第61回 自閉症は未来の人類か?!


ロボマインド・プロジェクト、第61弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ご存知の通り、ウチのオカンは、たくあんにマヨネーズかけて食べます。

知らんわ!

えっ、知らないんですか?
それでは、今回は、その話をしましょう。

いや、君のオカンの好みには興味ないねん。

あっ、そっちじゃなくて、なんで、人によって、知ってることと、知らないことがあるのかって話です。

いや、そんなん、当たり前やん。

そう思いますよね。
でも、そこを疑うのが重要なんです。
僕らが、当たり前やと思ってやってること。
それが当たり前なら、なんで、チンパンジーは、会話ができないんでしょう。

今回の話は、そこなんです。

前回、第60回「ことばの進化 ミツバチの言語と犬の言語」で、人間らしさで、一番重要なのは、他人の視点って話をしました。
他人は、自分のことをどう見てるのかって。
この視点を持つことで、人間らしさが生まれます。
「恥」って概念が生まれます。
そうやって、人間社会がまとまってくるんです。

「恥」の概念は、まだ、ちょっと複雑です。
そこまで理解できれば、かなり人間の心に近いと言えます。
今回は、その前段階。
相手の心を理解する最もシンプルな理論について説明しようと思います。

その理論のことを「心の理論」といいます。
「心の理論」っていうのは、もともと、霊長類研究者のデイヴィッド・プレイマックとガイ・ウッドルフ(どちらも写真なしで)が1978年に発表した論文「チンパンジーは心の理論を持つか?」で最初に提唱されました。

「心の理論」は、他人の信念とか、他人は自分と違う考えを持っていると理解する能力のことです。
その後、「心の理論」を持っているかを判定するテストが提案されました。
人間は、1~2歳ぐらいから言葉を覚えます。
そして、だんだん、会話ができるようになってきます。

でも、「心の理論」のテストに合格するのは、4~5歳ぐらいだそうです。
つまり、言葉が話せることと、他人の信念を理解することとは別なんですね。
段階を踏んで、人間らしい心が育ってくるってことなんです。

それでは、さっそく、「心の理論」があるかどうかを判定するテストを紹介します。
一番有名なのが、「サリーとアン課題」というものです。

これは、2人の女の子が登場するお話です。
最後の質問に正しくこたえられるかどうかで、他人の信念を理解できるかをテストします。

それでは、始めましょう。

これはサリーです。
これはアンです。
サリーはカゴをもっています。
アンは箱を持っています。

サリーはビー玉を持っています。
サリーはビー玉を自分のカゴに入れました。

サリーは外に散歩に出かけました。

アンはサリーのビー玉をカゴから取り出すと、自分の箱に入れました。

サリーが帰ってきました。
サリーは、自分のビー玉で遊びたいと思いました。
サリーがビー玉を探すのは、どこでしょう?

これが、サリーとアン課題です。
何も、難しくは、ないですよね。

答えは、カゴです。
みなさん、正解、しましたよね。

正解したということは、他人の信念を理解することができるってことです。
さっきも言いましたけど、このテストに合格するのは、4~5歳ぐらいになってからです。
話の意味が理解できても、2~3歳ぐらいだと間違うそうなんです。
それから、自閉症の場合も、このテストに間違うそうなんです。

どうも、このテストは、人間の心にとって、ものすごく重要な意味を含んでいるようです。
それでは、もう少し詳しく見ていきましょう。

ビー玉をカゴにいれたのはサリーです。
そして、サリーが見ていないときに、アンがビー玉をカゴから箱に移動しました。
だから、サリーは、ビー玉は、まだ、カゴの中に入っていると思ってます。
これがサリーの信念です。
だから、帰ってきたサリーは、かごの中を探すんです。

このテストで、答えを「箱」って間違う人は、事実しか認識できてないってことですよね。
事実と他人の信念の区別がついてないってことです。

ここまでの話は、既に、いろんな人が議論してきました。
ロボマインド・プロジェクトは、こっからがスタートです。

意識の第二の鍵の話は覚えていますか?
前々回、第59回「人工意識で主観と客観を作り出す方法」で、意識は客観を手に入れた話をしました。

客観的に世界を見れるということは、主観とは違う方法で世界を見れるってことです。
いろんな角度から世界を見れるってことです。

その延長線上に、他人の認識する世界があるわけです。
自分の視点からみた世界を主観とします。
自分を俯瞰して世界をみた視点を客観とします。
主観から客観へ切り替えれるってことは、世界を見る視点を移動する機能が追加されたってことです。

世界を見る視点が移動できるなら、他人の視点に移動することもできます。
こうやって、他人からみた世界を見ることができるようになるわけです。

さて、サリーとアン課題で、答えを間違うということは、サリーの視点で世界を認識できていないってことです。
おそらく、これは、世界を見る視点を切り替える機能がないって考えられます。
つまり、一つの視点からでしか世界が見れないわけです。
世界は、一つだけなんです。
ビー玉をカゴから箱に移した世界しか存在しないわけです。
だから、サリーは箱を探すって、間違った回答をするんです。

さて、もう少し深く探っていきましょう。
自閉症の場合、サリーとアン課題を間違うって話をしましたよね。
これは、自閉症の場合、世界を一つしか作れないといえそうです。

自閉症の特徴として、急な予定変更に対応できないことがあります。
たとえば、遠足が雨で中止になったりすると、パニックになるそうです。

これって、世界が一つしか作れないことで、説明がつきそうです。
遠足に行く世界があって、それに沿って現実世界が進んでいたわけです。

それが、雨で中止になると、普通の学校の授業に戻るわけです。
いってみれば、現実世界が、今まで進んでた世界とは、別の世界に切り替わったわけです。

正常な人なら、普通の学校の授業と、遠足の両方を想定してます。
雨が降ったら、普通の授業に変更になることは理解できます。
嫌だなぁとは思いますが、パニックになるのとは違います。

これが、一つの世界しか認識できないとします。
今まで、自分の頭で思い描いていた世界が、突然、変わってしまうわけです。
頭で思い描いてた世界と、現実とが、全然違うものになるわけです。
そうなると、どうしていいかわからなくて、パニックになるわけです。
現実世界を、なんとか、頭で思い描いていた世界に戻そうとするわけです。
パニックになって「遠足に行くー」って叫んだりするわけです。
おそらく、自閉症の人が感じてる感覚って、こういうことじゃないでしょうか。

たとえば、正常な人でも、想定してないことが起こるとパニックになります。
いつものように学校に行って、教室に入ったら、全員、宇宙人やったらびっくりしますよね。
自分を指差して、
「地球人が入ってきたぞ! 捕まえろ!」
って宇宙人が押し寄せてきたら、絶対、パニックになりますやん。

思ってもみなかった現実なわけです。
「ワァー!」って叫んで「元の世界に戻してくれ!」ってなりますやん。

たぶん、それと同じやと思うんです。
想定の範囲のことが起こるなら、パニックにはならないです。
想定の範囲の中で、良いことが起こった、悪いことが起こったってだけで、喜んだり、悲しんだりするだけです。

複数の世界を想定して、現実が、そのうちのどれかって視点で世界を捉える機能。
これが、人の意識には必要じゃないかと思うんです。

おそらく、自閉症の人が認識する世界は、一つしか持てないので、その代わりに、よりリアルで、より現実に密着してて、変更が許されないのかもしれません。

サヴァン症候群って聞いたことありますか?
自閉症のなかには、天才的な記憶力を持ってたり、写真そっくりに絵を描く人がいます。
そのような人たちを、サヴァン症候群って言います。

たとえば、こんな絵を描けます。

これ、写真じゃないんですよ。
鉛筆で書いた絵です。
しかも、写真を見て書いたわけでもないんですよ。
記憶だけで、これ全部描きあげたそうなんです。
ちょっと、驚きますよね。

僕が提唱する意識の仮想世界仮説は、目で見た光景を、頭の中の3次元空間に構築するって仮説です。
でも、目を閉じたら、目の前の世界は消えて、ぼんやりとしか思い出せませんよね。
でも、サヴァン症候群の人は、目で見た物を、そっくりそのまま、頭の中に保存できる仕組みをもっているようなんです。

たとえば、これは、正常な8歳の子供が描いた馬の絵です。

これが普通です。
では、この二つの絵を見てください。
 

左は、サヴァンの3歳の少女が描いた絵です。
実にリアルですよね。
では、右の絵は、誰が描いたか分かりますか?
じつは、レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチなんです。
こうして比べてみると、3歳の少女が描いた絵も、ダ・ヴィンチに引けを取らないですよね。

じゃぁ、どうして、サヴァンのような人が生まれたんでしょう?
僕は、その事を考えたとき、どうしても、ダーウィンの進化論を考えてしまいます。

ダーウィンの進化論は、知っていますよね。
突然変異と自然淘汰で進化するって話です。

キリンの中から、突然変異で首の長いキリンが生まれました。
首が長い方が、高い木の葉を食べれるので、首の長いキリンが生き残りました。
その環境では、首の短いキリンは淘汰されて、長い首のキリンが選択されたわけです。
そうやって、長い首のキリン同士が交配して、さらに長い首のキリンが生まれて、キリンの首は長くなったってことです。

それじゃぁ、人間は、これ以上、進化しないのでしょうか?
たぶん、ある時から、ホモサピエンスの進化は、身体でなく脳の進化の方が優勢になってきたんじゃないかって、僕は思っています。

今でも、たとえば、6本指で生まれてきたって人の話を聞くことがあります。
でも、現代の環境では、5本指より6本指の方が、環境に適用しやすいとも、適用しにくいとも言えません。
身体は、これ以上、あまり進化しない気がします。

でも、脳は今までも、これからも進化する可能性があると思います。
目で見た世界を、そっくりそのまま記憶できるサヴァンのような人は、人類を、次へ進化させるための突然変異なのかもしれません。

それを決めるのは環境です。

どんなに環境が変化しても、その環境で人類が生き残れるように、特殊な能力を持った人類が、常に一定数、生まれてるのかもしれません。

次回も、この続きを考えていこうと思います。
質問や疑問などあれば、気軽にコメント書いてくださいね。

それでは、次回も、お楽しみに!