第619回 AIも世界が存在すると思っていた。


ロボマインド・プロジェクト、第619弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
あなたは、今、自分は部屋の中にいるとか、目の前に世界があると思っていますよね。
だって、目の前に部屋とか世界が見えますから。
でも、見えるからと言って、本当に世界が存在するとは言えません。

たとえばライントレーサーで考えてみます。
ライントレーサーは、白い床に描かれた黒い線に沿って走るロボットです。
左右に、目の代わりになるセンサーが付いていて、センサーでラインを感じ取って走ります。
第619回YouTube原稿の説明図。図1 ライントレーサーは世界を見て走っているのか?
ライントレーサーが走る様子を見たら、こう思うかもしれません。
「このロボットは、世界とは白い床と、そこに描かれた黒い道だ。
自分は、今、黒い道に沿って走っている」

でも、ちょっと考えたらそうじゃないことがわかります。
ライントレーサーがやっているのは、左のセンサーが黒を感じたら、少し左へ。
右のセンサーが黒を感じたら、少し右へ。
これだけです。
床があるとか、世界があるとかなんて考えたこともありません。
あるのは、センサーから送られてくるデータと、そのでータに応答してモーターを回す命令だけです。

そう考えると、目があるから世界があると認識できるわけじゃないってことがわかりますよね。
だって、網膜から送られてくるのは赤とか青のただの色データだけですから。
じゃぁ、どうやったら外の世界は3次元空間だとか、空間の中に自分がいるって思えるんでしょう。
考えたら不思議です。

ここで、ちょっとおもしろい論文を紹介します。
それは、ハーバード大学の研究チームが発表したオセロGPTという論文です。
オセロって、8×8のマス目に白と黒の石を順番に置くゲームですよね。
 
横をA~H、縦を1~8とすれば、マスの位置は「E3」とかって記号で定義できます。
すると、ゲームの進行は、E3、F5とかって石を置いて行った順番で表せますよね。
研究では、この記号の並びだけをAIに学習させました。
ただし、学習させたのは、2000万局もの膨大なデータです。
そしたら、内部のニューラルネットワークに8×8マスが作られていることが確認できたんです。
これ、考えたらすごいことです。
だって、AIは、この記号の並びがオセロの手を示しているとか教えられていないんですよ。
それどころか、マス目があるとか、そこに石を順番に置くといった超基本的なルールすら教えていません。
それなのに、8×8のマス目があるって理解したんです。
つまり、外から入力される記号の並びだけで、この世界は、8×8のマス目でできているって理解したんです。
それだけじゃないですよ。
マス目に自分と相手が交互に石を置くとか、自分の石で相手の石を挟むと、相手の石は自分の石になるってルールまで理解したんですよ。
すごいですよね。
しかも、これ、人間にも当てはまりますよね。
僕らは、この世に生まれたとき、この世界は三次元の空間だってことを知りません。
ただ、網膜から脳にデータが送られてくるだけです。
網膜から送られてくるデータは位置と色を表す一種の記号です。
脳は、それが位置を表すのか、色を表すのかすら知りません。
ただ、何らかの情報処理をすることで、この世界は3次元の空間だと理解するわけです。
ただ、自然に行っているから、目を開けるだけで、目の前に部屋がある、世界があると思うわけです。
世界があると思える情報処理、その仕組みを知るには、AIに聞くのが一番早いです。
これが今回のテーマです。
AI世界が存在すると思っていた。
それでは、始めましょう!

さて、オセロGPTはLLMでできています。
つまり、大量の文書を読むことが得意です。
ただ、今回読ませたのは文章でなくて、オセロゲームの手です。
つまり、石が置かれた位置とその順番だけです。
たとえば、E3、F5、D6、C4……といった文字列です。

AIは、世界は8×8のマス目でできているとか、ゲームをしているなんてことは知りません。
AIの中で起こっていることをたとえると、窓から次々にデータが送り込まれる真っ暗な部屋です。