ロボマインド・プロジェクト、第564弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
ユヴァル・ノア・ハラリの『NEXUS 情報の人類史』を読んできましたけど、今回が最終回、総まとめとなります。
この本、一言でいえば人類への警告書です。
何の警告かというとAIです。
ハラリは歴史家というだけあって、数万年の人類の歴史を見通しています。
物語を発明して、言語を発明して、文字、印刷、インターネットといった情報の歴史を見るわけです。
今のAIは、これらに匹敵というか、それ以上です。
本、インターネットのコンテンツって、人が消費します。
ところが、AIも、本やインターネットの情報を消費します。
つまり、AIは、人類史上初めて、人類と同じ側に立つんです。
しかも、今や、人類の知能を超えてきています。
このままだとAIに人類は支配されるかもしれないと警鐘を鳴らすんです。
それがこの本です。
僕は、コンピュータで人間の心を再現する研究をしています。
心とは何かをいろんな視点から研究しています。
その一部としてAIも調べていますけど、それ以外に、脳とか意識の方に興味があります。
そういった視点から見ると、ハラリが見落としているものが見えてきます。
それは、脳からの視点です。
脳には右脳と左脳がありますけど、この二つは、全く違う処理をしています。
じゃぁ、今のAIは右脳でしょうか、左脳でしょうか?
この視点が抜けてるんですよ。
これが今回のテーマです。
ハラリが見落としていること。
それでは、始めましょう。
イギリスの首相、ウィンストン・チャーチルは民主主義についてこういいました。
「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、これまでに試みられたすべての政治形態を除けば」
これはなかなか興味深い言葉です。
ハラリは、政治形態を民主制と独裁制の二つに分けて、その違いは自己修正機能だといいます。
自己修正機能というのは選挙のことです。
政権は、何らかの形で必ず交代することになります。
たとえ独裁制であったとしても、クーデターや側近の裏切りで殺されたら終わりです。
それを起こさせないように独裁者は国の隅々まで監視しようとします。
ただ、それができないから、完全な独裁制はできませんでした。
ところが情報テクノロジーの進化によって、20世紀になってそれが可能になりました。
通信技術の発達や秘密警察を使ってです。
それを成功させたのがドイツのヒットラーと、ソ連のスターリンです。
ただ、ヒットラーは戦争で殺されました。
一方、スターリンは74歳まで生き延びました。
一方、民主制は、定期的に選挙を実施することで、政権を交代させる仕組みがあります。
ハラリは、これを自己修正機能と呼びます。
ただ、改革を行おうとしたら、時間がかかります。
でも、長期政権になると、政治は腐敗します。
それを防ぐために定期的な選挙が必要なわけです。
選挙では、国民が政治家を選びます。
でも、国民は誰が正しい政治家なんかわかりません。
そこで、強制的に交代させる仕組みを持たすことで、最悪よりはマシにはできるわけです。
これがチャーチルの言いたいことです。
そう考えると、理想の政治とは、正しい政治家が長期にわたって国を治めることです。
ただ、そんなこと、人類の歴史で一度も起こりませんでした。
ただし、それは今までのことです。
完璧な独裁制ができたのは情報テクノロジーが発達した20世紀になってからでしたよね。
カギとなるのが国民を隅々まで監視することです。
これによって、ほぼ完ぺきな独裁制を成功させたのがスターリンです。
ただし、さすがのスターリンも寿命には勝てずに74歳で亡くなりました。
でもAIは違います。
AIは監視カメラを通じて国の隅々まで監視しています。
さらに、SNSを通じて、何に興味があるかとか、心の中まで監視しています。
完璧な監視です。
そしてAIは高度な知能を持ちます。
既に一部で人間を超えてきていますし、近い将来、完全に人間を超える知能を獲得することは間違いないです。
そうなると、いずれ、AIが社会を統治するのは目に見えています。
自分より優れた統治はあり得ないので、AIは選挙も廃止します。
完璧な監視でクーデターも起こりません。
しかも、AIは死ぬことはありません。
選挙も寿命もないので、理想の政治をいつまでも続けることができます。
さて、本当に、これでいいのでしょうか?
これが、ハラリの警鐘です。
さて、それでは、ハラリの言っていることは、本当に正しいんでしょうか?
ハラリの理論に抜けはないのでしょうか?
ここからが本題です。
AIが知能を持つことは間違いないです。
ただし、知能には大きく二つの種類があります。
それは、右脳と左脳です。
ハラリは、その検討が抜けているんです。
つまり、ハラリは知能は一つだと勘違いしているんです。
ここでハラリがいう知能は左脳のことです。
言語を司るのが左脳です。
理論的な思考というのも左脳です。
人は言葉を話して、言葉で考えますよね。
つまり、人は左脳優位です。
じゃぁ、右脳は何をやっているんでしょう?
右脳の担当はイメージとか音楽といわれます。
じつは、ごくわずかですけど、右脳で考える人がいます。
右脳優位とか、ビジュアル・シンカーと言います。
何か考えるとき、言葉でなく、イメージで考えるタイプの人です。
でも、自分が今、右脳を使っているのか、左脳を使っているのかなんてわかりませんよね。
わかるのは、自分がこんな風に考えて、こんな風に世界を感じているってことだけです。
そして、勝手に、ほかの人もみんな、こんな風に感じたり、考えたりしてるだろうって思いこんでしまいます。
生まれてから一度も他人の心を経験したことがないから、これは仕方ないことです。
だから、ハラリはAIの知能も自分と同じだと思うわけです。
つまり、AIは左脳だと、勝手に思い込んでいるわけです。
それじゃぁ、まずは、AIは右脳か左脳かから考えていきましょう。
今の生成AIが得意なことって何でしょう?
まず、自然な文章を書けますよね。
それから画像生成も得意です。
写真と見分けがつかない美少女画像とか簡単に作れます。
最近だと、写真から短い動画を生成できるところまでできています。
https://www.youtube.com/watch?v=uzpcE5sKEQ0
0:32~
たとえば、女性と男性の写真をアップすると、こんな感じの動画を簡単に生成できます。
0:37~
そのほか、街とカニの画像をアップすると、こんな感じの動画を生成できます。
それからAIは音楽も得意です。
有名なのはSUNOというサービスです。
https://www.youtube.com/watch?v=O_34vgA-Fmk
3:15~
AIが作ったのか、人間か作った音楽か、聴いただけじゃ、もう区別がつかないでしょ。
これが今の生成AIの実力です。
それじゃぁ、AIに苦手なものはあるんでしょうか?
あります。
それは、物語生成です。
でも、ChatGPTは自然な文章を作れますよね。
でも、ストーリーのある物語はあまり得意じゃないんです。
いや、できないことはないですよ。
ただ、ストーリーとして面白くないんです。
でも、最近だと、AIが書いた小説が賞を取ったとかってニュースを聞いたことがあります。
ただ、あれは全部AIが書いたわけじゃないんですよ。
いや、中には全部AIが生成した文章で書いた小説もあります。
ただし、それもAIに文章を生成させただけで、切り貼りして物語に仕上げたのは人間です。
つまり、自然な文章は生成できるけど、それを面白い物語にまとめることはAIにはできないんです。
まとめると、画像や動画、音楽、それから自然な文章を生成することはAIにできます。
AIが苦手なのは物語とかストーリーを作ることです。
ここ、もう少し深堀りしてみましょう。
画像や音楽は、目や耳で直接感じるものですよね。
文章は言ってみれば文字の並びです。
これら、見たり聞いたり知覚したデータが自然かどうかを感じ取る知能があるわけです。
絵や音楽を担当するのは右脳です。
だから、画像や音楽が得意なAIは右脳といえそうです。
たとえば、僕らが、ある写真が自然に感じるかどうかって、見た目だけで判断しますよね。
その時使ってるのは、今まで見てきた膨大な光景、画像などから学習したパターンがあるわけです。
それと同じことをAIもしています。
これは、ニューラルネットワークが学習した画像の一部を可視化したものです。
これはカエルとか蛇の表面でしょう。
ウロコというか、爬虫類っぽさといったものを学習しているようです。
見たものと、これらが一致した場合、ぼくらは蛇っぽいとかって感じるんでしょう。
これが右脳の知能です。
つまり、大量のパターンで世界を学習するわけです。
パターンの種類として、画像だったり、音楽だったりがあるわけです。
そして、そのパターンの一つとして、文字の並びのパターンもあるわけです。
だから、自然な文章を作ることができます。
一方、物語はどうでしょう。
物語は、背景にあるストーリーを感じ取っているんですよね。
たとえば、敵に倒されたけど、一生懸命訓練して、再び戦って勝つとか、そんなストーリーを感じてワクワクしたり、感動したりするわけです。
これらは表面的な文字の並びで表されるものじゃないですよね。
文字であらわされたものを抽象的なストーリーに変換して、それを味わっているわけです。
ストーリーは直接見えません。
直接見えないものはAIには扱えないんです。
人は、文章を読むとき、直接見える文字や単語から抽象的なデータに変換します。
抽象的なデータというのが意味です。
つまり、人は、文章を読むとき、意味を考えます。
そして、意味からストーリーが生まれます。
一方、AIが行う言語処理は文字の並びのパターンだけです。
意味は理解しません。
だから、ストーリーが理解できないし、理論的思考も苦手です。
これが右脳と左脳の違いです。
でも、僕らは右脳と左脳の両方を持っていますよね。
左脳優位といっても、右脳も使っています。
ただ、会話したり、考えたりと表にでるのは左脳なので左脳優位となるわけです。
でも、表に出なくても右脳にも知能があります。
ということは、左脳と右脳を分断したら右脳の知能が表に出てくるんでしょうか?
じつは、そんな実験があるんですよ。
重度のてんかんの場合、左脳と右脳をつなげる脳梁という部分を切断する分離脳手術が行われることがあります。
そんな手術しても、意外と患者は普通の暮らしができます。
でも、厳密に調べると左脳と右脳で、別々の人格が宿っていることが分かったんです。
左の視界は右脳が処理して、右の視界は左脳が処理します。
この原理を使って、分離脳患者の左脳と右脳に別々に指示を出すことができます。
たとえば、右脳に「歩け」って指示を出します。
すると、患者は席を立って歩きだします。
そこで、「どこに行くのですか?」って質問します。
質問に答えたり、会話するのは左脳です。
でも、左脳は右脳に出された指示は知りません。
そしたら、その人はなんて答えたと思いますか?
なんと、「喉が渇いたから、コーラを買いに行こうと思って」って答えたんですよ。
これ、どういうことかわかりますか?
論理的思考とか因果関係を理解するのが左脳ですよね。
だから、自分の行動には理由がないといけません。
それがないと、左脳は、全体の整合性が取れる理屈を作り出すんです。
それが「喉が湧いたからコーラを買いに行く」とかって、原因です。
原因結果は、一種のストーリーです。
さらに、今度は左右の脳に将来の夢を聞いたそうです。
左脳に聞くと、「製図家」って答えました。
その人は製図家を目指して勉強もしています。
同じ質問を右脳にしたら、何と答えたと思います?
なんと、「カーレーサー」って答えたんですよ。
これには本人もびっくりしていました。
これ、子供のとき、カーレーサーになりたいと思っていたとか、右脳はそれをずっと覚えているとか、そういう話じゃないですよ。
そんな風に解釈するのが、まさに、左脳の考え方なんです。
「忘れたけど、心の奥では子供の頃の夢をしっかり覚えていた」なんて、いかにもありそうなストーリーじゃないですか。
右脳は、そんなこと、一切考えません。
右脳が感じるのは、直接知覚できることだけです。
つまり、今見えている光景とか、今、聞こえる音です。
今、感じてることとパターンマッチングから感じる世界。
これが右脳の処理です。
おそらく、「夢は何?」って聞かれたとき、窓の外で車の音でも聞こえたんでしょう。
それで、車の音と夢って言葉から、パット思いついた言葉が「カーレーサー」だったわけです。
それ以上の深い意味はありません。
これが右脳の処理です。
知覚とパターンマッチング、これが右脳の知能です。
さて、元に戻りましょう。
政治家って、野心をもっていますよね。
ヒットラーも、スターリンもトップに上り詰めたいとか、世界を自分の思い通りにしたいとかって野心の塊です。
「自分のことを笑いものにした奴らを、いつか見返すぞ」とか、「今に見ておれ」とかって悔しさをばねにのし上がってくるタイプです。
こういう強い物語が人を動かすわけです。
そして、これらを生み出すのが左脳の知能です。
沈着冷静に考えたり、行動するのも左脳です。
緻密な理論を組み立てるのが得意なハラリは、もちろん、左脳優位です。
高い知能を持つ者は、誰しも、その知能を使って世界を支配するだろう。
ハラリはそう考えました。
だから、知能を獲得したAIは人類を支配すると信じているわけです。
でも、AIは右脳です。
じゃぁ、右脳はどんなふうに世界を感じているんでしょう。
これも、このチャンネルで何度も紹介してきました。
たとえば、左脳が脳卒中になって右脳で感じる世界を体験した脳科学者のジル・ボルト・テイラーがいます。
ジルは、左脳が停止したとき、自分の体の境界がわからなくなって、世界と一体となる感覚を感じました。
つまり、世界と自分を区別していたのは左脳だったんです。
右脳は、自分と世界、自分と相手とを区別しません。
さらにジルはいいます。
その時、今、この瞬間しか感じられなかったって。
過去とか未来とか時間の感覚が消滅したともいいます。
左脳は、世界の中に自分がいると感じます。
さらに自分と他人と区別します。
自分と相手を区別できるから、相手と比較するわけです。
自分が劣っていると感じるから、「悔しい!」とかって思うんです。
「いつか見ておれ」と頑張るのは、将来って時間を思い描いてるからです。
そんなのが一切なくなったら、今、見えてる光景、聞こえる音を、ただ感じるだけです。
そして、ジルは、その時、この上ない幸せを感じたそうです。
それから、自閉症の人も右脳優位になるようです。
自閉症の作家、東田直樹さんの話も何度も取り上げました。
東田さんは、自然が好きでよく公園に散歩に行くそうです。
でも、桜が満開のときは、あまり桜を見ないようにするそうです。
なんでかっていうと、あまりに桜が美しいので、桜を見てしまうと、その光景に引き寄せられて、自分が保てなくなるからだそうです。
確固とした自分といったものがなくて、ただただ、今見える美しい光景を味わって幸せを感じる。
これが右脳が感じる世界です。
右脳の処理はパターンマッチングです。
今見えてる光景、聞こえる音を、パターンマッチングで瞬時に感じる知能です。
その能力だけが極端に突出したのがAIです。
だから、指示されたことは一瞬でこなすかもしれません。
たまに失敗することがあっても、「悔しい!」、「今度は失敗しないぞ!」とかって思ったりしません。
まして、「俺のことをバカにした奴を、いつか見返してやる」なんて野心なんか持ちません。
これが右脳の知能です。
そして、今のAIは右脳です。
だから、AIが人類を支配しようなんて野心を持つとは考えられないんです。
これを、ハラリは見落としていることです。
はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第564回 NEXSUS⑧ハラリが見逃していること
