第577回 ターボババアを脳科学で解明


ロボマインド・プロジェクト、第577弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

小学校の時、友達から聞いた怪談なんですけどね。
なんでも、ある村でお祭りがあったらしいんですよ。
祭りが終わって、後片付けして、帰る支度をし始めたときです。
あるおばあさんが、突然、ものすごい速さで後片付けし始めたそうです。
そして、そのままものすごい速歩きで家に帰ったそうなんですよ。
みんな、びっくりして、おばあさんを呼び止めて追いかけたそうですけど、おばあさんは気付かずにスタスタ帰っていったそうです。
家に着いたところで、おばあさんが普通に戻って、「おや、みんな、どうしたんじゃい」ってなったそうです。
今起こったことを話しても、「いつも通り、普通に帰ってきただけじゃ」としか言わなかったそうです。
その神社は稲荷神社だったらしくて、狐が憑いたんじゃないかってみんな言っていたそうです。

神戸には、よく似た都市伝説があります。
六甲山に出没する走るおばあさんです。
車で走っていたら、ものすごい勢いで走ってくるおばあさんがいたとか、車を追い抜いたとかって話です。

最近だと、この話、アニメ、ダンダダンでターボババアとして取り上げられています。

まぁ、怪談とか都市伝説で、実在するわけじゃないです。
と、思っていたんですけど、そうでもないみたいなんですよ。
いや、さすがに、車を追い抜くっていうのは盛りすぎですけど、突然、高速で動き始めるって話があるんですよ。
それは、今読んでるオリヴァー・サックスの『幻覚の脳科学』に出てきます。

実は、ターボババアは、脳科学で証明できるんです。
これが、今回のテーマです。
ターボババアを脳科学で解明
それでは、始めましょう!

その話は癲癇で出てきました。
癲癇は、脳の異常放電で起こる発作で、全身が痙攣して意識を失います。
癲癇は突然起こる人もいますけど、前兆を感じる人もいます。
第574回で歌手のセルマの例を取り上げました。
セルマは、癲癇の発作の前兆を感じると、突然、さらわれたような感覚になるそうです。
さらわれるというのは、自分の意識が、どこか、遠くの場所にいるような感覚のことです。
今、自分は部屋にいるとわかっています。
でも、同時に別の場所に意識があるとも感じるそうです。

そして、現実世界にいる自分は、何かをしなくてはいけないという、せかされた気になるそうです。
そんなときは、たいてい、掃除をするそうです。
ほうきで床を掃いたり、雑巾で机を拭いたり、お皿を洗ったりです。
その間、時間がものすごくゆっくり流れると感じるそうです。
ただ、その光景を見た妹がいうのは、お姉ちゃんが、突然、猛烈に掃除をし始めたっていうんです。
ものすごい速さで床を掃いたと思えば、高速で机を拭いて、高速でお皿を洗うそうです。
その感覚が、だいたい20分から30分ぐらい続いて、長いと1日続くそうです。
その間、自分の意識は、遠くにあるそうです。
遠くから世界を見下ろしているというか、鍵穴からこの世界をのぞいているような感覚だそうです。
それと同時に、何かが匂う予感がするそうです。
匂いそうで、なにも匂いません。
そして、これ以上、あり得ないほど遠く離れた気がしたとき、突然、匂いを感じます。
そして、その時には、意識は現実世界に戻っています。
現実世界の体に意識がはいって、匂いを嗅いでいます。
それは、甘ったるくて、安い香水の匂いだそうです。
匂いは数秒で消えて、そのあと、静寂が訪れます。
そして、右側から、「セルマ、セルマ」って自分を呼ぶ声が聞こえるそうです。
それは、頭の中の声じゃなくて、はっきりと耳で聞こえるそうです。
男でも女でもない、聞き覚えのない声です。
ただ、一つだけわかっていることがあります。
それは、その声の方を向くと、発作が起こるということです。
わかっているから、声の方を向かないように努力するんですけど、抗うことができません。
最後に、そちらを向くと、彼女は意識を失って、痙攣をおこして倒れるそうです。

これがセルマの癲癇です。
注目したのは、高速で掃除するところです。
たぶん、狐が憑いたおばあさんも、この状態にあったと思います。

それから、時間がものすごくゆっくり流れるのを感じるとも言っていましたよね。
おそらく、世界がゆっくり動いているように感じたんでしょう。
実際に世界がゆっくりになってるわけじゃなくて、セルマの中の時間が速くなったんでしょう。
脳の中には一定のテンポを刻むメトロノームがあって、それが速く動くようになったんです。
だから、世界がスローモーションに感じられたんです。
でも、本人は、脳内のテンポでいつものように動くので、セルマはものすごく速く掃除をしたんでしょう。

よく、交通事故にあったとき、スローモーションに感じたとかって話を聞きますよね。
たとえばトンネルにぶつかるとき、トンネルの壁がゆっくり近づいてくるのを感じたとか。
おそらく、危機的状況に陥ったとき、脳内メトロノームが速くなるんです。

それから、僕がもう一つ注目するのは、この時、セルマの意識は体から遠く離れていたという点です。
意識というのは、脳で動く一種のプログラムです。
考えたり、行動を決定したりするプログラムが意識です。
意識は、通常、目や耳などの五感を通じて現実世界の情報を取得します。
自分という意識プログラムが、現実世界とつながるインターフェイスが体です。

セルマは、その自分が遠く離れていたと感じたということは、その時、意識プログラムは五感から切り離されていたんでしょう。
それで、五感からの感覚情報がだんだん弱くなっていったんでしょう。
だから、セルマは、意識が体から遠くに離れていく感じがしたんです。
世界を鍵穴から覗いている感じです。
それから、匂いを感じそうで感じないとも言っていましたよね。
これも、意識プログラムが嗅覚から切り離されていたから起こったんでしょう。

そのあと、実際に匂いを感じますけど、その匂いというのも、現実世界にある匂いじゃないです。
一種の幻覚です。
この本には、匂いの幻覚を感じる人の話もいくつか出てきます。
脳は、五感からの入力に基づいて感覚オブジェクトを作り出して、意識はそれを感じます。
感覚オブジェクトを作るのは無意識です。
無意識が、五感と関係なく作ったものが幻覚です。
セルマの場合、脳内で匂いのオブジェクトが作られたんでしょう。
それが匂いの幻覚です。
このとき作られたオブジェクトは不完全だったようで、セルマは、匂いの予感を感じるだけで、匂い自体は感じませんでした。

僕は、心のプログラムを作ろうとしているので、今の話、非常に興味深いです。
どこが興味深いかというと、ここから、感覚オブジェクトのデータ構造が見えてくるんですよ。
どうも、感覚オブジェクトって、種類と値というデータ構造をしているみたいなんですよ。
この場合、種類は匂いです。

コンピュータで扱うなら、たとえば、1は視覚、2は聴覚、3は嗅覚、4は味覚、5は触覚とかって五感に対応して五種類ありそうです。
そして、それぞれの種類に応じた値も持ちます。
今の場合、種類が嗅覚で、値が0です。
そんな感覚オブジェクトが意識に入力されたわけです。
それを言葉にすると、匂いはしないけど、匂いの予感だけするとなるわけです。

ところで、五感というのは、現実世界にあるものを直接感じるものですよね。
リアルというか、具体的です。
ただ、意識は五感で感じる具体的なものだけじゃなくて、抽象的な概念も扱いますよね。
たとえば数とかです。
じゃぁ、抽象的な概念の幻覚はないんでしょうか?

この本には、非常に珍しいですけど、数の幻覚に悩まされる話がでてきます。
数の幻覚といっても、数字が見えるとかじゃないですよ。
それなら、普通の幻覚です。
そうじゃなくて、概念としての数の幻覚です。
その人は、譫妄で数の幻覚を感じるそうです。
譫妄というのは、高熱などで意識が混乱して、時間や場所がわからなくなったりすることで、時には幻覚を見たりします。
その人は、高熱がでたとき、数の幻覚を感じるそうです。
ものすごく大きくて、どんどん増えていく数を感じるそうです。
何かの数だそうですけど、それが何かはわからないそうです。
数だけがどんどん増えていく感覚を感じるそうです。
幾何級数的にどんどん増えていって、いつか、あり得ない数になるんじゃないかって恐怖を感じるそうです。
世界の基本的な原則、絶対に破られてはならない前提を破るんじゃないかという根源的な不安を感じるそうです。

よくわからないですけど、抽象的な概念の幻覚もあり得るわけです。
これも、さっきの感覚オブジェクトから考えたらわかります。
感覚オブジェクトは種類と値からできていましたよね。
セルマが感じたのは、種類は匂いとわかったけど、値が入っていなかったパターンでした。
今回は、種類がわからないけど、値が入っているパターンです。
そして、値だけが高速で増加する幻覚をみたわけです。

ここで、具体と抽象の違いについて整理しておきます。
この世界は、いろんなものでできたいます。
そのものを直接感じ取るのが五感です。
そして、感じ取ったものから作られたものが具体的なものです。
たとえば、目の前にリンゴが3個あったとします。
目に見える一つ一つのリンゴが具体的なリンゴです。
3個あるとおもったとき、3個は、目に見えるものじゃなくて、情報処理して抽出した概念です。
こういう、直接感じ取ることができないものが抽象的な概念です。
その意味では時間も抽象概念です。
時間は、五感で感じられませんよね。
時間は、流れる経過を感じるものです。
じゃぁ、流れる経過はどうやって感じるでしょう。
それは、脳内のメトロノームです。
つまり、時間というのは脳内メトロノームが刻むテンポの中にあるわけです。
そして、抽象概念も幻覚が起こり得ます。
それが、脳内メトロノームの速度が速くなるとかです。
世界が、スローモーションに感じるというのは、一種の時間の幻覚といえます。

さて、セルマは意識が自分の体から離れるのを感じたと言っていましたよね。
実は、僕も同じようなことを経験したことがあるんですよ。
それは赤ちゃんの時です。
ただ、赤ちゃんのときの記憶が直接あるわけじゃないです。
幼稚園の時、赤ちゃんのときの記憶を思いだしたという記憶です。
夜寝るとき、ふと、思い出したんです。
そういえば、最近、あの感覚がないよなぁって。

それは、寝てるとき、体から抜け出して、ふわふわ飛び回っている感覚です。
飛び回るのは、現実世界じゃなくて、ただただ明るくて、キラキラした抽象的な空間でしたす。
ただ、自分の肉体がどこにあるかはわかっています。
いつも、あそこに帰らないといけないと思って帰っていました。

あるとき、なんで、あの体なんだろうって思った記憶もあります。
今回は、あの体と決められてるからあの体に戻らないといけないと仕方なく思いました。
今回というのは、たぶん、今回の人生ということみたいです。
ここ、スピリチュアル的に解釈すると、いろいろ解釈できそうですけど、今は、脳科学的に考えてみます。

赤ちゃんとか、小さい子供の頃は、脳がまだ、この世界になじんでいないんです。
脳っていうのは、生まれ落ちた世界に対応できるように柔軟にできています。
最初にあるのは、基本的な世界を認識する仕組みだけです。
この世界は、三次元だとか、物体があるとかです。

そして、生まれた後、世界とはどういうものか、五感を通じて学ぶわけです。
目で見たものを手で触ったり、口に入れたりして世界を理解します。
世界を理解するとは、認識した物体を脳内にオブジェクトとして作り上げることです。
そうやって作られたオブジェクトで脳内に現実世界を写し取った仮想世界が作られます。
そして、意識は、仮想世界を介して現実世界を理解します。
これが、世界を認識する仕組みです。
生まれる前からあるのは、三次元の仮想世界を作る仕組みと、それを認識する意識プログラムです。

赤ちゃんが現実世界を少しずつ理解していくというのは、脳内でニューロンの結びつきが強化されていくことです。
そうやって、頭の外にある現実世界と、頭の中の仮想世界が一致していきます。
そうして、完全に一致するようになると、意識は、現実に見えるものしか認識できなくなります。
これが、大人になるということです。

ただ、ニューロンの結びつきがそれほど強くなくて、世界が固まっていないときは、現実にないものが見えたりするんでしょう。
それから、ときには、意識が、この体から抜け出たりします。
それが、僕が赤ちゃんのとき、経験した感覚です。
セルマが、癲癇の前兆で感じたのもその感覚です。

人が、生まれつき持っているのは、仮想世界を作る仕組みと、それを認識する意識です。
意識が認識するのが、無意識が作り上げた仮想世界という意味では、極端に言えば、人が見るのはすべて幻覚といえます。
そのうち、五感を通じて作った仮想世界のことを現実世界と呼んでいるだけです。
現実世界が特殊なのは、脳内の仮想世界なのに、他人と共有できることです。
または、他人が見てる幻覚が、自分にも見える特殊な状況とも言えます。


はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、意識の仮想世界仮説に興味があるかたは、よかったらこちらの本を呼んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!