第83回 サピエンス全史 〜認知革命を解明!


こんにちは、ロボマインドの田方です。

歴史には、先史時代って言葉があります。
文字どおり解釈すると、歴史の前の時代ってなります。
実際の意味は、文字を持つ前、文字の記録が残ってない時代って言う意味です。
歴史と呼べるのは、文字が生まれてからってことです。

でも、文字がなかったからと言っても、ちゃんと人間はいましたよね。
言葉を話して、文化もありました。
ただ、文字による資料がないので、その時代の人が何を考えてたのか、ほとんど分からないだけです。
これが、歴史の限界とも言えます。

同じことは脳科学でも言えます。
人が何かを考えてるときの脳をMRIなどで観察すると、どの部分が活動してるか分かります。
脳に電極を挿せば、どの脳細胞が活動してるかまで分かります。
でも、何を考えてるか、その中身までは、脳を観察しただけでは分かりません。
だから、脳科学の分野は、脳を観察してわかることだけを研究しています。

でも、MRIで観察できないからといって、何も考えてないわけじゃないです。
文字が残されてないからと言って、何も考えてなかったわけじゃないのと同じです。

今までの歴史は、文字が残されてるものだけしか考えてきませんでした。
せいぜい数千年です。
それに対して、20万年前からのホモ・サピエンスの歴史を語ったのが、ベストセラーとなった、この本「サピエンス全史」です。

書いたのは、イスラエルの天才歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリです。
文字以前の人類の歴史を、科学的データと、データがないところは想像で補って、ホモ・サピエンスが辿ってきた歴史を見事に浮き彫りにしています。

ハラリは言います。
人類は、何度かの革命を経て、ここまで発展してきたと。
その最初で、最大の革命が認知革命。
今回のテーマは、認知革命です。
「サピエンス全史」前半の最大の山場、認知革命についてです。

まずは、言葉です。
よく、人間と他の動物の一番の違いは、言葉を話すか話さないかっていいます。
でも、鳴き声で情報を伝達する動物はいっぱいいます。
それは、一種の言葉ですよね。

たとえば、サバンナモンキーってサルがいます。
ある鳴き声は、「気を付けろ!ワシだ!」って意味だそうです。
それとほとんど同じで、ちょっと違う鳴き声になると、「気を付けろ!ライオンだ!」って意味になるそうです。

研究者がこれを録音して、「気を付けろ!ワシだ!」って鳴き声をスピーカーから鳴らすと、サルたちは心配そうに空を見上げたそうです。
もう一つの「気を付けろ!ライオンだ!」を鳴らすと、サルたちは急いで木に登ったそうです。
言葉を使うのは、人間だけじゃないんです。

でも、動物の使う言葉って、事実を伝えるだけでしょ。
嘘をつくのは人間だけでしょ。

そう思ってる人がいると思いますが、じつは、そうでもないんですよ。
たとえば、さっきのサバンナモンキー。
あたりにライオンがいないのに「気を付けろ!ライオンだ!」って叫ぶサルがいるんですよ。
バナナを見つけたばかりのサルが、それにびっくりして、バナナをおいて木の上に逃げ出したところを、「ライオンだ」って叫んだサルが、まんまとそのバナナをせしめたってのが目撃されているんです。
つまり、嘘をついて、バナナを手に入れたんですよね。
嘘をついて、だまそうとするのは、人間だけじゃないんですよねぇ。

じゃぁ、人間と動物の一番の違いは何なんでしょう。
人間というか、ホモ・サピエンスです。

7万年前、ホモ・サピエンス以外にも、ネアンデルタール人もいました。
ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより体が大きく、がっちりしていたと言われています。
それだけじゃなく、脳の大きさも、ホモ・サピエンスより大きかったそうです。
おそらく、知能もホモ・サピエンスより高かったと思います。

でも、残ったのは、ホモ・サピエンスでした。
体も小さく、知能も劣るホモ・サピエンスが、なぜ、ネアンデルタール人に勝ったのでしょう。
いったい、7万年前、ホモ・サピエンスに何が起こったんでしょう?
それが、認知革命です。

それでは、認知革命で、いったい、何が変わったんでしょう。
まず、大きな社会を作れるようになりました。
それまでの人類は、多くて150人ぐらいの社会しか作れませんでした。
それが、何千、何万、それ以上がまとまるようになりました。

それだけの人をまとめるには、大量の情報が伝えられたはずです。
でも、伝えただけでは、ダメです。

みんな、まとまれって言ってまとまれば楽です。
そうはなりません。

それじゃぁ、どうやってまとまったんでしょう?
ネアンデルタール人との一番の違いは何だったんでしょう。

ハラリは言います。
それは、全く存在しない物について伝達する能力だと。
見たことも、触ったことないも、臭いを嗅いだこともない、
ありとあらゆる種類の存在について語る能力だって。

それって、嘘っていうことでしょ。
嘘なら、サルでもつけるじゃない?

そう言うかもしれません。
でも、この能力は、サルの嘘とは決定的に違います。
サルの嘘は、実際に経験したことのあるものです。
お互いに、経験してるから、相手に伝わるのです。

ホモ・サピエンスが手に入れたのは、嘘をつく能力じゃありません。
見たことも、経験したこともないことを創り出す能力です。
想像する能力です。

じゃぁ、それで何をつくったんでしょう?
それは、神話です。
神です。
宗教です。

「ライオンが来たぞ!」って嘘なら、サルでもつけます。
でも、「ライオンは、わが部族の守護霊だ」って、サルは考えることができません。

同じ神をあがめることで、多くの人がまとまることができたのです。
これが認知革命なんです。

自分たちは、共通の神から生まれた。
自分たちは、共通の神に守られている。

これらを信じることによって、人々はまとまることができるんです。
これは、古代の人だけに限りません。
この世にないものを想像して、信じることができるのは現代の人間でも同じです。

たとえば、お金です。
ただの紙きれに、千円とか1万円の価値があるって思いこむ力です。
これは、嘘とは違います。
むしろ、真実です。
社会全体で、信じ込んでいるわけです。
こうやって、社会が作られるわけです。

家族も同じです。
動物にも家族はあります。
でも、それは脳に組み込まれたプログラムで社会活動を作っているだけです。

アヒルの赤ちゃんが、お母さんアヒルの後ろに連なって歩いてる光景、見たことありますよね。
あれは、アヒルの脳に、生まれて、最初に目にする動く物体にくっついて歩くってプログラムがあるからです。
そのプログラムに従って動いてるだけです。
これを、刷り込みといいます。

だから、生まれたとき、最初にみた動いてる物体が人間だった場合、人間を親と思ってくっついてきます。
でも、それも一定期間だけです。
自立できるようになるまで、親にくっついて行動してるわけです。
これも、すべて、プログラムで決められてるだけです。

でも、人間の家族は違います。
成人して、独立しても、盆や正月に実家に帰ったりします。
まぁ、僕みたいに帰らない例外もいますけど。
それは置いといて。
人間は、プログラムで決められて、社会的行動してるわけじゃありません。
じゃぁ、人間をまとめているのは、プログラムでないとすると何なんでしょう。

お墓参りして、先祖に感謝しようって思い。
それを支えるのは、宗教や神話です。
それじゃぁ、それを作り出してる根本的な力は、いったいなんでしょう。
それは、物語と言えます。

物語を理解する能力。
物語を生み出す能力。

ホモ・サピエンスが、7万年前に獲得したのは、物語る力だったんです。
これこそが、ホモ・サピエンスをホモ・サピエンスたらしめた力です。
これが、認知革命の正体です。

サピエンス全史に書いてあるのは、ここまでです。
物語を理解する能力、それがどういうものか。
その仕組みまでは、天才ハラリをしても、分からないといいます。

でも、人間と同じAIを作るには、ぜひとも、その仕組みを知りたいです。
物語を生み出す仕組みって、どういうことでしょう。
今までのプログラムとは、何がちがうんでしょう。

それは、脳科学からは分かりません。
ハラリは、DNAなどの最新のデータを参考に、想像で補って文字以前の歴史を書きあげました。

それと同じことをするわけです。
僕が参考にしたのは、コンピュータプログラムの開発手法です。
システム開発の設計方法です。

脳に、どんな機能があれば、物語を理解することができるのか?
物語を理解するには、どんなデータ構造とアルゴリズムが必要なのか?

次回は、システム設計の視点から、物語を生み出す仕組みを考えてみようと思います。

それでは、次回も、お楽しみに!