第554回 意識理論対決!哲学者 vs 科学者 vs 田方


ロボマインド・プロジェクト、第554弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今、読んでいるのがこの本『意識はどこからやってくるのか』です。

著者は、心の哲学の信原幸弘(のぶはらゆきひろ)先生と、マインド・アップロードを研究している脳科学者の渡辺正峰(まさたか)先生です。
意識の話は、科学者同士で語ると、量子力学とかの難しい方程式とかでてきて、なんかよくわかりません。
哲学者同士で語ると、今度は難しい哲学用語がでてきて、これもよくわかりません。
その点、この本は、科学者と哲学者との対話なので、お互い、相手が理解できるようにわかりやすく語ってくれます。
そのおかげで、意識のどこが問題か、焦点がかなり明確になってきました。
信原先生と渡辺先生で、はっきりと意見が分かれる点があります。
それは、意識には機能があるかないかです。

科学の立場に立つ人は、この世の現象は、すべて自然現象に従って発生すると考えます。
目的をもって作られたとは考えません。
たとえば、太陽系とか銀河系って、こういう形で星を回転させようとして作られたわけじゃないですよね。
そうじゃなくて、万有引力の法則って自然法則が先にあるわけです。
そして、宇宙にある物体がその法則に従って動いた結果、太陽系とか銀河系が生まれたわけです。

それと同じで、意識を生み出す自然法則があると考えます。
意識は脳に宿るのは間違いないです。
ただ、そんな脳にも意識が宿るわけじゃなくて、脳が大きくなって臨界点を超えると、自然発生的に意識が生まれるわけです。
重力が大きくなって、臨界点を越えるとブラックホールが生まれるみたいな感じです。
ブラックホールを作ろうという目的があるわけじゃありません。
意識も、意識を作ろうとする目的があって作られたわけじゃないってことです。
これが脳科学者の渡辺先生の意見です。

それに対して、哲学者の信原先生は機能主義を唱えます。
機能主義は、何らかの目的があって、その目的を達成する機能があると考えです。
この場合、意識も機能だと考えるわけです。
僕も、どちらかというと哲学者の信原先生の立場に近いです。

でも、科学って説得力があるんですよ。
渡辺先生が脳科学の立場から、意識がどうやって生み出されるかって語ると、信原先生は、つい「たしかに、理論上はそれで意識は生まれますね」って言ってしまうんですよ。
渡辺先生は「信原先生にも認めてもらった」って嬉しそうに言うんですよ。
これを読んでて、僕は、「あぁ、信原先生、そこは認めちゃだめでしょ」って歯がゆく思っていました。
哲学者も、科学の前には抗えないんです。
そこで、僕が、科学には科学で対抗します。
これが、今回のテーマです。
意識理論対決!
哲学者 vs 科学者 vs 田方
それでは、始めましょう!

まずは、渡辺先生の意識理論を紹介します。
目からの情報は低次から高次にボトムアップで階層的に処理されます。
でも、それだけでなく、高次から低次にトップダウンの処理もあります。
トップダウンでどんな処理をするかというと、外界そっくりの仮想世界を生成するといいます。
つまり、脳は外界を直接見ているのでなく、目や耳から得た外界の断片情報をもとに仮想世界を作り上げているというんです。
そして、仮想世界を作る過程は3DCGと同じだといいます。
これを、渡辺先生は「生成モデル仮説」といいます。

これによく似た仮説、どっかで聞いたことがありますよね。
そうです。
渡辺先生の仮説、僕が提唱する意識の仮想世界仮説とそっくりなんです。

同じようなことを言ってるのは、僕らだけじゃありません。
第551回、552回で取り上げたフリストンの自由エネルギー原理もほぼ同じです。
脳内で仮想的なモデルを作るって考えは、最近流行りのようです。

ただ、外界を直接見てるんじゃなくて、脳内で生成したモデルを見てるって言われても、簡単に信じられませんよね。
だって、今、目の前に見えてる光景は現実そのものです。
これが現実じゃないって、どういうことでしょう。
そこで、僕の経験を紹介しようと思います。

30年以上前のサラリーマン時代、会社から帰ってきてソファに座ってテレビを見てた時です。
テレビの横に、見慣れない木の板がおいてあるのに気づいたんですよ。
「あれ、あんなとこに木の板なんかあったかなぁ」って思いました。
少なくとも、今朝、家を出るときはあんなところに板なんかなかったはずです。

もしかしたら木の板じゃないのかもと思ったら、そんな気もしてきます。
それが何かわからないですけど、一つだけわかることがありました。
それは、1センチでも顔を動かして、違う角度から見たらそれが何かわかるってことです。
それをわかっていたから、僕は顔を動かしたいって衝動をこらえてずっと見ていました。
そしたら、ますますわからなくなってきました。
なんか、その四角の部分が異次元みたいな不思議な感じがしてくるんですよ。

しばらく続けてましたけど、ちょっとだけならいいだろうと思ってちょっとだけ顔を動かしたんです。
そしたら、一瞬でわかりました。

それは、先週の日曜、東急ハンズで買った銅色の円柱のごみ箱でした。
表面がつるつるしてて、周りの家具を映し出していて、それが木目のように見えて木の板と思ったんです。
いったん、ゴミ箱とわかったら、もう、ゴミ箱としか見えません。
さっきまで見えていた異次元空間には全く見えません。

さて、これを考えてみます。
そのごみ箱は、見た角度によったら、木の板にも見えたわけですよね。
現実世界は三次元世界です。
でも、目の網膜に映るのは二次元です。
つまり、二次元から三次元を生成してるわけです。
たとえば、目の前にリンゴが見えたとしましょ。

これを見たとき、二次元とおもわずに三次元の立体と思います。
たとえば、こんな風に立体になっていると思うわけです。


つまり、裏まで続く球体になってると思うわけです。
そう思うってことは、頭の中で、こんな風な3次元モデルを想像してるわけです。
これが、トップダウンで作った仮想モデルのリンゴです。
球体だから、ちょっと別の角度から見たときも、同じように丸くみえると予測します。
もし、別の角度からみたら、紙にプリントアウトしたリンゴの写真とわかったら、球球体のモデルを急いで修正します。
つまり、予測誤差が0になるようにモデルを修正します。
これが自由エネルギー原理の考え方です。

ここまでは、渡辺先生も僕もほとんど同じ考えです。

渡辺先生は、脳には、知覚情報から外界のモデルを生成する仕組みが備わっているといいます。
これは、脳内にある一種の自然法則です。
つまり、脳内の自然法則の結果、生み出されるのが外界の生成モデルです。
さらに、生成モデルが生み出されたり、動いたりしたときも、脳内の自然法則は作用して、何かを生じます。
それが意識というんです。

つまり、意識は脳内の自然現象の結果として湧き出たものというわけです。
これは、意識の随伴現象説ともいわれます。
ここで重要なのは、自然法則に基づいて意識が湧き出るというところです。
つまり、自然科学の範囲で、心的現象である意識が説明できるということです。
だから、科学者の多くは随伴現象説を支持します。
たとえば、脳科学者の茂木健一郎さんも随伴現象説を支持しています。

それから、科学者の多くは自由意志はないと言いますけど、これも、随伴現象説と同じじゃないかと思うんですよ。
本当は無意識で行動を決定しているけど、その決定に付随的に伴う現象が、自分の意識で動かしたという心的現象というわけです。
これが自由意志となります。

随伴現象説は、うまく説明できない心的現象を科学的に矛盾なく説明できるので便利なんですよ。
ただ、「心で感じるものはすべて付随的に発生する随伴現象だ」っていっても、なんの説明にもなっていないですよね。
ここが、なんかモヤモヤするんですよ。

同じことは、信原先生も感じているようです。
機能主義の立場をとる信原先生は、意識にも何らかの機能があるはずといいます。
でも、肝心の、その機能が何かわかりません。
ここで魂とか、天国に行くためとか言い出したら終わりです。
それじゃぁ、中世に戻ってしまいます。
随伴現象説が科学で議論してるかぎり、同じ科学の土俵で意識の機能を説明できなければいけません。
でも、その機能が何かわからないんです。
信原先生は、もし、その機能が何かわかれば、意識科学は飛躍的な発展を遂げるといいます。
だから、それをいろんな人に考えてほしいと言います。

これを読んでて、なんか、僕に言われているような気がしてきました。
わかりました。
それじゃぁ、その役目、私が引き受けましょう。

それでは、始めますよ。
まずは、もう一度整理します。
自然科学には目的や機能はありません。
ただ、自然法則があって、それに従って動いた結果の現象があるだけです。
そうやって意識も湧き出たと考えるのが随伴現象説です。
随伴現象説は、工場の煙の煙にたとえられます。
工場で何かつくったとき煙が発生したとするでしょ。
でも、工場は煙を発生させようとおもって工場を稼働させてるわけじゃないですよね。
何か作るとき、意図せず、付随的に発生するのが煙です。
意識も、それと同じというわけです。

でも、僕らは、今、ここにいるって感じますよね。
世界があるって感じますよね。
そう感じているのが、意識です。
ありありと感じるこの意識、これが、付随的に湧き出た煙とはどうしても思えません。
だって、煙は形も定まらないし、風が吹いただけで吹き飛んでしまいます。
消えても何も困らないからです。
でも意識はそうじゃないでしょ。
少々のことがあっても、これが自分だって思いますよね。
簡単に消えません。
簡単に消えないってことは、消えたら困るからですよね。
といことは、これが意識の役割じゃないでしょうか。

つまり、意識の役割とは、意識そのものを維持することだと思うんですよ。
または、自分を守るということです。
言い換えたら、自己保存の本能です。
これは、生物が持つ最も基本的な機能です。
つまり、意識は生物の法則に則っていると考えるわけです。

まぁ、考えたら当たり前です。
意識を持つのは生物だけです。
そして、生物学も自然科学です。
科学の土俵で意識が説明できそうです。

生物でない石ころには意識はありません。
でも、石ころにも万有引力の法則は作用します。
万有引力の法則は物理法則です。
つまり、最初に分けるのは、物理学か生物学かになるんです。

物理学の根本原理は物理法則です。
万有引力の法則とか相対性理論とかです。
これを法則主義と呼ぶことにします。
一方、生物学の根本原理は本能です。
生きたい、死にたくないといった個体保存の本能と、自分の種を残したいという種の保存の本能です。
これは目的ですよね。
そして、この目的を達成するための機能を生物は持ちます。
だから、これが機能主義となります。

これを図にするとこうなります。

まず、最初に大きくわかれるのが機能主義の生物学と法則主義の物理学です。
そして、それぞれを分類していくわけです。
物理学の法則主義には万有引力の法則とか相対性理論とか量子力学が属します。
生物学の機能主義には植物とか動物が属します。

今からやろうとするのは、ここから意識を導き出すことです。
導き出すというか、意識はどういった分野に属するかを決めることです。
それがわかれば、意識を解明するには、どこを研究すればわかるわけです。
ただし、条件があります。
それは、科学の範囲に限るということです。
科学的に解明可能なものでないと意味がありません。

まず、導入するのは生物学の進化です。
鳥は羽をもったり、キリンは首が長くなったり、人間は二足歩行で歩くようになりましたよね。
これらは進化で獲得したものです。
ただ、進化といってもこれは体の進化です。
今、探そうとしているのは意識です。
意識は脳にありますよね。
そして、脳も進化しています。
コンピュータで考えたら、体はハードウェアで脳はソフトウェアです。
だから、意識はソフトウェアの進化で獲得したものと考えられます。
そうすると、全体像はこうなります。

この図は、前回、第553回で見せた図と同じです。
脳のソフトウェアの進化の最後に意識が生まれたことを示しています。

脳のソフトウェアの進化というのがちょっとわかりにくいかもしれませんけど、前回、ここをわかりやすく説明していますので、見てない方は、ぜひ、そちらも見てください。

今回は、前回とはちょっと違う視点で説明します。
脳内には生きていくうえでいろんな処理があります。
心臓や肺を動かすといった生きる上で絶対必要な低次の処理から、思考や言語、記憶といった高次機能の処理まで様々です。
低次の処理は脳幹などで行われて、高次機能は大脳で処理されます。
脳は進化で大きく変化して、哺乳類以降では大脳が大きく発達しました。

そして、言語や記憶といった高次機能の中心となるのが意識です。
そして、意識は前頭前野にあると言われています。
前頭前野は、人間の大脳で最も発達したところです。
このことからも意識を解明するカギは脳の進化が重要だってわかりますよね。

今のAIはニューラルネットワークで作られていますけど、今のAIには、脳の進化って視点がありません。
だから今のAIからは意識が生まれないんです。

それから、もう一つ重要なのがソフトウェアという視点です。
意識は、脳で行われている情報処理の一種です。
情報処理工学も、まぎれもなく科学です。
これが結論です。
意識は、情報処理工学に属するんです。

まとめます。
一番最初の分類として、意識は、生物学に属します。
生物は、生きるという目的があります。
生きるという目的を達成するためにいろんな機能を持っています。
たとえば、食料を見つける機能とか、天敵から逃げる機能とかです。
だから、意識は機能主義になるんです。
これらの機能は、脳のプログラムとして実現されます。
そして、これらのプログラムを制御する最も高次のプログラムがあります。
それが、意識プログラムです。

信原先生、いかがでしょう?
科学の土俵で、意識が機能主義だということがきれいに説明できたんじゃないでしょうか。



はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、僕が提唱する意識の仮想世界仮説に興味がある方は、よかったらこちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!