第606回 ヒトは体毛がなくなったから文字を読めるようになった


ロボマインド・プロジェクト、第606弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

文字を使うのは人間だけですよね。
これは、脳が進化して獲得したことは間違いありません。
進化は、化石から解明しますけど、頭蓋骨の化石でわかるのは脳の大きさぐらいです。
でも脳は情報処理をする器官です。
化石から、情報処理の中身までは分かりません。
ここが悩ましいところです。

ところが、近年、全く別のアプローチが出てきました。
それは、fMRIです。
それによると、文字認識は、もともと顔認識しているところが担っていたことがわかりました。
文字って、ちょっとした違いで意味が違いますよね。
そのわずかな違いを見極めないといけないんですけど、これを、顔の違いと同じ機能を使ってやっているようなんです。

人間は、顔のほんのわずかな違いで個体識別したり、表情を読み取ったりします。
それは、顔を認識する特別な機能があるからです。
ただ、普段、その機能を当たり前に使っているので、そんな機能があることすら気付きません。
でも、その機能をオフにしたら、突然、顔を読み取れなくなるんですよ。
それじゃぁ、試してみます。
どうやってオフにするかというと、逆さにするんですよ。
たとえばこうです。

これはイギリスの元首相、マーガレット・サッチャーです。
このぐらいは分かりますよね。
でも、今、顔認識機能がオフになっているので、顔の細かな表情までは読み取れません。
それじゃぁ、顔認識機能をオンにしますよ。
(ゆっくりと180°回転する)

どうです。
おかしな表情をしていますよね。
こんなおかしな顔なのに、さっきは分からなかったですよね。
顔認識機能がオフになっていたからです。

この機能がないと、目、鼻、口があるぐらいしかわかりません。
それが、普通の画像認識です。
顔認識機能が、どれだけ微妙な違いを読み取っているかがわかりましたよね。
そして、最近の研究で、左脳の顔認識領域が、進化の過程で文字認識機能に取って代わったことがわかってきました。

顔の微妙な違いを認識するには、ゴリラのように毛深かかったらわかりませんよね。

つまり、進化で体毛が生えなくなって、顔がツルツルになって、初めて顔の違いを認識できるようになったんです。
それをするのが、顔認識機能です。
そして、この脳の機能がさらに進化して文字が読めるようになったんです。
これが今回のテーマです。
ヒトは体毛がなくなったから文字を読めるようになった
それでは、始めましょう!

今回も、スタニスラス・ドゥアンヌの『脳はこうして学ぶ』から取り上げます。

この本のテーマは、脳の生まれと育ちはどこまで決まっているかです。
生まれというのは、生まれる前から決まってること、つまり遺伝子が決めていることです。
育ちというのは、生まれた後に学習して身に着けることです。
遺伝子は進化で獲得します。

進化は、何百万年とか何億年とか、とんでもなく長い期間が必要です。
一方、学習は生まれてからなので、数カ月とか数年で獲得します。
進化に比べて極端に短いです。
ただ、そのどちらかしかないというわけではなくて、その中間もあります。
それが、外適応です。
提唱しているのは、進化生物学者のスティーヴン・ジェイ・グールドです。

普通の進化は、環境に適応するように、体を一から変形させます。
たとえば、キリンが、高い木の葉っぱを食べるために首を伸ばすとかです。
それに対して外適応というのは、既にあるものを利用します。
たとえばパンダの親指です。

パンダは、笹を持つために親指が必要になりました。
でも、親指を0から作るのは大変です。
そこで、ちょうどいい位置にあった手首の骨を進化させて親指にしました。
だから、パンダは6本の指があるんです。

これと同じことが脳でも起こったわけです。
つまり、脳の顔を認識する領域が文字を認識するように外適応したんです。
この「紡錘状回顔領域」が顔を認識する領域です。

脳は左右対称で顔認識領域も左脳と右脳の両方にあります。
ところが、文字を読めるようになると、左脳の顔認識領域で文字を認識するようになるんです。

これは、文字を読む速度が速い人と遅い人で、左右の顔認識領域の活動がどう違うか示したものです。
このグラフ(左上のグラフ)から、左脳では、文字が読める人ほど、文字列に反応するけど、(左下のグラフ)顔には反応しなくなることがわかります。
逆に右脳は、(右上のグラフ)文字の読める人も読めない人も文字にはあまり反応しないですけど、(右下のグラフ)顔には反応します。

もともとは、左右両方の顔認識領域が使われていました。
それが、文字を読むようになると、左脳の顔認識領域が文字を読むことに使われるようになったわけです。

まず、進化によって顔を認識する機能を獲得したわけです。
それが、ある時期から、人類は、しゃべっていた言葉を粘土板に書くようになりました。

文字の発明です。
ただ、文字はよく似ていて、わずかな違いしかありません。
この細かな違いを読み解くときに使ったのが、顔認識領域です。
顔認識領域は、顔のわずかな違いを読み解く機能があるので、文字のわずかな違いを読み解くのにうってつけだったわけです。

元々あった別の機能を、別の機能に適応させることが外適応です。
この外適応で文字を読めるようになったんです。

人類が言葉をしゃべるようになったのは10~30万年前と言われています。
それに対して、文字を使うようになったのは、たった5000年前です。
こんな急激な進化、0から作り出してたら、とても無理です。
元々あった機能を利用したから、文字という新たな概念を理解できるようになったんです。
そんな例は他にもあります。

たとえば、頭頂葉のある領域では、大小関係とかで順番を管理するニューラルネットワークがあります。
目からの情報は視覚野で、リンゴとか、物体として認識されます。
これは一種のコード化です。
そして、コード化された情報がこのニューラルネットワークに入力されると、たとえば大きさの順に並びます。

このニューラルネットワークがあるから、どっちが大きいとかわかります。
大きさだけでなくて、どっちが値段が高いとか、どっちが誰が地位が高いとかもわかります。
値段とか地位は抽象概念です。
値段や地位というのは現代社会が作り出したもので、生まれる前にはわかりません。
つまり、遺伝子に残りません。
でも、ものの大きさは大昔からあるものなので遺伝子に残ります。
それが、大小関係を管理するニューラルネットワークです。

そして、大小関係を管理するニューラルネットワークを、値段や地位に使うことで、生まれつきもってなかった値段や地位という概念を理解できるようになります。
これが外適応です。
外適応は、一般的にはもとあった体、たとえば手首の骨を親指まで変化させることなので、それでも何十万年とかかかります。
でも、脳の外適応は情報処理の変化です。
いってみればプログラムの変更です。
これなら、脳の配線の組み換えだけで行うことができます。
だから、生まれた後、数カ月~数年とかでできるんです。
これが学習、または教育です。

ただ、脳の配線の組み換えは大人になってからでは遅いです。
15~6歳ぐらいまでに行わないといけません。
その時期に、文字を教えることで、左脳の顔認識領域のニューラルネットワークが、文字を認識するようになるんです。
これがシナプスの刈込です。

ニューロンはシナプスを介してつながっていますけど、生まれた時の脳は過剰にシナプスがつながっています。
それが、使われないシナプスは除去されていきます。
これがシナプスの刈込です。
だから、教育するなら、その間にしないといけないんです。

未開の民族など、学校教育がない民族は、文字や数字を理解できません。
ただ、大小関係を管理するニューラルネットワークは生まれつき持っているので、簡単な数はわかります。
このチャンネルでよく紹介するピダハン族の持つ数の概念は、1個、2個と、それ以上です。

数直線って、一定の間隔で並びますよね。
ところが、算数を習わなかった人は、小さい数の間隔より、大きい数の間隔の方が狭く感じるそうです。
つまり、1と2の間より、1000と1001の間隔の方が狭く感じるわけです。
近くの1と2より、遠くの1000と1001の方が狭く感じる気がするのはなんとなくわかります。
でも、数直線を思い浮かべると、1と2の間隔と、1000と1001の間隔が同じだとわかりますよね。

これは、数直線の位置を移動したからわかることです。
算数を習った人も大小関係を管理するニューラルネットワークは持っています。
だから、1と2と、それ以上は理解できます。
ただ、それ以上の数を理解するには、数直線を移動する必要があります。
1の次が2と理解できたら、隣に移動して、2の次は3となりますよね。
あとは、それを繰り返して、3の次は4、4の次は5とわかりますよね。
このとき使うのが、数直線の移動です。
これは教えてもらわないと習得できません。
これが教育です。

さて、ピダハンといえば時間を持たない民族として有名です。
時間を持たないというか、今、この状況から連続している状況しか理解できません。
昨日とか明日って、今の状況から見えないですよね。
それが、今、この状況から切り離されているということです。
だから、ピダハンは過去や未来を理解できないんです。

昨日とか明日を今とつなげるのが時間という概念です。
それを持たないのがピダハンです。
でも、ピダハンも順番を管理するニューラルネットワークは持っています。
時間を理解するには、このニューラルネットワークに、昨日とか、今日、明日を結びつける必要があります。
でも、ピダハン族は、そういった結びつけをしません。
だから、ピダハンの村で生まれた子は、時間という概念を身に着けることができません。

これは数や時間だけでなく、ピダハン語にも表れています。
ピダハン語は、今、現在を起点とした文しか作れません。
たとえば、「学校に行く」は作れます。
これは、今を起点としているからです。
でも、「電話がかかってきたとき、食事をしていた」といった文は作れません。
これは、「電話がかかってきたとき」というのが、今を起点としていないからです。

今を起点としない文を作れないということは、今を起点としない状況を理解できないということです。
これ、数直線と同じです。
数を理解しないピダハンは、数直線を移動することができなかったですよね。
時間もこれと同じです。
時間を理解するとは、一次元の時間軸を自由に移動できるということです。
逆に、時間が理解できないとは、今という状況から時間軸を移動できないということです。
だから、今を起点とする状況は理解できますけど、昨日とか、過去を起点とする状況を想像することができないんです。

今のは、1次元の話です。
次は、2次元を考えてみます。

嗅内皮質には地図を管理するニューラルネットワークがあります。
ラットを部屋を自由に走らせると、嗅内皮質に六角形のグリッドパターンが形成されます。

この二次元パターンが、自分の位置を管理します。
二次元というのは、縦と横の二つの位置情報の組み合わせととらえることができます。
ということは、二つの情報の組み合わせであれば、地図以外のものも管理できますよね。
オックスフォード大学で、いろんな形の鳥を覚えさせる実験をしたそうです。

そしたら、なんと嗅内皮質の二次元パターンが使われていることが分かったんです。
どう使っていたかというと、鳥の首の長さと脚の長さの組み合わせで記憶していたんです。
つまり、首と脚の二次元で管理していたわけです。
まさか、地図を覚えるニューラルネットワークで、鳥の形を覚えるとは思ってもいませんでした。

どうやら脳は、課題が与えられると、自動的に使えるニューラルネットワークを探し出すようです。
これが脳の外適応です。
この機能を使って、新しい概念を獲得することができます。
これが教育です。

今、僕らが当たり前のように認識していることも、じつは環境からの学習や教育で身に着けたわけです。
それが、数や時間、文字です。
学習とは、基からある基本概念を、別の概念に利用することです。
基本概念は、進化によって獲得したものです。
それは、たとえば、体毛がなくなって顔の違いがわかるようになるとかです。
まさか、顔の違いわかるようになったことから、文字が生み出されるとは思ってもいませんでした。

ところで、メッセージという映画がありますけど、見たことありますか?
2017年にアカデミー賞も受賞した映画です。

科学的にもよく考えられたSF映画です。
そこにはヘプタポッドというタコみたいな宇宙人が登場して、独特の文字を書きます。

その文字を解読するのが言語学者のルイーズです。
その文字というのがこれです。

拡大するとこんな感じです。

細かに枝分かれした形が単語の意味を表すようです。
この文字を考えたのは理論物理学者のスティーヴン・ウルフラムです。
この世にない全く新しい文字を考えてほしいと依頼されて、考え出したそうです。
確かに、こんな文字見たことないです。

生物が進化すると、複雑な概念を獲得して、複雑な言語をつかってコミュニケーションを行うようになるでしょう。
つまり、言語の獲得は必然といえます。
そうなると、言語を何らかの形で残すことも必然的に起こり得ます。
それが文字です。

ただ、文字は、顔認識の外適応で生み出されたものです。
体毛がなくなって、顔で個体識別を行うようになったから、文字を使うようになったわけです。
つまり、文字は必然でなく偶然です。
たまたま、顔による個体識別を行うようになったから文字を発明したんです。

そうなると、宇宙人が文字でコミュニケーションを取るとは言えないですよね。
映画メッセージでは、宇宙人も当然、文字を使ってコミュニケーションを取ると思っているところが、ツメが甘いといえそうです。

たとえば犬は匂いで個体識別を行います。
そんな犬が進化したら、匂いの文字を発明するかもしれません。
だから、宇宙人が、どんな文字を使うかなんか想像もつきません。

もし、宇宙人の文字がわかって、コミュニケーションを取ることができたとします。
でも、何を言っているのか理解できるとは限りません。
なぜなら、人間が理解できるのは、基本概念に当てはめることができることだけだからです。
基本概念というのは、生物が地球という環境で進化して獲得したものです。
たとえば大小関係とかです。
戦争とか平和という概念も、弱肉強食という生物の環境が生み出した概念です。

全く違う惑星で、全く違う生態系の生物が、どんな概念を持っているかなんか分かりませんよね。
友好とか侵略とかとは違う、人間には理解できない別の目的で接触してきたかもしれません。
「そうしてもいいか?」と聞いてくるけど、「はい」とこたえるとどうされるのかわかりません。
かといって、断るとどうなるのかもわかりません。
宇宙人が来るとは、そういうことなんです。

はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!