ロボマインド・プロジェクト、第80弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回は、インタビュー動画でしたけど、見てくれましたか。
そこで、久しぶりに、この研究始めたころのこと思い出したんですよ。
20年前のサラリーマン時代、よく考えてたことがありましてね。
あの、性善説ってあるでしょ。
人間は、生まれつき善だって話です。
中国の儒学者の孟子の話が有名です。
井戸のふちを赤ん坊が這ってたとします。
今にも落ちそうです。
そんなん見たら、誰でも、「危ない!」言うて、駆け寄って助けるでしょ。
だから、性善説が正しいってことらしいです。
僕は天邪鬼なんで、この話聞いたとき、ホンマかなぁって思ったんですよ。
これが、赤ん坊じゃなくて、カバンだったらどうやろって。
今にも、落ちそうな井戸の縁にカバンがおいてたらどうやろって。
たぶん、そんな場合でも、カバンを落ちないようにするでしょ。
これでも、性善説の根拠になる?
善とか悪とかじゃなくて、落ちそうなものみたら、落とさないようにしようって仕組みが脳のなかにあるんじゃないかとか。
当時、仕事しながら、そんなことばっかり、考えてたんですよ。
ほんで、一番わからなかったんは、善とか悪がわかるってどういうこと?ってことだったんですよ。
っていうのも、僕は、言葉の意味理解をしようとしてたんですよ。
そこで、言葉の意味の定義をすることから始めたんです。
まず、名詞です。
机とか椅子です。
これは、3DCGとかで、形とか、色で定義できそうです。
次は、動詞です。
動くとか、隠れるとか。
これも、3DCGで動かして定義できそうです。
最後に残ったのが助動詞だったんですよ。
助動詞は、動詞とか、名詞とちがって、ここにこそ、人間が世界を認識するときの本質が詰まってるようなんです。
誰も、そんなこと言ってる人はいないですけどね。
たとえば、助動詞の過去形を理解するには、先に、時間の概念を作らなあかんなぁとか、思ったんです。
ほんで、一番分からなかったんが、助動詞の「べき」なんです。
「~すべき」の「べき」です。
お年寄りに席を譲るべきとかの「べき」です。
どうも、善悪の善に関係がありそうやなとはわかったんです。
だから、「べき」を定義するには、善を理解する仕組みを作らなあかんのです。
じゃぁ、善って、いったい何?ってなったんです。
でも、これが、分からんことだらけなんですよ。
まずは、「~すべき」って感じるって、どういうこと?ってなるんですよ。
分かりやすく説明しますよ。
お腹がすいたら、空腹って感じがしますよね。
胃袋につながってる神経があって、脳に空腹信号が送られて、空腹って感じるわけです。
リアルに苦しいって感じるわけです。
これは分かります。
つぎは「すべき」です。
電車に乗ってて、自分が座ってる目の前に、ものすごい腰の曲がったおじいさんが来たとしましょ。
他に、席が空いてなかったとしましょ。
席、譲らなあかんなぁって気持ちになりますよね。
そのまま座ってたら、なんか、いたたまれない気持ちになりますよね。
心が痛みます。
ここ、考えたら不思議なんですよ。
お腹がすいたって感覚、これは、自分の胃袋のことなんで、苦しいってわかるのは理解できます。
まず、分からないのは、相手が困ってる、苦しんでるって、どうやって感じるかってことです。
そこで、考えたのが「意識の仮想世界仮説」です。
詳しい内容は、第21回「意識の仮想世界仮説」を見てください。
簡単に説明すると、意識が認識するのは頭の中に創った仮想世界です。
仮想世界の中にオブジェクトがあります。
オブジェクトは、属性を示すプロパティと、動作を示すメソッドを持ってます。
人間オブジェクトの場合、苦しむとかってプロパティを持ってるわけです。
それから、人間オブジェクトは、席を譲るとかってメソッドも持ってます。
目の前のおじいさんは、頭の中に、作り出したおじいさんオブジェクトです。
過去の経験や知識から、腰の曲がったおじいさんは、立っているのが辛いって分かりますから、おそらく、目の前のおじいさんも苦しんだろうって思うわけです。
「意識の仮想世界仮説」を使えば、自分のことでなくても、相手が苦しんでることが理解できるようになりました。
相手の気持ちや、考えてることが理解できるわけです。
それから、人は、席を譲るってメソッドを持っています。
だから、自分がおじいさんに席を譲るって行動をとることができます。
ここまでは、理解できます。
問題は、こっからです。
これだけのことがわかっても、まだ、わからないことがあります。
それは、じゃぁ、なぜ、席を譲らないいけないって思うかってことです。
席を譲らないでいると、なんで、心が苦しいんでしょう。
これ、めちゃくちゃ不思議なんですよ。
相手が、自分の親や子供なら分かります。
自分の愛する家族が苦しんでると、なんとか助けたいと思います。
ひいきにしてる野球チームが勝ったら嬉しくて、負けたら悔しいのと同じです。
自分の事じゃなくても、自分のことのように喜んだり、悲しんだりできます。
でも、インドの聞いたことのないクリケットチームが勝っても負けても、何とも思わないですよね。
自分とは全く関係ないからです。
目の前で立ってるおじいさんは、自分とは全く関係のない、赤の他人です。
なんで、助けるべきって、心で感じるんでしょう。
感じるってことは、何らかの仕組みが脳の中にあって、それが動いてるわけです。
たぶん、それがあるのは人間だけです。
犬やサルは、見ず知らずの他人を助けようなんて思わないはずです。
おそらく、人間だけが、進化の過程で獲得した機能だと思います。
頭の中に仮想世界を作って、その中のオブジェクトを認識する仕組みは、おそらく人間も、サルも持ってると思います。
魚類やは虫類は、その仕組みをもってないと思います。
この辺りの事は、第53回「脳と心の進化論③」で語ってますので、興味のあるかたは、そちらもご覧ください。
相手が苦しいと想像するところまで、できたとしましょ。
そして、自分がそれを助けることができるって分かるわけです。
人間が獲得した機能は、その後に沸き起こる感情です。
ここまでの状況を認識したとき、自分が相手を助けるべきって思うわけです。
そういう感情が湧きおこるわけです。
さて、この相手を助けるような行動を駆り立てる機能が脳の中にあったらどうなるでしょう。
困ってる人がいれば、助けろって駆り立てるわけです。
それは、「したい」とは別です。
むしろ、「したくない」ことです。
自分に何のメリットもないからです。
それなのに、その行動を取れって駆り立てる感情がでてくるんですよ。
おそらく、それは、進化の過程で、その感情を獲得したんだと思います。
もともとは持ってなかった機能なんです。
生物は、突然変異を繰り返します。
突然変異で、首の長い動物が生まれたとします。
木の低い葉っぱは食べ尽くされても、高い木の葉っぱ残ってて、それを食べて生き残ったのが長い首の動物です。
そうやって、キリンの首が長くなったというわけです。
突然変異によって環境に適応できた生物の遺伝子が残されていくわけです。
生物は、自分ができるだけ生き延びて、出来るだけ子孫を残すように行動します。
それが本能です。
意識を獲得して、相手が何を考えてるかもわかるように進化した生物は、相手をだましたり、裏をかいたりするようになります。
そうやって、より知能の高い生物が生き残るようになります。
さて、あるとき、突然変異が起こったとします。
脳にある機能が生まれたんです。
それは、「すべき」の機能です。
困ってる人がいたら、助けずにおれない機能です。
自分の得にもならないのに、助けるべきって感情が発生するわけです。
その人は、どうなるでしょう。
おそらく、見ず知らずの人でも助けるので、みんなから慕われるでしょう。
みんなから信頼もされるでしょう。
もう、モテモテです。
その人の子孫も増えるでしょう。
そうやって、「~すべき」、「善」の遺伝子が増えるわけです。
そうして、お互いに助け合う社会が生まれるわけです。
皆が一致団結して、大きな社会ができます。
よく、怖い映画に、シリアルキラー(字幕:連続殺人犯)とかサイコパスとかが出てきますよね。
サイコパスって、良心が欠如してるらしいんです。
でも、頭はいいらしいんです。
だから、平気で相手をだましたり、裏切ったりするらしいんです。
でも、そんな人ばっかりだったら、社会なんかできないですよね。
絶対、まとまることないです。
だから、善の遺伝子を持って、一致団結した社会にはかなわないんです。
そうやって、善の遺伝子を持った人類が繁栄したわけです。
まとめると、まず、頭の中に仮想世界を作って、意識は、その世界のオブジェクトを認識するわけです。
そして、次に、相手が快、プラスとなるような行動を取るように駆り立てる機能があるわけです。
その機能が、善とか「すべき」の感情です。
善とか、「すべき」の意味を理解するには、これだけの仕組みが必要なんです。
言葉の意味を理解するAIを作るのは、こういった作業をすることやなってわかってきたんです。
簡単ではないけど、できないことはなさそうだなぁ。
こんなことを、20年前、考えてたわけです。
ほんで、サラリーマンしてたら出来そうにないなぁと思って、仕事を辞めたってわけです。
興味があれば、第79回「好きなことだけして生きて行く 超実践術」を見てください。
それでは、次回も、お楽しみに!