第62回 ロボットの心 他人の感情を理解するには何が必要? 〜自閉症の心 他人の感情を理解するメカニズム


ロボマインド・プロジェクト、第62弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今まで、ロボットの心に必要な機能を整理するために、最初に、進化の過程で、動物の意識がどう変化したかを解明してきました。
その次に、解明しようとしてるのが自閉症です。
今回は、その続きです。

まずは、この本から始めます。
オリヴァー・サックスの「火星の人類学者」です。

オリヴァー・サックスは、脳神経科医の教授で、映画「レナードの朝」の原作でも有名です。
この本には、自閉症患者の興味深いエピソードががいくつも載ってるんです。

たとえば、12歳の頭のいい自閉症の少女が、「ジョニーが変な音を立てています」って言うんで、行ってみたら、ジョニーが激しく泣いていたそうなんですよ。

どういうことか、わかります?
つまりね、自閉症の人ってね、他人の感情が、うまく理解できないんです。
じゃぁ、他人の感情が理解できないって、どういうことでしょう?

前回、第61回「自閉症は未来の人類か」の話は覚えてますか?自閉症の人は、世界を一つしか持てないんじゃないかって話です。
ここでいう世界っていうのは、頭の中で思い描く世界のことです。

たとえば、明日、遠足に行くって予定があったとします。
すると、遠足に行くっていう世界しか頭の中に持てないわけです。
雨が降ると中止になるって説明しても、中止になった場合の世界と、遠足に行く世界の二つを同時に持てないわけです。
だから、雨が降って遠足に行く世界が無くなるとパニックになるわけです。
現実の世界と、頭の中の世界が合わなくなって、どう行動していいかわからなくなってパニックになるわけです。

正常な人なら、遠足に行く世界と、普通の学校の授業の世界を同時に持てます。
遠足が中止になると、普通の学校の世界に切り替えるわけです。
自閉症の人は、これができないようなんです。

意識っていうのは、自分そのものです。
意識が世界を感じるわけです。
目の前に何があって、これからどうするかとか。
明日、どこに行って、何をして遊ぶとか。
そういったことを思い描いたり、感じたりするのが意識です。

別の世界を思い描くっていうのは、別の世界を創って、その世界に意識が、ひょいっと乗り移るって感じです。
遠足に行く世界から、学校に行く世界に、意識がひょいっと乗り移るわけです。
そして、実現しなかった世界を思って、「あぁ、遠足に行きたかったなぁ」とか残念に思うわけです。
これができれば、パニックにならず、残念って感情が起こるだけです。

たぶん、自閉症の人は、この、ひょいっと乗り移ることができないんじゃないかって思うんですよ。

じゃぁ、他人の感情を理解できないっていうのは、どういうことでしょう。
これもね、同じだと思うんですよ。
自分は感情を持ってるわけです。
遠足に行ったら楽しいなぁとか、大事にしてたおもちゃが壊れたら悲しいとか。

こんな感情を持つ意識を、自分から他の人に、ひょいっと乗り換えるわけです。
すると、その人が、感じてることを感じれるわけです。
その人の感情が理解できるわけです。
「あぁ、大事にしてたお人形さんが、壊れて悲しんでるんだな」とか。
これが、他人の感情を理解するってことだと思います。

さて、さっき紹介した本「火星の人類学者」には、自閉症を抱えながらも、社会的に成功している女性登場します。
彼女は、動物学で博士号も取って、畜産施設を設計するビジネスをしています。

サックス教授が、彼女に、どんな生活を送ってるのかを案内してもらうと、寝室に奇妙なベッドがあったそうなんです。
彼女は、それを「抱っこ器」と呼んでいたそうです。

彼女は、子供の頃から、誰かに強く抱きしめて欲しかったそうです。
でも、同時に人との接触が怖いって矛盾も抱えてたんです。
だから、ずっと、その矛盾を解決する方法を探してたそうなんです。

あるとき、子牛を拘束する器械を見つけて、これだって思って、それを改造して、抱っこ器を作ったようなんです。
コンプレッサーとクッションを使って、自分の好みの締め付け具合で抱きしめてくれる器械です。
これで、ようやく安心を得られたそうなんですよ。

たぶん、普通なら、こんな話、他人に話すのはちょっとためらわれますよね。
でも、彼女はね、なんかね、数式の説明でもするみたいに、淡々と説明するんですよ。
どうも、恥ずかしいって感情が欠けてるみたいなんです。

「恥」の感情についていは、第17回「AIに必要なのは羞恥心だ!」で説明しましたけど、毎回、このサムネ出すの、ホント、恥ずかしいんですけどね、まぁ、いいです。
他の人から、自分がどう思われてるかって視点って、社会で生きて行くのに、ものすごく重要なんですよ。
どうも、彼女には、そういう視点が持てないようなんです。

実際、他の人の気持ちが理解できなくて、困ることも、かなりあったようなんです。
彼女は、かなり仕事が優秀で、素晴らしい家畜のプラントが設計できたんで、次から次へと仕事が舞い込んでいたそうなんです。
ということは、その陰では、今まで仕事してた人から仕事を奪うことにもなってたわけです。
そのせいで、恨みや嫉妬を買ってたようで、機械をわざと止められたり、壊されたりってトラブルがあったそうなんです。

犯人が分かっても、彼女には、なぜ、そんなことをするのか、よく、わからなかったそうなんです。
相手が、恨みとか、嫉妬って感情を持つってことが、普通にわからないそうなんです。

あいつさえいなければ、自分がこの仕事をしてたのにって、相手は思っていたわけです。
それが分かるには、相手の立場になって考えないといけないんですけど、それが難しいんです。
相手の立場に、ひょいッと乗り移って、相手は、こう感じてるだろうってことができないんです。

そこで、彼女は、別の方法で他人の感情を読み取るようにしたそうです。
自閉症の人は、驚くほど記憶力がいいって話、前回しましたよね。
一度見ただけで、写真そっくりに絵を描くとかって話です。

彼女も記憶力が抜群にいいらしくて、自分が経験した、あらゆる場面を記憶していったらしいんですよ。
こんな場面だと、相手は怒るとか、こんなとき、相手は悔しいって感じるって、そんな場面を。
ほんで、いつでも、その場面を頭の中で再生できるようにしてるらしいんです。
そうやって、何か行動するとき、頭の中で似た場面は無いかって検索して、その場面を再生して、こう行動したら相手が怒るかもしれないって。
そんなことを、常にしてるらしいんです。
相手の気持ちを感じるんじゃなくて、理屈で考えてるんですよ。

だから、小説とか読むの、ものすごく苦労するらしいんですよ。
表面上は仲良くしてるのに、影で相手を陥れたりとかって話。
なんで、そんなことするのか、すっと感じ取れないそうなんです。
理屈で考えないと、理解できないそうなんです。
まるで、自分は、人間の心理を研究する、火星の人類学者だって。
そう思ってるそうなんです。

こんな話を聞くと、心って、複雑だなぁって思います。
複数のプログラムが複雑に絡み合ってできてるんだって。

おそらく、他人にひょいっと乗り移って、他人の気持ちになって感じるプログラムがあるわけです。
その、ひょいっと乗り移る機能に不具合があるのが、自閉症なんじゃないかなって思います。

自閉症に限らず、高次機能障害と呼ばれるものは、おそらく、こういった心のプログラムが上手く機能しないってことだと思うんです。
こういうのって、多かれ少なかれ、誰でも持っていると思うんですよ。

たとえば、僕は、結構な方向音痴なんです。
あの、スマホで、グーグルマップの地図とかみるとき、実際に進む向きと、地図の向きが違ってたりすると、もう、どっちに行けばいいか、分からなくなるんですよ。
だから、スマホをあっち向けたり、こっち向けたりして歩くんですよ。

でも、道に迷わない人に聞くと、そんなことしなくても、すっとわかるらしいんですよ。
たぶん、そういう人は、頭の中の地図と、現実とを自由に切り替えることができるんじゃないかって思うんです。
地図見てるときは、地図世界で右行って、つぎに、左に行ってって考えて。
ほんで、今まで頭に描いてた地図をそのまま、ひょいって現実世界に当てはめることができるんやと思います。

僕は、どうしても、それができないんですよ。
でも、僕の悩みは、スマホを回転させれば解決するわけです。

さっきの彼女は、あらゆる場面を記憶することで、解決してたわけです。
もしかしたら、近い将来、こういったこともテクノロジーで解決できるようになるかもしれません。

そのためには、まずは、心って、どんなプログラムで成り立っているかってことを解明する必要があります。
それをやってるのがロボマインド・プロジェクトです。
興味がある人は、ぜひ、チャンネル登録お願いします。

それでは、次回もお楽しみに!