第566回 脳は左右軸と進化軸で整理せよ!


ロボマインド・プロジェクト、第566弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

僕は、脳と心の理論についてずっと考えていて、基本的な理論はだいたい完成して、今は、それを整理しているところです。
僕の考えでは、脳の情報処理は二つの軸で考えるとうまく整理できそうなんですよ。
一つの軸は左右軸で、もう一つは進化軸です。
左右軸っていうのは、左脳と右脳です。
進化軸というのは、進化的に古い情報処理か新しい情報処理かです。
進化的に新しい情報処理というのが、意識です。
じゃぁ、意識はどうやって生まれたのでしょう?

意識がない古い脳は、知覚した現実世界に直接反応して行動していました。
たとえば、カエルは虫を見たら捕まえて食べて、天敵の鳥の影を感じたら逃げるとかです。
これは、外界への反射反応とおなじで、意識がなくても自動でできる情報処理です。

それが、哺乳類、霊長類と進化することで、外界に反応するんじゃなくて、脳の中に仮想世界を作るようになりました。
そうなると、何が嬉しいんでしょう?

反射反応は、生まれたときから決まっていて変更することができません。
それに対して、仮想世界を作って、それを観察することができるようになると、今までと違う行動を取れます。
違う行動を取れるというか、違う行動を想像することができます。
これが、考えるということです。

じゃぁ、考えるのは何でしょう?
それは意識です。
または自分です。
仮想世界を作ることで、それを見て、考える意識が生まれたんです。
または、自分とか主観が生まれたんです。
それ以前の生物は、環境に反応するだけの自動ロボットです。
そこから、意識が生まれて、自分というものを認識できるようになりました。
その自分が世界を認識するとき、二種類の情報処理をするわけです。
それが左脳と右脳です。
こんな風に、脳と心は、左右軸と進化軸の二つで考えるときれいに整理できるんですよ。

と、今、当たり前のように語りましたけど、こんなこと言っているのは世界中のどこにもいません。
世間では、いまだに意識とは何かとか、AIに意識はあるのかってレベルの議論しかしていません。
このチャンネルでしている議論は、世間より10年ほど先を進んでいるので、ほかの人に言っても通じないので注意してください。

さて、それは置いといて、この二軸で整理すると、今までよくわからなかったものもかなりきれいに説明がつくようになってきました。
それで、今回、久しぶりに東田直樹さんの『自閉症の僕が飛び跳ねる理由2』を読み返しているんですよ。

東田直樹さんは、自閉症の作家で、自閉症の人が、どんなふうに世界を感じているのかリアルに語ってくれて、ものすごく参考になるんです。
これが、今回のテーマです。
脳は左右軸と進化軸で整理せよ!
それでは、始めましょう!

この本を書いたのは、東田さんが高校に入った16歳の頃だそうです。
まず、出てくるのが、急な予定変更が我慢できないという話です。
朝、いつも見ているテレビ番組が、放送局の都合で見られなくなったそうです。
母から聞いて理由はわかっていたけど、パニックになったそうです。
自分の両手で自分の頭を叩いて泣きわめいたそうです。

それは、見たい番組が見れなくて悔しいとか悲しいからじゃないといいます。
その不快感は恐怖そのものだっていいます。
その恐怖を振り払うために、なりふり構わず暴れます。
泣きわめいて、恐怖の時間が終わるのを、ただ待つだけだそうです。


さて、このことについて考えてみます。
予定の変更が苦手といった話は自閉症や発達障害でよく聞きます。
いつも同じレストランに行くとか、毎回、同じメニューを頼むとかです。
新しいメニューを試してみるとか、別の店に行ってみるとかって思わないわけです。

これは、進化軸で考えるとわかりやすいです。
進化によって仮想世界と意識が生まれました。
仮想世界を使うメリットは、いろいろ考えることができることです。

ただ、それがいきなりできるようになるわけじゃありません。
進化は、ものすごく長い時間がかかりますから。
それじゃぁ、その段階を追っていきます。

まず、最初に想定するのが、今ある慣れた環境です。
次に何が起こるか決まっている環境です。

これだと、入力に対して同じ行動をしていればいいだけです。
入力に応じた出力のプログラムがあればいいわけです。
これだけなら、意識も感情もいりません。

ただ、これだと環境の変化に対応できません。
環境の変化に対応できない生物は絶滅してしまいます。
そこで、仮想世界と意識が生まれました。
意識は、仮想世界を通して世界を認識して、行動を決定します。
以前は、感覚入力から行動指示データが生成されて、それが筋肉を直接動かしていました。
行動指示データというのは「逃げろ」とか「食べろ」っていう指示です。
その指示に従って、カエルは天敵から逃げたり、虫を食べたりしていました。

それが、意識を持つようになると、行動指示データは意識に入力されるようになりました。
行動指示データは、筋肉でなく意識に入力されるようになりました。
じゃぁ、その意識に入力される行動指示データとは何でしょう?
それは、恐怖という感情とか、お腹がすいたという感覚です。
今までは、行動指示データが直接体を動かしていましたけど、意識を持つようになって、行動指示データが、まず、意識に入力されて、それを受けて、意識が体を動かすようになったわけです。
結果としての行動は同じです。
怖かったら逃げるし、お腹がすいたら何か食べます。

ただ違うのは、ほかの行動も取れるようになったってことです。
意識が介在することで、「ちょっと待てよ、別の方法もあるんじゃないか」とかって考えることができるようになりました。

ただ、どうも、ここまで一気にできるようになったわけじゃなさそうなんですよ。

まず、生物の原則は危険をさけて安心を求めます。
安心というのは、何が起こるか予想ができることです。
これは、意識があってもなくても同じです。
だから、勝手知っている場所で、いつもと同じことをするのが安心するわけです。
ただ、環境が変わると、どうしていいかわかりません。
でも、どうしていいかわからないとか感じるのは意識がある生物の場合です。
意識がない生物の場合、感じることなく、いつもと同じ動きをするだけです。
たとえば、テントウムシがひっくり返ると、足をバタバタするしかできないのと同じです。

意識のある生物の特徴は、行動指示データを意識が受け取ることですよね。
東田さんの場合、朝は、決まったTV番組を見ると決まっていたわけです。
決まっているというのは、頭の中の仮想世界は、その番組を見ることになっているわけです。
ところが、現実のテレビでは、その番組が始まらないわけです。
頭の中の世界と現実の世界が一致しないから、意識はパニックになるんです。

東田さんは感情とパニックは違うと言います。
これ、ちょっとわかりにくいんですけど、東田さんの言う感情というのは好きとか嫌いとかって事のようです。
好きな食べ物なら食べるし、嫌いな食べ物は食べません。
どう行動したらいいのかわかるものを感情と呼んでいるようです。
それに対して、想定外の出来事が起こった場合、どう行動していいのかわからなくなります。
これがパニックを引き起こすようです。

そうなると、自分ではどうすることもできなくて、何か叫んだりして、ただ、時間が経つのを待つしかないわけです。
時間が経って、現実を受け入れられるようになると、ようやく落ち着きます。
現実を受け入れるとは、頭の中の世界と現実世界が一致することです。
どうも、それに時間がかかるようで、その間が、どうしていいのかわからずパニックになるようです。
見たい番組が見れなくて嫌だっていうのは感情です。
それとパニックとは発生のメカニズムが根本的に異なるわけです。

でも、普通の人は、そのぐらいのことでパニックにならないですよね。
じゃぁ、何が違うんでしょう?
ここで、脳の左右軸の話が出てきます。
つまり、左脳と右脳です。

ここで左脳と右脳の違いをおさらいしておきます。
左脳が扱うのは言語とか論理的思考です。
右脳が扱うのは、見たままのイメージです。

たとえば、目の前にリンゴがあるとします。
リンゴは赤くて丸くて、食べたら甘いですよね。
これは、どんなリンゴにも共通するデータです。
共通するデータを取り出すとは、抽象化するとも言えます。
または、またはリンゴオブジェクトと言ってもいいです。
そして、リンゴオブジェクトが持つ「赤い」とか「丸い」といったデータがリンゴの意味です。
そして、左脳は「リンゴ」という名前と意味をセットにしてリンゴを認識します。
これが左脳の情報処理です。

一方、右脳はみたままをそのまま感じ取ります。
名前を付けたり、意味とか感じません。
リンゴにハエがとまったら、左脳はハエとリンゴを別のものとして認識しますよね。
でも、右脳は見たままを感じるだけです。
ただ、今見える光景をありのまま見るだけです。
抽象化したり、意味を読み取ろうなんて思いません。

普通の人は左脳優位です。
左脳は、意味に分割して世界を認識します。
リンゴを見ているようで、実際は、リンゴオブジェクトを認識しています。
左脳が認識している仮想世界はオブジェクトで組み立てられています。
なので、オブジェクトの変更とか操作することが比較的簡単です。

一方、右脳が認識するのは、見たままの世界そのものです。
それは、一つの大きな塊です。
だから、簡単に変更することはできません。

左脳の仮想世界はオブジェクトでできているので、予定していたテレビ番組が変更になったら、仮想世界のテレビ番組オブジェクトを変更すればいいだけです。

でも、右脳の仮想世界は、一つの巨大な塊です。
現実世界とずれが生じたとき、仮想世界全体を少しずつ変形させて現実世界に合わせないといけません。
これには時間がかかりますし、その間、現実と頭の中の世界が違うので、どうしていいかわからないです。
これがパニックです。

こう考えたら、東田さんの頭の中で何が起こっているのかなんとなくわかります。
自閉症の人は右脳優位で、右脳優位だと、環境の変化にうまく対応できないようです。

それから、パニックになったとき、泣き叫んで、自分の頭を叩くしかないといいます。
そんなことをしても意味がないと、理屈ではわかっていても、体が言うことを聞かなくて、そうせずにおられないそうです。
この行動は進化軸で考えたら説明がつきます。

意識のない生物は、行動指示データを筋肉が直接受け取って、自動で体がうごいていましたよね。
それが、意識を持つようになると、行動指示データを意識が受け取って、意識が体を動かします。
パニックになったとき、意識を介さずに、行動指示データが体を直接動かしているんでしょう。
たぶん、脳の中に古い経路が残っているんでしょう。
パニックというか、子供が泣くときも、この古い経路を使って泣いていると思います。
僕も、幼稚園ぐらいの頃は、よく泣いていました。
泣いてるときって、意識がないんですよ。
ある時、泣いてるときに、ふと、意識が戻ったことがありました。
自分が泣いてるってことに気付いたんです。
なんで泣いたのかは覚えています。
ちょっとしたことで親に怒られたとかです。
その時わからなかったのは、いつも、どうやって泣き止んでたかです。
それが思い出せなくて、しばらく泣いてるふりをして、エーン、エーンって、徐々にフェードアウトしました。
ウソ泣きと思われてないかって気にしてたのをよく覚えています。

東田さんの場合は、古い経路でわんわん泣いてるときも、意識が残っているようです。
自分ではどうしようもなくて、体が勝手に泣くのを、ただ意識は見守るしかないってことのようです。

それから、東田さんは比喩が理解できないとも言います。
たとえば、「寒くて身も心も凍える」の意味がどうしても理解できないそうです。
寒くて身が凍えるはわかります。
でも、心が凍えるとは、意味がわからないそうです。
心は寒さを感じないからです。
寒さを感じるのは体だからです。

これは、左右軸で考えればわかります。
言語を司るのは左脳で、左脳は物事の意味を理解します。
意味とは、物事を抽象化したものです。
リンゴの意味なら、赤いとか、丸いとか、甘いとかです。
具体と抽象の間を行き来するのが左脳です。

体が寒いと、あまり動きたくありません。
あったかいと、体もよく動きます。
これを心に当てはめると、動きたい状態は心があったかくて、あまり動きたくない状態が心が凍える状態といえますよね。
こんな風に変換するのは、具体と抽象を自由に行き来できる左脳を使っているからです。
右脳は見たものそのままを感じるので、これができません。
だから、右脳優位だと比喩が理解できないんでしょう。

脳の左右軸と進化軸。
この二つの情報処理で見ると、今のAIと人間の脳の違いがよく分かってきます。

はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、意識の仮想世界仮説に関しては、よかったらこちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!