第64回 ヘレン・ケラー② 〜意味が分かる、分からないって、どういうこと?


ロボマインド・プロジェクト、第64弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ヘレン・ケラーの続きです。
前回は、映画「奇跡の人」のラストシーンの解説をしました。
ヘレンが、井戸の水を感じたとき、「水」っていう言葉は、水を指す「名前」だって気づいた瞬間の話です。
もし、まだ、前回、第63回「ヘレン・ケラー① 言語の秘密」を見てなかったら、先に見ておいてください。

さて、ロボマインド・プロジェクトの目的は、コンピュータで心のモデルを創ることです。
だから、今回は、この時、ヘレンの頭の中で起こったことを、コンピュータ・プログラムで説明しようと思います。

まずは、物の「名前」を理解する前のヘレンです。
サリバン先生は、ヘレンの左手に人形を持たせると、右の手のひらにドールって文字を綴って、物の名前を教えようとしました。
頭のいいヘレンは、これは、すぐに、出来るようになりました。

この時、ヘレンが理解してたのは、人形を渡されると、ドールって、文字を書くってゲームです。

さて、これをコンピュータで実現すると、どうなるでしょう?

図に書くと、こんな感じです。
(ホワイトボード)
何らかの入力があって、それをコンピュータで計算して、出力するわけです。
手に人形を感じるってのが入力です。
ドールって綴る行動が出力です。
これが最初のヘレンの言葉の理解でした。

入力があると、それに応じた行動をする。
犬が、ポチって呼ばれると、呼んだ人のところに行く。
これと同じです。
これじゃぁ、名前を理解したとは言えないですよね。

何が問題なんでしょう。
それは、このプログラムじゃ、物の区別がついてないってことです。
「名前」を理解するには、その物自体を、世界から切り離す必要があるわけです。
「ポチ」っていうのは、自分自身を指してるって理解しないといけないわけです。
「ポチ」って音と、呼ばれた人のとこに行くって行動を結び付けたとします。
でも、そこには、「ポチ」が指し示す、肝心の「自分」って存在がないんです。
世界と自分とが切り離されてないんです。

それじゃぁ、どんなシステムなら名前を理解したといえるのでしょう?
ここで、プログラム言語の説明をします。

プログラム言語の種類で、オブジェクト指向言語っていうのがあります。
Javaとか、C#、Ruby、Pythonとか、最近の言語は、ほとんどがオブジェクト指向言語です。

オブジェクト指向言語の特徴は、プログラムを、現実の物を扱うように書けることです。
だから、プログラムが直観的で、書きやすいんです。

ちょっと、分かりにくいと思うんで、ここ、詳しく説明しますね。
オブジェクト指向言語では、あらゆるものをオブジェクトとして扱います。
たとえば、これは「ペン」オブジェクトです。
オブジェクトにはプロパティとメソッドがあります。
プロパティっていうのは、その物の属性のことです。
たとえばペンオブジェクトには名前プロパティとか、色プロパティがあるわけです。
これなら、名前は「ペン」で、色は「黒」なわけです。

メソッドっていうのは、動きを表すものです。
ペンオブジェクトなら、「書く」ってプロパティを持ってるわけです。
ここまでをまとめときます。
(ホワイトボード)

そして、このオブジェクトを配置するオブジェクトもあります。
ペンオブジェクトを配置するのは、3次元空間オブジェクトです。
この3次元空間オブジェクトが世界ってわけです。

今は、イメージしやすいように3次元世界で説明しましたけど、実際のプログラムでは、もっと単純な物を扱います。
たとえば、売り上げ管理するのに、商品オブジェクトを作ります。
商品オブジェクトは、たとえば、名前プロパティが「テレビ」で、販売価格プロパティが「3万円」とかになります。
そして、売れた商品を管理する売上台帳オブジェクトってのを作って、商品が売れるたびに、商品オブジェクトを登録するわけです。

そしたら、その日の売上金額は、売上台帳に登録される商品オブジェクトの販売価格を合計すればわかるってわけです。

売上台帳をイメージして、それをそのままプログラムに書けるんです。
頭の中のイメージどおりにプログラムで書けるのが、オブジェクト指向言語の使いやすさなんです。

さて、ヘレンは、「水」っていうのが、物の名前ってことに気づいたわけです。
これって、まさに、水オブジェクトですよね。
その名前プロパティが、「水」ってわけです。
メソッドは、「流れる」とかになるわけです。
これも書いときましょ。(ホワイトボード)

それまでの、システムはこれですよね。
何か物に触れると、その名前を手のひらに書く。
それが、こう変わったわけです。
全然違いますよね。
何が変わったか、わかりますか?

今までは、感じたものと、それの動作を、どう結び付けるかに注目してたわけです。
それが、今は、入力されたものが、どのオブジェクトに結ぶ着くかに注目するわけです。
これが何を意味するか、わかりますか?

頭の中に、水オブジェクトがあるわけです。
感覚器から入力されたものを、頭の中の水オブジェクトに結びつけるわけです。
つまり、水オブジェクトは、既に、ヘレンの頭の中にあったわけです。

ヘレンは、井戸の水に手で触れたとき、あっとなったわけです。
この世のありとあらゆるものに名前があるって気づいたわけです。
水だけじゃなくて、人形とか、カップとか。

いくら何でも、一瞬の間に、脳の中で、これらのオブジェクトが作られたってことはないです。
気づけたってことは、頭の中にあった水オブジェクトにアクセスしたってわけです。
オブジェクトの名前プロパティに、「水」って名前を結び付けたわけです。
今まで、サリバン先生が右手に書いてた文字は、すべて、オブジェクトの名前プロパティのことだったんだって、
そこに気づいたわけです。

この話、これで終わりじゃないですよ。
オブジェクトが既に頭の中にあったって、どういうことでしょう。
オブジェクトを認識するのは意識です。

意識が認識する?
意識が認識するものって何でしょう?
今まで、この動画を見てた人なら分かりますよね。

そう、クオリアです。
意識は、あらゆるものをクオリアとして認識します。
つまり、オブジェクトとは、クオリアのことなんです。
ということは、人間と同じような意識をコンピュータで作るには、あらゆるものをオブジェクトで作成すればいいってことです。

オブジェクト指向言語が、直観的で分かりやすいっていうのは、人が認識する世界も、オブジェクト、つまりクオリアで管理されてるってことなんです。

もっと行きますよ。
これ、ペンオブジェクトですよね。
このペンオブジェクトを配置してるの、それが3次元世界でしたよね。
そうやって、世界にある物、全てをオブジェクトとして認識してるわけですよね。
つまり、意識が認識してるのは、現実世界にある物その物じゃなくて、頭の中に創った3次元世界に配置されたオブジェクトなわけです。

意識は、頭の中に仮想世界を創って、それを認識してるわけです。
このこと、なんていうんでした?
今まで見てくれてた人なら、もう、わかりますよね。
そう、意識の仮想世界仮説です。
全てがつながりました。

人が見て、感じてるこの世界。
それは、頭の中に創った3次元の仮想世界なわけです。
その中に、認識したものをオブジェクトとして配置するわけです。

これ、ペンオブジェクトです。
名前はペンです。
色は黒です。

自然と理解できますよね。
何でですか?
それは、頭の中でも、オブジェクトとして持ってるからです。
オブジェクトは、名前プロパティを持ってるからです。
色プロパティをもってるからです。

これで、ホワイトボードに文字を書けますよね。
理解できますよね。
何でですか?
それは、ペンオブジェクトは、「書く」ってメソッドを持ってるからです。

人の意識が、コンピュータプログラムで作れそうですよね。
あらゆるものをオブジェクトで管理するわけです。
そんなAIなら、人間とコミュニケーションが取れそうです。

これは人形です、これは水ですって教えます。
AIは、頭の中の人形オブジェクト、水オブジェクトの名前プロパティに設定するわけです。
これが、意味が通じるってことです。
サリバン先生が伝えたかったことが、ヘレンに伝わったのと同じです。

以前のヘレンには、これが伝わらなかったわけです。
なぜなら、以前のヘレンは、こっちのシステムで世界を認識してたからです。

ここで、重要なことが見えて来ました。
コミュニケーションが取れる、言いたいことが伝わることの本当の意味です。
それは、頭の中のシステムなんですよ。
相手の頭の中にも、同じシステムがあるかってことです。

こっちのシステムしか持ってない相手に、こっちのシステムのことを理解させることは不可能なんです。
こっちのシステムじゃ、名前の意味を理解させることは絶対にできないんです。

つまり、単語をいくら覚えても、会話が成立するようにはならないんです。
重要なのは、そこじゃないんです。
もっと言いますよ。
見たり、聞いたり。
それすりゃ、なくてもいいわけです。
ヘレンがそれを証明しました。
目も見えず、耳も聞こえないヘレンと、ちゃんとコミュニケーションが取れるようになったわけです。
なぜでしょう?
それは、ヘレンの頭の中に、こっちのシステムがあったからですよ。

人間と、普通に会話できるAIロボット、僕らは、そんなのを創りたいわけですよね。
そんなAIロボットに必要なのは、カメラやマイク、スピーカーじゃないですよ。
大量のデータを入力して、学習させることでもないです。

それよりもっと重要なのは、人間と同じように世界を認識する仕組みです。
世界を管理する構造です。
それが同じでないと、意味を理解したり、会話が成立するなんてこと、絶対にできないです。

今のAI業界は、なんで、それがわからないんでしょう。
それらしい言葉を返して、「わぁ、言葉が通じた」って喜ぶとか。
アイドルそっくりのロボットを作って、「かわいい!」って、それで満足するとか。

そんなんでいいんですか?
そろそろ、次の段階に進みましょうよ。

本気で、ロボットの心を創りましょうよ。
それをやってるとこがあるとすれば、それは、ロボマインド・プロジェクトだけです。
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今日出てきた、意識の仮想世界仮説とか、クオリアとか、重要な概念はこの動画の説明欄に、関連動画として書いておくので、良かったらそちらも見ておいてください。

今回のヘレン・ケラーシリーズ、ヘレン・ケラーが心を獲得する話をしようとしてるんですけど、今回も、そこまで行けなかったです。

次回は、その話をしようと思います。

それでは、次回も、お楽しみに!