ロボマインド・プロジェクト、第550弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
何十年前だったか、新聞の科学欄の隅に小さく「ブラックホールが発見された」って出ていたんですよ。
今なら、当たり前ですけど、昔は、ブラックホールなんて言葉がでてくるのはマンガかアニメだけでした。
だから、新聞に「ブラックホールが発見された」って出てて、「えー、ブラックホールってホンマにあるの」ってびっくりしました。
でも、もし本当やったら、第一面に載せないとおかしいでしょ。
それが、新聞の片隅にしか載らないってどういうことよって思いました。
まぁ、それが世間の科学に対する認識です。
さて、今読んでるのが、この本『脳の本質』です。
数カ月前に出たばかりの新刊で、最新の脳科学の情報がたっぷり載っています。
でも、まぁ、最新の脳科学といっても、基本的なことはこの10年でそんなに変わってないやろうって思ってました。
でも、違ったんですよ。
「えー、そこまでわかってるの」ってことがいっぱい書いてありました。
特に、今回びっくりしたのは言葉の処理です。
なんと、文の意味を脳のどこで処理するかまで、すでに解明されてたんですよ。
いや、ウェルニッケ野とかブローカー野の話は知っていますよ。
ブローカー野は文法に関係するとか。
今回の話は、そんなレベルじゃないです。
「が」とか「に」が脳のどこにあるとかです。
それが、単語とどこで結びついて、脳のどこで文を理解するとか、すべて解明されていたんですよ。
「えー、こんな大事な発見、なんで新聞の第一面に載ってないん?」って思いますよね。
これが、偏向報道ってやつですかねぇ。
そこで、今回は、大手メディアが絶対に報道しない脳の真実についてお伝えします。
これが今回のテーマです。
文を理解する脳のメカニズム
それでは、始めましょう!
まずは、脳がどのように世界を把握するかから説明します。
たとえば、あなたは、今、目の前にあるコーヒーカップを見ているとしましょう。
網膜からの情報は後頭葉の一次視覚野に送られて、そこから二つの処理に分かれます。
一つは側頭葉で、もう一つは頭頂葉です。
側頭葉ではものの形や色が分析されて、最終的には「コーヒーカップ」といった「もの」を分析します。
これを腹側経路といいます。
頭頂葉では、コーヒーカップの位置や方向、奥行きを分析します。
これでどちらの向きに取っ手があるといったことがわかるので、コーヒーカップをどのように掴んだらいいのかがわかります。
これを背側経路といいます。
このようにして「コーヒーカップ」という「もの」を「どのようにして掴むか」といった動作の二種類の方法で世界を認識します。
ここで、「コーヒーカップ」は名詞ですよね。
「掴む」は動詞ですよね。
つまり、この二種類の処理経路は、名詞と動詞という二つの処理経路に分かれているとも言えます。
ここから、言葉というのは、大きく名詞と動詞という分類ができるとも言えます。
世界中のどんな言語にも名詞と動詞がありますけど、これは、脳の中に予めあるといえるんです。
さて、今、分析したのは、単語の意味です。
ただ、言葉というのは、単語をつなげた文です。
つまり、意味だけじゃ、言葉にならないんですよ。
意味だけなら動物でも理解できますけど、動物は言葉を話しません。
重要なのは、意味を文に変換することです。
じゃぁ、意味と文はどこでつながるんでしょう?
さっき背側経路と腹側経路の二つの経路があるって説明しましたよね。
この二つの経路、じつはその先で合流するんですよ。
どこで合流するかというと、ここです。
ブローカー野です。
ブローカー野というのは、言語野の一つです。
ここで、言葉に結びつきそうです。
今回は、この部分を細かく見ていきます。
ブローカー野が損傷するとブローカー失語という失語症になります。
ブローカー失語になると、うまく言葉がでなくなって、たとえば
「コーヒーカップ、掴む」といった風に、「てにをは」といった助詞が抜けたりします。
つまり、ブローカー野は文法処理をするところといえます。
掴むといった動作は体で行いますよね。
脳には体を動かすときに活性化する運動野があります。
運動野には、こんな風に身体がマッピングされています。
コーヒーカップを掴むとき、運動野の手の部分が活性化します。
運動野は、筋肉に直接指令を出す一時運動野と、その前の運動前野があります。
運動前野は、前頭葉の意識から指令が来るところです。
そして、運動前野は、自分が行動するときだけでなく、他人が行動するのを見たときにも活性化します。
たとえば、他人がコーヒーカップを掴むのを見た時も、運動前野の掴むときに使うニューロンが活性化します。
これをミラーニューロンといいます。
さらに、見た時だけでなくて、頭の中で動作を想像したときにも活性化します。
たとえば、位置を変えるとか回転させるところを想像したときに運動前野の手の部分が活性化します。
さらには、聞いてる音のボリュームを上げ下げしたり、速度を変えたりするときには、喉や声帯の部分が活性化します。
注意してほしいのは、自分の声を調整するところを想像するわけじゃなくて、ただ聞いている音を調整するところを想像したことです。
どういうことかというと、音という概念を抽象化して、声も音も、どちらも喉を使って理解しているということです。
ここまでは前回説明しました。
ただ、まだわからないのは、単語が脳のどこに記憶されているかです。
ところが、それもわかったんです。
1993年、アイオワ大学の神経学者のアントニオ・ダマシオは名詞や動詞が脳のどこに記憶されているかを突き止めることに成功しました。
その結果がこれです。
運動前野に動詞が記憶されていたんですよ。
言葉と意味が、ここでつながりましたよね。
さらに、名詞は側頭葉に記憶されていました。
「コーヒーカップ」といった「何」は側頭葉で分析されましたよね。
前回、説明しましたけど、側頭葉には概念細胞が見つかっています。
概念細胞というのは、人やものの概念を記憶した神経細胞です。
まさに名詞の意味です。
こうやって、意味と言葉がちゃんと脳内で対応していることがわかったんです。
ただ、まだわからないことがあります。
それは、動詞です。
今までの説明で、動詞は体の動きで意味を理解することはわかりました。
でも、体の動きに対応できない動きもいっぱいありますよね。
ここで、名詞を考えてみます。
視覚処理の場合、側頭葉で色や形、テクスチャーといった基本的な要素に分解してものを認識していました。
これが名詞の認識です。
ということは、それと同じように、動詞でも動きの基本的な要素があるんじゃないでしょうか?
たとえば機械的な動きと動物の動きは違いますよね。
どういうことかというと、たとえば自転車のタイヤにライトをつけて、夜道を走らせると光が回転しながら移動するのが見えますよね。
今度は、犬の首輪にライトをつけて夜道を散歩させます。
そしたら、光はあちこちランダムに動きます。
光の動きだけ見て、どっちが自転車でどっちが犬か判断するのは簡単です。
簡単に判断できるってことは、動きをパターンで分類して認識しているわけです。
どういう分類かというと、機械的な動きか、生物的な動きかです。
それから、同じ空を飛ぶものでも飛行機と鳥じゃ、動きのパターンが違いますよね。
1992年、カリフォルニア大学の発達心理学者のジーン・マドラーは、この違いは赤ちゃんでも区別できることを確認しました。
なんと生後9か月の赤ちゃんでも、飛行機と鳥の動きの違いを区別できたんです。
つまり、動きをパターンで分類して認識するっていうのは、生まれつき持ってる脳の機能といえるんです。
注意してほしいのは、生後9か月の赤ちゃんでも持っているってことです。
生後9か月ということは言葉を話す前です。
言葉に先立って、動きのパターンの分類をしているんですよ。
動きの基本要素に分類するって機能を人は生まれながらに持っていて、それが後に動詞になるようです。
マドラーは、この動きのパターンのことを、イメージスキーマと名付けました。
そして、その数は十数種類あるといいます。
それは、たとえば自律的な動きだったり、何かがAを動かすとか、「入る」とかって動きです。
何らかの動きを見たとき、脳は、それがどのイメージスキーマに該当するかを判断するんですよ。
さらに、脳は抽象化という機能も持っています。
さっき、聞こえてる音を調整するところを想像するとき、運動前野の喉とか声帯を使うって説明しましたよね。
これが動きの抽象化です。
それと同じことが、イメージスキーマでも行われると考えられます。
それは、物理的な動きでなくても、概念としての動きをイメージスキーマをつかって理解するんです。
たとえば入学するって言葉は、物理的に学校に足を踏み入れることを指すわけじゃないですけど、「入る」って言葉を使いますよね。
これは、イメージスキーマの「入る」を抽象化して学校に使ったわけです。
こうやって、あらゆる動詞が脳で説明できます。
さて、ここまでわかって、残るは文です。
文とは、名詞と動詞をつなげて作ります。
つなげる役目をするのが助詞とかの文法です。
一般に、文法の処理をするのがブローカー野で、意味の処理をするのがウェルニッケ野と言われています。
たとえば、ウェルニッケ野を損傷したら、意味は理解できなくなりますけど、文法的には正しい文が作れます。
だから、ウェルニッケ失語の人は、意味のない文章をすらすらとしゃべります。
逆に、ブローカー野が損傷したブローカー失語の人は、意味はわかりますけど、言葉がつかえて、うまくしゃべれません。
文に助詞が抜けて、単語だけの文になったりします。
たとえば、「犬が猫を追った」という文をしゃべろうとしても、「犬、猫、追う」としか出てきません。
このことはさっきも説明しましたし、僕もそう思っていました。
ところが、詳しく調べてみると、そんな単純な話でもなかったんです。
ブローカー失語の人に「犬が猫を追った」の文を聞かせて、その状況を犬と猫のぬいぐるみを使って再現してもらったそうです。
そしたら、犬が猫を追ったり、猫が犬を追ったりと、ばらばらに再現したそうです。
「犬」、「猫」、「追う」って単語の意味は理解してましたけど、どっちがどっちを追うかは理解できてないみたいなんです。
つまり、「が」とか「を」の助詞の意味を理解できないんです。
どうやら、ブローカー野というのは、助詞の処理をしているようです。
「太郎が次郎に本を渡した」という文を考えてみます。
この時、動作主が「太郎」で、受動者が「次郎」で、動詞が「渡す」ですよね。
そして、これらの関係を示すのが助詞の「が」「に」「を」です。
じつは、これらが脳のどこにあるのか、すでに解明されています。
それは、側頭葉です。
さっき、太郎とか本とか名詞は側頭葉にあるといいました。
さらに細かくみると、側頭葉のうち、中側頭回にあることがわかりました。
そして、その上の上側頭回に、助詞の「が」「に」「を」があることが分かったんです。
「太郎」「次郎」「本」って名詞と、「が」「に」「を」って助詞が側頭葉で解析されると、それらが順番を保ってブローカー野に送られるんです。
そして、ブローカー野は、どの単語がどの助詞につながるかの解析を行います。
これ、じつは自然言語だけでなくコンピュータのプログラム言語でも全く同じなんです。
たとえば、こんなプログラムがあったとします。
if i < 10 then
var = i + 3
end
これは、変数iが10より小さかったら3を足すってプログラムです。
プログラムは、まず、パーサーで単語に分割して構文木というものを作ります。
構文木というのは、どの言葉がどの言葉にかかっているかをツリーで図示したものです。
まさに、ブローカー野がやっていることってこれですよね。
プログラムは実行されないと意味がありません。
プログラムの実行というのは、この場合だとiが10より小さかったら、3を足すって計算をすることです。
コンピュータの場合、計算はCPUで行われます。
CPUには足し算とか条件判定とかって演算回路がいっぱいあるわけです。
足し算回路なら、パラメータを二つ渡すと、それを足し算して結果を返してくれます。
どの順番にどの演算をするとか、パラメータは何を渡すとかを示したのが構文木です。
だから、構文木をCPUに渡すと、プログラムを実行できるわけです。
それじゃぁ、自然言語の場合はどうなるでしょう?
CPUが持つ演算回路は、たとえばイメージスキーマとか動作のミラーニューロンです。
たとえば、「掴む」とか「追う」とか「渡す」です。
そして、演算回路に渡すパラメータを示すのが助詞です。
「コーヒーカップを掴む」の「を」とか、「太郎が次郎に本を渡す」の「が」とか「に」です。
ブローカー野がこれを解析するということは、一種の構文木を作っているんでしょう。
ただ、ここまでは、まだ、文です。
文は最終的に意味が理解されないといけません。
意味の理解とは、コンピュータでいうとCPUの演算回路で実行することです。
CPUの演算回路にあたるのが、脳の場合ミラーニューロンだったり、イメージスキーマといった動詞のニューロンです。
動詞のニューロンに渡すパラメータはブローカー野で解析されて、それらが動詞ニューロンに渡されて実行されるわけです。
脳で実行するとは、関係する一連のニューロンが同時に発火することです。
そして、それを感じるのが意識です。
意識は、「コーヒーカップ」のニューロンと、「掴む」のミラーニューロンが同時に発火するのを感じて、コーヒーカップを掴むって意味を理解します。
「太郎」が動作主で、「次郎」が受動者で、「本」が目的語で、それが動詞「渡す」に関連付けられて、それらが同時に発火します。
意識は、これを感じて「太郎が次郎に本を渡す」って文の意味を解析します。
ねぇ、脳内で文の意味が解析されることが完全に解明されたでしょ。
それから、もう一つ重要なのは、脳内で行われている文の意味理解は、コンピュータがプログラムを実行する仕組みとそっくり同じだってことです。
ということは、自然言語の意味理解もコンピュータと同じ仕組みをつかえるんじゃないでしょうか?
ただ、そんなことをしているところは世界中のどこもありません。
いや、たしか、一社、きいたことあります。
ロボマインド・・・とか言ってたかなぁ。
いや、ちがうかなぁ・・・
はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、ロボマインドが作ってる言葉の意味理解の仕組みについて興味があるかたは、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第550回 文を理解する脳のメカニズム
