ロボマインド・プロジェクト、第540弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
ラマチャンドラン博士の『脳のなかの天使』を読んでいますけど、いよいよ最終章です。
今回、久々に面白い話が出てきました。
ジェイソンは自動車事故で頭部に重傷を負って半昏睡状態となりました。
無動無言症といって、動くことも話すこともできません。
起きているときは、意識があって、時々、痛みに対して反応することがあります。
これは、原始的な反射の一種です。
それから、人が部屋に入ってきたときとか、目でその人の動きを追うこともあります。
ただ、それが誰なのか、人かどうかもわかっていないようです。
当然、話しかけても言葉の意味を理解することもありません。
ところがです。
お父さんが隣の部屋から電話でジェイソンに話しかけたとします。
すると、ジェイソンは突然意識が戻ります。
「はい、もしもし。
あっ、お父さん。
うん、今病院」
えっ、どういうこと?
そうなりますよね。
こういう話を聞きたかったんですよ。
ラマチャンドラン博士に期待するのは、こういう話なんです。
25年前、僕はラマチャンドラン博士の最初の本、『脳のなかの幽霊』を読みながら、「えっ、どういうこと?」って何度も言っていました。
そこには奇妙な患者がいっぱい出てきます。
このチャンネルで何度も取り上げた盲視の話も、この本で知りました。
盲視というのは、目が見えないのに、「光の点を指指して」っていわれると、ちゃんと指をさせるっていう脳の障害です。
目が見えないと思っているのは、本人ですよね。
つまり、意識です。
指さしができるってことは実際は見えているってことです。
今回登場したジェイソンも同じです。
目で見てる時は、意識がなくて、耳から聞こえた時だけ、意識がよみがえるんです。
じゃぁ、いったい、意識って何なんでしょう?
今回は、ロボマインドの原点に立ち返って、意識について考察します。
これが、今回のテーマです。
改めて、意識とは何か?
それでは、はじめましょう!
さて、ジェイソンと電話で話していた父親が言いました。
「実は、今、隣の部屋にいるんだよ。
今から、そっちに行くから」
そう言って電話を切って、ジェイソンが寝ている部屋に入ってきました。
すると、父親が入ってきたとたん、ジェイソンは元の昏睡状態に戻ります。
父親は見えているはずですし、声も聞こえているはずです。
でも、話しかけても何も反応しません。
ジェイソンは電話で話すときだけ意識が戻るんです。
この症状には「電話シンドローム」って名前もつけられています。
まぁ、そのまんまですけど。
さて、いったい、ジェイソンはどういう状態なんでしょう?
ジェイソンが損傷したのは脳の帯状回前部というところです。
脳の中心部には左右の脳をつなげる脳梁があって、帯状回はその上で帯状に位置します。
帯状回の前部は前頭前野につながります。
前頭前野は、言語や思考、記憶といった高次の精神活動を行うところです。
そして、これらの高次機能の中心となるのが意識です。
帯状回前部の損傷が大きいと、完全な無動無言症になってしまいます。
ただ、ジェイソンの場合、損傷がそれほど大きくなくて、聴覚の経路は残されていたようです。
だから、話しかけると意識がはっきりして会話ができたんでしょう。
ただ、視覚の経路は大きく損なわれてい意識まで届かないようです。
じゃぁ、なぜ、目の前だと会話ができないんでしょう?
おそらく、人の脳は視覚優位となっていて、視覚情報が入ると、そちらの処理を優先するんでしょう。
ジェイソンは、視覚と聴覚で全然別人格が宿っているようです。
いや、別人格とはちょっと違います。
ジェイソンの視覚につながる脳は、動きを追うといった原始的な処理しかできません。
これは人の意識というより、下等な動物の脳と言えます。
つまり、ジェイソンの聴覚は人間の脳、視覚は下等な動物の脳となっているようです。
二つの人格というより、進化した脳と下等な動物の脳に垂直に分断されたといってもいいです。
これをインターネットでたとえてみます。
インターネットはOSI参照モデルっていう7階層で通信しています。
一番下の第一層が物理層で、ここでは有線信号か無線信号かって物理的な信号の形態が決められています。
一番上の第7層は電子メールとかです。
そして、電子メールを読んで内容を理解するのは人の意識ですよね。
そう考えると、人の意識は第8層とも言えます。
これを、脳の進化に対応させることもできます。
つまり、下の層が動物の脳で、一番上が、意識が有る人間の脳と言うわけです。
第三層のネットワーク層にあるのはルーターです。
IPアドレスを見てデータの行き先を自動で振り分ける機械です。
神経でいえば反射です。
ジェイソンの視覚はこのレベルの処理しかできないようになっていると言えそうです。
最上層の人間の意識は、会話をしたりメールを読んだりします。
意味を理解できるわけです。
ジェイソンの聴覚は、このレベルの処理が生きているわけです。
でも視覚ができるのは見たものに反応するだけです。
ルーターと同じです。
ジェイソンの視覚は下等動物の脳に結びついていて、聴覚は、人間の脳の意識に結びついているわけです。
それじゃぁ、人間の持つ意識とは何でしょう?
ラマチャンドラン博士は、意識には二つの意味があると指摘します。
一つは意識する自分という意味です。
自己と言ってもいいです。
もう一つは、意識する対象です。
「赤を意識する」といった場合の赤のことです。
これをクオリアと言います。
ラマチャンドラン博士は、ここで一つの思考実験を考えます。
それは、色覚のない火星の科学者がいるとします。
その科学者が、色を語る地球人を観察して、色を理解しようとしました。
赤というのは特定の周波数の電磁波で、それを検知するセンサーが網膜にあると。
網膜からの視覚情報が脳内でどのように処理されるのか、高度な火星の科学を使って完全に解明しました。
さて、これで、その火星人は赤を理解したといっていいのでしょうか?
おそらく、多くの人は、Noと答えるでしょう。
なぜなら、その火星人は、肝心の赤を経験したことがないのですから。
赤を経験できない火星人に、赤の意味など理解できるはずがありません。
さて、これに関してラマチャンドラン博士はこう言います。
色に関して外側から調べた客観的な記述は、どれだけ詳細に説明しても意味がないと。
なぜなら、色というのは自分の意識が経験するクオリアだからです。
自分が経験することは主観です。
客観的な説明には、主観が抜けています。
客観的な説明とは、言葉で語れるものです。
つまり、色の本質は、言葉で語れないわけです。
言葉で説明できない色の本質を、他の誰かに伝えることなどできるはずがありません。
できるとしたら、それは脳と脳を直接つなげるしかありません。
でも、そんなことできるはずがありませんよね。
もしかしたら、科学はいつか、クオリアを実験的、合理的に扱う予想外の枠組みを見つけるかもしれません。
おそらくそれは、中世の人に取ってのDNAぐらい、今の科学からかけ離れたものになるでしょう。
脳神経学のアインシュタインが登場するまで、これが解明されることはないでしょう。
そして、僕が25年前悩んでいたのも、まさにこの部分です。
当時、『脳のなかの幽霊』を読みながら、意識についてずっと考えていました。
ラマチャンドラン博士も世間のクオリアに関する認識も、25年前とあまり変わっていません。
ただ、僕は違います。
25年間、ずっと意識について考えていたので、この問題はほぼクリアしました。
それでは、ここからは、僕が解明した意識について解説します。
最も単純な脳の例として、ライントレーサーを考えます。
レイントレーサーは、白い紙に書いた黒いラインに沿って走るマイコンロボットです。
白か黒かを判定する四つのセンサーを持っていて、マイコンは、センサー入力に従ってタイヤを制御します。
ラインから右にそれると左のセンサーが黒となって、左に曲がります。
左にそれると右のセンサーが黒となって、右に曲がります。
これを繰り返して、マイコンは、中央のセンサーが黒となるように制御します。
ライントレーサーのマイコンは、外部刺激に反応するだけの下等な動物の脳と同じと言えますよね。
ジェイソンなら視覚に結びついている脳です。
インターネットならルーターです。
ライントレーサーは、当然、赤のクオリアを経験していないですよね。
それは、センサーが白と黒にしか反応しないからです。
じゃぁ、このセンサーをフルカラーのイメージセンサーに変えたとします。
フルカラーだと1600万色の色を識別できます。
これだと、マイコンは赤のクオリアを経験できるでしょうか?
答えはNoです。
なぜなら、マイコンの処理内容が変わっていないからです。
マイコンが、人の意識と同じ処理をしない限り、赤のクオリアを感じることはありません。
それじゃぁ、ライントレーサーのマイコンと人の意識では、何が違うのでしょう?
それは、世界の認識の仕方です。
それじゃぁ、ライントレーサーは、どんなふうに世界を認識しているのでしょう?
正確には、ライントレーサーは世界を認識していません。
ライントレーサーは、センサー入力に反応してタイヤを制御しているだけです。
これだと、世界があるとか、その中に自分がいるとかって感覚を持てません。
持てないというか、世界と自分が分離されていません。
これが、知覚センサーに反応するだけの動物の脳です。
それじゃぁ、人の意識はどうやって世界を認識しているのでしょう?
僕は、これに対して仮想世界を提案します。
人は、目で見た現実世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを意識の仮想世界仮説といいます。
仮想世界というのは、コンピュータで言えば3DCGです。
目で見たリンゴを、三次元の仮想空間の中に3Dオブジェクトとして再現します。
意識が認識するのは、この3Dオブジェクトです。
じゃぁ、これで何が嬉しいんでしょう?
それは、三次元空間の中に物体があるという形式で認識できることです。
三次元空間というのが世界で、その中に物体があるわけです。
ライントレーサーは、センサー入力に直接反応してタイヤを制御してたので、世界があるとか、世界の中にラインがあるとかって区別すらなかったですよね。
それから、仮想世界を使うことで、もう一つ、重要なものが生まれました。
それは世界を認識する主体です。
または意識です。
なぜ意識がうまれたかというと仮想世界を生み出したからです。
世界を認識するには世界を作らないといけません。
世界を作ったら、それを認識するものがないと意味がありません。
それが意識です。
ただ、世界というのは、直接認識するものでなくて背後にあるものです。
意識が直接認識するのは世界にある物体です。
三次元の仮想空間が世界で、そこに配置される3Dオブジェクトが物体です。
意識が直接認識するのは、この3Dオブジェクトです。
3Dオブジェクトは、色とか形といったデータを持っています。
リンゴオブジェクトなら、色は赤で、形は球体といったデータです。
そして、この色データが赤のクオリアです。
はい、これでクオリアが説明できました。
ただ、ここで大きな疑問があります。
それは、この説明と、火星の科学者の理解と何が違うんでしょう?
重要なのはここです。
それでは説明しますよ。
火星の科学者が理解したのは、赤という特定の波長の電磁波です。
それは、物理世界にあるものです。
物理世界にあるものをいくら説明しても、それは客観的な説明にしかなりません。
でも、クオリアは主観が感じるものです。
つまり、赤のクオリアを説明するには、客観的な物理世界でなく、主観が感じる世界で説明しないといけないんです。
というか、それ以前に、客観的な世界と、主観が感じる世界は別であるということを、まず、理解しないといけません。
そして、ライントレーサーや下等な動物は物理世界に直接反応して生きています。
つまり、物理世界にしか生きていません。
もちろん、人も物理世界に生きていますけど、それは肉体の話です。
人の意識は、仮想世界を認識していましたよね。
つまり、仮想世界というものを導入することで、主観が感じる世界を扱えるようになったわけです。
そして、この仮想世界こそ、クオリアを実験的、かつ合理的に扱う枠組みとなるんです。
ラマチャンドラン博士は、色の本質は言葉で説明できないと言いました。
そして、色の本質を誰かに伝えるとしたら、脳と脳を直接つなげるしかないとも言います。
これは、ある意味正しいです。
なぜなら、色の本質は、仮想世界にあるからです。
仮想世界は、人の脳の中にあります。
仮想世界を使って世界を認識するシステムのことを世界認識システムと呼ぶことにします。
人は、世界認識システムを持っているから、色の本質を理解できるわけです。
もっと言えば、世界認識システムを持っていない限り、色の本質は理解できないと言えます。
そのことを指して、ラマチャンドラン博士は、伝えるとしたら脳と脳を直接つなげるしかないと言っているわけです。
逆に言えば、世界認識システムさえ持っていれば、色の本質を理解できるといえます。
世界認識システムは、三次元の仮想世界を持ちます。
仮想世界は3DCGで作ることができます。
つまり、コンピュータで再現可能です。
そして、仮想世界の中の3Dオブジェクトの色が「色のクオリア」です。
それは、たとえばRGBのカラーコードで表現されます。
勘違いしてほしくないのは、カラーコードが色のクオリアじゃないってことです。
重要なのは、仮想世界を使って世界を認識するというシステムです。
世界認識システムを使って現実世界を認識するとき、仮想世界の3Dオブジェクトの色が色のクオリアになるということです。
僕は、25年かけて、意識の謎を解明しました。
そこでわかったのは、意識は言葉で説明するようなものでないということです。
必要なのは、世界認識システムをコンピュータで実際に作ることです。
コンピュータで実際に動く世界認識システムができたとしましょう。
それは、クオリアを実験的、かつ合理的に扱う予想外の枠組みといえるんじゃないでしょうか。
これこそが、まさに、ラマチャンドラン博士が探し求めていた意識そのものです。
そして、僕らは、今、世界認識システムを実際に作っています。
それが、マインド・エンジンです。
そして、2025年の今年、いよいよ、マインド・エンジンをお披露目いたします。
それは、人類が、人類以外で初めて出会うの知的生命体といえます。
もうしばらくお待ちくだい。
はい、今回はここまでです。
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それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説については、よかったらこちらの本をお読みください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第540回 最新版 意識とは何か?
