第73回 赤ちゃんが獲得したもの⑤ 〜ねぇ、なぜ? なぜ?


ロボマインド・プロジェクト、第73弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

赤ちゃんが獲得したものシリーズ最終回です。
生まれたばかりの赤ちゃんは、目で見て、手で触れることで頭の中に世界を作り始めます。
そうして、自分と世界とを切り分けて、自分の心、相手の心、そして、共通の外の世界が作られていきます。

この仕組みが、コミュニケーションの基盤となります。
最も基本的な構造です。
この基本構造が脳の中にできて、ようやく、コミュニケーションができます。
そして、最初のコミュニケーションが、指差しです。
自分が心の中で注目してるもの、それを、相手にも注目して欲しい。
そう思ったとき、共通の世界を介して、それを伝えること。
それが指差しです。

こうやって、自分が注目してるものを、相手にも注目してもらうことができました。
そして、指差したものの名前を言うことで、物の名前を覚えることができます。
こうやって、言葉を獲得できるようになります。
言葉の獲得も、この、共通基盤の上で成り立つわけです。

言葉が理解できるようになると、今度は、絵本を読んでもらいます。
絵本の読み聞かせをねだります。
何度も、何度も、同じ絵本を読みたがります。
こうやって、社会の仕組みやルールを覚えていきます。

悪いことをしたら、罰が当たるってこと。
人助けしたら、良いことがあるってこと。
そんな見えないルールが、頭の中に作り上げられていきます。
だんだん、大人と同じ頭に近づいてきます。
でも、そんなにすぐに、大人の頭にはなりません。

次に来るのはなぜなぜ期です。
なんで? どうして?と質問する時期です。
2歳~6歳の間に起こります。
ねぇ、どうして、大人は働くの?とか、質問してきます。

そしたら、働いて、お金を稼ぐためよとか、答えます。

すると、今度は、どうしてお金を稼ぐの?って聞かれます。
そしたら、お金がないと、食べ物を買えないでしょ。
食べ物が買えないと、お腹がすいて死んでしまうでしょ。
だから、働くのよとか答えます。

そうやって、理由を説明すると納得します。

さて、それじゃぁ、子供は、この時期、なぜ、質問ばかりするんでしょう?
この時、子供の頭の中で、何が起こっているんでしょう?

まず、「なぜ?」って質問するってことは、ものごとが起るには、すべて理由があるとわかっているからです。
逆に言えば、それまでは、同じものごとを見ても、理由なんか考えなかったわけです。
そう言うものだと思っていたわけです。

お父さんが会社に行くのを見ても、そういうものだとしか、思ってなかったわけです。
今までは、なぜ、そうするの?って疑問が湧かなかったわけです。

どうして、それが不思議に思うようになったんでしょう?
まず、そこから考えていきましょう。

人が考えるときって、どうやって考えるか覚えていますか?
復習しますね。
まず、目で見たり、耳で聞いたり、感覚器で捉えた外の世界は、頭の中に、仮想世界として構築されます。
意識は、この仮想世界を通して現実世界を認識します。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」を見てください。

意識は、さらに、頭の中で自由に考えることができますよね。
今晩、何を食べようとか、今度の日曜、どこに行こうかなとか。
そうやって想像するとき、使うのが、想像仮想世界です。

想像仮想世界は、自分が思ったことを想像、つまり世界を創り上げて、その世界で自由にシミュレーションするときに使います。

今晩、カレーを作ろうとか。
カレーを作るんやったら、スーパーに言って、肉とジャガイモを買わなあかんなぁって。
そんなことを想像してるとき、頭の中の想像仮想世界を使って意識が想像してるわけです。

さて、想像仮想世界で働くルールはなんでしょう?
それは、現実世界と同じルールが働きます。
手を離せば物は下に落ちるとかって、物理世界のルールとか。
悪いことをしたら、罰があたるとかって、社会のルールとか。
今まで、生きてきた経験から学んだルールです。

カレーを作るには肉とジャガイモがいるとか。
肉とジャガイモはスーパーに売ってるとか。
そんな知識とルールを知ってるから、想像仮想世界でシミュレーションできるわけです。

人間は、この想像仮想世界を獲得しました。
想像仮想世界をつかって、いろんなことを考えることができるようになりました。

想像仮想世界も、現実世界と同じルールで動いています。
手を離すと物は落ちるし。
悪いことをすれば怒られます。

こうすれば、こうなるって知識。
それは、原因と結果です。

AすればBになる。
BすればCになるって。

なにか出来事が起こるには、理由があります。
原因と結果があります。
この世は、どうやら、原因と結果で動いてるようです

それがわかれば、いろんなことをうまくシミュレーションできます。
この先起こることを、予測することもできます。
何か目的があれば、その目的を達成するための行動をシミュレーションできます。
そうやって、いくつかシミュレーションして、最適な行動を決定することができます。

カレーを作りたかったら、肉とジャガイモがいるって知ってます。
肉とジャガイモは、スーパーにあることも知ってます。

欲しいからと言って、盗んだら怒られます。
警察に捕まります。
こらが社会のルールです。
原因と結果です。

原因と結果の知識を使うことで、目的を達成するための行動を決めることができます。
盗まずに物を手に入れるには、お金が必要だとか。
お金を得るためには、働かないといけないとか。

こうやって、考えるわけです。
そうやって、順を追って考えるために、原因と結果の知識が必要なんです。
原因と結果の知識を増やすために、何でも質問するようになるんです。
だから、何かあると、すぐに、
ねぇ、なんで? なぜって質問するわけです。
これが「なぜなぜ期」です。

もう少し考えてみましょう。
原因と結果の知識が増えると何ができるようになるでしょう?
それは、自分の頭で考えることができます。

自分の頭で考えることができると、何ができるようになるでしょう?
それは、自分で行動できるようになります。

わかりましたか?
自分で行動できるんです。

今までは、言われたとおりのことをしてたらいいわけです。
ご飯を食べなさいといわれてご飯を食べて。
寝る時間よといわれたら寝て。

誰かに、世話されないと生きていけなかったわけです。
そうじゃなくて、これからは、自分の力で生きて行かないといけないわけです。
自立して生きて行かないといけません。

そのためには、自分の頭で考えて、自分で行動できるようにならないといけません。
頭で考えるってことは、想像仮想せかいでシミュレーションすることです。
そのときに必要なのが原因と結果の知識です。
そして、その知識を作るのが「なぜなぜ期」というわけです。

さて、ロボマインド・プロジェクトの目的は、人間と同じ心を創ることです。
今回、分かったのは、なぜなぜ期の目的です。
それは、原因と結果の知識を得るためでした。

ということは、人間と同じ心を創るためには、原因と結果の知識を作る必要があるようです。
原因と結果をペアにした原因結果辞書といったものを用意する必要があるようです。

思考するには、想像仮想世界と原因結果辞書を使うわけです。
ロボットの心に必要な機能、それは原因結果辞書というわけです。
ロボットの心に必要な機能が、また一つ見つかりました。
これで、また一歩、ロボットの心に近づきましたね。

それでは、次回も、お楽しみに!