ロボマインド・プロジェクト、第576弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
アメリカでは、進化論でなく創造説を信じる人が40%もいるそうです。
日本人では、そんな人はほとんどいないですけど、でも、フロイト心理学を信じている人は結構いますよね。
そういうと、「えっ」っていう人いますけど、フロイトもかなり怪しいです。
フロイトは無意識を発見したと言われています。
無意識は、よく、氷山でたとえられます。
意識は水面に出ている3%ぐらいで、残り97%は無意識だとか。
まぁ、そこに反論はないんですけど、フロイトのいう無意識って抑圧された欲望とか記憶です。
たとえば、ある女性が、黒い帽子をかぶった男性に異常な恐怖を感じたとします。
精神分析すると、幼少期に黒い帽子をかぶったおじさんに虐待された記憶がでてきて、その記憶が抑圧されていたとかです。
これが無意識の抑圧です。
まぁ、そういうこともあるかもしれません。
でも、それは無意識でも、浅いとこです。
せいぜい、10%ぐらいでしょう。
無意識のほとんどの処理というのは、記憶とか感情とかより、もっと根源的なものです。
それは、ものがあるとか、世界が見えるとかって、世界そのものの認識です。
目の前の机を見て、机があると思えること、それだけのことに、脳はものすごい計算をしているんですよ。
これが今回のテーマです。
浅はかなフロイトの無意識
それでは、始めましょう!
今、読んでいるのがオリヴァーサックスの『幻覚の脳科学』です。
後頭葉の一次視覚野が損傷すると視界の一部が見えなくなる半盲になることがあります。
すると、見えない視野に幻覚が出現することがあります。
片頭痛でみえる幻覚は、2,30分で消えて、見えるパターンも決まっています。
たいてい、こんな感じのギザギザの抽象的な図形です。
ところが、半盲で見える幻覚は何週間もずっと続くことがあります。
20代のエレンは右後頭葉の手術をして、左半分の視界が見えなくなりました。
手術から半年後、左の視界に巨大な花が現れて、一週間消えなかったそうです。
その次は、見えない視界に人の顔が現れるようになりました。
その次は、なぜか、セサミストリートのカエルのカーミットの幻覚が現れるようになったそうです。
カーミットは表情があって、悲しそうな顔のときもあれば、楽しそうなときもあるし、怒っているときもあるそうです。
カーミットの感情は、エレンのその時の感情と全く関係なかったそうです。
「なんでカーミットなんでしょう?」とエレンは不思議そうに言います。
なぜなら、カーミットに、何の思い入れもないからです。
まずは、これについて考えてみます。
視覚処理は、後頭葉のV1からV2、V3と順に処理されます。
V1が最も低レベルで、線の傾きなどを解析します。
そこから段階的に色や形を分析して何か判断します。
そうやってオブジェクトを生成して、最終的に脳内に仮想世界を作り出します。
視覚処理は、低レベルから高レベルに進むボトムアップの処理だけじゃなくて、高レベルから低レベルに向かうトップダウンもあります。
トップダウンの処理は、次々に生成されるオブジェクトを抑制して、適切な仮想世界を作ります。
つまり、仮想世界は、ボトムアップの処理とトップダウンの処理のバランスで成り立っているわけです。
さて、今、エレンはV1野が損傷して視覚入力がほとんどありません。
そうすると、低次の処理は、ニューロンのノイズなどを拾って無理やりオブジェクトを作ろうとします。
本来は、トップダウンの処理がそれを抑制するんですけど、その機能が低下したとします。
すると、どうなるでしょう?
ランダムに、いろんなものが見えますよね。
だから、ある時は花が見えて、あるときは顔がみえて、ある時はカーミットが見えたんでしょう。
低次の処理がつくるオブジェクトに意味なんかありません。
心のシステムは、無意識が作る仮想世界と、それを認識する意識からなります。
意識が世界を作るわけじゃありません。
だから、エレンがカーミットのことをどう思っているかなんか関係ないわけです。
意識は、無意識が作った仮想世界を見るだけです。
これが意識と世界の関係です。
さて、次は、50代の女性、マーリーンの話です。
マーリーンは、ある朝、目覚めたとき視覚に異常を感じました。
右側に見えるものが奇妙にゆがんでみえたり、突然、右側から車が出現したりしたそうです。
調べてみると右側の視界を全て失っていました。
CTを撮ると、左後頭葉に大出血があったそうです。
数週間でかなり治ったそうですけど、視覚障害が残りました。
どういう障害かというと、物は見えるけど、意味を読み取れないと言います。
目の前にソファが光景として見えるけど、それが何をするものか分からないと言います。
時計を見ても、すぐには時間がわからないそうです。
どうも、意味を処理する機能が低下したようです。
このことから、仮想世界に生成されるオブジェクトは、形を作った後、意味が追加されることがわかります。
マーリーンは左脳を損傷しました。
左脳には言語野がありますから、意味を司る機能が損傷したと考えられます。
ここで重要なのは、世界をどのように認識するかってことです。
目の前にあるものを見たら、自然と何かわかりますよね。
でも、それは当たり前じゃないんですよ。
「何か」わかるっていうのは、オブジェクトの意味を読み取っているからです。
オブジェクトに意味が設定されていないと、光景としては見えるけど、それが何かわからないんです。
無意識は、形を作ったあと、それに意味を持たせます。
そうやって作られた仮想世界を見てるから、みて、それが何かわかるわけです。
無意識が裏で行っている膨大な処理がどういうものかわかってきましたよね。
これが、氷山の下で行われている処理です。
幻覚は、意識が見る仮想世界に作られるので、実際に存在するものと見分けがつきません。
でも、存在するはずがないものが見えたり、色や形がおかしかったりするので幻覚とわかります。
幻覚と現実の区別がつかなくなったら精神疾患です。
ここが、精神が正常か異常かの境目です。
ところが、中には、精神は正常なのに、現実と見分けがつかない幻覚を見る人がいます。
86歳のゴードンは、右後頭葉に小さな脳卒中を起こして、左側の視界を失ってしまいました。
でも、精神は正常で、知力もほとんど衰えていません。
そして、左側の見えない視界に、脳が世界を補うようになったと言います。
どういうことかというと、たとえば田舎道を歩いていると、左の視界に茂みや木立が見えるそうです。
遠くには建物も見えます。
ところが、向きを変えて、右の視界で見てみると、それらが消えるんです。
左の視界に見えていたのは、全て幻覚だったんです。
厄介なのは、幻覚がどれもまともだということです。
いかにも、その場にありそうなものを作り出すんです。
こうなると、現実と幻覚の見分けがつかなくなります。
ただ、右の視界で見たとき消えるから、幻覚とわかります。
それじゃぁ、全盲でこれが起こることはあるんでしょうか?
あります。
それを、アントン症候群といいます。
左右両側の後頭葉に影響する脳卒中が起こると完全に失明してしまいます。
患者は完全に正気で精神に異常は見られません。
他の点では何の問題もないのに、「目が見えている」と主張します。
これがアントン症候群です。
見えていると言うだけじゃなくて、本当に見えているかのようにふるまいます。
だから、部屋の中を普通に歩いて移動します。
そうすると、当然、家具とかにぶつかりますよね。
そうしたら、「家具が動かされた」とか、「部屋の明かりが暗いからだ」って言い張ります。
自信たっぷりに、よどみなく説明します。
完全に自分が正しいと思い込んでいます。
さて、これはどう解釈したらいいんでしょう。
アントン症候群の人は、目が見えていると確信しています。
仮想世界を作るのは無意識です。
無意識は段階的に仮想世界を作ります。
最初に形を作り上げて、次にそれに意味を設定します。
そして、どうやら最後に、その世界が正しいという信念とか確信を設定するようです。
家具にぶつかって、「家具が動かされた」とか「明かりが暗い」というのは一種の作話です。
作話というのは、ありもしない話を作り上げることです。
たとえば、コルサコフ症候群になると作話が出てきます。
コルサコフ症候群というのは、新しい記憶を覚えられない一種の記憶障害です。
たとえば「今日は何をしていましたか?」と医師に聞かれて「妹が来て、車で温泉に行ってきた」と答えたりします。
ところが、その人は入院中で一歩も外出していません。
本人は、嘘をついてる自覚はなくて、本当に温泉に行ったと思っています。
なぜ、こんなことが起こるんでしょう?
意識が、今日の出来事を思い出そうとしたとします。
すると、無意識が記憶を探すんですけど、あるはずの記憶がありません。
そこで、無意識はいかにもありそうな記憶を作り出して、意識に渡すんです。
意識は、それが本物の記憶か、無意識が勝手に作り出した記憶か区別がつきません。
だから、実際にあったかのように「今日は温泉に行ってきた」といいます。
今日の出来事といった記憶は、エピソード記憶です。
出来事というのは、こうしてこうなったというストーリーです。
仮想世界の中で、そのストーリーを再現して、意識は、それを認識します。
これが「思い出す」です。
仮想世界を作るのは無意識です。
無意識は、通常は記憶から作るのに、記憶がないから仕方なく、いかにもありそうな記憶を作り出したんでしょう。
アントン症候群も同じです。
無意識は、視覚情報から仮想世界を作りますけど、全盲で視覚情報がないわけです。
でも、意識が見たいと思っています。
そこで、無意識は、仕方なく意識が見ると思われる世界を作り出したんでしょう。
右脳を損傷したゴードンは、左の視界が見えなくなって、そこにいかにもありそうな光景を見ましたよね。
どうやら、それを作り出しているのは生き残った左脳のようです。
それも、左脳の高次の処理です。
高次の機能が低下すると、低次からランダムに生み出されるオブジェクトを抑制できなくて、わけのわからない幻覚となります。
逆に、高次の機能が活性化すると、いかにもありそうな世界を作り出して意識にそれを見せます。
ここで注目したいのは、「いかにもありそうな」ってとこです。
それを作り出してるのが左脳ですよね。
理屈とかストーリーを作る左脳が「いかにもありそうな」世界を作り出すわけです。
じゃぁ、右脳は何を作るかというと、右脳は見たままの世界を作ります。
視覚情報から世界を作り出すとき、左脳が作り出したいかにもありそうなストーリーを、右脳が作り出した見たままの世界でチェックするわけです。
だから、右脳の見たままの世界のチェックがなくなると、いかにもありそうな世界が作られます。
それがアントン症候群です。
そう考えると、人の意識が感じる世界というのは、様々なバランスの上で作られているということがわかりますよね。
まず、低次の視覚処理は考えられるあらゆるオブジェクトを次々に生成します。
それを、意味から考えてあり得るものだけ残す高次の処理があるわけです。
ここで一つのバランスがとられています。
こうやって作られた世界に、左脳はいかにもありそうなストーリーを与えます。
これも、右脳で実際に見える世界でチェックして、矛盾のないストーリーだけ残ります。
ここでもバランスがとられているわけです。
そうやって作られた世界を認識するのが意識です。
だから、意識が認識する世界は、疑いのない真実の世界と感じられるわけです。
ただ、右脳は、見た目のチェックしかしませんので、見た目以外のストーリーは真実かどうかわかりません。
だから、間違ったストーリーを信じてしまうことがあります。
たとえば、クラスで、誰かに無視されたとします。
それで、左脳が、自分はクラスのみんなに嫌われているとかってストーリーを作ったとしましょ。
でも、実際は、ただ、声が聞こえなくて、無視されたと感じただけかもしれません。
いかにもありそうな出来事ですけど、これも、この心のシステムで再現できますよね。
それから、あまりにも恐ろしい出来事は、無意識がその記憶にアクセスできないようにするかもしれません。
これが、フロイトの無意識の抑圧です。
そして、これが起こっているのは、世界認識システムの一番上です。
そう考えたら、フロイトの考えてた無意識って、かなり浅いとこしか見てないってわかりますよね。
フロイトは、意識は世界をどのように認識するかとか、記憶がどのように作られるのかといったことを全く考えていません。
でも、じつは、そこが無意識が行う最も重要な処理です。
世界認識システムは、哺乳類が生まれて2億年の大脳の進化で獲得したものです。
その一方、フロイトは超自我を重要視します。
超自我って、道徳とか社会的規範です。
そんなの、近代が始まったせいぜい500年ぐらいの歴史しかありません。
それから、今回の話、生成AIのハルシネーションにもつながります。
ハルシネーションとは、AIがいかにもありそうな嘘をつくという問題です。
いかにもありそうな話を作るって作話ですよね。
AIは、統計的に出現率が高い単語を選んで文章を生成するので、いかにもありそうな文章が作られます。
ただ、それが正しいかどうかはわかりません。
だからハルシネーションが起こるんです。
人の場合、左脳が作り出したストーリーを、見たままの現実世界を認識する右脳がチェックすることで、幻覚が起こらないようになっています。
ここに、AIのハルシネーションを抑制するヒントがあると思うんですよ。
つまり、別のロジックでも文章を生成して、相互にチェックするとかです。
無意識が作る仮想世界は、2種類の世界のバランスの上で成り立つ高度で複雑なシステムです。
心理学も、そろそろ脳科学に基づいて、無意識について考え直したほうがいいんじゃないでしょうか。
はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第576回 浅はかなフロイトの無意識
