ロボマインド・プロジェクト、第604弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
僕は意識の仮想世界仮説という心のモデルを提唱しています。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、その仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
この考えは、僕だけでなくて、今読んでる本、『脳はこうして学ぶ』の著者、スタニスラス・ドゥアンヌも同じ考えです。
ドゥアンヌは、「学習するとは、外的世界の内部モデルを形成すること」と言っていて、この内部モデルが、僕の言う仮想世界と同じです。
ここまではいいんですけど、わからないのは脳の中と外がどこでつながるかです。
物理的世界なら、目に見えるので分かりそうです。
でも、脳の中には時間とか数といった概念があります。
概念は目に見えません。
でも、現実世界に確かにありますよね。
現実世界と脳内の世界の関係がよくわからないんです。
これが今回のテーマです。
脳の内と外の世界はどこでつながるのか?
それでは、始めましょう!
今回も、ドゥアンヌの『脳はこうして学ぶ』から取り上げます。
20年前は、脳はまっさらな状態で生まれて、生まれてから、全てを学習してると考えられていた。
だから、生まれたばかりの赤ちゃんは、視覚、聴覚、触覚の感覚も分離していないと考える学者もいました。
赤ちゃんは、最初、見えているのか、聞こえているのか、触っているのか、ぐちゃぐちゃな感覚を感じているわけです。
それを、環境の中で学習することで、これはこれは視覚、これは聴覚、これは触覚と分かれてくるわけです。
でも、もしそれが本当なら、人によって視覚、聴覚、触覚を処理する場所が異なることになりますよね。
でも、実際はみんな、脳の同じ場所で処理しています。
みんな同じということは、学習でなく、遺伝で決まっているということです。
考えたら当たり前です。
動物は四本の足で歩きますけど、これは生まれる前から決まっています。
というか、何億年と、地球という重力のある環境に合わせて進化した結果が足です。
それと同じで、世界は空間であるとか、地面があるとか。
それらは見たり触ったりできて、音もあるって世界観は進化で獲得したんです。
これは、哺乳類の脳です。
青が視覚、緑が聴覚、赤が触覚を処理する場所です。
どの種も視覚、聴覚、触覚を持っていて、種ごとに同じ場所で処理しています。
このことから、脳のどの場所で何を処理するか、生まれる前から決まっていることがわかります。
まぁ、ここまでは分かります。
でも、言語は生まれた後に学習して獲得するものですよね。
それを確認するには、MRIで赤ちゃんの脳を観察する必要があります。
でも、赤ちゃんは、機械の中に入れられると泣いて動くので、うまく撮影できません。
そこで、ドゥアンヌは赤ちゃんが安心して眠ったまま撮影できるfMRIを作りました。
これです。
これで生後二か月の赤ちゃんから脳を観察したそうです。
そしたら、なんと、生後二か月の赤ちゃんでも、言葉を聞くと、大人と同じように処理していたんです。
大人の脳は、まず、雑音と言葉を区別します。
そして、言葉とわかると、まず、一時聴覚野に入って、それから左脳のウエルニッケ野に入って、最後にブローカー野へと進みます。
それが、生まれたばかりの赤ちゃんでも、言葉を聞くと、これと同じ経路をたどって処理していたんです。
これが言葉を聞いた時のfMRI画像です。
生後二か月の赤ちゃんも、成人も同じ個所が活性化しているのがわかりますよね。
つまり、赤ちゃんは言葉を聞くと、意味が分からなくても、語彙、統語、意味を処理する領域を経由していたんです。
意味を理解するのは、その後です。
もちろん、これらの処理は左脳です。
ここまで、生まれる前から決まっているんです。
というか、この世界には、言葉があることを生まれる前から知っているんです。
これらのことから、今のAIの間違いがよくわかります。
ニューラルネットワークでできているのは同じですけど、どこで何を学習するかは決まっていません。
これ、脳科学でいえば、20年前の古い考えです。
そして、AIの学習には膨大なデータが必要です。
ChatGPTのように自然に話せるようになるには、何十億冊もの本を学習する必要があります。
でも、赤ちゃんはそんなことしなくてもしゃべれるようになります。
その違いは、人間の脳は、生まれる前からどこで何を処理するかが決まっているからです。
それを決めているのは遺伝子です。
ただ、ここで一つ疑問が出てきます。
遺伝子の情報量は、せいぜい1ギガバイトです。
一方、脳が扱える情報量は100テラバイトにもなります。
その差は10万倍以上です。
情報量の差があまりにも多すぎるんです。
この差を埋める何かがあるはずなんです。
でも、それがわからないんです。
もう少しわかりやすく説明します。
脳は、生まれる前から、世界は三次元空間だとか、地面があるとか知っているわけです。
見たり、聴いたり、触ったりできることも知っています。
赤ちゃんは、目で見て、動くことで、環境を学習して、うまく歩けるようになります。
環境を学習するとは、外と同じ世界を脳の中に作り上げることです。
この時、遺伝子で知っていることは、世界があるとか、地面があるとかです。
それと、視覚、聴覚、触覚があることも知っています。
ここで問題なのは、これら感覚器から入った外部環境の情報と、生まれる前から知っている世界との差があまりにも大きすぎることです。
視覚や聴覚からの情報を、空間とか地面といった概念に落とし込むには、その間に、何らかの情報整理が必要です。
でも、どんなふうに情報整理していうるのかがよくわからないんです。
これに対して、ドゥアンヌは、それは自己増殖パターンじゃないかと提案します。
自己増殖パターンというのは、たとえば砂漠の波紋とかです。
これなんか、たとえば脳のしわに似ていると思いませんか?
脳のしわは、種によってだいたいは決まっています。
でも、しわの位置とか、全て遺伝子で決まっているわけじゃありません。
つまり、自己増殖パターンで生まれたといえそうなんです。
他の例をもう少し挙げてみます。
これは、火山岩の玄武岩列柱です。
きれいな六角形をしていますよね。
六角形といえばハチの巣です。
これらも自己増殖パターンの例です。
その他、動物の模様も自己増殖パターンです。
チーターやユキヒョウ、キリンの模様は、種ごとに決まっていますよね。
じつは、これらのパターンは数理モデルで記述できるんですよ。
上は実際の動物の柄の写真ですけど、下は、数理モデルをコンピュータでシミュレーションした結果です。
どれも、動物の柄をきれいに再現していますよね。
このパターンのことをチューリングパターンと言います。
チューリングとは、コンピュータを発明した数学者、アラン・チューリングのことです。
チューリングは、晩年、自然界に現れる特有のパターンに興味を持って、それを数理モデルで記述していました。
自己増殖パターンが現れるには、まず、均質で大量の物質が集まっていることが必要です。
さらに、それらが自ら動いたり成長したりする力が必要です。
すると、その時一定のパターンが生まれます。
それによって、六角形のパターンとかが生まれるわけです。
ここまでは分かりますよね。
でも、今、知りたいのは、空間とか地面といった遺伝子が持っている概念と、視覚や触覚からの知覚情報とが、脳のどこで結びつくかです。
ここからが本題です。
脳はニューラルネットワークでできています。
膨大な数のニューロンがつながっていて、それらが自ら学習するので自己増殖パターンの条件は備わっています。
ここでラットを使った興味深い実験を紹介します。
ノルウェーのモーセル夫妻は、ラットを箱の中で自由に走らせながら脳の活動を記録しました。
すると、脳の海馬に隣接する嗅内皮質が発火することがわかりました。
良く調べると、ある特定の場所を通過したとき発火することがわかりました。
その発火場所を記録すると、なんと、脳内に六角形の模様が現れたんです。
つまり、ラットは場所を嗅内皮質に六角形のマップとして記録していたんです。
そして、対応する位置を通過したとき、発火するんです。
これによって、箱内の自分の位置を把握していたんです。
六角形というところが、まさに、自己増殖パターンといえそうですよね。
ここをもう少し読み解いていきます。
この世界には空間と地面があって、自分が地面を動くといった概念を脳は知っています。
それは進化の過程で獲得して、生まれたときから脳にあります。
ただし、実際の世界がどんなのかは生まれたばかりの脳は知りません。
そこに、脳の成長の過程で自己増殖パターンが生まれました。
それが、海馬に隣接する嗅内皮質に発生する六角形の自己増殖パターンです。
脳は、この世界は二次元に広がる地面があることを生まれたときから知っています。
地面という概念を管理するのに、嗅内皮質にできた六角形の二次元マップは最適です。
既にあるものを利用するというのは、生物が進化でよくやることです。
進化には二種類あります
一つは、ある目的を達成するために身体を変化させることです。
たとえば、高い木の葉を食べるためにキリンの首が長くなるとかです。
もう一つは、目的を達成するために、別の目的のためにあるものを利用することです。
有名なのは、パンダの親指です。
パンダは、6本の指があります。
実は、6本目の指は、竹を持つために手首の骨を進化させたものです。
つまり、本来、手首の骨としてあったものを、たまたま、竹を持つのに便利だからということで、それを親指に進化させたわけです。
これと同じです。
自己増殖で嗅内皮質に六角形の二次元パターンが生まれました。
しかも、嗅内皮質は海馬の隣で、海馬は記憶することができます。
たまたまそこにあるものを利用するのが進化です。
地面とか、自分の位置という概念を嗅内皮質にできた六角形の自己増殖パターンを二次元マップとして利用したわけです。
自己増殖パターンは、環境から学習したわけじゃなくて、自然発生的に生まれたものです。
つまり、脳内のニューラルネットワークは外部からのデータがなくても、自分で学習したわけです。
学習というか、学習のための均質なマップを整備したわけです。
学習は、感覚器からのデータで行います。
位置は二次元平面の点として表現できることは生まれたときからある機能です。
その機能が、知覚からの外部データを、脳内の六角形の二次元パターンに結び付けたんです。
脳内の六角形のパターンは、言ってみれば、現実世界を写し取った仮想世界です。
その仮想世界を使って、自分がどこにいるか把握したわけです。
きれいに説明できましたよね。
嗅内皮質の六角形のパターンのことをグリッド細胞と言います。
グリッド細胞を発見したモーセル夫妻は、この発見で2014年にノーベル賞を受賞しています。
自己増殖パターンは数理モデルで再現できるって言いましたよね。
ドゥアンヌは数学者でもあるので、ニューラルネットワークで再現できる数理モデルを作ったそうです。
それは、発達する皮質表面を波のように伝わる数理モデルです。
そして、そのモデルは一種の数直線を生み出したそうです。
つまり、ランダムにつながるニューラルネットワークから自然発生的に直線的な動きが生まれたわけです。
しかも、それは1,2,3と、隣り合うニューロンが順に活性化したそうです。
このパターン、何かわかりますか?
これ、数の概念を表すパターンです。
順序をもって、一ずつ増える数の概念です。
この概念があるから、一個、二個、三個って数えることができるんです。
順番のパターンがあるなら、逆順のパターンも作れそうです。
前回、チンパンジーは逆順が理解できないという話をしました。
ABCDの逆をおぼえさせるのに、何万回も試行しないといけなかったそうです。
でも、4歳の子どもなら、5回の試行でできたそうです。
5回でできるといことは、人間は逆という概念を生まれつきもっていたのでしょう。
逆の概念というか、逆順に進む数理パターンのモデルです。
そのパターンに当てはめるのに5回かかったというわけです。
チンパンジーはそのパターンを持っていないので、何万回も試行というか、丸暗記するまで試したということです。
また、順番の概念は、物事が起こる順序を理解するときにも使えます。
つまり、この概念を使えば、時間という概念も理解できるんです。
きれいに整理できましたよね。
それではまとめます。
まず、脳にはニューラルネットワークが規則正しく並んでいます。
それは、自己増殖パターンを生み出す条件を兼ね備えています。
それとは別に、この世界には三次元空間とか、時間、二次元平面の地面とかがあることは生まれる前から知っています。
そして、生まれた後、発達に伴って脳に自己増殖パターンが生まれ、これが脳内世界の基盤となります。
そして、知覚を介して外の世界が脳内世界に投影されます。
脳内には、世界には二次元平面の地面があるとか、自分は地面のどこかにいると解釈する機能があります。
この機能が、外の世界が投影された脳内世界を解釈して、自分の位置を把握するわけです。
これが、外の世界と脳内の世界が結びつくということです。
世界を理解するとは、位置だけじゃありません。
時間とか、一個、二個といった順番もです。
これで、遺伝子と脳の間の情報量のギャップが埋まりました。
埋めたのは、自己増殖パターンです。
そして、それは数理モデルで完全に説明できます。
それにしても、思うのはチューリング天才ぶりです。
1936年のチューリングマシンの論文で、コンピュータの基本原理を提案しました。
1950年のチューリングテストの論文は、最初に人工知能に言及したものです。
そして、1952年にチューリングパターンの論文を発表しました。
ただし、チューリングパターンは難解な数理モデルだったため、長年生物界から理解されませんでした。
ようやく評価されたのは1990年代にはいってからで、2010年代に入って、発生生物学の標準モデルとして定着しました。
そして、今、人工知能界隈では、汎用人工知能、AGIを、どうやって生み出すのかに注目が集まっています。
そこにも、チューリングが大きく貢献しそうなんです。
計算機の基本原理から、人工知能、汎用人工知能まで、あらゆるところにチューリングの影響が垣間見えます。
ただ、汎用人工知能の鍵がチューリングパターンにあるということに気付いているのは、ドゥアンヌなど、世界でもごくわずかしかいません。
はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!
第604回 脳の内と外の世界はどこでつながるのか?