第75回 脳の中のCPU② 新しい進化論


ロボマインド・プロジェクト、第75弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

(ホワイトボード)
前回のこれ、覚えてますか?
ウェイソンの4枚のカード問題です。

上は、居酒屋で未成年が飲酒してないかチェックするって問題です。
何番を確認したらいいかわかりますか?
正解は、1番の年齢と、4番の女子高生がアルコールを飲んでるかどうかです。

下は、「母音の裏は偶数でないといけない」というルールがあった場合、どのカードを確認すればいいかって問題です。
こっちがややこしくて、正解は、1番の「あ」と4番の「7」です。
特に、4番の「7」を間違う人が多いんです。

でも、下の問題の4番と、上の問題の4番、どっちも数学的には同じ関係なんですよ。
論理学でいうところの対偶の関係になるわけです。
詳しくは、前回の第74回「脳の中のCPU①」を見ておいてください。

ややこしい話は置いといて、とにかく、数学的に同じでも、簡単に分かる問題と、簡単に分からない問題があるわけです。

これって、どういうことでしょう?
もしかして、ここに、人間の心のヒントが隠されてるんじゃないかって思うわけです。

前回、脳は、コンピュータのCPUと同じじゃないってことまで説明しました。
コンピュータで心を創ろうと思ったら、CPUと同じように設計してたらダメってことです。

飲酒問題も4枚のカードの問題も、同じように解けたら、人間の心にならないんですよ。
飲酒問題は解けても、4枚のカード問題は間違うような仕組みを作らないといけないんですよ。

コンピュータの計算は、CPUで実行されます。
CPUの中には、足し算や掛け算をする演算回路があって、どんなプログラムも、最終的には、そんな単純な演算回路に落とし込むわけです。
それがコンピュータの計算です。

それじゃぁ、人間にとって、最終的な計算ってなんでしょう?
人間の脳のCPUは、どこに落とし込もうとしてるんでしょう?

ここなんですよ。
これがわからないと、脳のCPUは設計できません。

それでは、まずは、原理原則から考えてみます。
生物の行動原理は何でしょう?
それは、「不快を避けて、快を求める」です。

天敵が来たら逃げて、食べ物を見つけたら食べます。
それじゃぁ、その行動の直接の原動力はなんでしょう?

それは、感情です。
天敵が来たって恐怖心です。
お腹がすいたって空腹感です。
これらが原動力となって行動するわけです。

行動とは、世界への働きかけです。
世界の変化に、出来るだけ素早く対応する必要があるわけです。
天敵の気配を感じたら、すぐに逃げないといけません。
おそらく、天敵の気配を感じる機能と、恐怖の感情が繋がってるんだと思います。
こうやって、環境に上手く適応した個体が生き残ったわけです。
これが進化です。

それじゃぁ、人間の場合はどうでしょう?
人間にとって環境とはなんでしょう?

それは、人間社会です。
だから、人間は、人間社会に上手く適応できるように進化したはずです。

ところが、これは、そんな、単純な話じゃないんです。
じつは、人間の進化を考えるとき、今までの進化論とは、全く逆の見方をしないといけないんです。
今回のテーマは、新しい進化論です。

社会生活をするのは、人間だけじゃありません。
でも、ヒトの社会は、ほかの種と大きく違います。

その根本的な違いは、何でしょう?
それは、相手の気持ちを想像することができるっていう脳の機能です。

第61回「自閉症は未来の人類か」で「心の理論」の話をしました。
詳しくは、第61回の動画を見ていただけたらと思うんですけど、簡単に説明すると、
「心の理論」っていうのは、相手が、心の中で何を思ってるのかを想像することができる機能のことです。
これができるのは、人間だけだって話をしました。

この機能を持った人間が作る社会があるわけです。
これが、人間特有の社会となるわけです。
これが、新しい環境です。

そして、この新しい環境は、外にあるわけじゃないんです。
脳の中にあるんです。

人間が認識してる世界は頭の中に作った仮想世界です。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」を見ておいてください。
自分も相手も、仮想世界の中に作り上げて、意識は、それを認識するわけです。
相手の考えてることや、相手の気持ちも、仮想的に作り出すわけです。

頭の中に仮想的に世界を創って、相手の気持ちも考えられるようになって、新しい社会が生まれたわけです。
それが人間社会です。

人間社会は、脳の外にあるんじゃなくて、脳の中にあるわけです。
脳の外にあろうと、中にあろうと、進化の法則は、新しい環境に適応しようとします。

ただ、その環境も、ヒトの脳が創り出したわけです。
脳が創り出した新しい環境に適応するように、脳が進化するわけです。
ややこしい話ですよね。

整理しますよ。
進化って、環境に適応するように変化することです。
それが、今までの進化論でした。

人間の場合は、それとは違います。
何が違うかというと、環境も脳が創ってるわけです。
人間社会っていう環境です。
そして、脳が作った環境に適応するように脳が進化するわけです。

環境を進化させるって、どういうことでしょう?
空を飛ぶために翼を生み出すのが今までの進化です。
新しい進化は、翼が羽ばたきやすいように、環境、たとえば空気の成分を変化させるようなものです。

環境に適応するように自分が進化するだけじゃなくて、環境も進化させるわけです。
新しい進化論というのは、こういう意味です。

さて、それじゃぁ、どんな風に進化したのでしょう?
それを考えるために、進化の根本の目的を考えてみます。
それは、自分は長生きして、かつ、自分の子孫も増やすことです。
そのために、安定して、持続する社会を作る必要があるわけです。

持続する社会には、何が必要でしょう?
それは、社会のルールです。
みんなが守るべきルールです。

次は、それを、脳の進化で考えてみましょう。
脳の機能として、どんな機能が追加されればいいでしょう?

それは、ルールを守る機能です。
もっと具体的に考えてみましょう。
それは、たとえば、ルールを守ってない人がいれば、すぐに、それに気づく機能とかです。
ルール違反の人を見つける機能です。

社会を安定させるためにルールを生み出すことと、ルール違反を見つける機能とは、同時に生まれたわけです。
同時に生まれたというより、同じ機能を別の側面といってもいいです。
ここが今までの進化論と大きく違うところです。
環境と自分とを同時に進化させてるわけです。

それでは、その社会を安定、持続させるルールとは何でしょう。
みんなが守るべきルールとはなんでしょう。

それは、たとえば善悪です。
悪いことはすべきでない。
良いことをすべき。
善悪といった倫理観、これが、人間社会を維持する根本ルールと言えます。
善悪については、第16回「カントの実践理性批判のプログラム」でも説明してますので、そちらも参考にしてください。

さて、今回の出発点は、ウェイソンの4枚のカード問題でした。
未成年が飲酒してないかのルール違反は簡単にわかるのに、母音の裏が偶数かのルール違反は、簡単には分からないって話でした。

もう、分かりましたよね。
ヒトの脳には、社会ルールに違反してないか検出する機能が備わっているのです。
つまり、未成年がお酒を飲んでないかって検出する機能が、脳に備わっているわけです。
母音の裏が偶数かどうかを検出する機能は、脳は持ってないわけです。
だから、未成年の飲酒の検出は簡単にできて、母音の裏の偶数の検出は難しいわけです。

これができるのは、脳の進化で獲得した、ルール違反を検出する機能があるからです。
このおかげで、安定した人間社会が維持できるわけです。

善悪は、かなり強力な社会維持機能ですが、もっと強力な機能があります。
それは、「恥」です。
恥が、どれほど強力な機能かは、第17回「AIに必要なのは羞恥心だ」を見てください。
このサムネイルを出すたびに、恥って感情は、本当に強力だなぁって、いつも感じます。
もう、二度と、あんなマネはしないでおこうって思ってます。

次回は、これらの脳の備わってる社会維持機能を、もう少し探っていきたいと思います。
紹介した関連動画は、説明欄にも書いてるので、よかったら見ておいてください。
それから、まだ、チャンネル登録してない方は、ぜひ、チャンネル登録もお願いいたします。

それでは、次回も、お楽しみに!