第76回 脳の中のCPU③ 社会的感情を定義


ロボマインド・プロジェクト、第76弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ようやくわかりました。
長年の疑問が、ようやく解けました。
何かと言うと、なんで、人間だけが、他の動物と違うのかってことです。
人類だけが、なぜ、これだけ地球上で繁栄したかってことです。
原因は、言葉を話すとか、人間社会を生み出したとか、いろいろ考えられますけど、それらを生み出した根本的な物は何かってことです。

前回、第75回「脳の中のCPU② 新しい進化論」で、その事を説明したつもりだったんですけど、一番重要なことが伝わってないようなので、今回は、その事を、ちゃんと伝えたいと思います。

人間だけが獲得した機能。
それは、「~すべき」です。

これだけじゃ、よくわからないと思うので、丁寧に説明しますね。
まず、自然界のルールは、弱肉強食です。
ライオンはシマウマを捕まえて食べます。

このルールは、サルのように、社会でも同じです。
サルの会には順位があって、トップは、ボスザルです。
ボスザルは、最初に、食べ物を食べます。
他のメスザルを独占したりもします。

上下関係なら、人間社会にもありますけど、サルの社会とはちょっと違います。
サルの社会は、上下関係は、力で決まります。
ボスザルが年老いて弱くなれば、若くて強いサルにボスの地位は取って代わられます。
弱肉強食です。

人間社会はそうではないです。
体力だけで上下関係が決まるわけじゃありません。
年上の人とか、目上の人は敬うべきとか言われます。

ここに「~すべき」が出てきました。
自然界は、強いものが弱いものに勝つという単純なルールです。
自分の方が強いけど、相手に従うべきといってことはありません。

じゃぁ、「~すべき」とは、どういうことでしょう?
他の例も考えていきましょう。

困ってる人、弱い人は助けるべき。
道端にゴミを捨てるべきでない。

こんな場合にも使われます。
共通点がありますけど、何か、わかりますか?

それは、社会を維持、安定させる方向に持って行こうとする力えす。

自分より弱いからと言って、その人の物を奪ったらダメだってことです。
ジュースを飲んだあとの空き缶がいらないからといって、その辺の道に捨てたらダメだってことです。

考えたら不思議です。
弱肉強食の動物の世界では、弱者の物を強者が奪うのは当たり前です。
動物は食べ散らかして、後片づけとかしません。

自分の事だけを考えるのが動物です。
自分の事だけでなく、他の人が困らないようにすべきと考えるのが人間のようです。

ここに「~すべき」が出てきます。
別の言葉で言い換えると、「~すべき」とは、善い行いのことです。
人間は、善い行いをすべき、悪い行いをすべきでないと思って行動します。
善というのは、社会のためになること、悪というのは社会のためにならないことです。

つまり、善悪というものを発明したことで、人間社会は生まれたといえます。
人間社会は、力の強いものだけが生き残るのでなく、弱い者も安心して生活できる社会です。
結果として、人類が繁栄したわけです。
種を繁栄させるという生物の目的が達成されてるわけです。

それでは、その機能の本質はどこにあるんでしょう。
善い行いをして、悪い行いをしないように駆り立てる力はなんでしょう?

これも、考えたら不思議です。
だって、お腹がすいたらご飯を食べたくなりますよね。
食べないと死んでしまいますから。

天敵が近づいてきたら逃げますよね。
捕まったら、食べられますから、天敵が近づいてきたら恐怖心から逃げるわけです。

お腹がすいたとか、恐怖心とか、感覚や感情が行動の原動力となっています。
どれも、自分の身に関わることです。

ところが、善悪はこれとは違います。
自分じゃなくて、相手が困らないように、社会が良くなるように、行動させる力です。
空き缶が邪魔だからと言って、道に捨てようと思ったら、そんなことしたらダメだって後ろめたい気持ちがするわけです。
電車でお年寄りが乗ってきたら、席を譲らないといけないって気持ちが起るわけです。

重要なのは、これが、感情として発生することです。
理屈じゃないってことです。

その事を示した実験が、前回、前々回、取り上げた、この心理学の実験です。
(ホワイトボード)

上は、未成年が飲酒してないかを確認するにはどうすればいいかって問題です。
下は、母音の裏が偶数かを確認するにはどうすればいいかって問題です。

上の問題だと、女子高生がお酒を飲んでないかって確認すればいいってすぐに分かります。
でも、下の問題だと、奇数の「7」の裏を確認すべきってのが正解なんですけど、これは、すぐには分かりません。

未成年がお酒を飲んでるのを見ると、「あっ」って思うわけです。
心がざわつくわけです。
でも、母音の裏が偶数か奇数かで、心がざわつくことはないです。
母音の裏が偶数というルールを作ることはできますけど、それは理屈です。
心で感じるわけじゃありません。

人間が手に入れたのは、お腹がすいたとか、痛いとかと同じように、善いとか、悪いとかを心で感じる機能です。

感情とは、行動の原動力です。
お腹がすいたら、食べ物を食べたくなります。
痛いと感じたら、痛みの原因を取り除こうとします。

それと同じです。
善悪はそれなんです。
おばあさんが電車にのってきたら、席を譲らなあかんなぁって行動を起こさせようとする感情が発生するわけです。
道に空き缶を捨てようと思っても、そんなことしたらあかんなぁって行動を抑制する感情が発生するわけです。
これが善悪の感情です。

人間は、この機能を獲得することで、他の動物ではできない人間社会をつくることができたわけです。
これを社会的な感情と呼ぶことにします。
社会的な感情は、善悪以外にも、恥や、上下関係といった、人間社会を構成する重要な感情があります。

だから、目上の人にため口で話しかけてる人をみたりしたら、「あっ」と思うわけです。
心がざわざわするわけです。
いくら暑いからといって、駅前で素っ裸になることは絶対にないです。
恥ずかしいって感情があるからです。
この機能、社会的な感情をもってるから、人間社会でコミュニケーションが取れるとも言えます。

以前、自閉症を取り上げましたけど、おそらく、自閉症の人は、この機能が上手く動作しないのだと思います。

第62回「自閉症の心 他人の感情を理解するメカニズム」で、自閉症で、社会的にも成功してる人の話をしました。

その人は、嫉妬とか、失礼といった感情が理解できないそうなんです。
そういったことで、心がざわざわすることがないようなんです。
そのため、人を怒らせたりすることがよくあったそうです。
そこで、その人は、どんな場合に、人は怒るのかといったことを、全て記憶していったそうなんです。
自閉症の人は、一度見た物を完全に覚えるという記憶力を持ってる人が多くて、その人も、その能力を使ったそうなんですよ。

つまり、この例でいえば(ホワイトボード)
その人は、女子高生がお酒を飲んでても、「あっ、悪いことしてる」って心がざわざわしないようなんです。
でも、理屈を覚えることができます。

だから、人が心で感じる、ざわざわって感じが起る状況を、すべて、理屈で覚えることで、社会生活を送れるようになったそうです。

(ホワイトボード)
この二つの問題で、上の問題が自然とわかるってことは、それは人間が獲得した、特殊な機能といえるわけなんです。

次は、どうやって、この機能を脳の中で実現してるかについて説明しようと思います。
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それでは、次回も、お楽しみに!