ロボマインド・プロジェクト、第549弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
ロボマインド・プロジェクトの目的はコンピュータに意識を発生させることです。
ただ、意識には大きな問題があります。
それは、脳と意識の関係がわからないことです。
これを、意識のハードプロブレムといいます。
僕らは、主観で感じる意識体験をしますよね。
脳科学の発展で、ニューロンの機能が分子レベルでわかってきました。
分子レベルでわかるニューロンの仕組みのことをイージープロブレムといいます。
でも、ニューロンの仕組みがどれだけわかっても、意識体験は見えてきません。
ニューロンレベルと意識レベルの間には大きなギャップがあります。
これが意識のハードプロブレムです。
提唱したのはオーストラリアの哲学者、ディビッドチャーマーズで、1994年のことです。
それから30年以上たって、脳科学はさらに発展しましたけど、いまだに意識のハードプロブレムは解明されていません。
少なくとも、多くの人はそう思っています。
今、読んでるのがこの本『脳の本質』です。
この本は、最新の脳研究を紹介しています。
ただ、この本にも意識のハードプロブレムが解明されたとは書いていません。
でもね、よく読むと、意識のハードプロブレムを解明してるって読み取れるんですよ。
ただ、誰もそれに気づいていないだけなんですよ。
これが、今回のテーマです。
すでに解明されていた
意識のハードプロブレム
それでは、始めましょう!
概念細胞という興味深いニューロンが2012年に発見されました。
概念細胞は、特定の人物やものに反応するニューロンです。
たとえば、トム・クルーズの写真を見たとき反応するトム・クルーズ・ニューロンとかです。
織田信長ニューロンは、織田信長の顔に反応します。
それだけでなく、「織田信長」って漢字や、カタカナにも反応します。
それから明智光秀にも反応します。
だって、織田信長といえば明智光秀ですよね。
でも、アインシュタインには反応しません。
アインシュタインは織田信長と全く関係ありませんから。
概念細胞は人だけでなくてものにも反応します。
ある人からシドニーのオペラハウスに反応するニューロンが見つかりました。
いろんなオペラハウスの写真をみせたら、すべて反応しました。
ところが、オペラハウスと関係がないインドのバハーイー教寺院の写真を見せてもも反応したんですよ。
おかしいと思ったんですけど、これがバハーイー教寺院です。
その人は、これもオペラハウスと思っていたようです。
さて、前々回、第547回で視覚処理の話をしました。
網膜に映った映像は、後頭葉の一次視覚野に送られて、そのあと、二次視覚野、三次視覚野と順に処理されます。
一次視覚野は色や明るさの処理、二次視覚野は立体に関する処理って順に処理して、最終的に物体の形状を推定するわけです。
たとえば、リンゴを見たとき、形は球体で、色は赤色って分析されて、最終的にリンゴ・ニューロンという概念細胞に行き着くわけです。
これは一種の符号化といってもいいです。
符号化というのは、元の情報空間から符号空間に情報を変換することです。
元の情報空間というのは視覚とか聴覚とか、知覚した現実世界の情報です。
符号空間というのは、たとえば、文字といった記号であらわされた情報空間です。
01のデジタル信号も符号空間です。
とにかく、ある特定の種類の情報で構成されたものが符号空間です。
脳は、概念細胞という符号で構成された情報空間と言えます。
概念細胞には、シドニーのオペラハウス・ニューロンとか、織田信長ニューロン、トム・クルーズ・ニューロンがあります。
つまり、現実世界の情報を、概念細胞で符号化するわけです。
次は、これを意識の側から見てみます。
すると、織田信長ニューロンが発火したとき、意識は、「あっ、織田信長」って思うわけです。
トム・クルーズ・ニューロンが発火したとき「あっ、トム・クルーズ」って思うわけです。
これって、まさに、主観が経験する意識体験ですよね。
ニューロンレベルでわかることがイージープロブレムでしたよね。
イージープロブレムと意識体験がつながらないことがハードプロブレムでしたよね。
でも、今、ニューロンレベルで意識がつながったでしょ。
これって、ハードプロブレムが解明されてるってことですよね。
じゃぁ、ニューロンと意識とはどこでつながったんでしょう?
それは、概念細胞です。
現実世界を知覚して、それをニューロンで情報処理して概念細胞という符号に変換します。
そして、意識は概念細胞を感じるんです。
つまり、符号化によってイージープロブレムと意識体験がつながったわけです。
もっと言えば、意識がいる情報空間は符号化された情報空間といえます。
そう考えると、織田信長ニューロンは、本能寺の変とか明智光秀がオンになった二進数で表現しているともいえます。
これって、今のAIでいうところの単語ベクトルと同じです。
そう考えると、知覚した現実世界にあるものを符号化したというのも納得がいきます。
さらに、意識が感じる織田信長ニューロンは、織田信長のクオリアとも言えます。
「織田信長」と聞いて思い浮かべるものは人によって違いがありますけど、これこそがクオリアの特徴です。
同じ概念でも、人によって感じるクオリアが違うわけです。
ある人のシドニーのオペラハウス・ニューロンは、インドのバハーイー教寺院とつながってるとかです。
さらに想像力を膨らませてみます。
たとえば、人それぞれの脳内の概念細胞のマップができたしましょ。
そして、二人の脳の概念細胞同士をつなげるんです。
これは、今ならBMI、ブレイン・マシン・インターフェイス技術で可能です。
たとえばイーロン・マスクのニューラリンクのデバイスは、脳に埋め込んでBluetoothを使ってニューロンの活動を外部から読み取れます。
お互いにデバイスを埋め込んで通信するんですよ。
そしたら、
「あなた、今、織田信長について考えましたよね」
って、相手の考えてることがわかります。
インドのバハーイー教寺院の写真を見てオペラハウス・ニューロンが反応したら、
「あなた、それはオペラハウスじゃないわよ」って訂正したりできます。
教育に使えそうですけど、他人に自分の思考を読み取られるなんて、これほど恐ろしいことはないです。
ちなみに、アニメ攻殻機動隊では主人公の草薙素子はケーブルを脳に直接つないでいましたけど、現実は、Bluetooth無線になっていて、すでに、現実が攻殻機動隊の世界を超えているといえます。
さて、ただ、今、わかったのはものの概念だけです。
でも、意識は、「昨日、動物園にいって象を見た」とかって出来事を思い出したりできますよね。
これは、単に象の概念だけじゃなくて、いつ、どこで、何をしたって記憶です。
こういった記憶のことをエピソード記憶といいます。
エピソード記憶は海馬が関係します。
ただし、エピソード記憶は、海馬に直接保存されるわけじゃなくて、保存されるのは大脳です。
じゃぁ、海馬は何をしているのかというと、起こった出来事の順番を管理します。
さっきは概念細胞を取り上げましたけど、それによく似たものに場所細胞というのがあります。
場所細胞はネズミの脳で見つかりました。
迷路にネズミを走らせると、特定の場所を通過したとき反応する細胞が見つかりました。
これが場所細胞です。
そして、ネズミが迷路を覚えると、ある場所を通過するとき、その場所細胞が発火するんです。
さらに、その次に通過する場所細胞も発火します。
こうやって、次にどこに行けばいいのかを覚えているわけです。
これら、場所細胞の順番を覚えているのが海馬です。
前々回、物を認識してるときの脳波がガンマ波という話をしました。
ガンマ波は、1秒間に40回の非常に細かい波形をしています。
ガンマ波が起こるのは、複数のニューロンが同時に発火しているからです。
たとえばリンゴを見たとき、赤とか球体といったニューロンが同時に発火して、その時発生するのがガンマ波です。
それより遅い脳波にシータ波があります。
シータ波は1秒に4~8回の長い波形をしています。
そして、迷路にネズミを放すと、シータ波の波に従って場所細胞が発火します。
たとえば、シータ波の波の底で、ある場所細胞が発火すると、次に行くべき場所の場所細胞が、次の波の山で発火します。
つまり、思い出す順番がシータ波を作り出しているんです。
そして、場所細胞も概念細胞も海馬周辺に見つかっています。
つまり、場所や概念を順番に関連して結び付けているのが海馬なんです。
エピソード記憶というのは、昨日、どこに行って、そのあとどこに行ったとかって思い出のことでしたよね。
場所細胞、概念細胞を発火させる順番を記憶することで、エピソード記憶を作り出せるんです。
このエピソード記憶を作り出すのが海馬というわけです。
最後は、頭でイメージするときの脳の活動について説明します。
体を動かすとき活性化するのは大脳の運動野です。
運動野には、体がそのままマッピングされています。
いってみれば、身体モデルが脳にそのままあるわけです。
運動野のうち、運動の準備や計画を担うのが運動前野で、実際に運動指令を筋肉に送るのが一次運動野です。
いろんなイメージを創造する課題を与えて、その時の脳を観察しました。
たとえば、物を回転するところをイメージしてもらいます。
すると、手を動かしてないにもかかわらず、運動前野の腕や手首をコントロールする部位が活動します。
これは目に見えるイメージだけじゃありません。
たとえば、聞いた音の再生速度を変更したり、ボリュームを上げ下げするところを想像してもらったら、喉や声帯をコントロールする部位が活動したんです。
注意してほしいのは、声量を変えるって想像じゃないってことです。
それなら、喉が活動するのはわかります。
そうじゃなくて、聞いた音のボリュームの変更なのに、喉や声帯が活動したんです。
これ、どういうことかわかりますか?
どういうことかというと、僕らは言葉の意味を体の動作に置き換えて理解してるってことです。
何の話をしようとしてるかというと記号接地問題です。
AIは文章を学習しただけで、現実世界を経験していません。
つまり、AIの言葉は現実世界に接地していません。
これが記号接地問題です。
言い換えたら、AIは言葉の意味を理解していなということです。
これはAIだけじゃありません。
言語学でも意味とは何かといった決まった理論があるわけじゃありません。
それほど、言葉の意味というのは定義が難しいんです。
それが、ここにきて、脳がどうやって言葉の意味を理解してるかがわかってきたんです。
それは、体の動きに変換して理解していたんです。
それが、たとえ音の上げ下げといった体と直接関係ないことでも、脳では、無理やり体の動きに変換していたんです。
そうやって、体の動きに変換できたことを指して、「言葉の意味を理解した」となるわけです。
体というのは現実世界にあります。
つまり、現実世界に接地しています。
その体を使って言葉の意味を理解するというのは、まさに、記号接地問題が解決しているといえます。
言語学でもきちんと定義できていなかった言葉の意味理解が、身体モデルを使って定義できることがわかりました。
これ、どういうことかわかりますか?
これ、言葉の意味というのは、辞書や教科書とか、紙に書いて定義できるものじゃないってことです。
じゃぁ、どうやって言葉の意味を定義したらいいんでしょう?
それは、身体モデルを使うんです。
ダイナミックに動く身体モデルで定義するんですよ。
それができるとしたら、紙の本じゃなくて、コンピュータプログラムしかありません。
同じことは意識にも言えます。
主観は、意識経験をしますよね。
昨日どこに行って、何を食べたとか、思い出したり、想像したりできます。
これは、脳内でどうやって表現されていましたか?
概念細胞と場所細胞と、それらを時間順に管理する海馬でしたよね。
概念細胞というのは、現実世界からの知覚情報を符号化したものでしたよね。
場所細胞は現実世界の場所を符号化したものです。
意識は、符号化した概念や場所を認識したり、操作します。
つまり、意識は符号を扱う世界にいるわけです。
そして、符号化とは、コンピュータが行っていることです。
意識が扱う世界は、コンピュータで扱うことが可能なんです。
いや、コンピュータでしか扱えないんです。
そろそろまとめに入ります。
AIが、今、目指しているのは、人間と同じ知能をもつAI、AGIです。
ただ、意識と言葉の意味理解ができない限り、AGIは達成できないと言われています。
その大きな問題が、解決できる目途が立ってきました。
まず、意識を実現するには、外界を知覚して、それを符号化する必要があります。
重要なのは、符号化ということじゃありません。
重要なのは、これら全体のプロセスです。
脳の中の一部の処理だけ取り出しても意味がないんです。
外界を含めたプロセス全体を再現するシステムが必要です。
それを簡単に作るとすれば、たとえばメタバースを使うんです。
メタバースと、メタバースで生きる身体をもったAIアバターを作るんです。
そのAIアバターは、外界にあるものや場所を符号化して認識します。
符号を認識するのが意識です。
符号化した概念はクオリアでもあります。
さらに、意識は自分の体の身体モデルを持っています。
そして、言葉の意味を身体モデルの動きに変換します。
これが言葉の意味を理解したということです。
意識をもって、言葉の意味を理解できるAIです。
これが、AGIです。
そして、そんなメタバースで実際に生きるAIを作ろうとしているのがロボマインドです。
メタバースの名前は「エデン」
このプロジェクトを、エデン・プロジェクトといいます。
エデンで生きるAIアバターが「もこみ」です。
意識をもった「もこみ」の心が「マインド・エンジン」です。
マインド・エンジンの完成まで、もう少しお待ちください。
はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、マインド・エンジンの理論の基となる意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第549回 すでに解明されていた意識のハードプロブレム
