第610回 脳は何のために夢をみるのか


ロボマインド・プロジェクト、第610弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

犬は、走っている夢を見るってよく言いますよね。
僕も、「ろっこう」って犬を飼っていたので、何度か見たことはあります。

寝てるとき、足をぴくぴくさせるんです。
でも、寝てるとき、足が痙攣してるだけじゃないのって思っていました。
でも、この動画を見て、考えが変わりました。
https://www.youtube.com/watch?v=8BJ0H8CNngM
00:08~
00:13ぐらい 明らかに走っていますよね。
00:19(ぶつかった後) 痛て!
いやぁ、「ろっこう」も、ここまで走ったことはないです。

でも、本当に走っている夢をみているんでしょうか?
どんな夢をみているなんか分からないですよね。
ところが、ついに、それを確認できたんです。
今読んでるスタニスラス・ドゥアンヌの『脳はこうして学ぶ』に、このことが書いてありました。

実験したのはラットです。
第604回で、ラットを箱の中で自由に走らせると、海馬近傍の嗅内皮質で六角形のマップが形成されるって話をしました。

ラットが箱の中を移動すると、それに対応する脳内のマップのニューロンが発火します。
つまり、脳内に地図が作られていたんです。

1994年、神経生理学者のマシュー・ウィルソンとブルース・マクノートンは興味深い実験をしました。
その実験では、通路のある空間でラットを自由に走らせます。
すると、通路の入り口、通路の中間、出口、といったマップが脳内に作られました。
その後、ラットが眠ったとき、この脳内マップを観察したんです。
すると、そのマップが活性化したんです。
それも、起きて走っているときと同じ順序で活性化するんです。
たとえば通路の入口、中ほど、出口って順に活性化するんです。
これ、夢の中であきらかに通路を走っていますよね。

いやぁ、やっぱり動物も夢を見るんですよ。
さっきの犬は、何かに追いかけられている夢でも見ていたんでしょうか。
少なくとも、動物も人間も夢を見ることがわかってきました。
しかも、夢には驚くべき役割があることもわかってきました。
これが今回のテーマです。
脳は何のために夢をみるのか
それでは、始めましょう!

さて、ラットは夢の中でも走り回っていましたよね。
走り回っていた夢の中とは、言ってみれば脳内世界です。
夢の中では、現実と思って走り回っています。

さっきの犬もです。
広い草原でも走っているつもりが、現実は狭い家の中です。
だから、実際に走り出したら壁に思い切り頭をぶつけたんです。

何が言いたいかというと、どうも、脳の中に世界があって、意識はそれを認識するようです。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを、僕は、意識の仮想世界仮説として提唱しています。
同じことはドゥアンヌも言っています。
ドゥアンヌは「学習とは、外的世界の内部モデルを脳内に形成することだ」と定義しています。
ドゥアンヌのいう外的世界の内部モデルが、ぼくのいう仮想世界です。
ただ、どちらもまだ仮説です。
それが、このラットの実験から、脳の中に仮想世界があることが証明されたんです。
そして、意識は仮想世界を経験というか、生きているんです。

注意してほしいのは、意識は、外の世界と脳内の仮想世界の二つを認識するわけじゃないってことです。
意識が認識できるのは、脳内の仮想世界だけです。
夢は、脳内に作り出した世界ですよね。
でも、意識はそんなこと知りません。
だから、夢のなかで、これは夢だと気付くことはないんです。

じゃぁ、夢は何のためにあるのでしょう。
それは学習を定着させるためです。
睡眠が記憶の定着に必要だということは昔から知られていました。
ところが、最近のイスラエルの研究で、記憶を定着だけでなく、さらに追加の学習までしていることが分かってきたんです。
こんな実験をします。
被験者に、以下のような画像を見せます。

横棒が並んでいますけど、真ん中に点があったり、右下に斜め線がありますよね。
次は、これです。

真ん中に点がありますよね。
こんな風に、他と違う記号をみつけるというタスクをしてもらいます。
訓練すると、成績が上がってきますけど、数時間もすると頭打ちになります。
ところが、被験者に眠ってもらって翌朝、同じ作業をしてもらうと、成績が大きく向上するんです。

あり得そうな話ですけど、これ、よく考えたらおかしいんですよ。
記憶の研究でわかっていたのは、起きているより、寝た方が忘れにくいということです。
つまり、記憶は覚えた直後が最大で、その後の下がり方が変わるということです。
勉強した後、テレビを見てダラダラ過ごすより、さっさと寝た方がより覚えているということです。
これはわかりますよね。

ところが、今回の研究でわかったのは、寝たら、何もしないのに、能力が向上したんです。
さらに、この研究では、レム睡眠を妨害した実験もしたそうです。
レム睡眠というのは、夢を見ている脳状態です。
そしたら、眠っても能力の向上はなかったそうです。
このことから、夢を見る理由がわかってきました。
それは、起きているときに学習したことを夢の中で繰り返し再現していたんです。
この実験の場合だと、さっきのタスクを夢の中で再生して、訓練の続きをしていたんです。

これ、さっきのラットの実験とも合致します。
ラットは夢の中で部屋の中を走り回っていたことが、海馬の神経細胞の発火の軌跡から分かりました。
しかも、その速度は実際に走っているときの20倍以上だったそうです。
現実ではありえない高速で走って学習していたんです。
あの犬も、必死で逃げていたんじゃなくて、本人は、普通に歩いているつもりだったのかもしれません。
それから、ラットの研究によると、高速で走るだけでなくて、それを何百回も繰り返していたそうです。
それだけ学習したら、そりゃ、寝た方が能力が向上するわけです。

ここでAIと比較してみます。
AIは、たとえば犬の画像を学習するのに何万枚もの画像が必要です。
ところが、人間の場合、幼稚園児でも、数回、犬を見たら犬と識別できます。
これはワンショット学習とかヒューショット学習といって、AIが苦手なことの一つです。
人間の場合、夢の中で犬に似た画像を何百、何千枚も生成して学習していると考えたらわかります。
AIと人間の脳の違いはここにあるようです。

次に、学習についてもう少し深く考えてみます。
学習とは、いろんな作業を効率よくできることです。
たとえば、これは子どもが単語を覚えるときの脳です。
右のグラフは単語の文字の長さと、読み取り時間の関係を示しています。
上が1年生で、下が二年生です。

1年生は、単語の文字が増えると、その分読む時間が増えていますよね。
これは、単語を一文字ずつ読んでいるからです。
ところが、2年生になると、文字数が増えても読み取り時間はあまり変わりません。
これは、単語をひとまとまりとして認識しているからです。
効率よく脳を使えるようになったこととも言えます。

左は、その時の脳の状態です。
1年生の脳は、いろんな場所が活性化していますよね。
でも二年生になると必要な部分しか使っていません。
学習によって、必要な機能が残って、不必要な機能がつかわないと整理されたわけです。
おそらく、読むときに共通で使う機能を抽出して、それを切り替えて効率よく利用できるようになったんでしょう。

最後に、先月、ネイチャーで紹介された論文を紹介します。
アカゲザルにこんな動画を見せます。
https://www.youtube.com/watch?v=u8NWaAX5uLM

ウサギっぽい画像と、T字っぽい画像がでてきますよね。
やってもらうタスクは単純です。

T字が出てきたら、右下をみます。
ウサギが出てきたら左上をみます。

次のタスク色で分けます。

赤がでたら右上を見ます。
緑がでたら左下を見ます。
さっきと、見る場所も変わりました。
ここまでできるようになるまで訓練します。
そして、最後のタスクはこれです。

赤が出たら右下、緑が出たら左上を見ます。
注意してほしいのは、識別するのは色ですけど、見る場所は形のときに訓練した方向です。
そして、一連のタスクを実行したときの脳を観察すると脳の三か所が活性化していることがわかりました。
一つは、色を識別する箇所、もう一つは形を識別する場所、もう一つは視線を動かす場所です。
そして、タスクが変わると、これらを切り替えていることがわかりました。
つまり、色を識別するときは形を識別する機能をオフにして、形を識別するときには色を識別する機能をオフにしていました。

一見、当たり前のことのように思いますけど、じつは、そうじゃないんです。
じつは、これ、AIにはできないんです。
AIも、ウサギが出たらこっちに、T字がでたらこっちに目玉を動かすって学習はできますよ。
赤がでたらこっち、緑がでたらこっちって指示すると、これも学習できます。
でも、これらを合成した課題が出たら、またゼロから学習しなおすんです。
つまり、色の識別や形の識別を、また、最初から学習しなおすんです。
学習した色や形を認識する機能を再利用できないんです。
つまり、学習したことをわっぱり忘れているようにふるまうんです。
このことを、AIの破滅的忘却といって、今のAIの課題の一つです。

なぜ、こんなことが起こるかと言うと、AIは起こったことをそのまま学習するしかできないからです。
この場合だと、色や形の識別から、目玉を動かすまでを一連のタスクとして学習します。
いってみれば、AIは、現実世界で経験したとおりのことを、そのまま学習するしかできないといえます。

脳も同じように現実世界で一連の経験をします。
でも脳は、何度か経験するなかで共通する機能を抽出します。
たちえば色を認識する機能とか、形を認識する昨日とか、目玉を動かす機能です。
機能を役割ごとにわけて抽出することで再利用可能にするんです。
再利用は、ただ、機能を分けるだけじゃできません。
使わない機能はオフにして、使う機能をオンにするといった、状況に応じて切り替える必要があります。
そして、状況に応じて切り替えるのが意識の機能です。

1年生がたどたどしく単語を読むとき、脳のいろんな部分を使っていましたよね。
いろんな部分を切り替えているのも意識です。
それが二年生になると、スムーズに読めるようになって、脳も必要な機能しか使わなくなります。
このとき、意識しなくても自然と読めるようになっています。
これは繰り返しの学習でできるようになることです。
そして、これは夢の中でも行えます。

意識しなくてもできるってことは自動化とか、無意識でできる処理ともいえます。
ここから、脳がどのような情報処理をしているのかが見えてきます。
哺乳類とか意識を持った動物が最初に行うのは、現実世界で経験する一連の情報処理の分割です。

単純でまとまった処理単位に分けて、再利用可能に整理するんですよ。
そして、それを再利用するのが意識です。
アカゲザルの実験だと、課題に応じてスイッチを切り替えるのが意識の役割です。

脳は、単純な処理を自動で行えるように繰り返し訓練します。
自動で行うというのが無意識で行えるということです。
それから、同じような情報をまとめて抽象化も行います。
ポチとかシロとかロッコウとか現実世界で出会う犬は具体です。
脳内でこれらを何度も再生して学習することで犬の抽象化が行われます。
これらは夢の中でも行われます。
これで、脳が夢のなかで行うことがかなり整理されてきました。

最後に僕の話をします。
YouTubeの動画は毎週月曜に撮影するので、原稿は日曜の午後から書き始めます。
本を読むところから始めるんですけど、読んだだけじゃ、何も書けないんですよ。
単なる要約ならできますけど、僕は、そこから一歩突っ込んだ解説をするようにしています。
それが、なかなか出てこないんですよ。
毎週のことですけど、この時が一番苦しいんです。
毎週、YouTubeは、もうやめようって思っています。

今は、ドゥアンヌの本を一章ずつ読んでいますけど、それとは別に、社員から面白そうな記事を教えてもらうこともあります。
今回は、ネイチャーに面白そうな論文が出てたって教えてもらいました。
なんとなく、今回の夢の話と関係しているようにも思えますけど、どうつながるのかがわかりません。
いろんな情報で頭の中がごちゃごちゃで、考えてもまとまりません。
こんな時は、出だしだけ書いて終わりにします。
今回なら、寝ぼけた犬が壁に頭をぶつけるって動画を見つけて、これでオープニングだけ書き上げました。
この程度の作業は、頭がごちゃごちゃでもできます。
そして、早めに寝て朝早く置きます。
今朝は、3:30に起きました。
そっから、本とか論文とか読み返すと、ごちゃごちゃしていた考えが、整理されて出てくるんですよ。
いろんなものがつながって、「あぁ、そうか」ってなるんです。

これが寝ている間に起こっていることです。
起きている間に経験していることは、具体的でごちゃごちゃな現実です。
僕は、眠りにつく直前まで、そんなごちゃごちゃなアイデアを考えています。
そしたら、脳は、寝ている間に似た者同士をまとめて整理したり、抽象化してくれます。
すると、朝起きたら、ネイチャーの論文とドゥアンヌの夢の話と、AIの問題がつながってくるんです。
つないで読み解いているのは意識です。
ごちゃごちゃでわからなかったことが、寝ている間にきれいに整理されたってことです。

夢を見て寝ている間に、今のAIが汎用人工知能になるために、何が必要か、かなり具体的にわかってきました。

はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、意識の仮想世界仮説に興味がある方は、よかったらこちらの本も読んでください。

それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!