満たしたとき、決められた行動しかとれない生物は、意識がないというわけです。

どの生物から意識があるかは断定できないんですけど、僕は、哺乳類は意識を持っていると思っています。
例えば犬です。

イヌは、「マテ」とか「ヨシ」って言葉を覚えることができます。
エサを食べるとき、「マテ」と言われたら待って、「ヨシ」といわれたら食べるとか。
エサを見たときの行動が一つに決まってるわけじゃなくて、行動を後から変更できるわけです。
だから、意識があるといってもいいと考えるんです。

それじゃぁ、どういう仕組みがあれば、これが実現できるでしょう。
エサと、その時の行動が結びついてたら、これはできませんよね。

じゃぁ、結びつけないためには、どうすればいいでしょう?
目でみてエサと認識したとき、行動でなく、エサを示す何かに結びつけるわけです。
そして、そのエサを示す何かを認識するプログラムを作って、そのプログラムが、行動を制御するわけです。

図にするとこんな感じです。
これがエサその物です。
これがエサその物を示す何かです。
これが行動です。
これが、行動を制御するプログラムです。

ほんで、このプログラムは、エサその物じゃなくて、エサを示す何かを認識するわけです。
この仕組みなら、現実世界の物と、行動が直接結びついていないですよね。

そして、このプログラムは、エサを示す何かを認識すると、どう行動するかいろいろ考えるわけです。
はい、それでは、これらに名前を付けます。

この現実世界にあるものを示す何か、これがクオリアです。
そして、クオリアを認識して、行動を制御するプログラム、これが意識です。

ようやく、意識が定義できました。
ロボマインド・プロジェクトで作ろうとしてる意識は、この考えが基本となります。
興味がある方は、ロボマインド・プロジェクトを応援(のチャンネル登録)していただけると嬉しいです。

次回は、この意識の定義を、もう少し具体的に説明していきますね。
それでは、次回もお楽しみに。