第59回 人工意識で、主観と客観を作り出す方法


ロボマインド・プロジェクト、第59弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、進化の過程で、意識も、少しずつ進歩してきました。
最初に手に入れた意識の鍵はクオリアです。
2番目に手に入れた鍵が、客観的に自分を見るということでした。
今回は、ここからですが、その前に、クオリアの説明をさせてください。
クオリアについて納得できる説明が見つかったんです。

今までも、第30回~34回「クオリアってなんだ?」シリーズで、クオリアについて説明してきたんですけど、根本が伝わってなかったので、根本の話です。

クオリアの根本って、ハードプロブレムです。
ハードプロブレムって、脳細胞の全ての物理的状態が完全に解明できたとしても、意識は見えてこないって問題です。
そして、意識が認識するのがクオリアです。

赤い感じとか、主観的に感じる赤さがクオリアとか言います。
この説明、なんか、よくわからないですよねぇ。
波長、何nmの光が赤だって言いうのと、主観的に感じる赤とは違うってことはわかるんですけど、イマイチ、ピンと来ないですよねぇ。
そこで、今回は、全然違うたとえで説明します。

数式を書きますね。
2+3=(ホワイトボードに書く)

これを文字認識するとします。
まず、カメラで撮影します。
つぎに、文字をばらして、一つ一つの文字を何10×何10のマス目に分けます。
ほんで、そのパターンから文字を判定します。
これは2だ、これはプラスだ、これは3だって判定するわけです。
ここまではいいですよね。

さて、この意味について、考えていきます。
カメラで撮った画像。
または、網膜に映った画像。
これは、何万、何十万個の点々の画像データです。
ここが、物理世界です。
周波数とか波長とかの世界です。

次は、文字認識です。
2とか3とかって数字に変換して、「2+3=」って数式となります。
数式ってわかれば、計算すれば答えはすぐにわかります。
次に来るのは「5」ですよね。
これは、数学の世界です。

物理世界と、数学世界。
数学の世界は、数字を足したり、引いたりする世界です。
それは、人間の頭の中にある世界です。
意識が扱う世界です。
カメラや網膜の画像を、いくら周波数解析をしたとしても数字は出てきません。
物理世界でいくら操作しても、数学世界にはたどり着けないわけです。
つまり、意識のハードプロブレムと同じというわけです。

数式の写真の画像データと、その数式の中身。
この関係が、意識のハードプロブレムと考えればスッキリしますよね。

さて、こっからです。
数学世界の数字2とか3。
これがクオリアにあたるわけです。

なぜかというと、数字を足したり引いたり、操作するのは意識です。
意識が認識するのがクオリアです。
だから、数字がクオリアになるわけです。

意識が認識するのは、もちろん、数字だけじゃありません。
ホワイトボードも、ペンも認識します。
意識が認識したものがクオリアとなるわけです。

数字は数学世界で操作できて、足したり、引いたりできます。
ペンは、3次元世界で操作できて、直線移動したり、回転したりできるわけです。
クオリアは、それが属する世界で操作できるというわけです。
クオリアに変換された瞬間、現実の物理世界とは違う世界で扱われるわけです。
数学世界だったり、3次元世界だったりするわけです。

僕らは、目の前にあるものを当たり前にみてると思っていますが、それは、ただ単に、見えてるだけじゃないんです。
脳の中でクオリアに変換して認識してるんです。

クオリアの重要性は、クオリアを使わない場合を考えれば、すぐにわかります。
たとえば、数学世界です。
「2+3=」を、画像データの物理世界だけで処理するとしましょう。
大量の数式画像を解析すれば、「2+3=」の後に出現するのは「5」の可能性が高いってことが分かるかもしれません。

たとえ「5」が正解だとしても、それは、足し算というものを理解していません。
数学を理解してないと言えます。
このやり方は、おかしいって、分かりますよね。

でも、いまのAI、機械学習がやってることって、これと同じなんです。
大量の文書をデータ解析して、ある単語の次に出現する単語の出現確率を計算してるだけなんです。
言葉の意味なんか、全く、考えてないわけです。

数学世界の中には、足し算とか引き算って意味があるみたいに、言葉の世界にも、言葉の意味があって、それを正しく操作して答えを出さないと意味ないんです。
言葉の意味を理解させるには、AIに意識を持たさないといけないんです。

さて、ここまでが意識の第一の鍵、クオリアの話です。
次は、意識の第二の鍵、客観の話です。

現実世界を目で見て、世界には、友達がいる、父親がいるとか認識するわけです。
その認識する主体、つまり意識というのは、自分なわけです。
その自分も、じつは、その世界に存在すると認識することが、客観です。
これは、世界の見方を180°変える根本的な変化です。

考えてみれば、これはスゴイ変化ですよ。
数学世界で考えてみてください。
今まで、意識は、「2+3」とかを認識して、足したり引いたりしてたんです。
それが、自分も数学世界の住人だってわかったわけです。
自分は、数字の「5」とかって、わかったわけです。
「えっ?」ってなりますよね。

俺、「5」やん。
俺を足せば、ちょうど10になるやんとかって。

これが、現実の3次元世界で起こると、どんなことができるでしょう?
犬を例に説明します。

(ホワイトボード)
川があって、川岸に犬がいます。
反対側に、美味しそうなお肉があります。
犬は、肉を食べたいんですが、川があるから食べれないので、ワンワン吠えます。

でも、よく見ると、少し離れたところに、橋が架かってます。
橋を渡って、向こう岸に行けば、お肉を食べることができます。
犬は、橋があることは気づいてるはずなのに、橋を渡ろうとせず、目の前の肉に向かってワンワン吠えるだけなのです。

犬を飼ってると、これに近い状況はよく目にします。
犬にもよりますいけど、橋を渡って肉を食べることができる犬もいれば、いつまで経っても、ワンワン吠えるだけの犬もいます。

橋を渡れる子と、渡れない子の違いは、どこにあるのでしょう?

犬は、食べ物を見つけると、それに近づこうとします。
最短直線距離で移動しようってプログラムがあるわけです。
そこに、川なんかの障害物があると、それ以上食べ物に近づけないので、ワンワン吠えるわけです。

でも、川には橋が架かってあるので、橋を渡ると向こう岸に行けます。
ただし、橋はちょっと離れたところにあるので、少し遠回りになります。

ここで、肉を食べるために橋を渡ると思いつけるのは、頭の中に地図を思い浮かべることができるからです。
地図を思い浮かべれるということは、自分を客観的に見れるってわけです。
世界に自分がいる状況を想像できるわけです。

これは、目で見た光景、つまり、主観的な視点だけでは、絶対に思いつきません。
視点を客観的な視点、つまり、上から自分を見下ろした視点に切り替えないといけません。

この切り替えができるには、3次元世界そのものを頭の中に創って、それを見るカメラの視点を動かす機能がないとできません。
意識システムを大改造しないと無理です。
今までは、カメラは自分の目の位置に固定されてたわけです。
それが、頭がパかって割れて、グイーンって上がって行って、自分の上から俯瞰して世界を見るようになったわけです。
とんでもない大改造です。

自分を上から見るって言っても、自分の頭が上から見えるわけじゃないですよ。
最近、後頭部が薄くなってきたなぁとか、見えるわけじゃないです。

意識が認識するのは、全て、何らかの世界です。
数学世界とか、3次元世界とかです。
意識は、世界も切り替えるわけです。

上から俯瞰してみるのは地図世界です。
意識は、地図を作ろうとして、カメラを切り替えたわけです。
地図世界で重要なのは位置関係です。
頭の禿げ具合とかは、必要ないんです。

意識が見ようとしてるのは、自分や、川、橋、肉の位置関係がわかる地図です。
世界は、その世界が持つ機能があります。
地図世界の持つ機能は、ルート探索機能です。

地図世界を見ることで、橋を渡れば、肉を手に入れることができるってルートを描けるんです。

僕たちは、普通に、あっちの橋を渡ったら、向こう岸の肉が手に入るって考えれますけど、これって、普通じゃないんです。
これを思いつけるって、すごいことなんですよ。

意識の研究をしてて、良く思うのが、この当たり前に気づくことの重要性なんです。
意識には、現代科学ではまだ解明されてない大きな謎があって、それを解き明かさないといけないって思ってる人は多いです。

でも、僕は、反対だと思うんです。
大きな謎を解こうとするんじゃなくて、当たり前のことに気づくことの方が重要じゃないかって。

橋を渡れば、肉を食べれるんじゃないかとか。
これに気づくことって、じつは、スゴイことなんだとか。
壁がある、机があるって見えるってことって、じつはスゴイことなんだとか。

人間だから当たり前にやってるだけで、猿や犬、カエルにとっては当たり前じゃないってこと。
ここに、気づいていくことが、意識の謎を解明する鍵だと思います。

その鍵を一つずつ見つけようとしているのがロボマインド・プロジェクトです。
よかったら、ロボマインド・プロジェクトを応援してくれると嬉しいです。

客観的に自分を見ることができるって第二の鍵。
これがもたらした本当の意味は、じつは、全然別のところにあるんです。
次回は、第二の鍵が開けた、新しい扉について解説します。
それでは、次回もお楽しみに!