第58回 ミラーテスト 〜意識に必要な2番目の鍵


ロボマインド・プロジェクト、第58弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、ロボマインド・プロジェクトの目的って、人間と同じ心や意識のモデルを創ることです。
もし、その方法が、既に論文とかに書いてたら、それを探すのが一番早いですよね。
でも、そんなのがあったら、とっくに、グーグルが作ってるはずです。
だから、まだ、意識のモデルは、論文とかに書かれてないようです。

本や論文に書いてないとすれば、じゃぁ、どこに書いてあるんでしょう?
そう思って、僕が注目したのが、進化です。
脊椎動物の進化は、魚から始まって、最終的に人間になったわけです。
その過程で獲得したのが、人間の心です。
今、こうして目で見て、認識することができる、この人間の意識です。

魚は、意識を持たない、最も単純な脳です。
魚の脳から、順に、何を獲得してきたか辿って行けば、人間の心のモデルができそうです。
論文には、まだ書かれていない、心の秘密の鍵は、進化の中にありそうです。

世間では、意識とは何かっていう意識の定義すら、まだ、ちゃんと決まってません。
僕がやろうとしてるのは、その一歩先です。
最低限の意識とは何かって定義から始めて、人間の意識になるには、どんな機能が追加されてきたのかってことを解明しようとしてるわけです。
意識を進化させてきた鍵を、一つづつ集めようとしてます。

そして、最終目標は人間の意識です。
人間とサルの一番の違いは言語です。
言葉を理解できる心のモデルを創ることが最終目標です。
魚から始まって、言語を獲得するまで、意識は何を獲得したか。
その順に、心のモデルを組み立てようとしています。

この手法が、ロボマインド・プロジェクトと他のAI研究との一番の違いです。
たとえばグーグルは、大量の文書を機械学習させて、言葉を理解させようとしています。

たしかに、機械学習は、AIにとって、一つの重要な要素だとは思います。
でも、機械学習が威力を発揮するのは、モデルが確立した後です。
人間の顔は目、鼻、口からなるってモデルが確立した後、大量のデータを学習すれば顔認識できるわけです。
心のモデルが、まだ確立されてないのに、大量の文書データを学習させても、心が生まれるとは思えません。

さて、前回は、最も単純な意識のモデルについて説明しました。
ハ虫類は意識がないタイプです。(ホワイトボード)
現実世界を直接、認識して行動するだけです。

哺乳類になると、単純な意識を獲得しました。
それは、現実世界を頭の中に仮想的に構築し、それを認識するというモデルです。
(ホワイトボード)
頭の中に創って、意識が認識するものをクオリアと呼びます。
クオリアが、意識の第一の鍵といえます。

この意識モデルによって獲得したのが、自由意志です。
意識のプログラムは、同じものを認識しても、行動を変更できるようになりました。
考えて、行動を選択する。
これが自由意志です。
これは、生物にとって大きな一歩となります。

たとえば、犬は、エサを見ると、最初は、すぐに食べます。
でも、しつけると、「マテ」と言われると待てるようになります。
「ヨシ」と言われて、初めて食べるようになります。

エサを認識した後の行動を変更できたわけです。
エサを認識したとき、どう行動すべきか考えてから行動できるわけです。
これは、カエルの脳ではできないことです。
第一の鍵、クオリアを手に入れてたことで、実現できました。

今回は、この続きです。
第二の鍵です。

それを手に入れることによって、どれだけ変わったか。
たとえていえば、アタックとアタックネオぐらいの違いはあると思います。
約3倍の洗浄力です。

いやいや、そんなもんじゃないなぁ。
まぁ、ここまで言うと、言い過ぎかもしれませんけど、
アタックとウルトラアタックネオぐらいの違いがあるかもしれませんねぇ。

えっ、もういい?
あっ、たとえは、どうでもいい?
あぁ、そうですか。
それじゃぁ、中身の話、しますね。

頭の中に仮想世界を創ることで、世界を認識することができました。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」を見てください。

世界を認識するっていうのは、今、こうして普通に見ているってことです。
こうして物が見えてるって感じるのは、意識があるからです。
こうやって、世界が、「ただある」って感じられること。
これが意識の特徴です。

意識を持たないハ虫類だと、世界が「ある」って感じるんじゃなくて、
現在の状況に対して、「反応」するか、しないか、しかないわけです。
行動でしか、世界と関われないわけです。
カエルは、認識と行動が直接結びついていました。

それが、意識をもつことで、大きく変わりました。
行動する前に、世界そのものを、認識することができるようになりました。

でも、世界は、常に変化しています。
世界そのものを認識するには、変化する世界を一時的に留めておく必要があります。
そのために、世界そのものを頭の中に作り上げたわけです。

さて、こっからです。
世界は、「ただ、ある」わけです。
目の前に、「壁がある」とか、「机がある」とか、ただ、あると世界を認識するわけです。
目で見て認識するわけです。

あるのは物だけじゃないです。
人もいます。
友達とか、家族とかも、見て、認識できます。

目に見えるものは全て認識できます。
ところが、世界の中にいるのに、認識できないものがあります。
一人だけ、認識できない特別な人がいます。
それは、誰でしょう?

それは、他でもない、自分です。
なんせ、世界を見ているのは自分ですから、自分は見えないわけです。
どんだけ見渡しても、自分は見えないわけです。

頭の中の仮想世界って、目で見た世界を仮想的に創るわけです。
だから、目で見えないかぎり、自分は世界に登場しないわけです。

言ってみれば、自分は、世界の中の特異点と言えます。

でも、自分も、世界に存在しますよね。
目の前にいる人と同じように、世界に存在する一人と言えます。
自分のことを、そう言う風に認識できるか、これは大きな一歩です。

科学史でいえば、天動説と地動説のようなものです。
全ての星は、地球を中心に回ってるって考えが天動説です。
地球の周りを太陽も金星も木星も回っているって考えです。
自分が中心って考えです。
自分は特別ってことです。

でも、本当はそうじゃありません。
木星も、金星も、地球も、太陽の周りをまわってるんです。

天動説から地動説への転換を、コペルニクス的転換って言います。
物事の見方が180°変わってしまうことです。
それほど、根本的に考えが変わるってことです。

自分も、この世界の中の一人だってこと。
これに気づけるかどうか。
これは大きな進歩ですよね。

もちろん、僕たち人間は、そんなこと、当たり前にわかっています。
では、他の動物は、それが分かっているでしょうか?
どうやったら、それを確かめられるでしょうか?

それを確かめる、簡単なテストがあります。
それを、ミラーテストって言います。

ミラーテストっていうのは、鏡に映る自分が、自分だって認識できるかどうかってテストです。
鏡に映った自分に対して、あっちに行けって威嚇したりしたら、自分と認識してないってことですよね。
それじゃぁ、鏡に映った自分が、自分と認識できたって、どうやって判断すればいいんでしょう?

それは、たとえば、おでことかに、白いペンキをつけたりするんです。
ほんで、鏡をみて、自分のおでこのペンキを取ろうとする行動を取れば、その動物は、鏡に映ってるのが自分だとわかっていると言えるわけです。

さて、このミラーテスト、どんな動物が成功したでしょう?
想像通り、このテストは結構、難しいです。

チンパンジーでも、全員が必ず成功するわけではないようです。
チンパンジーの中でも、最も知能が高いと言われるボノボって種は成功したようです。
それから、バンドウイルカも成功したようです。

ほぼ、間違いなく成功するのは、このぐらいのようです。
ミラーテストに合格するということは、自分も、今見てる世界の中に存在することを理解しているっていうことです。
目の前の相手と同じように、自分も世界に存在すると理解してるということです。
つまり、客観的に自分を認識できるってことです。

自分を客観的に認識できる仕組み。
これが、意識の2番目の鍵です。
進化の過程で、自分を客観的に見るって鍵を手に入れました。

次回は、客観的な視点が持てると、何ができるようになるのか。
この点について、考えていきたいと思います。

それでは、次回も、お楽しみに!