ロボマインド・プロジェクト、第558弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回から読んでいるのがこの本、ユヴァル・ノア・ハラリの新刊『NEXUS 情報の人類史』です。
歴史学者ハラリの本だけあって、人類の壮大な歴史を、情報を軸に読み解いていく今までにない情報の解説書です。
なかなか奥が深いです。
参考にYouTubeでNEXUSに関するハラリのインタビューも見てみました。
テレビ朝日のニュースキャスターが、この本はトランプ政権に対する批判の書ですよねと質問して、ハラリも、はい、そうですと答えていました。
まぁ、たしかにそう読めなくもないんですけど、この本で読むべきはそこじゃないんですよ。
そういえば、『サピエンス全史』の書評で、ハラリが畜産を否定しているとの指摘を読んだことがあります。
なんでも、ハラリはヴィーガンで動物は一切食べないそうで、ヴィーガンを広めるためにハラリはサピエンス全史を書いたとのことです。
いやぁ、どんなに深いことを書いても、読み手が浅いと、自分に都合のいいところしか読み取れないようです。
リベラルのテレ朝キャスターにとっては、この本は、トランプ政権への批判としか読み取れなかったようです。
じゃぁ、僕はこの本から何を読み取ったのか。
それは、情報の新しい見方です。
情報に関する本なんて、今までいっぱいありました。
たとえばシャノンの情報理論では、ビットという情報量を提案して、情報の定量化を試みました。
マーシャル・マクルーハンは、印刷技術が社会に与えるメディア論を唱えました。
どれも重要な視点ですけど、これも、まだ浅いんですよ。
なぜかというと、客観的に存在する情報とか技術しか扱っていないからです。
それに対して、ハラリは、主観というか、脳の中の情報から脳の外の情報まで対等に扱っているんです。
さらに、歴史を通して繰り返し現れる現象を通して、新しい視点で情報を整理するんです。
これだけじゃ、ちょっと意味が分からないですよね。
それじゃぁ、このことについて詳しく解説します。
これが今回のテーマです。
NEXUS②
情報を整理せよ!
それでは、始めましょう!
前回、第557回で、情報の意味は物語だと説明しました。
どういうことかというと、人々をまとめるのは、共通の神とか、共通の神話といった物語です。
それまでは、お互いを知っているのが仲間、それ以外が部外者でした。
そうやって作られる集団の最大数のことをダンバー数といって、およそ150人といわれています。
ところが、共通の神や神話を崇めるものを仲間として認めることで、ダンバー数が一気に増えて、何万人とか、キリスト教の信者だと25億人以上にもなります。
物語は人々を団結させて行動に駆り立てます。
たとえば、ユダヤ人は長い間、世界中に散らばっていましたけど、いまでは、イスラエルにユダヤ国家を築いてます。
その原動力となったのは、20世紀初頭にハイム・ナフマン・ビアリクという詩人が書いた一篇の詩だといわれています。
その詩は、ポクロムといわれる反ユダヤ主義の痛ましい事件を描写しています。
ユダヤ人の女性たちが凌辱される場面で、反戦主義者のユダヤ人男性たちは、ただ神に奇跡を祈るだけでした。
事件の後も、男たちは武装するのでなく、レイプされた女性は、ユダヤ教的に純潔かどうかを議論していたそうです。
そんなことをしてるから、ユダヤ人はいつまでも散り散りなんだ。
このままじゃいけない。
戦って、パレスチナの地に、ユダヤ国家を築くべきだ。
そうやって起こったののがシオニズム運動です。
その結果、反戦主義者の集団だったユダヤ人が、今や、世界屈指の強力な軍事国家、イスラエルを築くこととなったわけです。
これが物語のもつ強さです。
今日(こんにち)、イスラエルの学校では、この詩を読むことが義務付けられているそうです。
物語は、人を行動に駆り立てます。
ただ、物語が生み出すのは一時(いっとき)の熱狂です。
熱狂が、見知らぬ他人同士を結びつけます。
でも、国を運営するには、熱狂でなく平凡な日常を維持する必要があります。
日常においても、見知らぬ他人を結びつける力が必要です。
ただ、それは簡単なことではありません。
どういうことかというと、自分が働いて稼いだお金を、見知らぬ他人に差し出すことができるかってことです。
つまり、国を運営するには税金が必要です。
道路や上下水道を維持するのに税金が必要です。
そんなことはわかっていても、喜んで税金を払う人はいません。
熱狂して、国のために戦う人はいても、平時に、国のために喜んで税金を納める人はいません。
もしかしたら、自分だけ、余分に税金を払わされているんじゃないかと思ったりします。
そこで必要となってくるのが誰がいくら稼いだとか、いくら税金を納めたとかって記録です。
物語は口頭伝承でも伝えられます。
でも、いくら稼いだとか、金銭の貸し借りの記録は口頭で伝えるわけにはいきません。
なぜなら、覚えるのが難しいからです。
人間の脳は物語を覚えるように作られていますけど、リストを覚えるようには作られていません。
そこで、文字を記録する文書が生まれました。
世界で最も古い文書は古代メソポタミアの楔形文字で書かれた文書です。
そこには、ヒツジとヤギの受け渡しが記録されていました。
ここで、新たな情報が生まれたわけです。
今まであったのは、物語です。
これは、人間の脳に直接働きかけて、行動を掻き立てます。
もう一つは、文書です。
文書は、脳で覚えられないリストを記録するために作られました。
ただ、文字を書いたり、文書を書いたりすることは誰でもできるわけじゃありません。
そこで、専用の職業が生まれました。
それが官僚制度です。
敵をやっつけるヒーローを崇めることはありますけど、税金を徴収する税務署の職員を崇めることはありません。
でも、税務署の言うことは聞かないといけません。
脳に訴えかける物語という情報テクノロジーと、そこに登場するヒーロー。
脳では覚えられないリストを記録するために作られた文書という情報テクノロジーと、その文書を管理する官僚制。
社会を統治する二種類の統治者を、情報テクノロジーという視点で分類できたわけです。
なかなか面白いでしょ。
さて、お金の貸し借りのリストとか、覚えるのが難しいです。
覚え間違えても困ります。
そこで、間違いがないように作られたのが文書という情報テクノロジーです。
一方、物語は一度聞いただけで覚えることができるので、口頭伝承で伝えられていました。
そして、物語によって国がまとまります。
でも、その物語も、自分に有利なように勝手に変更されたら困りますよね。
そこで、今までリストを記録するために作られてきた文書が、物語を記録するために使われるようになりました。
それが聖典です。
聖典は手で書き写して保存されます。
これ、紙の本に見えますけど、ヒツジの皮でできた羊皮紙に書かれています。
聖典は、正確に書き写す必要があります。
間違って書き写したらいけないので、厳しい決まりもあります。
たとえば、写字生は、神の名を書いているときは、たとえ王に挨拶されても応じてはならないとも言われていました。
こうして、正確な写本を作る方法を確立していったのです。
これは新たな情報テクノロジーです。
今までの文書は、貸し借りとかのリストです。
だから、文書は一冊だけです。
でも聖典は、まったく同じ文書が複数あることが重要です。
それは、神の言葉を多くの人に伝えるためです。
もう一つ重要なのは、まったく同じ文書であるということです。
全く同じ文書が複数あれば、もし、誰かが勝手に改ざんしてもすぐにバレます。
ブロックチェーンが発明される2000年以上前から、人類は改ざんできない文書のテクノロジーを追い求めていたわけです。
こうして聖典テクノロジーがうまれたとハラリはいいます。
注意してほしいのは、聖典をテクノロジーに分類しているところです。
聖典テクノロジーは、文書で保管するということを指すだけじゃありません。
まずあるのが、人々を結びつける神の物語です。
これは脳の中の話です。
そして、それを文書として作成し、さらにその完全コピーを多数作成します。
ここは技術の話です。
この二つの仕組みによって、改ざん不可能な神の物語を広く流布できたわけです。
このことを指して聖典テクノロジーと呼んでるわけです。
なかなか奥が深いでしょ。
さて、次に登場するのは印刷技術です。
これは本物のテクノロジーです。
印刷テクノロジーは、世界を大きく変えました。
なぜなら、今まで、あれほど苦労して書き写していた写本が一瞬でできるんですから。
しかも間違って書き写すこともありません。
印刷機の登場以前の1000年間に人間の手で書き写された本は1100万冊だそうです。
ところが、印刷機が登場して、たった46年でそれを超える1200万冊の本が印刷されたそうです。
それほど印刷技術は革新的だったわけです。
これで、正しい物語をより多くの人々に届けることができます。
ところが、そう単純ではありません。
印刷技術ができた当時、ベストセラーとなった本に、ドミニコ会修道士のハインリヒ・クラーマーが書いた『魔女への鉄槌』という本があります。
魔女の正体を暴いた本です。
この本の発行を機に、近世ヨーロッパで魔女狩りが大々的に起こりました。
魔女の起源は中世のヨーロッパですけど、魔女狩りが最も盛んにおこなわれたのは近世なんです。
その原因が印刷技術による情報の拡散というわけです。
正しい情報から拡散されるのでなく、インパクトがある情報から拡散されるってことです。
この本には魔女の恐ろしさが事細かに書かれています。
たとえば、魔女は男性器を切り取って箱に集めているそうです。
それは箱の中で生きているように動いて、小麦を食べるそうです。
そんなバカなとおもいますけど、真実よりインパクトが大きい方が拡散されるわけです。
これは、今も同じですよね。
つまり、SNSの発達で、陰謀論が拡散されるとかです。
陰謀論なんて、昔からありましたけど、昔はごく一部で言われているだけでした。
それが、今では、一般の人が普通に語るようになりました。
退職した父親が陰謀論にはまって困っているという話もよく聞きます。
今まで、SNSなど見てなかった世代が、SNSで今まで知らなかった世界の秘密を知ってのめりこんでいったんでしょう。
ただ、間違った情報だとしても、それが正しく修正されれば問題ありません。
陰謀論とか魔女裁判のような低レベルの情報で、時間がたてば、真実かどうかはわかります。
問題は、そういった低レベルの情報でなくて、トップレベルの情報が修正されるかされないかの話です。
トップレベルの情報というのは聖典のことです。
そもそも、聖典というのは、変更不可能な情報テクノロジーでしたよね。
神の言葉を勝手に書き換えられたら統治ができません。
神は絶対に間違わないというのが大前提ですから。
でも、カトリック教会が先住民への虐待や十字軍の略奪を謝罪したことはあります。
ただ、これは当時のカトリック教会の振る舞いが間違っていたということで、聖書が間違っていたというわけではありません。
当時の教会が、聖書を間違って解釈したというだけで、聖書自体の間違いを認めたわけじゃないってことです。
ちなみに、ローマ教皇が地動説を初めて認めたのは、なんと21世紀になってからの2008年のことです。
ただ、これも聖書の間違いを認めたわけじゃなくて、聖書の解釈が間違っていたと認めただけです。
間違うのはあくまでも聖典を管理する官僚であって、神は間違わないというのが聖典という情報テクノロジーです。
それに対抗する形で登場したのが科学です。
科学には絶対的不可侵はありません。
ニュートン力学は相対性理論や量子力学によって絶えず修正され続けています。
トップの理論も、修正されるわけです。
重要なのは、修正という仕組みが、科学自身が内包しているということです。
外部の圧力により強制的に変更させられるんじゃなくて、科学の内部に自己修正のメカニズムがあるということです。
たとえば『精神疾患の診断・統計マニュアル』、略称DSMという精神科医のバイブルがあります。
DSMは約10年ごとに改定されて、多くの病気の定義も変わってきました。
たとえば、同性愛は1952年には社会病質パーソナリティ障害とされていましたけど、74年版では削除されました。
これが科学という情報テクノロジーです。
聖書の内容を10年ごとに点検して、聖書改定第10版といったものはあり得ないですよね。
これが科学と聖典テクノロジーの違いです。
こんな風に情報テクノロジーで読み解けば、聖典も科学も同列に扱うことができるんです。
人類史は壮大な情報テクノロジーの歴史です。
情報は、まず、脳に訴えかけるものと、退屈なものに分けられます。
脳に訴えかけるのが物語で、退屈なのがリストです。
次に、情報は、脳の外に文書として保存されます。
文書は一冊だけのものと、複製されるものに分けられます。
さらに、印刷やSNSなどで情報の大量生産が起こります。
それとは別に、トップの情報を書き換え不可とするか、自己修正するかによっても分けられます。
書き換え不可の情報てくろじーが聖典で、自己修正機能がついた情報テクノロジーが科学です。
この機能によって、科学は常に正しいものにアップデートされます。
ただ、正しいことと、広く拡散することとは別です。
「チ 地球の運動について」というアニメが最近終わりました。
このアニメは地動説と異端審問を描いたものです。
最後は、印刷機とコペルニクスの登場で終わりました。
コペルニクスの本が売れて、時代が大きく変わることが予想される結末です。
でも、実際は、そんな単純ではありませんでした。
コペルニクスの『天球の回転について』が刊行されたのは1543年でしたけど、初版は400部しか刷られませんでした。
しかも完売できませんでした。
当時ベストセラーとなったクラーマーの『魔女への鉄槌』がベストセラーとなったのとは大違いです。
正しいからと言って、情報が広がるわけじゃないんですよね。
はい、今回はここまでです。
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それから、意識について正しいけど、まだ広く広がっていない書物があるそうです。
それが、この本です。
なんでも、科学を大きく変える「意識の仮想世界仮説」というものを提唱しているそうです。
コペルニクスの『天球の回転について』に匹敵する本といわれてるそうです。
いや、クラーマーの『魔女への鉄槌』と同じだという人もいます。
どちらからは、あなたが決めてください。
第558回 NEXUS②情報を整理せよ!
