第560回 NEXUS④SNSで人類を支配するAI


ロボマインド・プロジェクト、第560弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今読んでるのがこの本、ユヴァル・ノア・ハラリの『NEXUS 情報の人類史』です。

今回から、下巻になりますけど、下巻のサブタイトルは「AI革命」です。
これ、新しい情報テクノロジーとしてAIの話じゃないです。
今までも、印刷やインターネットとか、情報テクノロジーの革新はいっぱいありました。
ただ、それらは、あくまでも人間が使う便利な道具でした。
ところがAIは、それとは根本的に違います。
AI自身が情報を消費して、情報を生み出します。
それだけじゃなくて、AIはすでに人類を支配しているんです。
どうやって支配しているかというと、SNSを使ってです。
そんなバカなって思いますよね。
それじゃぁ、どうやってAIが人類を支配しているか詳しく説明しましょう。
これが今回のテーマです。
NEXUS④
SNSで人類を支配するAI
それでは、始めましょう!

まず、ちょっと前の生活を思い出してみましょう。
車でイオンに行って、欲しかったゲームを買って、マックでハンバーガーを食べて帰ってきたとします。
ゲームはテレビのCMで見てほしくなったものです。
新聞の折り込みチラシでイオンのセールを知りました。
ハンバーガーも、CMでみた新メニューです。
車もゲームも働いてお金をためて買いました。
毎日テレビや新聞を見て、広告を見てほしくなって、働いたお金で欲しいものを買うわけです。
物とお金が循環して経済が回るわけです。

さて、今はどうでしょう?
テレビでなくYouTubeを見ます。
新聞よりFacebookやXといったSNSを見ます。
気に入った記事には「いいね!」を押します。
わからないことはグーグルやSNSで検索します。
広告は、SNSのフィードやグーグルの検索結果に紛れ込みます。

SNSの広告は、その人の興味、関心に基づいて配信されますよね。
その人が何に興味あるかは、「いいね!」や、何秒読んだかといったエンゲージメントに基づいて判断されます。
広告を出す会社は、自社の商品に興味、関心がある人だけをターゲットに広告をだすことができます。
消費者に取っても、自分が関心がある広告だけが流れてきます。
実に、うまくできたシステムですよね。

今度は、お金の流れを見ていきましょう。
以前は、企業は新聞やテレビの広告枠を買ったり、新聞に折り込みチラシを入れていました。
テレビや新聞は面白い番組や重要なニュースとか、視聴者が見たいコンテンツを提供します。
視聴者が見たいコンテンツを作れば、企業から多くの広告を集められます。
広告収入から、テレビや新聞はよりよいコンテンツを作ることができます。

じゃぁ、今はどうでしょう。
SNSはコンテンツを提供します。
ただし、コンテンツはSNSのプラットフォームが作成したものでなくて、ユーザーが投稿したものです。
プラットフォームがするのは、ユーザーの興味に応じた投稿をフィードに流すだけです。
ユーザーのフィードには、その人の興味、関心のある投稿が次々に流れてくるので、つい、夢中になってみてしまいます。
プラットフォームは、ユーザーがどんな記事を夢中になって読むかひたすら学習するわけです。

企業が広告を出すのは、消費者に自社製品を買わせたいわけですよね。
わかりやすく言えば、消費者の欲求に火をつけたいわけです。
このゲームは楽しいですよとか、この車を買えば、素敵な生活を送れますよとか、家族がしあわせになりますよとか思わせたいわけです。
欲望を喚起させる場として、テレビや新聞の枠を買うわけです。

じゃぁ、SNSは何をしているでしょう?
その人の興味、関心のある投稿を次々にフィードに流しているんでしたよね。
だから、ユーザーはSNSにのめり込むんです。
別の言い方をすれば、欲望が喚起された状態にされているんです。
企業が欲しがっているのは、自社製品を欲しがっている消費者です。
そんな欲望が喚起された消費者にだけ、広告を出せるんです。
そりゃ、テレビや新聞より、SNSに広告を出しますよね。

もう少し突っ込んで考えます。
テレビや新聞に企業が払っている広告代は、面白いコンテンツに対してです。
それに対して、SNSでは面白いコンテンツを作るのはユーザーです。
ネコの面白動画とか投稿するのはユーザーですよね。
じゃぁ、ユーザーはその見返りとしてお金を受け取っているでしょうか?
受け取っていないですよね。
逆に言えば、プラットフォームはユーザーにただ働きさせているわけです。

でも、それで何か問題があるんでしょうか?
ユーザーは、自分の投稿がいろんな人に「いいね!」されるのがうれしいんですよね。
本人がそれで満足してるんなら、それで問題ないんじゃないでしょうか?

ところが、そうとも言い切れないんですよ。
テレビ局や新聞社は、面白い番組を作ったり、ニュースを集めたり取材するのが仕事です。
労働の対価として社員は給料をもらいます。
ここで、お金のやり取りが発生します。
じゃぁ、お金のやり取りが発生すると、何が起こりますか?

それは税金です。
会社から給料をもらうとき、働いた分から税金を引かれますよね。
給料をもらったら、欲しかったゲームを買えます。
ゲームを買うときにも消費税が発生します。
そうやって、人が働いたり、消費したりするごとに国に税金が入ります。
税金は道路や上下水道の整備に使われて、住みよい国になります。
こうして、みんなが働いて、消費すればするほど国は豊かになって、住みやすい国になるわけです。

それじゃぁ、SNSの場合はどうでしょう?
プラットフォームが行っているのは、投稿された記事を、興味があるユーザーに供給するだけです。
記事を投稿するユーザーにお金を払っていません。
でも、企業から広告費は受け取っていますよね。
これをテレビに当てはめてみます。
テレビ局は、番組を作らないのに、企業の広告を流して広告費を受け取っているわけです。
たとえて言えば、原価ゼロの空気でつくった製品を売っているようなものです。
こんな利益率の高い商売はないですよね。
これのどこが問題かというと、儲かるのはプラットフォームだけだというとこです。

プラットフォームってグーグルとかFacebookのことですよね。
つまり、GAFAです。
すべてアメリカの企業です。
でも、ユーザーは日本人ですよね。
そのユーザーに物を買ってもらおうとしているのも日本企業ですよね。
つまり、広告を出すのは日本企業です。
取引が行われているのは日本です。
ユーザーはプラットフォームにお金を払っていないので国に税金は入りません。
広告費を出すのは日本の企業なので儲かるのはGAFAだけです。
これが今、起こっていることです。
世界中の人がSNSを使えば使うほど、GAFAにお金が吸い上げられるわけです。

先日、2025年の長者番付が発表されました。
世界一の金持ちは、テスラやXを運営するイーロン・マスクで日本円で51兆円だそうです。
二位はFacebookのマーク・ザッカーバーグで32兆4000億円で、三位はアマゾンのジェフ・ベゾスで32兆2000億円です。
日本人はトップ10どころか、ようやく30位に入ったユニクロの柳井さんで、イーロン・マスクの約10分の1です。
これが今の世界です。

それじゃぁ、SNSはいったい、どこからお金を生み出しているんでしょう?
ここを、深堀していきます。

人は何か欲しくて、お金で買うわけですよね。
ゲームや食事だったり、旅行や映画とかです。
物やサービスとお金を交換することで経済が回ります。
じゃぁ、そのものやサービスを欲しがっているのは誰でしょう?
それは、ユーザーですよね。
もっと言えば、ユーザーの脳です。
脳が欲しがっているわけですよね。
その結果、物を購入したり、コンテンツを消費したりといった行動を起こします。
その行動にお金を払っているわけです。
つまり、人の行動の原動力は感情です。
おいしいものを食べたいとか、楽しいことをしたいとか。
モテたい、ほめられたい、うらやましがられたい。
これらの感情を満たすために、物やサービスを購入するわけです。
人を動かす燃料は感情です。
もっと言えば、世界を動かしているのは感情です。

企業は、自社製品を欲しいと思わるために、テレビや新聞に広告を出します。
テレビのCM枠、新聞の広告枠、すべて目で見えて物理的に存在します。
それらの広告枠を金を出して買ってたわけです。
でも、本当にほしいのは広告枠じゃありませんよね。
企業が本当に欲しいのは、人々の欲望や感情です。
でも、欲望や感情があるのは脳の中です。
それらは目に見えないし、実体があるわけじゃありません。
だから、実体として存在する広告枠を買うわけです。

ところがSNSは、実体のない欲望や感情を持っています。
それが、エンゲージメントの高い記事や、それらで作られたフィードです。
人や世界を動かすエネルギー源は欲望や感情です。
SNSのプラットフォームは、そのエネルギーを無限に汲み上げる装置と言えます。

石油会社は、産油国の原油をくみ上げますよね。
その時、産油国にお金を払いますよね。
そうして汲み上げた原油からガソリンを精製して車が動くわけです。

でも、SNSの場合はどうでしょう?
人や世界を動かす燃料である欲望や感情を無限に汲み上げてますよね。
それなのに、その国に一円も払っていないんですよ。
そりゃ、儲かりますよね。

じゃぁ、なぜ、一円も払わないのか。
それは、実体がないからです。
欲望や感情は脳の中の情報でしかありません。
そんなものにお金を払う習慣もありませんでした。
でも、その結果として、日本人の脳のなから大量の欲求が感情をくみ上げたGAFAが大儲けしてるわけです。
もし、石油会社が産油国から原油を吸い上げて、一円も払わなかったら産油国は怒りますよね。
それと同じことが起こっているのに、だれも怒らないで、指をくわえてみているだけです。

じゃぁ、これを是正するにはどうすればいいでしょう?
たとえば、プラットフォームが各国で集めたエンゲージメントに対して、税金を取るとかです。
こうなれば、GAFAだけにお金が集まる仕組みが少しは緩和されると思います。
これ、結構、本気で考えてもいいと思います。

さて、今の話は、お金だけの話でしたけど、じつは、もっと深刻な問題があるんです。
SNSは、SNSへの滞在時間をできるだけ長くさせようとします。
そのために、人々が夢中になる記事でフィードを埋めます。
人間の行動の原動力は感情です。
だから、感情を揺さぶる記事が目に付くようにします。
じゃぁ、もっとも強い感情とは何でしょう?

それは、恨みとか憎悪です。
映画やマンガでもよくありますよね。

たとえば、誰かが主人公の仲間を傷つけたり殺したりする。
それも卑劣なやり方で。
でも怒りに任せて殺すわけにはいきません。
じっと耐えるだけです。
何もしないでいると、奴らはまずまず図に乗ってきます。
ついに、一番大事な家族に手をかけます。
我慢の限界です。
主人公は復讐の鬼になって、敵をばっさばっさと倒していきます。
こんなストーリー、気持ちがいいですよね。

これはSNSも同じです。
いや、SNSが憎しみを煽る記事を選んでるわけじゃないです。
ただ、結果としてそうなったということです。
それが起こった悲惨な事件をみてみましょう。

ミャンマーは長い軍事政権の元、厳しい言論統制にありましたけど、2010年代に入って民主化され、ようやく自由化の時代に入りました。
スマホが普及して、今まで自由に発言できなかった人々が、Facebookに自由に投稿できるようになりました。

仏教国のミャンマーにロヒンギャといわれるイスラム教の少数民族がいます。
彼らは長年、仏教徒の多数派から激しい差別も受けていました。

2016年、アラカン・ロヒンギャ救世軍という小さなイスラム組織が、イスラム教国を打ち立てることを狙って仏教徒の民間人を何十人か拉致、殺害するという事件が起こりました。
それを受けて、ミャンマー軍と仏教の過激派が、ロヒンギャの民族浄化作成を開始ししたんです。
何百というロヒンギャの村が襲われ、2万人以上が殺害され、さらに多くの人が虐待や暴行を受けたと言われています。
ロヒンギャ救世軍が殺害したの数十人ですけど、その仕返しに何万人も殺されたわけです。
それほどまでに憎悪を拡大させたのがフェイスブックでした。

エンゲージの高い投稿を拡散させるアルゴリズムによって、ニュースフィードはロヒンギャのテロや残虐行為の記事であふれかえっていたそうです。
しかも、その多くはフェイクニュースでした。
そんなニュースに扇動されて、国を挙げてロヒンギャの民族浄化が行われたわけです。
21世紀にもなって、民族浄化なんて言葉を聞くとは思ってもいませんでした。

でも、これが今、世界で起こっていることです。
巨大なお金の流れや民族対立、紛争までSNSが引き起こしているんです。
SNSなんて、言ってみれば、便利な通信ツールです。
それが、世界を動かすほどの力をもつようになったのはなぜでしょう?

それは、感情に訴えかける投稿をフィードに流すアルゴリズムです。
感情は、行動の燃料です。
SNSは、人々の脳から燃料を汲み上げるんです。
いや、汲み上げるんじゃなくて、ないところから生み出すんです。
だって、ミャンマー人のほとんどは、元来、おとなしい仏教徒です。
それを国を挙げて暴徒とさせたのがSNSのアルゴリズムです。

そして、そのアルゴリズムを司っているのがAIです。
人々は、便利な通信ツールを使っていると思っていたら、いつの間にか、AIに脳が乗っ取られて操られていたんです。
今、そうなっていないのは、そうならないように規制してるからだけです。
もし、規制を取っ払えば、人々の脳はAIに簡単に乗っ取られます。
既に、そんな時代になっているんです。


はい、今回はここまでです。
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それからよかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!