第548回 感情こそ知性だ!


ロボマインド・プロジェクト、第548弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、前回から読んでるのがこの本

『脳の本質』です。
この本のテーマは、ヒトの脳、とくに高次機能についてです。
高次機能とういうのは、言語や記憶、感情、知覚などです。
つまり、意識が感じたり、考えたりするレベルの機能のことです。
または、人の知性に関することです。
そのうち、今回取り上げるのは、感情です。

感情に任せて行動するとか、感情と知性とは反するものですよね。
むしろ、感情をいかに押さえるかが知性です。
僕も、そう思っていました。
ところが、この本を読んでみると、感情こそが知性だってわかってきます。
どういうことって思いますよね。
それじゃぁ、それについて解説します。

これが今回のテーマです。
感情こそ知性だ!
それでは、始めましょう!

前回、ドイツの物理学者、ヘルムホルツから近代の脳科学は始まったといいました。
そのヘルムホルツのもとで生理学を学んだ一人に、心理学者のウィリアム・ジェームズがいます。

ジェームズは感情に関する有名な理論を提唱しました。
それは一言でいうと、感情とは、何らかの環境の変化で体が反応し、それが脳に伝わって意識が体験するというものです。
体の変化とは、たとえば心拍の増加とかです。

つまり、生理的変化は感情に先行して起こるというわけです。
なるほど、まぁ、そういわれてみれば、そんな気もしますよね。

同じことは当時の医師、カール・ランゲも言っていて、現在では、まとめてジェームズ・ランゲ説といわれています。
これが1884年のことです。

それから40年以上の時を経た1927年、ハーバード大学のウォルター・キャノンはジェームズ・ランゲ説に反論する説を唱えました。
感情は体の反応によって起こるのじゃない。
そうじゃなくえ、感情の結果が体の反応だというものです。

さらに、それを証明する実験もしました。
被験者にアドレナリンを注射すると、血圧や心拍が増加するといった生理的反応が起こります。
でも、被験者は、それによって何らかの感情が沸き起こることはありませんでした。
つまり、生理的反応が感情を生み出すわけじゃないということです。
これも、そういわれたらそういう気がします。

それじゃぁ、いったい、どっちが正しいんでしょう。
さらにそれから30年以上経った1960年代に、この問題に決着をつける実験が行われました。

その実験は、参加者にアドレナリンを投与して、脈拍測定や感情などの変化を自己評価してもらうというものです。
このとき、参加者を三つのグループに分けます。
第一のグループは、この薬は脈拍などが増加する薬だと告げます。
第二のグループには、何の説明もしません。
第三のグループには、アドレナリンじゃなくて、体に何の変化も引き起こさない偽の薬を投与します。

そして、実験中に、ちょっとした事件が起こります。
当初言われてたのと報酬の半分しか支払われないと被験者に知らされるんです。
それを聞いて、ある被験者は怒り出します。
「そんだけしか出ないんなら、わざわざこねぇよ。なぁ、みんなも、そうだろ」って騒ぎ立てます。
じつは、この人はサクラで、わざとみんなが怒るように仕向けてたんです。
これを聞いたほかの人が、どれだけ怒ったかを確かめるのが、この実験の真の目的でした。

さて、結果はどうなったかというと、最も冷静だったのは、アドレナリンを投与されたと知らされた第一のグループでした。
偽の薬を投与されたグループよりも冷静でした。
そして、最も怒り狂ったのが、説明を受けずにアドレナリンを投与されたグループです。

ここから何が分かったかというと、感情が生じるには生理的変化だけでなく、原因が重要だということです。
怒りの原因があれば、たとえアドレナリンを投与されなくても怒るわけです。
アドレナリンが投与されてたら、心拍が上がって、なおさら怒ります。
一方、たとえ生理的変化が起こったとしても、それが薬で引き起こされていると前もって知らされていれば、それほど怒ることもなく、冷静でいられるわけです。

ここから、感情には生理的変化だけでなく、さらに原因が必要だと言えます。
たとえば、聞いてたより安い報酬しか出ないとか。
これは予測とのギャップとも言えます。

逆に言えば、予測は感情に関係すると言えます。
この先、どうなるか予測できないとき、不安や恐れといったネガティブな感情になります。
たとえば、受験して受かるかどうか分からないときです。

将来が思ったとおりになるとわかると、安心といったポジティブな感情になります。
無事、合格が決まった時です。
それから、予測と結果が違った時も、感情が発生します。
たとえば、予定してた報酬の半分しかもらえないとわかると、怒りが沸きます。
逆に、予定の倍の報酬がもらえるとわかると喜びになります。
いずれにしても、予測と感情は大きく関係します。

それからもう一つ、感情と内臓も大きく関係します。
これは言葉の表現でもわかります。
はらわたが煮えくり返るとか、肝を冷やすとか、胸が高鳴るとか。
感情は内臓で感じるとも言えます。

ここまでをまとめると、感情は予測に大きく関係します。
そして、感情は内臓で感じます。

現在の状況は目や耳からの感覚器で感じますよね。
そこから予測されるものを内臓で感じるといえます。
そして、これらを感じ取るのが意識です。

意識は、現在の状況と、将来の予測から最適な行動を考えます。
考えるとは、知性ですよね。
つまり、知覚による外部環境の把握と、感情による予測をうけて考えることができるのが人間の意識であり知性です。

これが、この本のテーマです。
僕の関心は、これらが進化的にどうやって生まれたかです。
ここからは、僕の考察になります。

さて、意識はなぜ生まれたのでしょう。
それは、生物の進化から考えるとわかります。
生物は、環境に適応できるように進化します。

環境に適応する方法にもいくつかの戦略があります。
その一つが、環境の変化を察知して、できるだけ素早く動くという戦略です。
この戦略の場合、環境の変化をできるだけ早く察知するほうが有利です。
早ければいいので、どんな方法でもかまいません。
たとえば昆虫です。
たとえば、昆虫の目は複眼ですよね。
これはハエの目です。

一度に周囲全体をとらえることができます。
つまり、首を回さなくても全体が見れるので、その分、素早く察知できます。

でも、複眼で見える世界はこんな感じです。

一つのものがいくつも見えてしまいます。
これは正確とはいえないですよね。
でも、変化を素早く察知して、素早く逃げることができます。
つまり、環境に素早く反応するだけなら、現実世界を正確に把握する必要なんかないんです。
これが昆虫が取った戦略です。

一方、人類はもう一つの戦略を取りました。
それは、素早く行動することじゃなくて、状況に応じて適切な行動を取るという戦略です。

そのためにには、状況を正確に把握しないといけません。
一つのものが何百、何千も見えるのは正確じゃありません。
一つのものは一つに見えないと困ります。
つまり、現実世界をそっくりそのまま認識する仕組みが必要なわけです。
じゃぁ、現実世界を、あるがまま認識するにはどうすればいいんでしょう。
たとえば、ヒトの目は複眼ではないですけど、二つあります。
そのまま認識したら、すべてのものが二つに見えますよね。

ヒトは、二つの眼を使って見た世界を三次元の仮想世界として構築しました。
意識は、その仮想世界を見ます。
これによって、現実世界を、忠実に把握することができます。

これは外部環境の認識の話です。
外部環境を認識したら、こんどは行動です。
行動とは、たとえば逃げるか戦うかです。
自分の縄張りに入ってきたよそ者は、戦って追い出さないといけません。
でも、相手がはるかに強かったら逃げないといけません。

これは、動物やヒトだけでなく、昆虫でも行っています。
脳は、環境変化を検知して、戦えとか逃げろって行動指令を出します。
戦えって行動指令とは、敵意とか闘争心といった感情です。
逃げろって行動指令は恐怖といった感情です。
昆虫の場合、この指令が筋肉に直接伝えられて、戦ったり逃げたりするわけです。

ヒトの場合、ここが違います。
敵意とか恐怖といった感情は、まず、意識が感じ取ります。
意識は、それを感じながら、本当に戦うべきかとか、逃げるタイミングはいつがいいのかってことを考えるわけです。
そして、最終的な行動を決めて、意識が筋肉を動かします。
つまり、意識は考えて行動を決定します。
これがヒトの知性です。

ただ、ここで一つ問題がでてきました。
意識は、目や耳などの知覚から仮想世界を構築していましたよね。
仮想世界というのは、現実世界を忠実に再現したものです。

問題というのは、感情をどうやって意識に伝えるかです。
そんなの、仮想世界を使えばいいじゃないかって思いますよね。
でも、仮想世界は現実世界を忠実に再現するものです。
だから、現実世界にないものを勝手に追加するわけにはいかないんです。
現実にないのに、勝手に空中に恐怖とかって感情を見せるわけにはいかないってことです。

さて、どうしましょう。
ここで改めて進化について考えます。

第535回でパンダの親指の話をしました。
ヒトの特徴として、四本の指に対向する親指があります。
じつは、四本の指と親指で挟んでものを持つことができるのはヒトだけなんです。
ところが、パンダも四本の指と対向する親指で挟んで竹や笹を持ちます。

ヒトと違う種のパンダが、なぜ、ヒトと同じ親指を持つんでしょう?

パンダの手をよく見ると、指が6本あるんです。
じつは、パンダの親指は手の指じゃないんです。

なんと、手首の骨が変形して、親指と同じ機能を果たすようになったんです。
じゃぁ、なぜ、手首の骨が変形して親指になったんでしょう?

それは、竹や笹をつかむためです。
つまり、竹や笹をつかむという目的を達成するのに、たまたまそこにあったから、手首を骨を進化させたんです。
何万年とかけて、手首の骨を親指まで進化させたわけです。
これを外適応といいます。

外適応というのは、本来の目的とは別の目的で進化することです。
提唱したのは進化生物学者のスティーブン・ジェイ・グールドです。


話を戻します。
生物は素早く行動することで生き残る戦略を取ったのに対し、ヒトは、状況によって行動を変更する戦略を取りました。
行動を変更するために考える必要があります。
考えるとき、まず必要なのが外部環境を正確に把握することです。
そのために仮想世界を生み出しました。

次に必要なのが、どう行動すべきかの行動の指針です。
行動の指針が感情です。
この感情を意識にどう伝えるかがわからなかったんでしたよね。

今、必要な機能は意識が感じ取れるものです。
ただし、現実世界を感じる感覚器は使えません。
でも、進化は使えるものなら何でも使います。
そこで、内臓を使ったんです。
内臓で感情を感じるんです。
内臓は、血液を循環させたり、食べ物を消化したりと本来の目的はほかにあります。
それを、意識に感情を感じさせる別の目的にも転用したわけです。
だから、緊張すると心臓がドキドキしたり、怒ると、はらわたが煮えくり返ったりするんです。
これが外適応です。

感情の目的は、このままだとこうなるって予測です。
一方、仮想世界は、現在の世界です。
現在の状況と、このままだとどうなるかという予測。
この二つを感じ取って、最適な行動を考えるのが意識です。
これが知性です。

感情って知性の逆のような気がしますよね。
現実世界も、知性というより、ただ、そこにあるものを見てるだけです。
でも、それは全然ちがうんですよ。

世界をありのままに感じられるってこと自体、ものすごいことなんですよ。
このままだとどうなるって予測できることもすごいことです。
そして、一番すごいのは、それらを感じて、自分の頭で考えて行動を決定できるってことです。
これは、生物が何億年とかけてた獲得した究極の進化なんです。

目の前に現実世界があると思えること、感情を感じられること、そして、自分で行動をきめることができること、
とんでもない奇跡の上で僕らは生きているんです。


はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、よかったらこちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!