ロボマインド・プロジェクト、第67弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。
ヘレン・ケラーシリーズ、とうとう最終回です。
僕が、このシリーズを通して言いたいのは、僕らが、見て、感じてる、この世界。
これ、みんな同じように感じてるってことじゃないってことです。
感じる脳が変われば、全く違った世界になるってことです。
当たり前すぎて、疑ったこともないこと。
脳が変われば、そうじゃないってことを分かってほしいんです。
たとえば、時間が流れるってこと。
当たり前と思ってないですか?
でも、それって、脳が創り出してるだけなんですよ。
脳が変われば、時間すら、全然ちがう感じ方になるんです。
脳で動くプログラムが変わるだけで、一瞬で世界は変わるんです。
それがヘレンに起こったことです。
言葉を獲得することで、ヘレンは、人間らしい心が生まれました。
生まれて初めて、後悔って感情を感じたんです。
後悔って感情を理解するには、時間って概念を理解する必要があります。
流れる過ぎる時間です。
過去に後戻りできない時間って概念を理解できないと、後悔の意味は理解できません。
それじゃぁ、言葉を獲得するまでのヘレンの持ってた時間は、どういうものでしょう?
それは、こっちのシステムです。
こっちのシステムでは、時間がないって話をしました。
あるのは、今、現在だけです。
状況に応じて、行動するだけです。
犬は、目の前にエサがあると、食べようとします。
でも、すぐに食べようとすると、「マテ」と怒られます。
「ヨシ」と言われるまで、待たないと怒られます。
何度も繰り返すと、「ヨシ」と言われるまで待てるようになります。
ヘレンは、人形を渡されると、d-o-l-l ドールって綴れるようになりました。
これも、サリバン先生が何度も教えたからです。
状況に応じて、行動を最適化できるようになります。
これができるのは、同じような状況が繰り返されるからです。
前回と同じような状況になったとき、前回より、上手く対応できるようになります。
つまり、こっちのシステムが持ってる世界は、同じようなことが繰り返し起こる世界なんです。
僕らは、たとえば、人生について考えることがありますよね。
生まれて、学校に行って、大人になって働いて、年老いて亡くなる。
これが人生です。
これが理解できるのは、時間は、過去から現在、未来へと流れることを知っているからです。
時間が流れる世界に生きてるから、そう考えるわけです。
でも、こっちのシステムだと、そんな風に流れる時間を理解できないんです。
現実の物理世界は、過去から未来へと時間が流れてるはずです。
でも、こっちのシステムだと、今の状況しか認識できません。
今の状況は、今まで経験したことのない新しい状況か、それとも、以前も同じような状況があったか、そういう認識しかできません。
同じ物理世界を生きていても、使ってるシステムが違うと、これだけ、感じる世界が違うんです。
こっちのシステムにしかない特徴が、もう一つあります。
何か覚えていますか?
それは、名前を言うだけで、オブジェクトを自由に作れる仕組みです。
頭の中で、自由に想像できるって仕組みです。
想像したオブジェクトはどこに作られるか覚えてますか?
それは、想像仮想世界です。
この仕組みのおかげで、目の前にないものでも自由に想像できるわけです。
だから、過去や未来とか、今、目の前にない状況も想像できるわけです。
この仕組みがあるから、過去から未来に流れる時間を理解できるわけです。
こんな風にしたらどうだろう、あんな風になったらいいなぁって、頭の中で自由に考えることができるわけです。
自由にシミュレーションできる仕組みがあるわけです。
物には全て、名前があるって知ったヘレン。
そして、名前を言うことで、頭の中で自由に想像できるってこと。
頭の中で想像したことを、言葉で表現したのが言語です。
物に名前があるって分かった瞬間、言語システムを使えるようになったんです。
さて、これで、ようやく、後悔の意味を理解できる準備が整いました。
ヘレンが、生まれて初めて、後悔って感情を感じたとき。
ヘレンの頭の中で、いったい、何が起こったのか、詳しく見ていきましょう。
部屋に戻ってきたヘレンは、壊れた人形の破片を探し出しました。
今朝の出来事を思い出したからです。
「思い出す」です。
今、目の前にない、過去の状況を思い出したんです。
前回、オブジェクトは関連し合ってるって話をしました。
関連を辿ることで、目の前にない状況でも、想像できるって話をしました。
部屋には人形があるって関連。
人形は、今朝、壊したって出来事。
これらが関連し合ってるから、家に帰った時、壊れた人形のことを思い出すことができたんです。
今朝、サリバン先生がヘレンに教えようとしたこと。
それは、二つの人形があって、どちらもドールだってことです。
その意味がわからず、だんだん、機嫌が悪くなってきたヘレン。
ついに、癇癪を起して、人形を床にたたきつけました。
それが、今朝、起こった出来事でした。
その出来事を思い出したんです。
言葉を獲得して、思い出すってことができたからです。
でも、思い出したのは、これだけじゃなかったんです。
その人形は、サリバン先生にもらったことも思い出しました。
サリバン先生に初めて会った時、人形をプレゼントしてもらったことを思い出したんです。
ヘレンは、その人形がとても気に入りました。
ずっと、その人形で遊んでいたことも思い出しました。
でも、その人形は、今、壊れています。
あるのは、人形の破片だけです。
大切にしてた人形です。
ヘレンは、何とかして、人形を元に戻そうとしました。
破片をつなぎ合わせようとしました。
でも、だめでした。
その時、ヘレンの目に涙があふれてきました。
この時、ヘレンは、何を感じたのでしょう。
大好きな人形で、もう一度、遊びたい。
でも、人形は壊れています。
人形を壊したのは、自分です。
他でもない、自分です。
じゃぁ、人形を壊さなければいいわけです。
以前のシステムでは、世界には「今」しかありません。
でも、ヘレンは新しいシステムを手に入れました。
新しいシステムだと、世界には、時間の流れがあります。
過去から、現在、未来へと続く時間の流れです。
時間というものは、決して、過去には戻りません。
過去の出来事を、取り消して、やり直すことはできません。
今のヘレンは、その事が理解できるようになったんです。
なぜ、あんなことをしてしまったのか。
大切な人形を、自分の手で壊してしまったのか。
もし、できることなら、もう一度、今朝に戻ってやり直したい。
この、「もし」って思い。
これは、実際に起ってない出来事が、起こることを想像してるわけです。
これができるのは、想像仮想世界があるからです。
想像はできても、それは、過去のことです。
過去に起こった出来事は、決して、変えることはできません。
大切な人形は、もう、二度と、元に戻ることはないんです。
これが、この時、ヘレンが感じてたことなんです。
生まれて初めて、後悔って感情を感じたんです。
これでわかりましたよね。
言葉を獲得することで得られたもの。
決して戻ることのない、流れ去る時間って概念。
それが理解できて、はじめて、後悔って概念も生まれました。
最後に、もう一つ、大事な話をします。
ヘレンの書いた、この「私の生涯」には、気になることが、もう一つ書いてありました。
それは、人形を床に叩きつけたときのことです。
「わたしはこの人形を愛していなかったんです」
こう、書いてあります。
つまり、言葉を獲得する前は、人形を愛してなかったんです。
言葉を獲得したあと、人形を愛していたとわかったんです。
つまり、「愛」って感情も、言語を獲得してから生まれたわけです。
これはどういうことでしょう?
おそらく、愛って感情も、時間って概念が必要なんだと思います。
今まで、一緒に過ごしてきた時間。
一緒に遊んだ人形との時間。
いろんなことをして遊んだ思い出。
それは、物語といっても言いかもしれません。
その時間が、愛を育んだといえるかもしれません。
単に好きとかじゃなくて。
愛って感情は、時間って概念が理解できて、はじめて生まれる感情なのかもしれません。
こうして見てみると、言葉って、いかに重要かってよくわかりますよね。
人間の持つ心って、言葉なくしてはあり得ないってことです。
この、人間の持つ言葉を、コンピュータに理解させるのがロボマインド・プロジェクトです。
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それでは、次回も、お楽しみに!